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第8話 自分の気持ち
しおりを挟む「……ど、ど、どう思ってるって!?」
スフィアからの突然の質問で、私の頭の中に浮かんだのは、昨日の庭園での出来事。
抱き締められ、キスしてもおかしくない距離で見つめ合った。
それを思い出したら、一気に頬に熱が集まってしまう。
今、私は顔が真っ赤に違いない。
「……あら? もしかしてあなた達……」
私が顔を赤くしたせいでスフィアが誤解してしまったようだ。
慌てて訂正する。
「何も、何もないわよ! 幼馴染ってこと以外に私達の間には何も無いから!」
「そんな必死に弁解しなくても……」
言葉を重ねれば重ねるほど嘘くさくなるけど、私とロベルトの関係は幼馴染。
それ以外には何もないのだから間違ってはいないはず。
そして今、こうしてロベルトが毎日我が家に来てくれているのは事故に関する責任!
……それだけなんだから。
「……なら、恋人ってわけじゃないの……?」
「こ、こ、こ、恋人!? まさかっ!」
必死に首を横に振った。
恋人だなんて言うとんでも発言に、私の顔はますます赤くなってしまう。
そして、ふと気付く。
……恋人……ロベルトには恋人はいないの?
いや、恋人もそうだけど……
──婚約者。
スフィアはニコラス殿下と婚約しているとお兄様が言っていた。
ただ、ここまで色んな話をしたけれど、スフィアからその名前を聞かされる事が一度も無かった。本当は聞いてみたい気持ちもあった。
だけど、何となく触れてはいけない、そして私自身がニコラス殿下に対して抱く不安な気持ちがあったので私も敢えて話題にはしなかった。
それでも話題にあがらなかっただけで、スフィアに婚約者がいる事は確かだ。
私達の年齢ではもう婚約している人なんて珍しくない。ましてや、ロベルトは侯爵家の嫡男。むしろいない方がおかしい。
そして、それは私にも同じ事が言える。
お父様もお母様もその事に関しては何も話してくれていない。
私が聞かなかったから?
私は? 私に婚約者は……いるの? いないの?
今更、そんな事に気付いた。
「……リリア? どうしたの? ごめんなさい、私が変な事を聞いたから……」
「う、ううん、違うの! ただ、私には婚約者いるのかしら? とか、そ、その……ロベルトはどうなのかな? って考えちゃって……」
私の言葉に、スフィアはちょっと驚いた顔をした後、フッと微笑んだ。
「……ロベルトの婚約が気になるの?」
ドキッ!
鼓動が跳ねたのは、図星だったから。
「………………うん、気になる」
ここは取り繕っても仕方がない。私は正直に答えた。
スフィアは私が正直に答えたからかちょっと驚いた顔を見せた。
「そっかぁ。……………………記憶があってもなくても行き着く想いは変わらないものなのね……」
スフィアが相槌をうった後、寂しげに微笑んで何か言っていたけど、とても小さな声だったのでよく聞こえなかった。
「スフィア?」
「ううん、何でもないのよ。……ロベルトの婚約云々は本人に聞いてみたらどう?」
まさかの本人に!? スフィアのその提案にはさすがに驚いてしまう。
「そ、それは……」
もし、直接聞いて“婚約者がいる"なんて聞かされたら────
「リリアったら、すっかり恋する乙女ね!」
「えっ?」
恋する乙女!? 誰が? 私が!?
「……っ! ち、違っ……」
とっさに否定の言葉が出てきそうになったけど、私の頭の中では別の所から自分の声がした。
“違うって言えるの?”
そんな自分の声に驚いて顔をあげたら、スフィアが静かに微笑んでいた。
「リリア、お願い……あなたには……リリアはちゃんと素直になって……そして幸せになって欲しいのよ」
「……スフィア?」
「下手な意地など張らないで、自分の気持ちに正直になって? 好きなら好きだと伝えられる時に伝えておかないとダメなのよ。私はそんな後悔をリリアにはして欲しくないの」
何故だろう。スフィアのその言葉が私の胸に突き刺さる。
それは、スフィアの言い方がまるでそんな後悔をした事があるかのように聞こえてしまったからかもしれない。
「う、うん……分かったわ。スフィア」
「約束よ、リリア。ーーさて、そろそろお暇するわね? まだ本調子ではないのに長々とごめんなさいね」
スッとスフィアが腰を掛けてた椅子から立ち上がる。
「そうそう、リリア! 私、リリアにこれを渡そうと思って今日はここに来たのよ」
そう言って、スフィアは思い出したかのように自分の首にかけていた鍵型のペンダントを外して、私の首にかけた。
「えっ? こんな高価そうなもの貰えないわ?」
「いいから、いいから。リリアに持っていて欲しいの。お願い!!」
「えー……」
「ふふふ。さて、もう行くわね」
これ以上、私の反論など聞きません! と、いうような顔をしてスフィアは扉に向かう。
見送ろうと私もベッドから出ようとしたら、スフィアに止められた。
「ありがとう。でも、見送りはいいわ。リリアはそのまま休んでて」
「で、でも……」
「私が言う事じゃないかもしれないけど、まだ無理は禁物よ!」
またしても強引に押し切られてしまった。
仕方なく、私はベッドの中からスフィアを見送る事にした。
「わかったわ。ありがとうスフィア、またね!」
「……えぇ、リリア。…………元気でね!」
そう言って、スフィアは笑顔で部屋から出て行った。
(……あれ?)
同時に私はこの時、スフィアに対して何故か、かすかな違和感を覚えたのだけど、それが何なのかは考えてもよく分からなかった。
そのせいか、何だかうまく言葉に出来ない嫌な予感だけが私の心の中に残っていた。
そして、それは後に現実となる──
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