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ロベルトとスフィア
しおりを挟むスフィアがリリアの部屋を出ると、少し進んだ所にロベルトが立っていた。
「あら? ロベルト。ちょうど良かったわ。話があったの」
「……そんな気がしてたからな。ここで待ってた」
まぁ! 察しがいいのね? とスフィアは笑う。
「ロベルト……リリアをお願い。ちゃんと守ってね?」
「お前に言われなくても、俺の全身全霊をかけて守るさ。そして必ずリリアをこの手に取り戻す。絶対にアイツの思い通りにはさせない……その為に俺がこっちにいる事はスフィアも分かってるんだろう?」
そう熱く語るロベルトの拳はキツく握り締められている。
まるで、彼のその決意を表すかのように。
「そうね。でもリリアは貴方との記憶を失くしているのよ? それでもいいの?」
「俺の想いを舐めるな。何年想い続けて来たと思ってるんだ? 忘れられたなら、もう一度好きになってもらうだけだろ」
「ふーん。無理矢理、思い出させようとはしないのね?」
「……リリアが辛い思いをすると分かってて無理に思い出して欲しいとは思わない。それに……」
「それに?」
スフィアの問いにロベルトは笑みを浮かべて言った。
「記憶があっても無くてもリリアはリリアだっただろ?」
「ふふふ……そうね、そうだったわ。確かに変わっていなかったわ」
スフィアは記憶喪失だと聞いていたのに、全く変わっていなかった親友を頭の中に思い浮かべる。
「ロベルト……お願いね。愛しい愛しい貴方のリリアをちゃんと取り戻して? ……それに今、貴方にも別の縁談の話が来ているのでしょう?」
ロベルトは、スフィアのその言葉に驚いたように目を大きく開く。
「……さすがだな。そこまで知っていたのか……けどな、俺の婚約者は……俺が妻にしたい人は今までもこれからも1人だけだ。それは絶対に変わらない」
「知ってるわ。だから貴方に託すのよ。お願いね」
スフィアはフッと微笑む。
当たり前だ。そうでなくては困る。
だってリリアとロベルトは、誰もが知る婚約者同士だったのだから。
あんな事が起きなければ、リリアは事故に遭う事も記憶を失くす事も無かったはずなのだ。
そもそも学院が休暇に入る前からリリアの様子はおかしかった。
そこには間違いなくニコラス殿下が絡んでいる。
(私が放置していたから巻き込んでしまったのよ……)
スフィアは自分のせいでこんな事になったのだと心から悔やんでいた。
もっと早くその事に気付いて動けていれば、リリアとロベルトの婚約も解消……──リリアの事故を受けて現時点では一応まだ保留扱いではあるが──される事も無かったはずなのに。
伯爵夫妻が事故を理由にして諸々の返事を延ばしているけれど、リリアの意識が戻った今、引き伸ばすのにも限界が近付いている。
ロベルトは保留となっているうちに、婚約解消を反故にする!
そう決意し、その為に領地に戻らず王都に残り動いていたようだけど相手が相手だ。思うようにはいっていないようだった。
伯爵家に毎日通ってるのも、明らかに何かあったであろうリリアを守るため。そして最後の抵抗なのかもしれない。
(私の事はいい。あの人とリリア達を守りたい。だけどもう私には時間が無い。だからその為の鍵は託した……後はもう二人に賭けるしかないのよ……)
スフィアは心の中で全てが上手くいく事をひたすら願った。
「……なぁ、スフィア。お前、自分の事はいいのか? お前だって本当は……」
そんなスフィアの気持ちを知ってか知らずか、ロベルトが神妙な面持ちでスフィアに問いかける。
スフィアはその意味を察して静かに首を横に振った。
「それこそ、今更、よ……あの人は、もうこんな私を許しはしないでしょう。だから、私はこのままでいいのよ」
「スフィア……」
「もう遅いのよ。私の運命はすでに決まっているのだから」
「え……?」
そう言いながら辛そうな顔をするスフィアに、ロベルトはそれ以上何も言えずスフィアを静かに見送った。
──そしてリリアの知らない所で事態は動き出す。
リリアの元を訪ねた翌日に開催された夜会で、スフィアは婚約者の第2王子、ニコラス殿下から突然の婚約破棄を突きつけられる事になる。
理由はとある令嬢を虐め陥れたから。
そして、スフィアは罪人としてそのまま牢屋へと繋がれてしまう事になるのだった──
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