【完結】役立たずになったので身を引こうとしましたが、溺愛王子様から逃げられません

Rohdea

文字の大きさ
20 / 34

第20話 まだ終わりじゃない

しおりを挟む


「ルキア……」

  とても強い力で抱きしめられた。

「シグルド様……えっと、私」

  聞きたい事や話したい事が多すぎて何から口にしたらいいのか分からず戸惑っていたら、シグルド様の方から私を抱きしめた体勢のままポツリポツリと語り出した。

「ありがとう、私を信じてくれて」
「え?」
「婚約解消はしないってルキアが言ってくれた」
「あ……それは」
「嬉しかったよ……だってルキアは身を引こうと思っていただろう?」

   シグルド様がチュッと私の頬にキスをする。

「それに私がルキアを諦めないと信じてくれていた事も嬉しかったよ」
「……だって」

  だってシグルド様の防御魔法で、私に触れようとした侯爵を弾き飛ばしてしまったのよ?
  そこまでするシグルド様に私を諦めるなんて選択肢があるとは思えなかった。

「ルキアにかけた“防御”の力の中に込めたのは“ルキアに邪な想いを抱く人を弾く”ものだ」
「邪な想い?」
「ルキアは私のルキアだからね、触れる事すら許し難い!  なので、その邪な想いが大きければ大きいほど強く弾かれる」
「……え!」

  侯爵は部屋の隅まで弾き飛ばされていたわよ?

「……ルキアのその顔。グレメンディ侯爵は相当弾き飛ばされたのかな」

  私は無言で頷く。
  シグルド様は苦笑しながら言った。

「ちょっと狭量かな?  とも思ったけど正解だったみたいだ」
「シグルド様……」

  そう言ったシグルド様はもう一度私の頬にそっとキスを落とした。



  ──立ったまま話すのは疲れるだろう?
  と言う、シグルド様の提案で部屋のソファに移動し座って話をする事になったのに。

「……シグルド様?  この体勢の意味が分かりません」
「どうしてだい?」

  私の戸惑う声に対してシグルド様はあっけらかんとしている。

  (何でシグルド様はそうも余裕綽々なの!)

  私はドキドキして落ち着かなくなっているというのに。

「どうしても何も……!」
「あぁ、ルキア!  暴れたら危ないよ?  落ちてしまう!」
「うっ、きゃっ……!」

  ほらね、と言いながら体勢を崩して、よろめきかけた私をシグルド様が支える。

「駄目だよ、膝の上で暴れたら。危険だよ?」
「…………はい」

  私は大人しくシグルド様の膝の上に静かに収まった。

  ……そう。
  何故かソファに移動したシグルド様はそのまま流れるような動作で私を膝の上に乗せた。

  え!?  と思った時にはもう遅い。
  完全に抱き込まれていた。

  (何で、こんな体勢……!)

  私が顔を真っ赤にしていると、シグルド様が嬉しそうに言う。

「いつかやってみたいとずっと思っていたんだ、膝抱っこ」
「なっ!」
「可愛いルキアは真っ赤になるだろうなと想像してた」
「!!(図星)」
「うん、想像より可愛い」
「~~~!!」

  (この笑顔には……勝てないわ)


  もう、この膝抱っこを受けいれて話を続けるしかない!
  私は気を取り直してシグルド様に訊ねる。

「……お父様が陛下宛てに“シグルド様との婚約解消を受け入れる”という手紙を昨日送ったそうです」
「みたいだね」
「…………その手紙はどうなったのですか?」

  陛下との話し合いは平行線だと言っていた。
  昨日の今日でそんな簡単に陛下が折れるはずがない。

「実は……父上の周りに見張りを付けていたんだ」
「え!?」

  私が驚きの声をあげるとシグルド様がクスリと少し笑った。

「正確には父上付きの者を数人、私の元に引き入れていたという方が正しいかな?」
「そ、それは、つまり」
「本日王宮に届いた伯爵からの婚約解消を受け入れる手紙は父上の手元に届く前に私が回収した、という事だよ」
「!!」

  バッと身体を少し離して、シグルド様の顔をまじまじと見ると彼は悪戯っ子のような顔をして笑っていた。

「へ、陛下からの発表が遅かったから、シグルド様がどうにかしてくれている……と信じていましたけど……」
「父上はそもそも、まだ、手紙を見ていなかった」

  だって、ここにあるからね、とシグルド様は懐にしまってある手紙を私に見せながら笑顔で言う。

「業を煮やした父上が取る手段としたら、もう無理やりの命令しか無いだろう?  それもエクステンド伯爵側からの申し入れにさせてさ」
「それはそうですけど」
「だから、エクステンド伯爵からの手紙が届いたら私に回すように手配した、それだけだよ」

  (それだけって……)

「ですが!  そんな事をして、だ、大丈夫なのですか?」
「もちろん良くはない。バレたら大変だ。なので後で伯爵にも口裏を合わせて貰わないといけない。手紙はまだ書いていなかった、とね」
「シグルド様……」

  (そんな手段を選んでまで私を他の人に渡したくなかったと言うの?)

「何であれ、手紙がここにある今のうちにグレメンディ侯爵が婚約の申し込みを取り下げてくれれば、ルキアがあの男の元に嫁ぐ必要は無い。まぁ、侯爵のあの様子なら裏切る事も無いだろう」
「もう!!  あなたって人は!」

  私はもう一度、自分からシグルド様に抱き着いた。

「ははは、またルキアが積極的だ。幸せだな~」
「な、何を呑気な事を言っているのですか!」

  なんて無茶な事を!
  ……でも、嬉しい。私を諦めないでいてくれようとしてくれた、その事がたまらなく嬉しい。

「ありがとうございます……」
「私は大丈夫だよ。それにルキアこそ」
「私こそ?」

  何がかしらと思って聞き返すと、シグルド様がそっと身体を離して視線を私の懐に向ける。

  (あ……!)

  そうだ、何故かバレていたんだった、と思って私は懐からそっとナイフを取り出した。
  そのナイフを見たシグルド様はやれやれとした顔を私に向ける。

「こんな危険な物を懐に……私のお姫様……ルキアは豪快だな。髪を切ろうとした?」
「はい。侯爵様を脅そうと思って」
「…………あの侯爵ならダメージ受けそうだなぁ」

  シグルド様が苦笑しながら、私の髪に触れる。

「長くても短くてもルキアは可愛いからどんな髪型でも構わないけど……」

  もう髪の毛一本一本からルキアは私のものだよ、とシグルド様は言う。
  やっぱり独占欲の強い人だわ。
  でも、私も──

「……どうしても嫌だったんです」
「侯爵と結婚するのが?」
「…………シグルド様以外の人と結婚するのが……です」

  侯爵が30歳も年上だとか変態紳士だからとか銀髪フェチだからとか、そんな事は関係無い。どんなに若くてかっこ良いと言われて、変な性癖が無くても……

  (シグルド様以外の人は嫌だった)

「ルキア!」
「………………んっ」

  名前を呼ばれたと同時にそのままシグルド様の顔が私に近づいて来て、そのまま唇を塞がれた。  

「あ…………んっっ」
「そんな可愛い事を言うと……」
「言う、と?」
「……だ」

  キスの合間にシグルド様が何かを言いかける。
  でも、チュッ、チュッと音を立ててシグルド様は何度も何度も私にキスをしてくるので、私の頭の中はボーっとしてしまう。

「私以外、ルキアに誰も触れられない防御魔法をかけたくなるね」
「…………は」

  思わず、はい……と言いそうになってハッと気付く。

「そ、それは、ダメです…………んんっ」
「やっぱりダメかぁ。でも、邪な想いを抱く人を弾くのは継続だよ。これは譲らない」

  そう言ってシグルド様は、私に力を流し込んだ。

「……」
「……」
「少し強めに流しておいたよ」
「ありがとう、ございます」

  チュッと音を立ててシグルド様の唇が離れる。

「牢屋の中では魔力が使えないようになってはいるが、あの女の事だから何を企んでいるか分からないしね」
「ミネルヴァ様……」

  そうよ、彼女の事もどうにかしないといけない。まだ、終わりじゃないんだ。
  私の失った魔力の謎や私とシグルド様の婚約解消の話……

  (全ての先にミネルヴァ様がいるとしか思えないのに)

「取り調べの答えも相変わらずらしい」
「……」

  侯爵からミネルヴァ様が怪しい発言をしていたという証言もあったわけだし、きっと調べて追求して行けば知らぬ存ぜぬを通しているミネルヴァ様にもどこかで綻びが出るはず!


  ──この時の私はそう思っていた。

しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

聖女の座を追われた私は田舎で畑を耕すつもりが、辺境伯様に「君は畑担当ね」と強引に任命されました

さら
恋愛
 王都で“聖女”として人々を癒やし続けてきたリーネ。だが「加護が弱まった」と政争の口実にされ、無慈悲に追放されてしまう。行き場を失った彼女が選んだのは、幼い頃からの夢――のんびり畑を耕す暮らしだった。  ところが辺境の村にたどり着いた途端、無骨で豪胆な領主・辺境伯に「君は畑担当だ」と強引に任命されてしまう。荒れ果てた土地、困窮する領民たち、そして王都から伸びる陰謀の影。追放されたはずの聖女は、鍬を握り、祈りを土に注ぐことで再び人々に希望を芽吹かせていく。  「畑担当の聖女さま」と呼ばれながら笑顔を取り戻していくリーネ。そして彼女を真っ直ぐに支える辺境伯との距離も、少しずつ近づいて……?  畑から始まるスローライフと、不器用な辺境伯との恋。追放された聖女が見つけた本当の居場所は、王都の玉座ではなく、土と緑と温かな人々に囲まれた辺境の畑だった――。

【本編完結】王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!

こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。 そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。 婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。 ・・・だったら、婚約解消すれば良くない? それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。 結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。 「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」 これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。 そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。 ※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。 ※本編完結しました。 ※後日談を更新中です。

【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました

22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。 華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。 そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!? 「……なぜ私なんですか?」 「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」 ーーそんなこと言われても困ります! 目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。 しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!? 「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」 逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?

氷のメイドが辞職を伝えたらご主人様が何度も一緒にお出かけするようになりました

まさかの
恋愛
「結婚しようかと思います」 あまり表情に出ない氷のメイドとして噂されるサラサの一言が家族団欒としていた空気をぶち壊した。 ただそれは田舎に戻って結婚相手を探すというだけのことだった。 それに安心した伯爵の奥様が伯爵家の一人息子のオックスが成人するまでの一年間は残ってほしいという頼みを受け、いつものようにオックスのお世話をするサラサ。 するとどうしてかオックスは真面目に勉強を始め、社会勉強と評してサラサと一緒に何度もお出かけをするようになった。 好みの宝石を聞かれたり、ドレスを着せられたり、さらには何度も自分の好きな料理を食べさせてもらったりしながらも、あくまでも社会勉強と言い続けるオックス。 二人の甘酸っぱい日々と夫婦になるまでの物語。

【完結】『推しの騎士団長様が婚約破棄されたそうなので、私が拾ってみた。』

ぽんぽこ@3/28新作発売!!
恋愛
【完結まで執筆済み】筋肉が語る男、冷徹と噂される騎士団長レオン・バルクハルト。 ――そんな彼が、ある日突然、婚約破棄されたという噂が城下に広まった。 「……えっ、それってめっちゃ美味しい展開じゃない!?」 破天荒で豪快な令嬢、ミレイア・グランシェリは思った。 重度の“筋肉フェチ”で料理上手、○○なのに自由すぎる彼女が取った行動は──まさかの自ら押しかけ!? 騎士団で巻き起こる爆笑と騒動、そして、不器用なふたりの距離は少しずつ近づいていく。 これは、筋肉を愛し、胃袋を掴み、心まで溶かす姉御ヒロインが、 推しの騎士団長を全力で幸せにするまでの、ときめきと笑いと“ざまぁ”の物語。

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

うっかり結婚を承諾したら……。

翠月 瑠々奈
恋愛
「結婚しようよ」 なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。 相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。 白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。 実際は思った感じではなくて──?

【完結】死の4番隊隊長の花嫁候補に選ばれました~鈍感女は溺愛になかなか気付かない~

白井ライス
恋愛
時は血で血を洗う戦乱の世の中。 国の戦闘部隊“黒炎の龍”に入隊が叶わなかった主人公アイリーン・シュバイツァー。 幼馴染みで喧嘩仲間でもあったショーン・マクレイリーがかの有名な特効部隊でもある4番隊隊長に就任したことを知る。 いよいよ、隣国との戦争が間近に迫ったある日、アイリーンはショーンから決闘を申し込まれる。 これは脳筋女と恋に不器用な魔術師が結ばれるお話。

処理中です...