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第7話 私の親友

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「スフィアが?」

  朝、いつもの様に我が家にやって来てくれたロベルトに午後に来客の予定がある事を告げる。
  色々心配したけれど、ロベルトの態度はいつもと変わらなかった。
  昨日の話も蒸し返したりはしない。
  モヤモヤしたものは消えないけれど……今日も来てくれて嬉しい……その思いの方が強かった。

「……私とは親友だとお兄様が言っていたけど、そうなの?」
「あぁ、そうだな。学院ではいつも一緒にいたし、護衛をつけながら、よく2人で出掛けたりもしていたぞ」
「そうなのね……」

 お兄様の話だけでは何となく半信半疑だったけれど、同じ学院に通っているロベルトが言うのだから、間違いのない情報なのだろう。
  やはり、私は公爵家の令嬢と親友らしい。

「それと、そのスフィア様?  の婚約者がこの国の第2王子のニコラス殿下なのよね?」
「ん?」
「ねぇ、ロベルト。そのニコラス殿下の事なのだけど」
「……っ!  リリア!?  まさか、思い出したのか!?」

  ついでにニコラス殿下の事を聞こうと思って名前を出したら、ロベルトの顔色が一気に悪くなった。

「ロ、ロベルト?  ……お、思い出すって、何?  記憶のこと?」
「えっ?  ……あ、いや……悪い。リリアがニコラス殿下の名前を出すから、てっきり……」
「……」

  ロベルトのこの反応。
  お兄様が、昨日殿下の名前を出した時もお父様とお母様の顔色はとても悪かった。
  あの時のお父様もどこか無理矢理話を変えた気がしたし。
  そして今、ロベルトもニコラス殿下の名前を聞いて顔色を変えた。

  ──絶対に何かある。私はそう確信した。

「……思い出したわけでは、ないんだな?」
「えぇ。ニコラス殿下の事はお兄様から聞いたのよ」
「あ?  ……あぁ、そうか、キース様………………だからか……」

  ロベルトは成程な、という顔をして納得したのか1人で頷いている。
  でも、その顔はどこか神妙な面持ちだし、発した言葉もどこか意味深だった。
  私としては色々気になるから本当はちゃんと聞きたいけれど、今は何を聞いても答えてくれない気がした。

  ……私とニコラス殿下の間に何があったのだろう?
  今、それを思い出す事は出来ないけど、絶対に良い事じゃない。
  それだけは分かった。

  そして、そんな殿下の婚約者であるという私の親友という令嬢が訪ねてくる……
  これにも、何か意味があるのだろうか? 
  ただの考え過ぎ?

  私の失くした記憶の裏側には、何かが潜んでいる気がしてならなかった。





  そして、午後────





「リリアーー!!  連絡がないと思ったら!」

  ノックの後、返事を返したら勢いよくバターンとドアが開いて、美少女が叫びながら入室してきた。
  流れる様なサラサラの銀の髪に、すっと通った鼻筋、綺麗なエメラルドの瞳はちょっとつり目気味だけど、彼女の雰囲気には合っていた。
  まさに高位貴族の令嬢!  といった雰囲気の漂う容姿端麗の美少女だった。
  
「ラ、ランバルド公爵家の、……ス、スフィア様です、か?」
  
  私が美少女の迫力に圧されてしどろもどろで口を開くと、当の彼女はちょっと驚いた顔をして首をプルプルと横に振りながら言った。

「スフィア様!?  様付けなんてやめてちょうだい……リリアにはそんな風に呼ばれたくないわ。それに話し方も固くしないで?」
「で、では、スフィア?」

  今の私からすると初対面なのに、いいのかな?  と思いながらも呼び直すと、そうよ!  と、綺麗な顔でニッコリ笑ってくれた。
  この笑顔を見て惚れない男なんているのかしら……そう思いたくなる笑顔だった。

「聞いたわ。事故にあって記憶を失ってるって。休暇に入る前に色々約束していたのに連絡が無いからどうしたのかしら、と思っていたのよ」
「……ご、ごめんなさい……」

  私が謝るとスフィアは慌てだした。
  
「あぁ、謝らないで!?  私こそ、こんな大変な時に訪ねたりしてごめんなさい。その……ケガは大丈夫なの?」
「う、うん。もう大丈夫!  外にも少しなら出歩けるようになったわ」
「それなら、良かったわ!  けど、無理しないでね?」

  公爵令嬢というからどんな人かと思ってたけど、ある意味、公爵令嬢らしくない、とても気さくな女性だった。
  自分と仲が良かったというのも自然と納得出来てしまった。

「えぇ、ありがとう!」

  私がお礼を言うと、スフィアは、またニッコリと笑ってくれたけど、すぐに視線は私のベッドの傍に控えているロベルトへと向けられた。

「ごきげんよう、ロベルト。噂が流れてはいたけれど……本当に領地に帰らず、ミラバース伯爵家に通っていたのね?」
「……あぁ、そうだな。……俺にはやる事があるからな」
「やる事?  ……あぁ……そう。そう、よね」

  どうやら、スフィアにはロベルトの言っている意味深なセリフの意味がわかるらしい。
  それよりも、私は今聞き捨てならない言葉が聞こえた気がした。

「ねぇ、スフィア。噂って何?」
「え?  あぁ、ロベルトが……ペレントン侯爵家の嫡男が休暇中に領地に戻らず、ミラバース伯爵家に入り浸っているらしいって。社交界の噂になってるわ。この間の夜会でそう話してる人がいたのよ」

  その言葉に私はギョッとする。
  まさか、そんな噂が社交界に流れているなんて!

「間違ってはいないけど……噂になっちゃうものなのね……」

  やっぱり、こんな風に毎日通ってくるのは普通じゃない。
  改めてそう思った。
  そんな思いを抱きながらチラッとロベルトを見たら、パチッと目が合った。

「気にするなと言ってるだろ?」

  と、以前と同じ事を言って頭を撫でてくる。……何も言ってないのに、心を読まれた気がした。
  スフィアは、ただそんな私達の様子を苦笑しながら見ていた。



  それから、スフィアはロベルトも交えて学院での日々から2人で出かけた時の話など色んな話をしてくれた。

「それで、リリアったら、学院の食堂のデザートが好きでねー」
「毎日、必ずどれか一つは選んでたな」
「そうそう!  で、迷ってしまって一つだけ選べなくて悩み出すとロベルトが、必ずもう一つの方を頼んでいて、せっせと別けてるのよ」
「……そうなの!?」

  気付けば私の食い意地がはってるエピソードが繰り広げられていた。
  ますます、令嬢としての自分が心配になる。……体型も。

  そして、何故かロベルトの過保護っぷりまで暴露されていた。
  この過保護は、記憶喪失のせいだけではなかったらしい。

  そんな感じで思い出話はたくさんあって、本当に私とスフィアの仲の良さが窺えた。
  おかげで、私はこの短時間ですっかりスフィアの事が好きになっていた。


  そして、話がだいぶ一段落した辺りで、スフィアがロベルトをチラッと見ながら言った。

「……さて。ねぇ、ロベルト。ちょっと席外してくれないかしら?  女同士の話がしたいわ」

  スフィアが、顔は笑ってるのに全く目が笑ってないような顔でロベルトを追い出しにかかる。
  ……美人の迫力が凄い。

「……お、おう……」

  ロベルトは素直に立ち上がったけど、たじろいでいるのが私にも伝わってくる。
  スフィアって最強かもしれない。
  そんな事をちょっとだけ思った。



  ロベルトが部屋から出て行くと、スフィアがこちらを振り返って言った。

「さて、リリア。ここからは女同士の話よ!」
「え?」

  女同士の話?
  私が戸惑っていると、スフィアがさらに畳み掛けるように続ける。


「ねぇ、リリア。あなたはロベルトの事をどう思ってるの?」


  ──そう聞いてきたスフィアの顔は、先程までとは違ってどこか真剣だった。

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