【完結】本物の聖女は私!? 妹に取って代わられた冷遇王女、通称・氷の貴公子様に拾われて幸せになります

Rohdea

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4. 聖女の誕生と要らない王女

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  多くの人が見守る中、マリアーナは戻って来た。
  まだ何も言っていないのに、人々は大歓声でマリアーナを迎えた。

  (気の所為かしら?  マリアーナの顔色が悪く見えるような……)

  マリアーナは出発した時と同じようなにっこり笑顔だったけれど何故か違和感を覚えた。
  神殿の奥で何かあったのかしら?
  と、心配していると、神官様が私の時と同様にマリアーナに訊ねる。

「……マリアーナ殿下……神は何と?  殿下の声に応えてくれましたか?」

  神官様のその質問に、マリアーナはにっこりと微笑み、何故かチラッと横目で私を見た。

  (……?)

  一瞬、目があったけどすぐに逸らされた。
  そして、マリアーナは微笑みを崩さず笑顔のまま答える。

「───はい!  聞こえましたわ」

  おぉぉぉ!  と更なる歓声が上がった。

  聖女の誕生だ!  これでわが国も安泰だ!
  興奮する人々に加えてお父様とお母様、そしてお兄様も涙を流して喜び、マリアーナの元に駆け寄る。

  聖女の誕生に涙を流して喜ぶ国王夫妻と世継ぎの王子、そして“よくやった”と、皆に抱きしめられる王女。

  ……そこに、私の居場所は無かった。


「マリアーナ殿下、神は何と?」
「……これからも変わらずグォンドラ王国を守護して下さるそうよ」

  マリアーナのその発言に人々は再び歓喜の雄叫びをあげる。
  “さすがマリアーナ様!”“美しく清らかだから神もお選びになったのだろう”

「それはようございました。ところで、マリアーナ殿下、身体の方は?」

  神官様はおそらく身体のどこかに現れるという、印の事を言っている。
  マリアーナはにっこり笑って腕を差し出した。

「ええ、聖女の印は頂いたわ!  ────これよ」

  そう言ってマリアーナは左腕を皆に見えるように掲げる。
  その瞬間、神殿内は今までで一番の熱気に包まれた。

  (───あれが、聖女の証……)

  マリアーナの腕に現れた印は間違いなくこの国の国花である百合の花。

「ふむ。間違いなく我が国の国花ですな」

  神官様がマリアーナの腕の印を確認すると大きく頷いた。

「────マリアーナ・グォンドラ王女は本日より聖女と認定する」


  こうして、その日。
  グォンドラ王国に数十年ぶりの“聖女”が誕生した。

  大歓声の中、マリアーナは笑顔でずっと皆に手を振っていた。



◆◇◆◇



「────え?  すみません、リード様。もう一度言ってもらってもいいかしら?」
「……リディエンヌ殿下……すまない」

  そう言って.私の前で頭を下げるリード様。
  その傍らに寄り添うマリアーナの姿。

  二人揃って私の部屋を訪ねてきた時点で嫌な予感はしていた。
  そして、それは見事に的中した。

「君との婚約を……破棄したいんだ」
「……」
「そして、新たにマリアーナ殿下と婚約を結び直すつもりだ」
「……」
「マリアーナ殿下を愛しているんだ!」
「リード様……!」

  リード様の言葉に嬉しそうに抱きつくマリアーナ。

「……リード様。一つよろしいでしょうか?」
「何だ?  申し訳ないが、君がゴネても無駄だ。説得しようなどと考えないでもらお……」
「──どうして、解消ではなく破棄なのですか?」

  この2年でぐっと二人の距離が近付いていたのは知っていた。
  マリアーナが聖女となればこの婚約が無くなる覚悟はしていた。だって、デュバル侯爵家としても、出来損ないお荷物王女なんかより、聖女が欲しいに決まっている。しかも、マリアーナの気持ちがリード様にあるなら尚更……

  (あとはお父様が許すか否かだけど……マリアーナの頼みなら二つ返事で頷くに違いない)

  もともと王女わたしの降嫁先としてデュバル侯爵家は認められていたのだからきっと話はすぐに纏まる。
  だけど、どうしても一つだけ、納得がいかなかった。
  ───何故、解消ではなく破棄なの?

「あぁ……」

  私の質問にリード様は残念そうに笑いながら言った。

「だってリディエンヌ殿下は、聖女にも選ばれず、名ばかりの王女で王家にとってもただのお荷物となってるじゃないか」
「!」
「婚約が解消ではなく破棄となるのは君自身に問題があるからだよ、リディエンヌ殿下。慰謝料だって僕が貰いたいくらいだ」

  リード様は今まで見た事も無い顔でそう言った。




  二人が出ていった後の私は力が抜けてしまいそのままベッドに突っ伏していた。
  昔なら、王女様がなんて格好をしているのですか!
  と、怒られていたでしょうけど、今の私に着いているのは僅かな使用人のみ。
  その人達ですら呼ばれないとやって来ない。怒ってくれる人なんていない。

「……」

  (私、何しているのかしら?)

  でも、あんな言い方をするような人と結婚しないで良かった、と思うべき?
  そんな事を考えていたら、部屋の扉がノックされる。

  (……?  特に誰かを呼んだ覚えは無いけれど?)

「……どちら様ですか?」
「え?  あら、やだお姉様!  私よ、わ・た・し」
「!」

  扉の向こうにいるのはマリアーナだった。




  部屋に招き入れたマリアーナは良くも悪くもいつものマリアーナだった。

「えっと、お姉様にちゃんと謝らなくちゃと思って」
「……」
「でもね私、リード様の事が好きなの!  だからどうしても欲しかったの」
「……」
「あ、もちろん、お姉様には悪いと思っているわ。でも……」
「……マリアーナ」
「なぁに?  お姉様」

  私は、はぁ……とため息を吐く。
  放っておくとこの妹はずっとしゃべり続ける。

「気にしていないから、もう部屋を出て行ってくれないかしら?」
「え……」
「あなたの気持ちも、リード様の気持ちも充分、理解したか……」

  そこまで言いかけた時、マリアーナがポロポロと大粒の涙を流し始めた。

  (───えぇ!?)

「酷いわ……お姉様、いくら私に怒ってるからってそんなに冷たくしなくても……ぐすっ」
「ちょっ……」
「私はお姉様に謝ろうと思っただけなのにぃーー酷いわーー!」

  マリアーナの泣く声はとてもよく響いたので、(マリアーナの)護衛が何事かと駆けつけて来て、あっという間に私はマリアーナを泣かせたと言われてお父様の前に引きずり出された。




「───見損なったぞ、リディエンヌ」
「……」
「自分が“聖女”になれなかったから可愛い妹に八つ当たりか?  愚か者め!!」
「違います!」

  私は必死に否定する。
  だけど、マリアーナを目に入れても痛くないくらい可愛がっているお父様には届かなかった。

「この期に及んで嘘まで付くのか!  姉として最低だと思わぬか!?」
「ですから、私は……!」
「いいか、マリアーナはこの国の聖女だ。神に愛され、神の声を聞き、存在するだけで我が国に繁栄をもたらすという清らかな存在だ!  選ばれなかったお前とは違う!」
「……っ」

  文献によると聖女が存在している時代は、特に国が栄えているのだという。

「……リディエンヌ。先程、デュバル侯爵家が挨拶に来たぞ」

  ビクッ
  私の身体が跳ねた。

「お前と婚約破棄をしてマリアーナと新たに婚姻を結びたいそうだ」
「……っ」
「婚約者の心を繋ぎ止めて置く事も出来ん、婚約破棄されるような王女などもはや、王女とは呼べん」
「おと……うさま?」

  お父様は私を睨みつけると声を荒らげてこう言った。

「お前のような出来損ないのお荷物なだけの王女などこの国には不要だ!  大事な聖女マリアーヌを傷付けられたらたまらん!  この国から出ていけ!」

  ────と。

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