40 / 46
39. モッフモフの本音
しおりを挟む「にゃー……」
「ふふ、何で分かったのかって聞いてるの? だって、ティティさん、私の事も大好きでいてくれているけれど、本当はダグラス様の事も大好きでしょ?」
「……にゃっ!?」
(……あぁ、やっぱり)
「ティティさんは、ラッシェル国に来た私の面倒を見てくれる人を探す時、あの日の説明にあったように金や権力持ちの家に目をつけた。ここまではその通りだと思ったわ」
「にゃー……」
「最終的にあの街の権力者である領主の息子が惚れっぽいからダグラス様……と言っていたけれど、本当の所はそれが理由じゃなくて……」
「にゃ! んにゃっ!」
ティティが分かりやすく暴れ出した。
「ティティさんがダグラス様の事が大好きになっちゃったから彼を選んだんでしょう?」
「にゃっ!!」
「……」
ティティが、んにゃんにゃ言いながらオロオロしている。
「……ダグラス様だけがティティさんと話せる理由」
「にゃ!」
「私、ずっと不思議だった。ティティさん、そこでもダグラス様に嘘をついたでしょ?」
「にゃーー」
最初からティティは不思議な猫だと思っていたし、理由は分からなくてもそんな変わった事もあるものなのね、と思っていた。
でも、ティティが聖女の……私の“守護者”という存在だったと判明した時、微かに疑問を抱き、そしてあの日、様々な謎解きをしていて私の中でその疑問はますます強くなった。
───本来、守護者と会話が出来るようになるのは聖女だったのでは? と。
「あの後ね、実はこっそり陛下に確認したの。ラッシェル国に残っている“守護者”についての記録」
「……にゃ」
「やっぱり残っていたわ。“聖女と守護者はまるで会話をしているようだ”という記述」
「んにゃ……」
「ティティさんも言ってたじゃない? 神の声が聞こえなくなっていた歴代の聖女達は守護者に導かれて行動をし、その行動は神の言葉によるものだと口にしていたにゃって……それって聖女と守護者は会話が出来ていたって事でしょう?」
またしても、ティティは大きく動揺を見せた。
「だから思ったの。神様は守護者を選んだ後、その守護者に一つ力を授けてるのかなって」
「にゃ……」
「だって守護者って元々は普通のペットの動物だもの。それで聖女と会話をしたいって願う事で会話が出来るようになる…………あ!」
大変、ティティさんがどんどん項垂れていく。
責めていると勘違いされているのかも!
私は慌ててティティさんを持ち上げてギュッと抱きしめる。
「にゃ?」
「誤解しないでね? ティティさん。私は怒ってないし、むしろこれでいいとすら思っているわ」
「にゃー……」
「ティティさんは、ダグラス様と会って彼と接して…………願ったのでしょう?」
「……にゃぅぅぅ」
「ダグラス様と会話がしてみたいって」
ティティは観念したように「うにゃ」と、小さく頷いた。
これは、私の勝手な推測だけど、守護者に選ばれてからは仕方ないにしてもその前から、誰からも飼われる事の無かったティティ。そんなずっと放浪の食い倒れの旅をしていたティティの生活は決して安泰なんかじゃなかったはず。だって、世の中には優しい人もいればそうでない人もいる。
そして、たまに貰える誰かの“優しさ”があったとしても一時のものばかり──……
「……様子見の為に会いに行ったら……ダグラス様、とってもあなたに優しくしてくれたんでしょう?」
「…………にゃ」
「氷の貴公子様なんて呼ばれてるのに、氷どころかとってもとっても優しくしてくれて、彼だけがあなたに手を差し伸べてくれた……違う?」
「……にゃ」
顔を上げたティティの目が潤んでいた。
だから、私は間違いないと確信する。
だって、ダグラス様は初めて会った時に言っていた。
───こいつは最近、気付いたら屋敷の庭に住み着いていたんだ。追い出してその辺に捨てるのも忍びなくてな。とりあえず“ティティ”と名付けて、餌を与えたり寝床を与えたりはしてみたのだが……果たしてこれは飼っていると言えるのだろうか?
(だって、私の好きになったダグラス様は迷いこんだ猫にそこまでしちゃう人なのよ!)
「“ティティ”と名前まで付けて貰えて、とってもとっても嬉しかったのよね? お礼が言いたくなっちゃったのよね? だから───」
「…………にゃんっ!」
ティティがギュッと私に抱きつく。
あぁ、これが答えだ。
ティティはダグラス様の事が大好きになった。願いが叶い意思の疎通が出来るようになってからも、ダグラス様は変わらず優しいまま。
そんなダグラス様だから、私を託す人にティティは迷わず彼を選んだ……
(素直にそう言えば良かったのに……)
「……ねぇ、ティティさん。どうして、ダグラス様に素直に“ありがとう”“大好き”と言わないの?」
「にゃっ!!」
「せっかく話が出来るのに、いっつも、わざとあんな言い方ばかりして」
「……にゃっ!!」
「素直じゃないのね? もしかして照れているの?」
「……にゃ」
───あぁ、もう! なんて不器用なのかしら? そんなところも可愛いわ!
「あのね、ティティさん。ダグラス様って、とってもとってもかっこいいの」
「にゃ!」
「あ、見た目だけじゃないわよ? 中身よ中身!」
「にゃ!」
「そして、ティティさんが絡むととっても面白いの」
「……にゃ?」
ふふ、最後だけはよく分かってないのね?
「私はティティさんとダグラス様が会話して通訳してくれる……この関係が好きよ」
「にゃん?」
「だって……」
もし、私とティティの間だけで会話が成立して終えてしまったら、いつだってダグラス様は除け者になってしまう。
そんなのは嫌だ。
「んにゃ?」
「ふふ、ティティさん、これからもダグラス様と一緒にたくさん私とも話してね?」
「にゃーーん!」
そう言って私が再びティティをギュッと抱きしめていると……
「……な、何をやっているんだ?」
「にゃ?」
「ダグラス様?」
両手いっぱいにたくさんの食べ物を抱えたダグラス様が戻って来た。
(絶対、ティティのリクエスト以上に買って来たわね……)
親バカ気質のあるダグラス様は何だかんだでティティが可愛い。
「ティティ! 抜け目のない奴だな! ちょっと目を離した隙に俺のリディエンヌにイチャイチャを仕掛けるとは!」
「にゃーーーーん!」
モフッ!
ティティがダグラス様に見せつけるように抱きついてくる。
「リディエンヌのふわふわを堪能しているにゃ! だと!? くっ!」
「にゃ!」
「あぁ、羨ましいとも! そんな事を言う奴にはこれはあげんぞ!」
「にゃっ!? にゃ、にゃんにゃーーーー」
ティティが私の胸から飛び出してダグラス様に必死にしがみつく。
私はそんな光景が面白くて楽しくて、なんて幸せなんだろうって思った。
(意地っ張りティティはいつか素直になる時が来るかしら……?)
その時が来るのを楽しみに待つ事にした。
───そんな楽しくて幸せな日々を送っていた数日後。
とうとう陛下がグォンドラ王国に行く日がやって来た。
158
あなたにおすすめの小説
ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!
沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。
それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。
失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。
アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。
帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。
そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。
再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。
なんと、皇子は三つ子だった!
アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。
しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。
アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。
一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。
私生児聖女は二束三文で売られた敵国で幸せになります!
近藤アリス
恋愛
私生児聖女のコルネリアは、敵国に二束三文で売られて嫁ぐことに。
「悪名高い国王のヴァルター様は私好みだし、みんな優しいし、ご飯美味しいし。あれ?この国最高ですわ!」
声を失った儚げ見た目のコルネリアが、勘違いされたり、幸せになったりする話。
※ざまぁはほんのり。安心のハッピーエンド設定です!
※「カクヨム」にも掲載しています。
【完結】私のことを愛さないと仰ったはずなのに 〜家族に虐げれ、妹のワガママで婚約破棄をされた令嬢は、新しい婚約者に溺愛される〜
ゆうき
恋愛
とある子爵家の長女であるエルミーユは、家長の父と使用人の母から生まれたことと、常人離れした記憶力を持っているせいで、幼い頃から家族に嫌われ、酷い暴言を言われたり、酷い扱いをされる生活を送っていた。
エルミーユには、十歳の時に決められた婚約者がおり、十八歳になったら家を出て嫁ぐことが決められていた。
地獄のような家を出るために、なにをされても気丈に振舞う生活を送り続け、無事に十八歳を迎える。
しかし、まだ婚約者がおらず、エルミーユだけ結婚するのが面白くないと思った、ワガママな異母妹の策略で騙されてしまった婚約者に、婚約破棄を突き付けられてしまう。
突然結婚の話が無くなり、落胆するエルミーユは、とあるパーティーで伯爵家の若き家長、ブラハルトと出会う。
社交界では彼の恐ろしい噂が流れており、彼は孤立してしまっていたが、少し話をしたエルミーユは、彼が噂のような恐ろしい人ではないと気づき、一緒にいてとても居心地が良いと感じる。
そんなブラハルトと、互いの結婚事情について話した後、互いに利益があるから、婚約しようと持ち出される。
喜んで婚約を受けるエルミーユに、ブラハルトは思わぬことを口にした。それは、エルミーユのことは愛さないというものだった。
それでも全然構わないと思い、ブラハルトとの生活が始まったが、愛さないという話だったのに、なぜか溺愛されてしまい……?
⭐︎全56話、最終話まで予約投稿済みです。小説家になろう様にも投稿しております。2/16女性HOTランキング1位ありがとうございます!⭐︎
(完結)お荷物聖女と言われ追放されましたが、真のお荷物は追放した王太子達だったようです
しまうま弁当
恋愛
伯爵令嬢のアニア・パルシスは婚約者であるバイル王太子に突然婚約破棄を宣言されてしまうのでした。
さらにはアニアの心の拠り所である、聖女の地位まで奪われてしまうのでした。
訳が分からないアニアはバイルに婚約破棄の理由を尋ねましたが、ひどい言葉を浴びせつけられるのでした。
「アニア!お前が聖女だから仕方なく婚約してただけだ。そうでなけりゃ誰がお前みたいな年増女と婚約なんかするか!!」と。
アニアの弁明を一切聞かずに、バイル王太子はアニアをお荷物聖女と決めつけて婚約破棄と追放をさっさと決めてしまうのでした。
挙句の果てにリゼラとのイチャイチャぶりをアニアに見せつけるのでした。
アニアは妹のリゼラに助けを求めましたが、リゼラからはとんでもない言葉が返ってきたのでした。
リゼラこそがアニアの追放を企てた首謀者だったのでした。
アニアはリゼラの自分への悪意を目の当たりにして愕然しますが、リゼラは大喜びでアニアの追放を見送るのでした。
信じていた人達に裏切られたアニアは、絶望して当てもなく宿屋生活を始めるのでした。
そんな時運命を変える人物に再会するのでした。
それはかつて同じクラスで一緒に学んでいた学友のクライン・ユーゲントでした。
一方のバイル王太子達はアニアの追放を喜んでいましたが、すぐにアニアがどれほどの貢献をしていたかを目の当たりにして自分達こそがお荷物であることを思い知らされるのでした。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
全25話執筆済み 完結しました
出来損ないと言われて、国を追い出されました。魔物避けの効果も失われるので、魔物が押し寄せてきますが、頑張って倒してくださいね
猿喰 森繁
恋愛
「婚約破棄だ!」
広間に高らかに響く声。
私の婚約者であり、この国の王子である。
「そうですか」
「貴様は、魔法の一つもろくに使えないと聞く。そんな出来損ないは、俺にふさわしくない」
「… … …」
「よって、婚約は破棄だ!」
私は、周りを見渡す。
私を見下し、気持ち悪そうに見ているもの、冷ややかな笑いを浮かべているもの、私を守ってくれそうな人は、いないようだ。
「王様も同じ意見ということで、よろしいでしょうか?」
私のその言葉に王は言葉を返すでもなく、ただ一つ頷いた。それを確認して、私はため息をついた。たしかに私は魔法を使えない。魔力というものを持っていないからだ。
なにやら勘違いしているようだが、聖女は魔法なんて使えませんよ。
真面目くさった女はいらないと婚約破棄された伯爵令嬢ですが、王太子様に求婚されました。実はかわいい彼の溺愛っぷりに困っています
綾森れん
恋愛
「リラ・プリマヴェーラ、お前と交わした婚約を破棄させてもらう!」
公爵家主催の夜会にて、リラ・プリマヴェーラ伯爵令嬢はグイード・ブライデン公爵令息から言い渡された。
「お前のような真面目くさった女はいらない!」
ギャンブルに財産を賭ける婚約者の姿に公爵家の将来を憂いたリラは、彼をいさめたのだが逆恨みされて婚約破棄されてしまったのだ。
リラとグイードの婚約は政略結婚であり、そこに愛はなかった。リラは今でも7歳のころ茶会で出会ったアルベルト王子の優しさと可愛らしさを覚えていた。しかしアルベルト王子はそのすぐあとに、毒殺されてしまった。
夜会で恥をさらし、居場所を失った彼女を救ったのは、美しい青年歌手アルカンジェロだった。
心優しいアルカンジェロに惹かれていくリラだが、彼は高い声を保つため、少年時代に残酷な手術を受けた「カストラート(去勢歌手)」と呼ばれる存在。教会は、子孫を残せない彼らに結婚を禁じていた。
禁断の恋に悩むリラのもとへ、父親が新たな婚約話をもってくる。相手の男性は親子ほども歳の離れた下級貴族で子だくさん。数年前に妻を亡くし、後妻に入ってくれる女性を探しているという、悪い条件の相手だった。
望まぬ婚姻を強いられ未来に希望を持てなくなったリラは、アルカンジェロと二人、教会の勢力が及ばない国外へ逃げ出す計画を立てる。
仮面舞踏会の夜、二人の愛は通じ合い、結ばれる。だがアルカンジェロが自身の秘密を打ち明けた。彼の正体は歌手などではなく、十年前に毒殺されたはずのアルベルト王子その人だった。
しかし再び、王権転覆を狙う暗殺者が迫りくる。
これは、愛し合うリラとアルベルト王子が二人で幸せをつかむまでの物語である。
絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので
ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。
しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。
異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。
異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。
公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。
『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。
更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。
だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。
ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。
モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて――
奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。
異世界、魔法のある世界です。
色々ゆるゆるです。
婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~
ゆうき
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。
そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。
シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。
ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。
それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。
それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。
なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた――
☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆
☆全文字はだいたい14万文字になっています☆
☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる