【完結】出来損ないと罵られ続けた“無能な姫”は、姉の代わりに嫁ぐ事になりましたが幸せです ~あなた達の後悔なんて知りません~

Rohdea

文字の大きさ
2 / 35

第2話 姉の縁談

しおりを挟む


 私の“日常”が、大きく変わったのは隣国の大国、ファーレンハイト国からの一通の手紙だった。
 その手紙は、ファーレンハイト国の国王陛下からナターシャお姉様宛てに届いたものだった。
 手紙が届くとすぐに王族による“話し合い”が行われる事になった。


「────嫌!  絶対に嫌よ!」
「しかし、ナターシャ」
「お父様!  我が国の王族は国内の貴族に嫁ぐと決まっているはずでしょう!?  なのに何故わたくしがファーレンハイトに嫁がねばなりませんの!?」
「そ、それはそうなのだが……」

 その“話し合いの場”には何故か私も呼ばれた。
 普段は呼ばれる事など無いのに。

(何でかしら……)

 よく分からないまま、私は席についてその“話し合い”を静かに見守っていた。

「そうよ陛下。隣国のファーレンハイトは大国だけど、そこの国王陛下、ローランド王は私達とそう変わらない歳のはずよ?  そんな所にどうして私達の可愛いナターシャを……」

 そう言いながら美しい顔を歪ませているのは正妃のマデリン……お義母様。

「分かっている。だが、先方がナターシャを指名している」
「ですから、そう言われてもわたくしは嫌ですわ!!  お父様!」
「ナターシャ……」

 お父様はお姉様を何とか宥めようとするも、ヒートアップした話し合いは止まらない。

「我が国が他国と婚姻しないのは広く知られている事でしょう?  どうにかお断り出来ませんの?  いくら私達の可愛いナターシャが国一番、いえ、大陸一の美姫と噂されているとは言え、こんなのあんまりです!」
「マデリン……そうは言うもファーレンハイトは大国……逆らうのはあまり得策とは言えん」
「お父様!  手紙には王妃待遇として迎えると書いてあるけれど、結局は後妻でしょう?  既に王太子も立太子しているのに何の為にわたくしが嫁ぐ必要があるんですの!?」

 本日のこの話し合いの議論は、先日届いた手紙でファーレンハイト国の王が、お姉様を娶りたいと申し出ている事についてだった。

 ファーレンハイト国の陛下は歳はお父様達とそう変わらない。
 王妃は亡くなっているらしく、嫁げば大国ファーレンハイトの王妃となれるけれど、既に跡継ぎもいる状態。
 お姉様はそんな縁談の話を当然の様に嫌がっていた。

(それに確か、お姉様はもうすぐ婚約も内定するはず)

 お父様も本音は断りたいけれど、大国であるファーレンハイトを無下には出来ない。そう思っているようだった。

「あぁ、私がこんなにも美しいばっかりに……」
「えぇ、えぇ、本当に。ナターシャは私に似て本当に美しいからこんな事に……」

 泣き出すお姉様とそれを宥めるお義母様。
 いったい私は何を見せられているのかしら?  そんな気持ちになっていた。

「……クローディアだったら良かったのに」

(──え?)

 その時、それまでずっと沈黙を保っていた我が国の王太子でもあるお兄様が小さな声でそう呟いた。

「ブルーム?  今なんて言った?」
「お兄様?」
「いや、クローディアだったら、何の気兼ねもなく差し出せたのに、と思っただけさ」

 お兄様が私にチラッと視線を向けながらそう口にする。
   
「だって、クローディアは出来損ないで無能なんだから、いてもいなくても我が国には影響が無いだろう?  だが、ナターシャは嫁いでしまうと力も我が国の為に使えなくなるから困る」

 お姉様は“緑を操る力”を持っている。
 それは、国を豊かにするのに大きく貢献していた。

「…………そうよ!  クローディア。クローディアがわたくしの代わりに嫁げばいいのよ!」

 お兄様の言葉を受けてお姉様の目が爛々と輝き出した。
 一方の私は言われた意味が分からずその場で固まった。

「あら、いいわね!  そうしましょうよ!  クローディアなら確かに居なくなっても誰も困らないわ!  ね、陛下!」
「だ、だが、一応相手はナターシャを指名……」

 一応、お父様の中には躊躇いがあったのかお義母様のように即答はしない。

「お父様、そんなのは適当な理由でもでっちあげて、わたくしは無理だけど代わりに第二王女を送ります!  でいいと思うわ!」
「厄介者払いも出来て丁度いいわね」
「あぁ」

 お姉様、お義母様、お兄様の三人の中では既に決定事項のように話が進んで行く。

(この人達は何を言っているの?)

 本当に本気でそれでいいと思っているのかしら?
 向こうの国が“アピリンツ国の王女”としか指名しなかったのならそれもまかり通る話かもしれないけれど、しっかり“ナターシャ王女”と名指している話なのに!
 私は慌てて叫ぶ。

「待って下さい!  そんなのは駄目です。ファーレンハイト国を怒らせる事に繋が……」
「あーら、クローディア?  貴女、口答えする気なのかしら?」

 お姉様が、鋭い目を向けて私の言葉を遮る。

「出来損ないで無能と呼ばれ続けた貴女が、ようやく……ようやく役に立つ時が来たというのに?  わたくしの代わりだなんて光栄でしょう?」
「そうよ。誰のおかげで名ばかりの王女のくせにここで暮らせていると思っているの?  王家に恩を返してくれても良いでしょう?」
「私の治世に役立たないクローディアは不要だ」
「!」

 三人は再びそう言って私を追い詰める。

(駄目だわ。これはもう私が何を言っても聞いてくれない!)

 チラリとお父様の方を見ると、賛同はしていないものの大きく心が揺れているのが分かった。
 クローディアで可能ならクローディアを送りたい。
 顔にはそう書いてあった。

「……」

 これまで誰からも省みられず、愛されなかった私なんて本当にどうでもいいと思われている事がよく分かった。

(あれもこれもそれも、私が無能だから───)

「……お前達の気持ちは分かった」

 お父様が静かに語り出す。

「とりあえず、外交にも関わってくる話だ。我らだけで決めるわけにもいかない」

 そう言ってこの話は会議にかけられる事にはなったけれど、どうなるかは私には分かりきっていた。
 国にも貢献し、皆に愛されている王女ナターシャと出来損ないのお荷物王女クローディアのどちらを取るかなんて今更、聞かなくても既に答えは出ている。

 (私はお姉様の身代わりとしてファーレンハイト国に行く事になるのだわ)

 でも、もしも向こうの国が反対してくれたなら……
 だって“ナターシャ”を指名しているのに代わりに妹姫を送ると言われて簡単に納得するかは分からない。
 少しだけそんな淡い期待も抱いた。

 だけど、
 それから直ぐに国は私、クローディアを嫁がせると決定した。

 慌てて私を嫁がせる準備が開始する。
 そんな慌ただしい日々の中で、

(ファーレンハイト国王も私で納得したのかしら?  それなら良かったのだけど)

 と思っていたのだけど、実は違っていた。




「え!?  話を通していない!?」

 出発の日、唯一私の見送りに来た外交大臣が一通の手紙を私に渡す。

「こちらに、ナターシャ様ではなく、クローディア様を送り出す理由が書かれております。あちらに着いたらこの手紙を向こうの陛下にお渡し下さい」
「な、なんて事を!」

 これでは完全に騙し討ちのようなもの。
 お姉様ナターシャが来たと思って迎えたら妹だった……なんてその場で激昂されてもおかしくない。

「せ、戦争になってもいいというの!?」
「そこは、クローディア様の手腕にかかっておるかと。何卒、ファーレンハイト国の国王陛下によろしく……」
「!」

(この人達は、腐っている!)

 手紙を持つ私の手が震えていた。これは怒りだ。  

 この人達は……いえ、この国は私を捨てた。
 事前に花嫁を交代するなんて連絡をしたら拒否されると分かっていたから!

(きっと手紙には、この対応が不満なら私を処罰するなり好きにしろと書いてあるんだわ)

「……」

 この酷い対応に放心している間に、私はあれよあれよと馬車に乗せられ王宮を出発させられてしまう。
   
 絶望しかない嫁入りだった。
 見栄なのか、嫁入り道具が今まで私に与えられた事がない程の立派な物が用意されていた事がますます私を惨めな気持ちにさせた。
   
しおりを挟む
感想 162

あなたにおすすめの小説

【完結】飽きたからと捨てられていたはずの姉の元恋人を押し付けられたら、なぜか溺愛されています!

Rohdea
恋愛
──今回も飽きちゃった。だからアンタに譲ってあげるわ、リラジエ。 伯爵令嬢のリラジエには、社交界の毒薔薇と呼ばれる姉、レラニアがいる。 自分とは違って美しい姉はいつも恋人を取っかえ引っ変えしている事からこう呼ばれていた。 そんな姉の楽しみは、自分の捨てた元恋人を妹のリラジエに紹介しては、 「妹さんは無理だな」と笑われバカにされる所を見て楽しむ、という最低なものだった。 そんな日々にウンザリするリラジエの元へ、 今日も姉の毒牙にかかり哀れにも捨てられたらしい姉の元恋人がやって来た。 しかし、今回の彼……ジークフリートは何故かリラジエに対して好意的な反応を見せた為、戸惑ってしまう。 これまでの姉の元恋人とは全く違う彼からの謎のアプローチで2人の距離はどんどん縮まっていくけれど、 身勝手な姉がそれを黙って見ているはずも無く……

【完結】契約の花嫁だったはずなのに、無口な旦那様が逃がしてくれません

Rohdea
恋愛
──愛されない契約の花嫁だったはずなのに、何かがおかしい。 家の借金返済を肩代わりして貰った代わりに “お飾りの妻が必要だ” という謎の要求を受ける事になったロンディネ子爵家の姉妹。 ワガママな妹、シルヴィが泣いて嫌がった為、必然的に自分が嫁ぐ事に決まってしまった姉のミルフィ。 そんなミルフィの嫁ぎ先は、 社交界でも声を聞いた人が殆どいないと言うくらい無口と噂されるロイター侯爵家の嫡男、アドルフォ様。 ……お飾りの妻という存在らしいので、愛される事は無い。 更には、用済みになったらポイ捨てされてしまうに違いない! そんな覚悟で嫁いだのに、 旦那様となったアドルフォ様は確かに無口だったけど───…… 一方、ミルフィのものを何でも欲しがる妹のシルヴィは……

【完結】美人な姉と間違って求婚されまして ~望まれない花嫁が愛されて幸せになるまで~

Rohdea
恋愛
───私は美しい姉と間違って求婚されて花嫁となりました。 美しく華やかな姉の影となり、誰からも愛されずに生きて来た伯爵令嬢のルチア。 そんなルチアの元に、社交界でも話題の次期公爵、ユリウスから求婚の手紙が届く。 それは、これまで用意された縁談が全て流れてしまっていた“ルチア”に届いた初めての求婚の手紙だった! 更に相手は超大物! この機会を逃してなるものかと父親は結婚を即快諾し、あれよあれよとルチアは彼の元に嫁ぐ事に。 しかし…… 「……君は誰だ?」 嫁ぎ先で初めて顔を合わせたユリウスに開口一番にそう言われてしまったルチア。 旦那様となったユリウスが結婚相手に望んでいたのは、 実はルチアではなく美しくも華やかな姉……リデルだった───

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

【完結】本物の聖女は私!? 妹に取って代わられた冷遇王女、通称・氷の貴公子様に拾われて幸せになります

Rohdea
恋愛
───出来損ないでお荷物なだけの王女め! “聖女”に選ばれなかった私はそう罵られて捨てられた。 グォンドラ王国は神に護られた国。 そんな“神の声”を聞ける人間は聖女と呼ばれ、聖女は代々王家の王女が儀式を経て神に選ばれて来た。 そして今代、王家には可愛げの無い姉王女と誰からも愛される妹王女の二人が誕生していた…… グォンドラ王国の第一王女、リディエンヌは18歳の誕生日を向かえた後、 儀式に挑むが神の声を聞く事が出来なかった事で冷遇されるようになる。 そして2年後、妹の第二王女、マリアーナが“神の声”を聞いた事で聖女となる。 聖女となったマリアーナは、まず、リディエンヌの婚約者を奪い、リディエンヌの居場所をどんどん奪っていく…… そして、とうとうリディエンヌは“出来損ないでお荷物な王女”と蔑まれたあげく、不要な王女として捨てられてしまう。 そんな捨てられた先の国で、リディエンヌを拾ってくれたのは、 通称・氷の貴公子様と呼ばれるくらい、人には冷たい男、ダグラス。 二人の出会いはあまり良いものではなかったけれど─── 一方、リディエンヌを捨てたグォンドラ王国は、何故か謎の天変地異が起き、国が崩壊寸前となっていた…… 追記: あと少しで完結予定ですが、 長くなったので、短編⇒長編に変更しました。(2022.11.6)

姉と妹の常識のなさは父親譲りのようですが、似てない私は養子先で運命の人と再会できました

珠宮さくら
恋愛
スヴェーア国の子爵家の次女として生まれたシーラ・ヘイデンスタムは、母親の姉と同じ髪色をしていたことで、母親に何かと昔のことや隣国のことを話して聞かせてくれていた。 そんな最愛の母親の死後、シーラは父親に疎まれ、姉と妹から散々な目に合わされることになり、婚約者にすら誤解されて婚約を破棄することになって、居場所がなくなったシーラを助けてくれたのは、伯母のエルヴィーラだった。 同じ髪色をしている伯母夫妻の養子となってからのシーラは、姉と妹以上に実の父親がどんなに非常識だったかを知ることになるとは思いもしなかった。

【完結】やり直しの人生、今度は王子様の婚約者にはならない……はずでした

Rohdea
恋愛
侯爵令嬢のブリジットは、大きな嘘をついて王太子であるランドルフの婚約者の座に収まっていた。 しかし、遂にその嘘がバレてしまう。 ブリジットの断罪の場で愛するランドルフの横にいたのは異母妹のフリージア。 そのフリージアこそがかつて本当にランドルフが婚約に望んだ相手だった。 断罪されたブリジットは、国外追放となり国を出る事になる。 しかし、ブリジットの乗った馬車は事故を起こしてしまい───…… ブリジットが目覚めると、なぜか時が戻っていた。 だけど、どうやら“今”はまだ、ランドルフとの婚約前。 それならば、 もう二度と同じ過ちは犯さない! 今度は嘘もつかずに異母妹フリージアをちゃんと彼の婚約者にする! そう決意したはずなのに何故か今度の人生で、ランドルフから届いた婚約者の指名は、 フリージアではなく、ブリジットとなっていて───

【完結】その溺愛は聞いてない! ~やり直しの二度目の人生は悪役令嬢なんてごめんです~

Rohdea
恋愛
私が最期に聞いた言葉、それは……「お前のような奴はまさに悪役令嬢だ!」でした。 第1王子、スチュアート殿下の婚約者として過ごしていた、 公爵令嬢のリーツェはある日、スチュアートから突然婚約破棄を告げられる。 その傍らには、最近スチュアートとの距離を縮めて彼と噂になっていた平民、ミリアンヌの姿が…… そして身に覚えのあるような無いような罪で投獄されたリーツェに待っていたのは、まさかの処刑処分で── そうして死んだはずのリーツェが目を覚ますと1年前に時が戻っていた! 理由は分からないけれど、やり直せるというのなら…… 同じ道を歩まず“悪役令嬢”と呼ばれる存在にならなければいい! そう決意し、過去の記憶を頼りに以前とは違う行動を取ろうとするリーツェ。 だけど、何故か過去と違う行動をする人が他にもいて─── あれ? 知らないわよ、こんなの……聞いてない!

処理中です...