【完結】本物の聖女は私!? 妹に取って代わられた冷遇王女、通称・氷の貴公子様に拾われて幸せになります

Rohdea

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33. 諦めの悪かった偽聖女は……



  ──え?  今、唇……が!  触れた……?

  そう思った時には、もうその温もりは離れていた。

「……」
「……」

  しばらく互いに無言のまま、見つめ合う。

  (キス……)

  やがて、ハッとした私の方から口を開く。

「ダ、ダグラス様……い、い、今!」
「うん、可愛いリディエンヌの唇にキスをした」
「うんって……!」

  そんな破壊力満点の笑顔でなんて事を言うの!

「真っ赤なリディエンヌも可愛い」
「そ、そういう事では……!  誰も見てないとは言え、こ、こんな所で!」

  恥ずかしさと照れで自分でも何が言いたいのか分からない。
  
「好きな女性に触れたいと思うのはおかしな事では無いだろう?」
「そ、それは……そうですけど!」
「もっと俺を意識してもらわないと、可愛い可愛いモッフモフした守護者にリディエンヌを奪われそうだからな……」
「ダグラス様……って、そうですよ!  く、唇へのキスはティティに禁止されている、と言っていたではありませんか!」

  私が慌てるとダグラス様は苦笑した。

「うん、言っただろう?  猫パンチと猫キックは確定だなって」
「ひぇ……」
「だから、どうせボコボコにされるなら……」

  そこで言葉を区切ったダグラス様が真剣な瞳で私を見る。
  その瞳から目が逸らせずにいたら、
「……もう一度」
  それだけ言ってダグラス様の顔が再び近付いて来た。

  (────あ……)

  今度は私もそっと瞳を閉じる。
  ドキドキして待っていると、程なくして再びチュッとそれが触れる。
  それはあたたかくて柔らかくてとにかく幸せな味がした。

  (───あぁ、ティティを説得しなくちゃ……)

  私が幸せだから許して……って。






「どうして出て来てくれないの?  ……お姉様って本当に酷い人なのね。可愛い妹がこんな目にあっているのに無視するの!?」

  せっかくダグラス様と幸せな気持ちでいたのに、マリアーナのその声に現実に戻される。

「にゃぁぁー」
「ひっ!  猫!  来ないでよ……って、そうよ!  あんた……お姉様の猫なんでしょ?  私をお姉様と氷の貴公子の元に案内しなさいよ」

  リード様への報復が終わったらしいティティは、倒れたままピクリとも動かないリード様を放置して再びマリアーナの元に近付いていく。

「にゃ?」
「……私は、どうしてもお姉様に会わなくちゃいけないの!  そうよ!  それで、私が皆の前でお姉様の本性を見せてあげるわ!」

  マリアーナはよほど混乱しているのか、おかしな事を言い出した。
  完全に私に会う目的がすり変わっている気がする。

  (本物の聖女だった私を、国に連れ戻す事が目的だったのではないの?)

「にゃー……」
「お姉様ったら本当に酷い人なのよ?  昔からぜーんぜん私のお願いは聞いてくれないし?  いっつもつまらなそうで笑わないし?  せっかく訪ねて来てくれていた婚約者だったリード様とも全く会おうとしなかったのよ?」
「にゃぁーー!」
「痛っ!  なんで引っ掻くのよ!  私は本当の事を話しているだけなの!  あんな酷い人が“聖女”だなんて、やっぱりおかしいのよ!  私の方が絶対に相応しいんだから!」

  マリアーナはどうしてそこまでして私を陥れたいんだろう。
  何でも奪っていったのに何が足りないの?

「あなたも、氷の貴公子も、みーーんな、お姉様に騙されているのよ!」
「うにゃぁあぁーー」

  ティティが黙れと言わんばかりにマリアーナに向かって飛び付いた所で、陛下が口を開いた。

「マリアーナ王女」
「……な、何ですか」
「周りをよく見てみろ」
「え?」

  陛下のその言葉で、マリアーナは周囲を見渡しハッとした。
  この場にいる誰もがマリアーナに対して白い目を向けている。ようやくその事に気付いたらしい。

「な、何で皆、そんな目で私を見ているのよ……!」
「ははは、そんなにボロボロの姿なのだから、多少はそなたに同情する視線の一つや二つあってもよいだろうになぁ……」
「……」
「清々しいくらいそんな目でそなたを見る者がいないな。はっはっは」
「な……!」

  陛下の笑いにマリアーナが大きなショックを受ける。
  いつだって、グォンドラ王国でちやほやされて来たマリアーナは、こういった視線を向けられるのはかなりの屈辱に違いない。

「マリアーナ王女。お前の姉……本物の聖女には会わせん」
「にゃ!」

  陛下の言葉にティティも力強く頷く。

「もちろん、氷の貴公子にもだ」
「どうしてですか!  氷の貴公子だって私の話をちゃんと聞いてくれれば目が覚めて……」
「ははは!  マリアーナ王女。そなたはどこまでもどこまでもおめでたい思考の持ち主なのだな」
「え……」

  陛下はマリアーナを鼻で笑い飛ばした。

「本来、氷の貴公子と呼ばれている程、冷たい奴なのだぞ?  そんな氷の男が初めて惚れた女性が、そなたの姉なのだ。分かっているのか?」
「そ、それが何だと……」
「散々、この場でその最愛の女性を陥れるような話ばかりをしていたそなたに会ったらどうなると思う?」
「……」
「おそらく今、氷の貴公子は会場内のどこかで大事に大事に彼女を守りながら、内心はそなたに対して怒り狂っているであろうな」

  マリアーナの顔色が変わった。怒り狂う“氷の貴公子”を想像したのかもしれない。

「にゃーん……」

  ティティが小さく鳴くと、その言葉を拾ったダグラス様が苦笑した。

「ダグラス様?」
「ティティに言わせると、氷の貴公子はヘタレなだけなのににゃぁ、だそうだ」
「ティティさん……」
「ティティは本当に俺に容赦が無い……」

  そう言ってちょっと落ち込むダグラス様が可愛い。

「ダグラス様は初めて会った時こそ、冷たい言葉と態度でしたけど、あまり氷の貴公子様という感じはしなかったです」
「…………パンを加えた猫を追い掛けて来ました!  と、言われたらなぁ……」
「……」
「……」

  ふふ、と私達はお互いを見つめると笑い合った。
  そんな中、陛下のマリアーナへの話は続く。

「命が惜しかったら、姉にも氷の貴公子にも会う事は諦めて、素直にそこで倒されている婚約者の男と仲良く国へと帰るといい」
「……っ」
「まぁ、国がどこまで健在かは知らないがな」
「……!!」

  その言葉でグォンドラ王国に落ちた雷の事を思い出したのかマリアーナは震え出した。

「グォンドラ王国の者達は、神を怒らせた。そなたは国に帰り自分達のした事を思い知るといい」
「私達の……した、事……」
「そうだ。そこで、お前達が散々貶して来た本物の聖女でもある姉王女が、氷の貴公子とこの国で幸せに暮らす様子を聞きながら生きていくといい」
「お姉様が……幸せ?  なら、私は……?」

  マリアーナの瞳が大きく揺れた。

「あぁ、そうそう。ので、そなた達の帰国の際は我が国の人間も付き添わせて貰おう。グォンドラ王国の現状も知りたい所なので丁度いいだろう?」
「……え」

  陛下はにっこり笑ってそう言った。
  マリアーナの顔は完全に蒼白となり、そのまま膝から崩れ落ちた。




「───あれ、完全に乗っ取る気満々だな」

  ダグラス様がボソッと呟いた。

「はい?」
「陛下だよ。この機会にグォンドラ王国を乗っ取る気だと思うぞ。あのゴミ王女がここでしでかした事だけでも賠償責任を問えるし、それに……」

  ダグラス様の言いたい事は分かった。
  それに、雷が本当に王宮に落ちたのなら、かなりの甚大な被害となっているはず。
  図太い性格のあの人達が、たとえ生き残っていたとしても国を建て直せるとは思えない。

  (きっと神様が許さない)

  だって、私があの人達を許せない。許したいとも思わない。
  無慈悲だと言われようとも、私は……

「───私は、あんな国……崩壊してしまえばいいと思います」

   ……そう口にした瞬間、首の後ろが熱を持った気がした。

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