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第6話 新たな悩みと不安
しおりを挟む結局、その後も気まずい空気は解消出来ないままロベルトは帰って行った。
「また、明日な」
そう言って。
(我が家に来るのは続けるのね……)
毎日、ロベルトに会えるのが楽しみだったのに、
それが単なる責任からだったのだと思うと、複雑な気分はいつまでも消えてくれなかった。
──さっきのお兄様とロベルトの会話を思い出すと気になる事がある。
あの時はロベルトが事故現場にいた事ばかりが気になってしまっていたけれど……
……そもそも私は何故、事故にあったの?
そんな疑問が私の頭の中に浮かんできた。
馬車が前方不注意だった?
それとも暴走でもしていた?
どれも理由としては考えられるし、確率は高くなくとも起こり得る事ではあるのに。
何故か、私の心の奥が“違う”と言っている気がした。
(それに、馬車側に過失がある事故なら……お父様もお母様もすでに話していてくれている気がするわ。なのにその件に関しては触れて来ない)
そうなると、この事故はもしかすると私が──……
「……リリア? どうした?」
「えっ?」
お兄様が、不安そうな声で私を呼ぶ。
今は、家族水入らずで晩餐中。
お兄様の帰国祝いも兼ねて、豪華なメニューが並ぶ中、私は考え事をしてしまっていた。
「何かボーッとしているようだったぞ?」
「え……あ、ごめんなさい……」
「体調が悪くなったのか?」
「ち、違うの! 私はもうすっかり元気!」
ほら! と、私は笑顔でお兄様に返す。
どうやら、考え事のせいで心ここに在らずだったから、いらぬ心配をかけてしまったらしい。
久しぶりに帰って来たお兄様に暗い顔を見せてはいけない。
ただでさえ、記憶喪失になって心配かけてしまっているんだから。
私は今は色々考えるのを止めて、せっかくなのでお兄様について尋ねる事にした。
何か思い出す切っ掛けになるかもしれない。
「ねぇ、お兄様、私にお兄様の事を教えて?」
「ん? おぉ、いいぞ! 何でも聞いてくれ!」
そうしてお兄様は嬉しそうに自分の事を語ってくれた。
お兄様は私の2歳歳上で、仕事の為、王宮にも部屋を与えられているらしい。
なので以前から屋敷には居ない事も多かったそう。
そしてその仕事というのが、王太子殿下の側近だというのだから驚いた。
(当たり前だけど、ただのシスコンじゃ無かったのね……!)
ちなみに、王太子殿下は2年半前から留学をしているそうで、お兄様も一緒に留学していた。
けれど、この度、お兄様だけが一足先に帰国し、帰国の挨拶に家に帰ってきて私の現状を知ったそうだ。
話しぶりから私の事はとても可愛がってくれていたみたいだから、今回の事はさぞかし驚いたに違いない。
苦しくなるほど抱き締められたのも……分からなくはない。
出来れば今後は加減して欲しいけれども。
「そうだ、リリア。明日なんだけど、ランバルド公爵家のご令嬢が我が家を訪ねたいと先触れがあったんだが大丈夫かい?」
お兄様のことを聞いた後は、しばらく食事を堪能していた。
すると、突然お父様がそう言えば……と切り出した。
「ランバルド……公爵家のご令嬢?」
そう言われても、私には思い出せなかった。
公爵家? 公爵家のご令嬢がなぜ我が家に?
そんな疑問を感じていると、
「あぁ、スフィア嬢だな」
兄がなるほどな、といった顔で頷く。
「スフィア・ランバルド公爵令嬢。リリアからの手紙に親友なんだと綴られていたぞ」
公爵家のご令嬢と私が親友!? 私の交友関係ってどうなってるの??
さすがに驚いた。
「そ、そうなのね……」
そう言われても、全然ピンと来ない。
……本当に私の記憶はどこへ行ってしまったのだろう。
「随分、リリアと気が合ってたようだな」
「公爵家のご令嬢と私が……気が合う……本当なのかしら……」
そう私が不安気に呟くと、お兄様が「リリアは俺の可愛い妹だからな! 当然だろ」と言いながらうんうんと頷いている。
お兄様には申し訳ないけど、シスコンの言う事は当てにならない思うの。
「スフィア嬢と言えば、才色兼備で有名だからな。でもって、ニコラス第2王子の婚約者でもあるんだよな……」
ドクンッ
お兄様のその言葉に何故か、心臓が音をたてた。
それも昼間の……ロベルトに感じた時とは違う。どこかモヤモヤするような……とても嫌な感じだった。
どうして……?
「……ニコラス、第2王子……」
そう呟いてみるも、やはり思い出せる事は無い。
そもそも第2王子殿下と自分に関わりがあるとは思えないし。
なのに、どうして胸の奥がこんなに嫌な感じがするのだろう。
ふと、前を見るとお父様とお母様の顔色も悪い気がした。
……真っ青という表現が正しいだろうか。
「リリアだって、ニコラス殿下とは知り合いだろ?」
「……えっ!?」
ドクンッ
お兄様のその言葉にまた、心臓が嫌な音をたてた。
「リリアは婚約者のスフィア嬢とも親友だし、殿下とも学院の同級生なんだから」
「……同級、生……」
王族と自分の関わりなんて、と思っていたけれど意外にも接点はあったらしい。
「……キ、キース、殿下の話はもういいんじゃないかな? それで、リリア? ランバルド公爵家のご令嬢はお迎えして大丈夫かい?」
お父様がちょっと強引にお兄様の言葉を遮るような形で会話に加わってきた。
「……えぇ。大丈夫よ、お父様。親友だというなら、ちゃんと今の私の状態を知って欲しいし、何か記憶を取り戻す手掛りがあるかもしれないもの」
私は笑顔でそう答えた。
何だか色々不安は残るけれど、今は些細な事でも知りたいから。
──あぁ、ロベルトにもこの事を伝えなくてはね。
彼なら、その親友だと言う令嬢についても、殿下の事も……きっと知っているはず。
……けれど今日あんな気まずい雰囲気を作ってしまったのに、ロベルトは本当に明日も屋敷に来てくれるのかしら……
親友が我が家に来ることよりも、ロベルトが来てくれるかどうかの方が気になってしまう。
そんな私は薄情なのかもしれない。
そして、ニコラス殿下……
何故か名前を耳にするだけで、こんなにもモヤモヤした気持ちになる。
どうしてこんな気持ちになるのかしら?
……よく分からない。
結局、そんな心の奥底のモヤモヤが解消されないまま、新たな悩みの種を増やしてその日の晩餐を終えたのだった。
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