8 / 34
第8話 王宮の書庫にて
しおりを挟む「広い! そして……コホッ……埃っぽいです、ね」
「そりゃ、人があまり立ち入らないからこうなる」
「ですよね……」
色々思う事はあったものの、やっぱり調べるなら早い方がいい。
という事で、お言葉に甘えて早速、シグルド様と一緒に王宮の書庫にやって来た。
「ここでなら、何か分かるかしら」
「……」
私のその言葉に何故か黙り込むシグルド様。
「シグルド様?」
「……あ、いや、うん……何か見つかるといいなと思ってね、もう………………だったし」
「?」
「何でもない、まずは何から調べる?」
最後の方が何と言ったのか分からなくて聞き返したけれど、シグルド様は苦笑いしただけで教えてくれなかった。
「……やっぱり、最初は魔術関連でしょうか」
(呪いの類も気になるけれど)
「それならこっちだよ」
シグルド様はそう言ってサッと私の手を取るとそのまま歩き出した。
(…………ん?)
「! あ、あの、シグルド様?」
「どうかした?」
「この手、手は……何故……?」
「手?」
あまりにもここまでの動作が自然だったのでうっかり流しそうになったけれど、どうして手を繋ぐのかと恥ずかしくなった。
「書庫は広いからね。初めて入ったルキアが迷子になったら大変だろう?」
「迷子……」
シグルド様はにっこり笑顔でそう言ったけれど、子供扱いされたようで私としてはちょっとムッとした気持ちになる。
「いいえ! いくら広くても迷子だなんて。私はそこまで子供ではありませんから大丈夫で──……」
「───と言うのを口実にして、ルキアの手に触れたかっただけだよ」
ギュッ!
握られていた手の力が強まった。
(今、口実と言った?)
私は顔を上げる。
シグルド様は不思議そうに首を傾げている。
「……はい?」
「うん、だから可愛いルキアと手を繋ぎたかった。それだけなんだけど何かおかしかった?」
「な、な、な……」
私の頬に熱がどんどん集まってくる。
だから、何故この方はそういう事をあっさり言うの……!
本当に私はいつも翻弄されてばかり。
(でも、嫌じゃないから困るの……)
「……ルキア。私達以外の他に誰もいない二人っきりのこんな所でそんな可愛い顔を私に見せるなんて危ないよ?」
「危ない、ですか?」
よく意味が分からず聞き返したら、シグルド様は苦笑いを浮かべた。
「いいかい? ルキア。私の理性はねルキアに関する事だけはペラッペラなんだ」
「理性が、ペラッペラ?」
何やらおかしな事を言い出した!
「不思議だよね。他の事ならいくらでも自制出来るのに。ルキアを前にしたら常に可愛いと口にせずにはいられないし、隙あらばどんどん触れたいよ。だってルキアはどこもかしこも柔らかくて触れ心地が最高だからね! それから、抱きしめてキスをしたら真っ赤になる所も可愛いくて可愛くてもう私はルキアを──……」
「!?」
そしてシグルド様の中の何かに火がついてしまったのか、今度は早口で語り出した!
「シグルド様!? あの、お、落ち着いて下さい……!」
「え? 嫌だな。全然落ち着いているよ。それより、ルキアの可愛いさを語り足りない」
「!?」
大真面目な顔で更におかしな事を言っている!
これで、落ち着いているですって!? これは新しい冗談か何かなの?
「え、えっと! そ、それを私に語る必要は……無いのではありませんか!?」
「何で? この愛しい気持ちとルキアの可愛さを本人に伝えないで誰に伝えるのさ?」
「え?」
「え?」
互いに顔を見合わせる。
すると、シグルド様は興奮した様子で口を開く。
「私とルキアの仲睦まじい様子を周囲に伝えるのは全然構わない! むしろ、推奨する!」
「は、はぁ……」
(推奨……)
「だが、“ルキアの可愛い所”をたくさん広める事によってルキアに邪な気持ちを抱く男共がわんさか現れたらどうするんだ!」
「わ、わんさか? ……それより私に邪な気持ちなんて抱きますかね?」
一応、私はまだ王太子殿下の婚約者。
そんな相手に手を出そうなんて考える強者いるのかしら。
「抱く! 常に私がそうだからな!」
「え!」
堂々と言うものだから困惑しかない。
(シグルド様って頭はいいはずなのに……何で私の前でだけこうなるの?)
「ルキア、それはね? 私が君の事を好きだからだ」
「!」
シグルド様は驚いている私に顔を近付けて来たと思ったらそっと耳元で囁く。
(ち、近い!)
「大好きだ、私のルキア」
「~~~!!」
書物を探しに来たはずだったのに、何故か全力で口説かれて私の腰は砕けた。
────
「自分で歩けますから……」
「いや、無理だろう」
私の訴えをシグルド様は、あっさりと否定する。
彼は腰砕けになった私を見るなり、素早い動作で私を抱き抱えた。
当然、降ろしてと言って聞いてくれるシグルド様では無い。
(どうしてこうなった……)
手を繋がれた事が恥ずかしかっただけなのに、最終的には手を繋ぐどころか抱き抱えられて運ばれるという更なる密着状態に!
(おかしい。シグルド様の手のひらの上でコロコロと転がされているようにしか思えない……)
でも、それが嫌……では無いから困るの。
──シグルド様の事は諦めないといけないのに。
胸がチクチク痛んだ。
「この辺りが魔術関連の書物が集まっている場所だ」
そう言ったシグルド様は魔術関連の区画の所でそっと私を降ろした。
しかし、さすが王宮の書庫。本の数が凄い!
ズラリと並んだ本、本、本!
その様子はまさに圧巻! の一言に尽きる。
私は「ふわぁ……」と変な声を出しながら上を見上げたり、キョロキョロと書庫内を見渡した。
「ここまでだとお目当ての本を探すのも一苦労、ですね」
「……そうなんだよ」
「うーん、どこから手を付ければ…………あら?」
「どうした?」
私が並んでいる本達を眺めているとふと、違和感を覚えた。
「シグルド様。この辺りにある本って、全然埃が被っていないのですね?」
「え?」
「先程、居た所にあった本やここに来るまでの本は結構、埃を被っていたのですけど」
「……」
そう口にしながら私は並んでいる本の背表紙に触れていく。
長い間、放置されていたようにはとても見えない。
(そう。言うならば、まるで最近誰かに読まれたかのような───……)
「あら? シグルド様。何故、黙り込むのです?」
「……」
「シグルド様?」
もう一度名前を呼ぶとシグルド様は少し焦った様子の声を出しながら、慌てて奥の書架の方向を指さした。
「ルキア! し、調べるならあっちの辺りからが良いんじゃないかな?」
「…………何故ですか?」
「な、何となく…………」
「……何となく、ですか」
シグルド様の目が完全に泳いでいたように見えたけれど、とりあえず、言われた通りに奥へと足を進めるとそちらの本達は、他の場所で見た本と変わらず埃を被っていた。
(え? これって、まさか……)
私はチラッとシグルド様の顔を見る。
「……」
ふいっと目を逸らされた。
これは! と思う。
「シグルド様」
「あ、ルキア! ほらほら時間が無くなってしまうよ、早く──」
「シグルド様!」
「……」
私の呼び掛けにシグルド様はビクッと肩を跳ね上がらせた。
60
あなたにおすすめの小説
聖女の座を追われた私は田舎で畑を耕すつもりが、辺境伯様に「君は畑担当ね」と強引に任命されました
さら
恋愛
王都で“聖女”として人々を癒やし続けてきたリーネ。だが「加護が弱まった」と政争の口実にされ、無慈悲に追放されてしまう。行き場を失った彼女が選んだのは、幼い頃からの夢――のんびり畑を耕す暮らしだった。
ところが辺境の村にたどり着いた途端、無骨で豪胆な領主・辺境伯に「君は畑担当だ」と強引に任命されてしまう。荒れ果てた土地、困窮する領民たち、そして王都から伸びる陰謀の影。追放されたはずの聖女は、鍬を握り、祈りを土に注ぐことで再び人々に希望を芽吹かせていく。
「畑担当の聖女さま」と呼ばれながら笑顔を取り戻していくリーネ。そして彼女を真っ直ぐに支える辺境伯との距離も、少しずつ近づいて……?
畑から始まるスローライフと、不器用な辺境伯との恋。追放された聖女が見つけた本当の居場所は、王都の玉座ではなく、土と緑と温かな人々に囲まれた辺境の畑だった――。
【本編完結】王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!
こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。
そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。
婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。
・・・だったら、婚約解消すれば良くない?
それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。
結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。
「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」
これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。
そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。
※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。
※本編完結しました。
※後日談を更新中です。
【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました
22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。
華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。
そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!?
「……なぜ私なんですか?」
「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」
ーーそんなこと言われても困ります!
目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。
しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!?
「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」
逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?
氷のメイドが辞職を伝えたらご主人様が何度も一緒にお出かけするようになりました
まさかの
恋愛
「結婚しようかと思います」
あまり表情に出ない氷のメイドとして噂されるサラサの一言が家族団欒としていた空気をぶち壊した。
ただそれは田舎に戻って結婚相手を探すというだけのことだった。
それに安心した伯爵の奥様が伯爵家の一人息子のオックスが成人するまでの一年間は残ってほしいという頼みを受け、いつものようにオックスのお世話をするサラサ。
するとどうしてかオックスは真面目に勉強を始め、社会勉強と評してサラサと一緒に何度もお出かけをするようになった。
好みの宝石を聞かれたり、ドレスを着せられたり、さらには何度も自分の好きな料理を食べさせてもらったりしながらも、あくまでも社会勉強と言い続けるオックス。
二人の甘酸っぱい日々と夫婦になるまでの物語。
【完結】『推しの騎士団長様が婚約破棄されたそうなので、私が拾ってみた。』
ぽんぽこ@3/28新作発売!!
恋愛
【完結まで執筆済み】筋肉が語る男、冷徹と噂される騎士団長レオン・バルクハルト。
――そんな彼が、ある日突然、婚約破棄されたという噂が城下に広まった。
「……えっ、それってめっちゃ美味しい展開じゃない!?」
破天荒で豪快な令嬢、ミレイア・グランシェリは思った。
重度の“筋肉フェチ”で料理上手、○○なのに自由すぎる彼女が取った行動は──まさかの自ら押しかけ!?
騎士団で巻き起こる爆笑と騒動、そして、不器用なふたりの距離は少しずつ近づいていく。
これは、筋肉を愛し、胃袋を掴み、心まで溶かす姉御ヒロインが、
推しの騎士団長を全力で幸せにするまでの、ときめきと笑いと“ざまぁ”の物語。
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
うっかり結婚を承諾したら……。
翠月 瑠々奈
恋愛
「結婚しようよ」
なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。
相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。
白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。
実際は思った感じではなくて──?
【完結】死の4番隊隊長の花嫁候補に選ばれました~鈍感女は溺愛になかなか気付かない~
白井ライス
恋愛
時は血で血を洗う戦乱の世の中。
国の戦闘部隊“黒炎の龍”に入隊が叶わなかった主人公アイリーン・シュバイツァー。
幼馴染みで喧嘩仲間でもあったショーン・マクレイリーがかの有名な特効部隊でもある4番隊隊長に就任したことを知る。
いよいよ、隣国との戦争が間近に迫ったある日、アイリーンはショーンから決闘を申し込まれる。
これは脳筋女と恋に不器用な魔術師が結ばれるお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる