【完結】記憶喪失になってから、あなたの本当の気持ちを知りました

Rohdea

文字の大きさ
13 / 20

第12話 不器用な人

しおりを挟む



  目を覚ますと、自分のベッドの上だった。
  酷い頭痛はもうしなかった。



   ───あの時、自らが願って封じ込めた記憶を全て思い出したからだろうか。



「………リリア?」
「っ!?」

  枕元から呼びかけられたその声に思わずビクッと身体が震えた。

  ────ロベルトの声だった。

  何でここにいるの、まず最初にそう思った。
  もう来なくていいと言ったのに。
  それでも来てしまったの?

「リリア」

  ロベルトは不安そうな顔をして、私の手を握りながら顔を覗き込んでくる。
  あぁ、この間、事故の後に目覚めた時と同じだわ。
  本当に私はこの人に心配をかけてばっかりだ。

「ロベルト……」
「大丈夫か?  リリア?」
「……ごめんなさい、私、また心配かけてしまったわ」

  私は目を伏せ、そして謝る。
  今回だけではない。ロベルトはこれまでいったいどんな思いで私の傍にいてくれたのだろう。
  昨日の私の拒絶をどんな思いで受け取ったのだろう……

  ロベルトは握っていた手をさらに強く握って言う。

「……来るなって言われたけど、もう一度ちゃんと話がしたくて訪ねて来た。そうしたらスフィアの事を聞いて、リリアが興奮して倒れたって聞かされた」
「…………ごめんなさい。そうなの。酷く取り乱してしまったわ。だってスフィアが……」

  そう嘆く私を見ながら、ロベルトは何故か首を横に振り意外な事を口にした。

「……スフィアの事は心配だが、大丈夫だ。アイツはこうなる事を知っていた気がする」
「えっ?」

  ロベルトの言葉に驚いて顔を上げる。

「スフィアがここに来た帰りに少し話をしたんだが、絶対にリリアを守るよう言われたよ」
「私を?」
「スフィアはこの先、何が起こるのか分かってて、警告する為にあの日ここに来たんじゃないか?」
「そんな……」

  もしかしたら、スフィアはニコラス殿下達に自分が陥れられる事を知っていたのではないかとロベルトは言う。
  ただ、本当にそうならスフィアが何故それを黙って受け入れているのか疑問は残るけれど。
  
  ニコラス殿下は私を愛妾にして監視下に置くと言った。
  セレン男爵令嬢はニコラス殿下を王位につけて自分が王妃になりたいと言っていた。
  だけど、正式な婚約者であるスフィアがいる限り、ニコラス殿下はセレン男爵令嬢を正妃にする事は出来ない。
  身分からもスフィアを側妃や愛妾に据え置く事は不可能だ。
  私と同じように監視下に置けないのなら、スフィアは排除する。
  それがニコラス殿下達のやり方……

  思わず力を込めて握り締めてしまった手を、ロベルトが優しく解いてくれる。
  全てを……ロベルトとの事を思い出した今となっても、そんな仕草の一つ一つがとても愛しい。

「……スフィアに言われなくてもちゃんと守る。そう決めていた」
「だから、毎日ここに来てた……?」
「近くに居られないと、何かあってもリリアを守れないだろ?」

  ──あぁ、この人は……

  ロベルトは、昔からあまり感情を表に出してくれない人だった。
  あのハンカチの出会いのすぐ後に私達は婚約者となり、私はずっと変わらずロベルトの事が大好きだったけど……ずっとロベルトが何を考えているのかは、正直よく解らなかった。

  婚約者としては大事にされているとは感じていた。
  それなりに仲良く過ごしていたけど、幼馴染のせいか友達の感覚に近くて、女性としてはどう思われているのだろう?
  ずっと心のどこかで不安を抱えていた。

  そんな時に起きたニコラス殿下の横槍による婚約解消の話。
  あの時、ロベルトは私みたいに“婚約解消を嫌だ”とは口にしなかった。
  今、思えば口に出来なかっただけなのかもしれないけれど、そんなロベルトの態度が私を更に興奮させ、家を飛び出すきっかけになったように思う。

  けれども記憶を失くしていた時に、会いに来てくれていたロベルトは、今までからは考えられない程スキンシップが多かった。
  抱き締められたり、昨日の額や頬へのキス……

  それはロベルトの私への気持ちだと思っていいのだろうか?
  記憶が無かったとはいえ、昨日あんな風に拒絶した私に、今もこうして会いに来てくれたその気持ちを……



  ロベルトはただ、言葉足らずの不器用な人だったのだと記憶を失くした事でようやく分かった気がした。



  涙が溢れそうになった。
  私はそれを懸命に堪えて目尻に涙を浮かべながら、俯いてた顔をあげて潤んだ瞳でロベルトを見つめる。

「……ロベルト、あのね?  私……」
「…………っ!」

  ロベルトの手がそっと私の頬に触れた。優しい手。私の大好きな人の手。
  私は無意識にその手に自分の手を重ねた。

「っ!  だから、リリア!!」

  ロベルトの焦ったような声がする。

「えっ……?」

  ロベルトは何をそんな焦って───?  
  そう思った瞬間、私の唇に柔らかいものが触れた。


  それは婚約者となって約10年、初めての感触だった。







  とても、優しいキスだった。
  初めは軽く触れるようなキスで、一瞬離れたと思ったら、最初より少し強く押し付けるように角度を変えて、再び何度も口付けられた。

「…………んっ……」

  い、息が!!
  そう思ったら、チュッと音をたててロベルトの唇が私からそっと離れていった。
  もう少し続いてたら、窒息していたかもしれない。

  嬉しさ、恥ずかしさ、息苦しさで、私の顔は真っ赤だろう。
  ──そんな事を考えていたら、

「……リリアが悪い!」

  顔を赤くしたロベルトが開口一番にそう言ってきて、私をギュッと抱き締めてきた。

「………………えっ?」

  言葉と行動の意味がわからない。
  でも抱き締められた胸からロベルトの鼓動が伝わってくる。
  すごくドキドキいっている。私と同じ。
  それだけでロベルトの気持ちが伝わってくるような気がした。

「忠告しただろ?  男の前でそんな無防備な顔をするなって」

  えっと……それは額と頬にキスをされた時だったかしら?
  確かに襲われても文句は言えない、と言われたけれど。

「……無防備、な顔?」

  どんな顔の事?  本気でわからない。
  教えてもらおうと、ロベルトの胸からひょこっと顔を出してロベルトの顔を見上げた。

「っ!!  ……だから!!」

  ロベルトは、ちょっぴり怒ったような声を出した。

「…………そんな顔だ」
「え?」


  ロベルトの顔が近付いてきて、再び私達の唇が重なった。

しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

私の何がいけないんですか?

鈴宮(すずみや)
恋愛
 王太子ヨナスの幼馴染兼女官であるエラは、結婚を焦り、夜会通いに明け暮れる十八歳。けれど、社交界デビューをして二年、ヨナス以外の誰も、エラをダンスへと誘ってくれない。 「私の何がいけないの?」  嘆く彼女に、ヨナスが「好きだ」と想いを告白。密かに彼を想っていたエラは舞い上がり、将来への期待に胸を膨らませる。  けれどその翌日、無情にもヨナスと公爵令嬢クラウディアの婚約が発表されてしまう。  傷心のエラ。そんな時、彼女は美しき青年ハンネスと出会う。ハンネスはエラをダンスへと誘い、優しく励ましてくれる。 (一体彼は何者なんだろう?)  素性も分からない、一度踊っただけの彼を想うエラ。そんなエラに、ヨナスが迫り――――? ※短期集中連載。10話程度、2~3万字で完結予定です。

【短編】記憶を失くした令嬢が、二度目の恋に落ちるまで

夕凪ゆな
恋愛
 ある雪の降る日の朝、ヴァロア伯爵家のリディアのもとに、信じられない報せが届いた。  それは、愛する婚約者、ジェイドが遠征先で負傷し、危篤であるという報せだった。 「戻ったら式を挙げよう。君の花嫁姿が、今から楽しみだ」  そう言って、結婚の誓いを残していったジェイドが、今、命を落とそうとしている。  その事実を受け入れることができないリディアは、ジェイドの命を救おうと、禁忌魔法に手を染めた。

不愛想な婚約者のメガネをこっそりかけたら

柳葉うら
恋愛
男爵令嬢のアダリーシアは、婚約者で伯爵家の令息のエディングと上手くいっていない。ある日、エディングに会いに行ったアダリーシアは、エディングが置いていったメガネを出来心でかけてみることに。そんなアダリーシアの姿を見たエディングは――。 「か・わ・い・い~っ!!」 これまでの態度から一変して、アダリーシアのギャップにメロメロになるのだった。 出来心でメガネをかけたヒロインのギャップに、本当は溺愛しているのに不器用であるがゆえにぶっきらぼうに接してしまったヒーローがノックアウトされるお話。

花言葉は「私のものになって」

岬 空弥
恋愛
(婚約者様との会話など必要ありません。) そうして今日もまた、見目麗しい婚約者様を前に、まるで人形のように微笑み、私は自分の世界に入ってゆくのでした。 その理由は、彼が私を利用して、私の姉を狙っているからなのです。 美しい姉を持つ思い込みの激しいユニーナと、少し考えの足りない美男子アレイドの拗れた恋愛。 青春ならではのちょっぴり恥ずかしい二人の言動を「気持ち悪い!」と吐き捨てる姉の婚約者にもご注目ください。

勇者様がお望みなのはどうやら王女様ではないようです

ララ
恋愛
大好きな幼馴染で恋人のアレン。 彼は5年ほど前に神託によって勇者に選ばれた。 先日、ようやく魔王討伐を終えて帰ってきた。 帰還を祝うパーティーで見た彼は以前よりもさらにかっこよく、魅力的になっていた。 ずっと待ってた。 帰ってくるって言った言葉を信じて。 あの日のプロポーズを信じて。 でも帰ってきた彼からはなんの連絡もない。 それどころか街中勇者と王女の密やかな恋の話で大盛り上がり。 なんで‥‥どうして?

偽りのの誓い

柴田はつみ
恋愛
会社社長の御曹司である高見沢翔は、女性に言い寄られるのが面倒で仕方なく、幼馴染の令嬢三島カレンに一年間の偽装結婚を依頼する 人前で完璧な夫婦を演じるよう翔にうるさく言われ、騒がしい日々が始まる

わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない

鈴宮(すずみや)
恋愛
 孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。  しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。  その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?

王命により、婚約破棄されました。

緋田鞠
恋愛
魔王誕生に対抗するため、異界から聖女が召喚された。アストリッドは結婚を翌月に控えていたが、婚約者のオリヴェルが、聖女の指名により独身男性のみが所属する魔王討伐隊の一員に選ばれてしまった。その結果、王命によって二人の婚約が破棄される。運命として受け入れ、世界の安寧を祈るため、修道院に身を寄せて二年。久しぶりに再会したオリヴェルは、以前と変わらず、アストリッドに微笑みかけた。「私は、長年の約束を違えるつもりはないよ」。

処理中です...