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番外編
二人で歩む未来
しおりを挟む「全然会えてない」
「今、会ってるよ?」
「そういう事じゃなくてだな……」
ちょっと拗ねた表情と声を出しながら、ルカスが私をそっと抱き寄せる。
──うーん。これは完全に拗ねてる?
「覚悟してたけど……卒業したらやっぱり全然会えないじゃないか。今日こうして互いの時間が取れたのは奇跡だぞ」
「……そうだね」
シュテルン王立学校を卒業し、それぞれの仕事場へ就職した私達。
お互い忙しくて会えない日々が続いていた。
ルカスは正式に伯爵家を賜り当主としての仕事と城勤めの仕事に日々励んでいる。
私は私で研究機関に務めてるから、実験だの研究課題などで忙しい。
「マリエールは毎日が充実してそうだもんな……寂しいのは俺だけなんだろうな」
「ふぇ!?」
そう言ってルカスは、私を自分の膝の上に乗せてギューっと後ろから抱き締めてきた。
ビックリして思わず変な声が出ちゃったよ。
──いや、もう。本当に思わずにはいられないんだけど……
この人って本当にルカスだよね!?
別人かな? って思うほど甘々なんだけど!!
3年間、友人として過ごして来たけど、私は彼のまた新たな一面を知ったような気持ちだった。
「ルカス……私だって寂しいよ?」
「マリエール……」
その言葉を聞いた私を抱き締めるルカスの力が更に強くなった。
それは彼の想いが溢れているようで、私の胸はキュンとした。
あれから……散々、聞かされた。
ルカスがルドゥーブル男爵令嬢時代からの私をずっとずっと想ってくれてた事。
最初は信じられなくて泣きそうになってしまった。
「ねぇ、ルカス」
「うん?」
「私はあなたが望む、“同じ目線で肩を並べて隣に立てる女性”になりたいの」
「もう充分ー……」
「ううん。足りてないの!」
私はルカスの言葉を遮って言う。
「私、このままじゃ、元・ルドゥーブル男爵令嬢の平民マリエールのままなんだよ」
「男爵令嬢でも平民でもマリエールはマリエールだろ?」
「うん。それはそうなんだけど、やっぱり世間の目はそうじゃないでしょ?」
シュテルン王立学校の首席卒業者。
その事にはもちろん一目置かれてる。
でも、今の私はそれだけ。まだ、何かをなし得たわけでもない。
そんな私が、本当にルカスの隣に立っていいのかなって不安が残ってる。
「……それが、まだ俺の求婚に頷いてくれない理由?」
「……」
私はコクリと頷く。
そう。
あれからルカスは私に求婚をしてくれた。
だけど、私はまだ頷けないでいた。
ルカスの事は好き。大好き!
それは変わらない。
ずっとずっと大好きでいられる自信がある!
絶対に叶わないと思ってた恋が叶った事は本当に涙が出るくらい嬉しかった。
「あのね? このままの私がルカスと結婚して伯爵夫人になっても、あの時のパーティーの二の舞になるだけだと思うの」
あの日、かつての友人達に絡まれたパーティーでの出来事は私の心の中に暗い影を落としていた。
ロクサーヌ達の行動に傷付いたわけじゃない。
彼女達とは私がかつて没落した時の裏切りで終わった関係だから。
ただ、あの時の出来事で、“貴族社会の人達が私を見る目”を思い知らされた。
シュテルン王立学校首席卒業の肩書きだけではきっと足りない。
「それに、ユーフェミア様の事もあるし……」
私の言葉にルカスは、ため息をついた。
「ユーフェミアは、もう何も出来ないと思うぞ? もうオリエント侯爵家の娘じゃないんだからな」
「うーん……それはそうかもしれないけど」
ユーフェミア様のあれからは。
最初に聞いた話では彼女は領地に返された後、(愛人持ちの)後妻に入るって聞いていた。
それは、その通りになった。彼女は確かに嫁いで行った。
だけど、思ってたのと違ったのは……
「まさか、ユーフェミア様がオリエント侯爵家から勘当されて平民となって嫁ぐとは思わなかったわ」
私はてっきり相手は貴族の人だと思ってた。
だけど、違った。ユーフェミア様の嫁ぎ先は商人の家だった!
(しかも、そこまで裕福なわけじゃないらしい……愛人囲ってるし)
「まぁ、すぐ音を上げるだろうな……」
「……」
何となく聞けずにいるけど……ルカスが手を回したのかな?
そう思わずにはいられない。
「オリエント侯爵家にはもうユーフェミアの居場所は無いからな。戻りたくても戻れない。渋々でも嫁ぎ先でやってくしかないだろ」
ちなみに、侯爵家は養子を迎えたと聞いている。
「そんなわけだから、マリエールが心配する事は無いと思うんだけどな。マリエールが思ってる以上にシュテルン王立学校の首席卒業者は尊敬の念を受けてるし」
「ルカス……」
「マリエールを傷付けようとするヤツらからは俺が絶対に守るから……さ」
「うぅ…………でも、まだダメ!」
「頑なだな。でも、俺はマリエールのそんな所も好きなんだよなぁ……」
そう言ってルカスの顔が近付いてくる。
私が自然と目を瞑ると、ルカスはそっと優しいキスをくれた。
「…………俺はずっと待ってるからな」
ルカスが耳元で優しくそんな事を言ってくれたから涙が出そうになった。
****
「ルカス! やったわ!! 私の研究を元にした新しい商品の開発が決定したの!!」
「本当か? おめでとう! マリエール」
私のその報告にルカスが喜びの声をあげる。
──何だかんだであれから更に3年の月日が流れていた。
そう。シュテルン王立学校でルカスと切磋琢磨していたあの頃と同じだけの時間が。
相変わらず、忙しくてなかなか会う時間の取れない私達だけど、久しぶりに会える事になった今日、ようやくこの報告が出来る事がたまらなく嬉しい。
「さすがだな」
そう言ってルカスが私を抱き締める。
「えへへ、ルカスのおかげだよ!」
「へ? 俺の?」
私の言葉にルカスは首を傾げる。
愛しいこの人は、私の気持ちを分かっていないらしい。
私はルカスの両頬にそっと手を添えて答えた。
「ルカスがいつだって私を信じてくれてたからだよ。ありがとう、ルカス」
「マリエール……」
ルカスの隣に堂々と立てる資格が欲しい。
結婚して伯爵夫人になったら研究機関にはいられなくなる。
そんな私の身勝手なワガママをルカスは聞いてくれた。
そして、ルカスはあの言葉通り、それからも辛抱強く私が求婚に頷くのを待ってくれている。
無理やり押し切る事だって出来たはずなのに。
それに……
私は知ってる。
伯爵家の当主となったルカスに早く身を固めてして欲しい人達が、ルカスに別の女性を薦めている事も。
シュテルン王立学校の卒業式でルカスが願った婚姻の自由。
あれはルカスの中では私を手に入れる為の願い事だったけど、広い意味で取れば、貴族女性に関わらず他の女性にもチャンスがあるという事。
だけど、ルカスは。
「あれは直接マリエールが欲しいと言ったらマリエールの気持ちを無視した命令になるから、あの願いになったんだ。マリエールじゃなきゃ意味が無い!」と言って、それらの話を全部蹴って私を……私が決心するのを本当に待ってくれていた。
「ルカス、大好きだよ!」
私はそのまま背伸びして自分からルカスの唇に私の唇を重ねた。
「!?」
ルカスは私からのキスに驚いたみたいですっごく動揺してた。
不意打ちに弱いらしい。
「ねぇ……私、ルカスの隣に立ってもいいかな?」
ずっと待たせて呆れてないかな?
虫が良すぎるとか思われてないかな?
「何を言ってんだ。俺の隣に立てるのはずっとずっと昔からマリエールだけだろ」
「ルカス……」
「俺の気持ちはずっと変わってない。だから……」
その言葉が嬉しくて私は思わず叫んでた。
「───ルカス、お願い! 私と結婚して!」
「…………」
「ルカス?」
何故かルカスが無言で固まった。
……え? 何で? ダメだった!?
気持ちは、変わってないんじゃなかったの?? やっぱり遅かったのかなぁ……
そう落ち込んだのだけど。
「っっ! なんでお前は俺のセリフを奪うんだ!!」
いきなりルカスが真っ赤な顔をして怒鳴った。
そして、そのままの勢いで更に驚くべき事を言い出した。
「もう俺は待たない! ってか、待てない!! 今すぐ結婚するぞ! 婚約期間なんて知るもんかっ!!」
「は? ちょ……ルカス!?」
さすがにそれは無理だと思うわーー!?
私は必死に宥めた。
「チッ……分かってるけどさぁ……」
「もう!」
「けど、ここから、最短で式を挙げる! やっとマリエールが頷いてくれたからな! そこは譲らないから覚悟しておけよ。それに俺は1日でも早くマリエールは俺のだって皆に言いふらしたいんだ!」
「何それ……!?」
ルカスのその発言が可笑しくて思わず笑ってしまう。
「……それだけ俺はマリエールの事が好きなんだよ」
「ルカス……」
ルカスがそんな事を言うものだから。
嬉しくて私はルカスに抱き着いた。
そんな私をルカスは優しく抱き留めてくれた。
待っててくれてありがとうって何度も言ったら、「マリエールの事が忘れられなくて、でも諦めなくちゃいけないって思ってた時が一番辛かったから全然大丈夫だ」なんて言うもんだから、泣きそうになってしまった。
そんな目を潤ませた私を見てルカスは優しいキスをくれた。
額に瞼に頬に……そして唇に。
そんなたくさんのキスを受けながら、本当に私はずっとルカスにこんなに愛されてたんだなって実感した。
****
そして。
ようやく結婚の運びになった私達だけど──
「うーん、あっちもいいがこっちも捨て難い……」
「ルカス……?」
「どっちのウェディングドレスもマリエールに似合うと思うんだよ……! なぁ、マリエールはどっちが好みだ?」
「えーと……ルカスさん?」
何故か私のウェディングドレスのデザイン画を見てどっちがいいかと真剣に悩むルカス。
「いっその事、2着用意して途中で着替えるのも有りか……?」
「へ? ちょっと! 何を言ってるの??」
「マリエールの可愛さは1着では皆に伝えきれないからな!」
「はい?」
そこには、花嫁となる私以上に結婚式を楽しみにしている未来の夫の姿があった。
ちなみに結婚式当日。
ウェディングドレス姿の私を見たルカスが感極まって、挙式前に号泣する姿を見る事になるのをこの時の私はまだ知らない……
───────……
まだまだこれから先、きっと色んな事があると思う。
でも、ルカスとなら。
ルカスとなら大丈夫!
だって私達にはお互いを想い合う強い気持ちがあるから。
私はそう信じてルカスの隣でこれからの未来を共に歩んでいく。
~完~
✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼
ありがとうございました!
番外編もここまでにしてこれで完結にしようと思います。
昨日更新する予定でしたが……まさかの仕事が……夜中までかかってしまい……
終電で帰宅するという……(大誤算)
待ってて下さった方、申し訳ございません。
短く終わらせるつもりだったのに、
名残惜しさでつい続けてしまった番外編でしたが、
最後まで楽しんでいただけてたらいいな、と思っています。
“もっと……”の声、嬉しかったです!
後日談……甘くしたかったんですけど、無理でした!(マリエールからすると甘いらしい)
でも、この2人はずっとこれからもこんな感じなんだと思います。
マリエールとルカスの物語を最後まで見守って頂き、本当にありがとうございました!
お気に入り登録、感想……どれも嬉しかったです。
新しい話も投稿してるので、
もし、お時間と興味があればそちらも読んでいただけると嬉しいです。
大変ありがたい事にホトランに載せていただけたみたいなので!
本当にありがとうございました!
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