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9. 美味しい食事
しおりを挟むテーブルの上にどんどん料理が並べられていく。
なんと、スープに至ってはホクホクの湯気まで出ている。
(温かい食事なんていつ以来かしら!?)
と、私が内心で感動していたら、料理を並べてくれていた彼が申し訳なさそうな顔で言う。
「……簡単なものばかりですまないが、これで我慢してくれ」
「にゃーん!」
すると、その言葉に対して、何故か私の膝の上にちょこんとお座りしていたティティが、元気よく代わりにお返事をしてくれた。
「……ティティ! お前じゃない!」
「にゃー」
「それから、彼女……リディエンヌ殿の膝の上から降りろ。お前がそこにいたら食べたくても食べられないだろう?」
「にゃ?」
ティティはチラッと私を見る。
そのまん丸の目は“そうにゃの?”と言っているみたいだった。
(か、可愛い! 何この生き物……!)
思わず、可愛い!
と、叫び出しそうになるのを必死で堪えた。
「そ、そうね……ティティさん。少しの間、私の膝から降りてくれていると嬉しいわ」
「にゃーん!」
ティティは元気よく返事をしてヒラリと私の膝から降りた。なんて素直な猫ちゃんなの。
と、またまた感動していたら……
「……なっ!? ティティが……あの気まぐれなティティが素直に言う事を聞いた……だと!?」
「え?」
「あ、有り得ん……そもそも、なぜ膝に…………」
自身をダグラス、とだけ名乗った冷たい印象だった彼はブツブツと嘆きながら、余程衝撃だったのか頭を抱えていた。
この反応だけで普段のティティがどれだけ気まぐれなのかがよく分かる。
「リディエンヌ殿! き、君は何者なんだ!? 魔法でも使えるのか!?」
「……ええっ!?」
「にゃ~ん」
(……魔法使いどころか聖女になれずに捨てられた隣国の元王女ですが?)
さすがにそうは言えないので、その質問は非常に困る。
なので結局、私は曖昧な笑顔を浮かべる事しか出来なかった。
ダグラス様は、あの場で盛大にお腹を鳴らした私の為に、屋敷で食事を用意させようと言ってくれた。どうやら、ティティのやらかしたお詫びも兼ねているらしい。
お腹が空いて空いて我慢が出来なかった私は、その言葉に甘える事にした。
そうして部屋に案内された後、しばらく経ってテーブルに並べられたのが……この料理の山!
(簡単なものと言っているけれど、充分、豪勢よ……)
屋敷の大きさといい、この方はおそらく高位貴族なのだろう、という事は簡単に想像がついた。
そのわりには、使用人が少ない気もするけれど。
「まぁ、いいか。さぁ、冷めないうちにどうぞ。好きなだけ食べるといい」
「は、はい! ありがとうございます。い、いただきます!」
「にゃん!」
「……ティティ! お前はこっちだ!」
「にゃー……」
私は、両手を合わせた後、早速、ホクホクの湯気が出ているスープを手に取った。
こんなに温かそうな料理は久しぶりなので、冷めないうちに絶対に食べたい。
火傷しないようゆっくり口へと運ぶ。
(……あ!)
「……お、美味しい……です」
温かいのはもちろん、しっかり煮込まれ味の染み込んだ野菜がこれまた美味しい。
「そうか? 口にあったなら良かった。料理人も喜ぶだろう」
「にゃ!」
感動する私に、ダグラス様は淡々とした様子で答えた。
ティティと会話(?)をしている時は、焦ったり青くなったりして表情豊かな人に思えたけれど、今は少し言葉の節々もどこか冷たい感じがする。
(怒っている……わけではなさそうだから、基本、こんな感じで無表情な人なのかも……)
何であれ、せっかくのご飯! これからの事もあるし、頂ける所でしっかり頂いてしまおう!
そう思って遠慮せずに目の前の料理を頂くことにした。
そして……
「た、食べ過ぎました……うぅ……」
「にゃー……」
「き、君はバカなのかーー!?」
調子に乗って食べ過ぎた私は、食べ過ぎで動けなくなっていた。
「だって、と、とっても、お、美味しかったんです……!」
「それは、嬉しい言葉だが……だからって限界以上に食べてどうするんだ!?」
「にゃぁ」
ダグラス様は呆れた顔、ティティは心配そうな顔で横になっている私を見ている。
間抜けすぎて恥ずかしい。
「いえ、どうせなら本日の夕食の分くらいまでお腹に入れておこうか……と思って欲張ってしまいました」
「は? 夕食?」
ダグラス様が驚きの声を上げる。
「……」
「にゃ~」
私が黙り込むと、ティティがちょこちょこ移動して私の荷物の入ったバッグの前でにゃーにゃー鳴き出した。
ダグラス様がその様子を見てハッとする。
「…………女性が持ち歩くにしては、妙に大きいバッグだと思っていたが……! まさか、君は……」
「……」
「旅行者だったのか!?」
「にゃーーーん!」
(……んん? 旅……?)
全然、違うのにダグラス様は「そうか……そうだったのか……」と一人で勝手に納得し始めた。
「だから、君は俺の顔を知らなかったのか。それなら納得だ」
「あ、いえ……そうではなく……まぁ、知りませんが」
「まさか、旅行先で猫に食事を奪われるという経験をさせてしまうとはな……せっかくのお楽しみのところ、すまなかった」
「にゃー」
「ティティ! お前はもっと反省しろ!」
「にゃぁ……」
怒られて明らかにティティが、がっくりしていた。
(……ち、違ーう!)
「……いいえ! 私は旅行者ではなく……あれは、あの荷物は私の全てなんです!」
このままだと、ダグラス様(+ティティ)の勘違いが続行しそうだったので私は慌てて否定した。
「は?」
「にゃ?」
一人と一匹は、とてもそっくりな顔で首を傾げた。
◆◆◆◆◆◆
私が食べ過ぎで苦しんでいた、その頃のグォンドラ王国では……
「マリアーナ? い、一体、何を言っているんだ?」
「そうだよ、マリアーナ」
「疲れてるのね? そうに違いないわ、ホホホ」
「……」
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日々の対応に終われて疲れていた所に、マリアーナのまさかの発言。
動揺しすぎた国王はすでに冷静な判断が出来なくなっていた。
(……嘘だ! 嘘だ! 嘘だ! マリアーナの言った事は真っ赤な嘘だ!)
ずっと降り続いている外の雨は、まるで嵐のようにどんどん酷くなっていた。
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