【完結】記憶喪失になってから、あなたの本当の気持ちを知りました

Rohdea

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第9話 ロベルトとの出会い

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──────


────



  その日は、風の強い日だった。

『……どうしよう!!  お母さまがくれたハンカチが……!!』

  風に飛ばされたハンカチは、木の枝に引っかかってしまっている。
  とてもじゃないが、自分の身長では届かない。

『誰かぁ……うぅ……』

  困り果ててしまい、とうとう堪えきれなくて涙が溢れそうになったその時、後ろから声がした。

『どうしたの?』

  突然の声に驚いて振り返ると、とても綺麗な金の髪と紫の眼をした同じ歳くらいの少年が立っていた。

『ハ、ハンカチが……』
『ハンカチ?  ……あぁ、木の上の?』

  飛ばされちゃったの──そう続けようとしたが、すぐに状況を理解したらしい少年は、ちょっと待ってて。と言ってするすると木に登り始めた。

『え!?  あ、危ないわ!?』
『大丈夫だ』

  そう言って少年は、木に引っかかっていたハンカチを手にして、あっさりと降りてきた。
  そしてハンカチを渡してくれたので、慌ててお礼を言う。

『……あ、あの、ありがとう!!』
『いや、けど真似するなよ?  木に登るのは危ないんだから』

  危ないと分かってて、この少年は木に登ってくれたの?
  その気持ちが嬉しくて思わず、少年に抱き着いてしまった。

『あなた、カッコいい!!  王子さまみたいね!』
『は?  王子!?  いや、違うし……!』

  抱き着かれた少年は、顔を真っ赤にして否定する。

『ううん!  王子さまよ!  わたしの……リリアだけの王子さまだわ!!』

  いなくなった子ども達を探して、大人達がその場にやってくるまでその少年にずっと抱き着いていた。



───


───────



「は!?  ……えっ?  今のって夢……?」

  私は、そんな独り言を呟きながら目を覚ました。
  今の今まで見ていた夢を思い返す。
  妙にハッキリした夢だった。

「夢……にしては……これってもしかして、過去の記憶……?」

  幼い子ども二人。
  どう考えてもあの女の子は私だ。自分の事をリリアって言ってたし。
  そして、金髪に紫の眼の少年は──……

「ロベルト……」

  名前を口にするだけで、頬に熱が集まったのが分かる。
  昨日のスフィアとの会話の中で、自分にとってロベルトがどれだけ特別な存在であるのか気付いてしまったから。

  記憶の無い今の私はロベルトに惹かれてる。

  そう自覚してしまったら、少し不安に思う事も出てきた。
  ……では、記憶を失くす前の私は?  彼をどう思っていたのだろう?
  もし、以前の私がロベルトの事を幼馴染としか思っていなかったとして、そんな中で記憶を取り戻したら、今の私の気持ちはどうなるんだろう?

「……」

  何だか考えれば考える程、どツボに嵌りそうだった。
  それに、確信は持てないけど、前の私もロベルトが好きだったんじゃないかしら?
  ただ、漠然とそう思った。

「それより今日は、どんな顔して会ったらいいの……?」

  意識し過ぎておかしな態度をとらないようにもしないと!
  私は両手で自分の顔を覆いながらひたすらベッドの上で悶々としていた。

  そして侍女が起こしにくる前に、赤くなった顔を元に戻さなくちゃと思ったものの、一度熱を持った顔はなかなか落ち着いてくれなかった。

  そして、

「お嬢様大丈夫ですか、はッ!  もしや熱でもあるんですか!?」

  と、真っ青な顔でおじいちゃん先生を呼ぼうとしていたから、慌てて止める羽目になった。









「ねぇ、ロベルト。貴方は私の王子様だったの?」

  今日もいつものように、我が家にやって来たロベルトに夢で見た話を振ってみた。
  どう考えても単なる夢ではなく、過去の出来事だろうと思ったから。
  どうにか気持ちは落ち着かせたから、私の態度はいつもと変わらないはず!

「………………っ!?!?」

  ガタガタガタッとロベルトらしくない動きを見せたと思ったら、椅子からずり落ちていた。

「えっ、だ、大丈夫……?」
「リリ……リリア、そ、そ、それ……な、な…………!?」

  相当、動揺しているようだ。ロベルトは全く喋れていない。
  何より、ロベルトが顔を赤くしている。
  こんな顔のロベルトは、初めて見たかもしれない。
  やだ、可愛い……不謹慎だけど、こんな一面が見られた事がたまらなく嬉しい。

「……風に飛ばされた私のハンカチを木の上から取ってくれたのよね?」
「だ、だ、だ、だから、な、な、何でそれ……!」

  さっきよりはマシだけどロベルトはまだ動揺している。
  この慌てっぷりが、やはり現実にあった事なのだと思わせてくれた。

「今朝、夢で見たの。でも、単なる夢ではないのかなって思って」
「ゆ、夢?  ……そうか夢…………なら少しは記憶、が?」

  夢で見たと聞いたせいか、ロベルトの動揺は少しは落ち着いたみたいだけれど、まだ少し顔が赤い。
  私はフルフルと首を横に振って答える。

「記憶が戻ったわけではないの。本当にただその時の夢を見ただけだから。でも、この調子で色々思い出せるといいわね……あ、ねぇ、そうだロベルト?」
「何だ?」
「この時が、私とロベルトの出会いなの?」
「……そ、そうなる、な」

  まだ少し恥ずかしいのか、顔を背けながらもロベルトは肯定してくれた。

「あぁ、やっぱり!  だけど……」
「だけど?」
「あなた、あの時、私に木登りを真似するなって言ったわよね?  なのに、どうして私は今、木登りが出来る令嬢になってるのかしら?  知ってる?」
「………………」

  ロベルトが、気まずそうな顔をしてそっと私から目を逸らす。明らかに何か知ってます、って顔だった。

「……ロベルト」

  私がジトっとした目で見つめると、ロベルトは観念したように口を開いた。

「ケホッ、ま、まぁ、その後、一緒に遊ぶ時に俺が木登りに誘ったからだろうな……」

  まさかの犯人は自分です、発言が来た。

「言ってる事とやってる事が違うじゃないのーー!!」
「いやー、だってリリア、すごい登りたがるし……怖がらないし、降りるのは苦手そうだったが筋は悪くなかったし……」

  そんな理由で、令嬢を木に登らせるなんて!

「ちゃ、ちゃんと伯爵様達には話をしてあったぞ!?  危険のないように配慮もしてた!!」

  ロベルトは必死に弁解する。

「そういう問題じゃ……もう!  このお転婆はロベルトのせいでもあったのね!?  木登り令嬢……これじゃあ、間違いなく嫁の貰い手が無いわ………嫁き遅れたらどうしてくれるの!?」

  どう考えても私がワガママを言ったから始まった木登りな気がしたけど、つい文句が出てきた。
  将来の事を考えたらそこは止めておくべきだったのよ!!

  身を乗り出してポカポカとロベルトの胸を両手で叩いていたら、
  突然、ギュッと手首を掴まれた。

「嫁き遅れ?  誰もそんな心配していなかったぞ?」
「えっ?」

  至近距離で見つめ合う。手首は掴まれたままだ。

「……何だ、夢でその後の事までは思い出していないのか?」
「!?」

  あの夢、続きがあったの!?
  そ、それよりもこの至近距離で見つめ合ってる今の状態が心臓に悪すぎるわ。
  そのままロベルトを見つめていると、顔中に熱が集まってきたのが自分でも分かった。

「っっ!  何でそんな顔……」
「?」

  ロベルトが何か小さくボソリと呟いた、そう思った瞬間──

  チュッ

  額に柔らかい感触がした。

「!?」

  い、今のは、もしかしなくても……額、にキス……された??
  な、な、何でこんな事を!?
  さらに私の顔は真っ赤になる。
  そんなロベルトは、意地の悪い笑顔を浮かべながら、ようやく掴んでた手を離してくれた。

  そして、身体が離れる寸前に、

  チュッ

  今度は頬に柔らかい感触がした。

「!?!?」
「リリアに一つ忠告だな。男の前で、そんな隙だらけの無防備な顔をしたらダメだ」
「え……?」
「襲われても文句は言えない」
「襲っ!?」

  ロベルトのその言葉の意味を悟りますます顔が赤くなる。

「ハハッ!  真っ赤だな。……おっと悪い、ちょっとキース様の所に行って来ないといけないんだ。また後でな!」
「ちょっ……!」

  私が動揺して何も言えずにいたら、お兄様とロベルトは何やら約束をしていたらしく、そのままさっさと部屋から出て行ってしまった。

  ……もしかして逃げた?

  だけど、あたふたしてるのは私だけでロベルトはいつもと変わらない様子。
  意識してるのは私だけ……?


「…………何なのよ、もう!!」


  私は1人で小さく怒鳴る。
  だけど、思わず頬が緩んでしまうのはどうしても止められなかった。




  ──そして記憶を失くしてしまっても、私が何だかんだと平穏に過ごせていたのはこの時までだった。

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