32 / 46
32. 自業自得
しおりを挟む◆◆◆◆◆
ドォーーーン!
二度目の大きな雷。それが王宮の敷地内に落ちたのは明白だった。
た、大変だ……と宮廷内はパニックに陥り始める。
「ひっ!」
「きゃぁ!」
怯えた声を出す王子と王妃を見ながら自分も青ざめていた国王は気付く。
(───今、雷が落ちた方向は、帰って来たリディエンヌを幽閉しようと思っていた塔ではないのか?)
「……ま、まさか本当に神の怒り……?」
「あなた! 何をブツブツ呟いているのよ!? 早く逃げるわよ!」
「そうですよ、父上! また、雷が落ちるかもしれませんし、このまま、ここにいては火の手が……」
王子がそう口にしたと同時に再び空が光り、ドォーンという音。
「ひいっ!」
「ま、またなの!?」
「……くっ!」
火事だーー火の手が上がったぞーー
逃げろーー
「あ、あなた! 私達も逃げるわよ!」
「ち、父上……!」
国王はふと思った。
宮廷内がパニックに陥っているとはいえ、こういう時は、まず国王を先に安全に避難させようとするものなのでは無いのか?
なのに、どいつもこいつも我先にと逃げ惑い、国王一家の身を案じる家臣は一人もいないではないか!
使用人達ですら逃げる事しか考えていない。
自分のそばにいるのは王妃と王子のみ……
「ははは……はは、ははは……!」
「あなた!?」
「ち、父上……」
狂ったように笑い出す国王を王妃と王子は怪訝そうな目で見る。
何が神だ!
あんなに嘘つきで可愛らしさの欠片もないリディエンヌを追い出しただけだぞ?
神とはグォンドラ王国を守護する者では無かったのか?
なのに何故、我らを破滅へと導こうとするのだ!
「はは……我らは何を間違えたのだろうな……」
「あなた! いいから、逃げましょう! 命、命さえあればきっと!」
「そうですよ! 建物は燃えても、我らが生きていれば国は大丈夫です」
そう言い合いながら国王達は逃げ始めた。
まず、緊急脱出用の通路に向かおうとしたが、その扉がうんともすんとも言わない。
「チッ! 仕方がない! 他の出口に回るぞ」
炎はすごい速さで燃え広がっており、まるで王宮内を全て焼き尽くす! と言わんばかりの勢いで迫ってくる。
(……崩れていく……我が国の象徴でもある城が……)
国王がそう思った時、
「きゃぁぁーー! 熱っ」
「母上!」
「私の自慢の髪がぁぁぁーチリチリにぃぃー」
逃げている最中、火の粉が当たり王妃の自慢の髪を焼いた。
一刻も早く避難せねばならないという状況なのに、王妃はその場で立ち止まりショックで泣き出してしまう。
愛する妻だったが、こんな時に……と国王はイラッとした。
「髪なんてどうでもいいだろう!? いいから早く逃げ……」
「酷いわ! 私の大事な髪を何だと思っているのよ!」
「今はそんな事を言っている場合では無い! こうしている間にも火に囲まれ……うわぁぁ」
火の粉は国王にも降りかかってくる。
「父上!」
「くっ……」
(雨が……外は雨が降っているはずなのに……何故こんなに火の回りが早いのだ……!)
「これが……神の……リディエンヌを罰した事への……怒りなのか……」
国王は呆然としたままそう呟いた。
こうして退路はどんどん絶たれ、炎はまるで三人をを嘲笑うかのようにどんどん広がっていった……
◇◇◇◇◇◇
「……聞こえないという神の声と今になってティティが現れた件については、後でティティに聞いてみるといいと思う。あの様子なら何か知っているんじゃないか?」
「ですよね……」
(なにか理由があったに違いない)
ここまで来て、私が本物の聖女だなんて嘘よ……なんてもう思わない。
だってもう、私の目にはマリアーナが本物の聖女には全く見えないから。
「にゃぁぁぁー」
「きゃぁあ! 来ないでぇぇー」
そんなマリアーナの悲鳴は今も続いている。
マリアーナは必死にティティから逃げながら叫んでいた。
「……くっ! 何よ! ……聖女の守護者……とやらの猫がここにいるという事は……お姉様! 何処かにいるんでしょう!? 黙って見ていないで私を助けて!」
「にゃっ!」
「痛ぁい!」
ティティが、まだ叫ぶ元気があったにゃん? と言わんばかりに後ろから猫キックを喰らわす。
「お、お姉様、お願いよ……グォンドラ王国の話も聞いたでしょう? お父様達が……王宮が大変な事になっている……のかも……しれないのよーー!? お姉様はそれでもいいの!?」
「にゃーー」
今度はうるさいにゃと言わんばかりに猫パンチ。
マリアーナは必死に訴えるけれど、周りの反応はとても冷ややかだった。
───そんなの自業自得だろ! 聖女を騙っておいて何を言う! 神の怒りも最もだ!
───こんな王女のいるグォンドラ王国なんてろくな国じゃない。
───第一王女は逃げ出して正解だ……
そんな声はマリアーナの耳にも届いたらしく、「ひ、酷いわ……」と泣き崩れる。
「リード様も! どうしてずっと黙って見ているだけなのよーー……婚約者だったお姉様なんかより私の方が可愛いって言って私を選んでくれたじゃない!」
「マリアーナ殿下っ!! 何でそれを今ここで……!」
名指しされた挙句、婚約破棄の事まで暴露されたリード様が慌て出す。
「……にゃ?」
その暴露された言葉にティティがピクッと反応した。
「……うっっ!」
「にゃー……」
ティティとリード様の目が合ったと思ったのと同時にリード様の顔が盛大に引き攣る。
「にゃーーーー!」
「うわぁぁぁ」
ティティはリード様にも襲いかかった。
「…………ティティは、お前もかぁぁ! と言ってあの男に襲いかかっているぞ」
「ティティさん……」
私がティティに襲われているリード様の様子を見ていたら、ダグラス様がちょっと拗ねた声を出した。
「リディエンヌはあの男と婚約していたんだな……」
「ダグラス様?」
ダグラス様の顔をじっと見たら、彼はちょっぴり面白くなさそうな顔をしていた。
……キュン!
そんなダグラス様が可愛く見えてしまい私の胸がキュンとした。
「彼は名ばかりの婚約者でしたよ?」
「分かっている……だが…………面白くない」
「愛の言葉なんて以ての外……まともに手すら握った記憶もありません……彼はマリアーナとばかり仲を深めていましたから」
私がそう告げると、ダグラス様がコツンと額をあててきた。
距離の近さにドキドキする。
「聞けば聞くほど、ろくな奴がいない国だな」
「…………だからでしょうか」
「リディエンヌ?」
「さっき、王宮に雷が落ちたと聞いても。目の前でマリアーナやかつての婚約者がティティに報復されていても……全く私の心が痛まないのです」
ダグラス様が再びギュッと私を抱きしめる。
「リディエンヌがそうなるのは当然だと俺は思っている。だって、リディエンヌはそれだけの事をされて来たわけだろう?」
「ダグラス様……」
ダグラス様はチラッとティティの方へと視線を向ける。
「今、痛めつけられている元婚約者の男は、一応、ごめんなさい……悪かった……と叫んでいるな」
「え?」
「だが、あっちのゴミ王女の方はどうだ?」
そう言われてマリアーナの方を見ると、マリアーナは今も私を呼んでいた。
「──お姉様! いい加減出て来なさいよ! 私も皆も大変だと言うのに……しかもあの氷の貴公子と婚約ですって!? ずるいわ、お姉様! 出てきて説明してよ!」
口調まで荒々しくなっている。
それにあの氷の貴公子って?
「一向にリディエンヌに謝るという気配を見せない。それだけでグォンドラ王国の国王達がどんな奴かが分かるな」
ダグラス様が呆れてようにそう言った。
たしかに皆、性格はそっくりだと思う。
それよりも、私はマリアーナの口にした“氷の貴公子”が気になって仕方がない。
「あの……ダグラス様、何故マリアーナはダグラス様の事をご存知なのでしょう?」
いくらなんでも、グォンドラ王国にまでダグラス様の氷の貴公子の名前は届いていないと思うのだけど?
「…………覚えているか? あの女は以前に婚約者と一緒に屋敷を訪ねてきたゴミの張本人だ」
「え? あの玄関で……」
「そうだ。事前連絡も無しに現れた、非常識なゴミだ」
(あの時の騒ぎはマリアーナだったんだ……!)
「だから、あの時ティティさん……」
あの急な不自然だった行動は、私をマリアーナから守るため……
今だって自分だけが飛び出して報復を与えてくれている。
「私、今すぐティティさんをギュッと抱きしめてモフモフしたいです……」
「抱き……!? ……はぁ、本当にティティはとんでもないライバルだな」
「ダグラス様?」
ダグラス様が大きなため息と共に、私の顎に手をかけて上を向かせる。
「?」
「ティティにバレたら猫パンチと猫キックの刑は確定だろうなぁ。痛いだろうなぁ………だが! ティティもいいけど、俺の事も見てくれ、リディエンヌ」
そう口にしたダグラス様の顔がそっと近付いて来て……
(───え?)
チュッ
私とダグラス様の唇がそっと重なった。
172
あなたにおすすめの小説
聖女で美人の姉と妹に婚約者の王子と幼馴染をとられて婚約破棄「辛い」私だけが恋愛できず仲間外れの毎日
佐藤 美奈
恋愛
「好きな人ができたから別れたいんだ」
「相手はフローラお姉様ですよね?」
「その通りだ」
「わかりました。今までありがとう」
公爵令嬢アメリア・ヴァレンシュタインは婚約者のクロフォード・シュヴァインシュタイガー王子に呼び出されて婚約破棄を言い渡された。アメリアは全く感情が乱されることなく婚約破棄を受け入れた。
アメリアは婚約破棄されることを分かっていた。なので動揺することはなかったが心に悔しさだけが残る。
三姉妹の次女として生まれ内気でおとなしい性格のアメリアは、気が強く図々しい性格の聖女である姉のフローラと妹のエリザベスに婚約者と幼馴染をとられてしまう。
信頼していた婚約者と幼馴染は性格に問題のある姉と妹と肉体関係を持って、アメリアに冷たい態度をとるようになる。アメリアだけが恋愛できず仲間外れにされる辛い毎日を過ごすことになった――
閲覧注意
偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら
影茸
恋愛
公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。
あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。
けれど、断罪したもの達は知らない。
彼女は偽物であれ、無力ではなく。
──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。
(書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です)
(少しだけタイトル変えました)
【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください
ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。
義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。
外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。
彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。
「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」
――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。
⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎
(完結)お荷物聖女と言われ追放されましたが、真のお荷物は追放した王太子達だったようです
しまうま弁当
恋愛
伯爵令嬢のアニア・パルシスは婚約者であるバイル王太子に突然婚約破棄を宣言されてしまうのでした。
さらにはアニアの心の拠り所である、聖女の地位まで奪われてしまうのでした。
訳が分からないアニアはバイルに婚約破棄の理由を尋ねましたが、ひどい言葉を浴びせつけられるのでした。
「アニア!お前が聖女だから仕方なく婚約してただけだ。そうでなけりゃ誰がお前みたいな年増女と婚約なんかするか!!」と。
アニアの弁明を一切聞かずに、バイル王太子はアニアをお荷物聖女と決めつけて婚約破棄と追放をさっさと決めてしまうのでした。
挙句の果てにリゼラとのイチャイチャぶりをアニアに見せつけるのでした。
アニアは妹のリゼラに助けを求めましたが、リゼラからはとんでもない言葉が返ってきたのでした。
リゼラこそがアニアの追放を企てた首謀者だったのでした。
アニアはリゼラの自分への悪意を目の当たりにして愕然しますが、リゼラは大喜びでアニアの追放を見送るのでした。
信じていた人達に裏切られたアニアは、絶望して当てもなく宿屋生活を始めるのでした。
そんな時運命を変える人物に再会するのでした。
それはかつて同じクラスで一緒に学んでいた学友のクライン・ユーゲントでした。
一方のバイル王太子達はアニアの追放を喜んでいましたが、すぐにアニアがどれほどの貢献をしていたかを目の当たりにして自分達こそがお荷物であることを思い知らされるのでした。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
全25話執筆済み 完結しました
二周目聖女は恋愛小説家! ~探されてますが、前世で断罪されたのでもう名乗り出ません~
今川幸乃
恋愛
下級貴族令嬢のイリスは聖女として国のために祈りを捧げていたが、陰謀により婚約者でもあった王子アレクセイに偽聖女であると断罪されて死んだ。
こんなことなら聖女に名乗り出なければ良かった、と思ったイリスは突如、聖女に名乗り出る直前に巻き戻ってしまう。
「絶対に名乗り出ない」と思うイリスは部屋に籠り、怪しまれないよう恋愛小説を書いているという嘘をついてしまう。
が、嘘をごまかすために仕方なく書き始めた恋愛小説はなぜかどんどん人気になっていく。
「恥ずかしいからむしろ誰にも読まれないで欲しいんだけど……」
一方そのころ、本物の聖女が現れないため王子アレクセイらは必死で聖女を探していた。
※序盤の断罪以外はギャグ寄り。だいぶ前に書いたもののリメイク版です
ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!
沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。
それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。
失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。
アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。
帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。
そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。
再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。
なんと、皇子は三つ子だった!
アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。
しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。
アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。
一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。
私生児聖女は二束三文で売られた敵国で幸せになります!
近藤アリス
恋愛
私生児聖女のコルネリアは、敵国に二束三文で売られて嫁ぐことに。
「悪名高い国王のヴァルター様は私好みだし、みんな優しいし、ご飯美味しいし。あれ?この国最高ですわ!」
声を失った儚げ見た目のコルネリアが、勘違いされたり、幸せになったりする話。
※ざまぁはほんのり。安心のハッピーエンド設定です!
※「カクヨム」にも掲載しています。
【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ
・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。
アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。
『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』
そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。
傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。
アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。
捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。
--注意--
こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。
一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。
二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪
※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。
※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる