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第20話 やって来ないお姉様
しおりを挟む「どうして、どうしてわたくしが弾かれるの!?」
ナターシャはいつも美しいと讃えられるその顔を真っ赤にして怒り狂っていた。
「……殿下、駄目です。何度も試みましたが我々も通れません。見えない何かに弾かれてしまいます!」
「あなた達まで? 何の為にわたくしに付き添って来たのかしら? こんな時くらい役に立ちなさいよ!」
「そんな……ナターシャ様……」
お付きの者達もそんな事を言われても……という気持ちになる。
ナターシャはイライラが募り、憂さ晴らしのように周りに当たり散らし始めた。
「こんな事が出来るのはお兄様……? でも、お兄様がそんな事をするはずがないわ」
だってお兄様の“守護”は、アピリンツ国を護るものだもの!
「まさかクローディアに、お兄様のような力が……? いえ、そんなはずはないわ」
───無能にはいつだって無能でいてくれなくては困るの。
「あんな何もかもが冴えない妹がこのわたくしより目立つ、幸せになる……そんな事は絶対に認めないし、許さないわ!」
ナターシャがそんな悪態をついていると、お付きの者達が縋ってくる。
「ナターシャ様!」
「殿下、どうされますか!?」
ますますナターシャの苛立ちが募る。
「泣き言を言っていないで、早くわたくしが入国出来る方法を探しなさい! それから、誰かお兄様にも連絡を!」
「……はっ!」
「ほら、そこのあなた達も何をグズグズしているの? 早くわたくしの為に原因を探るのよ! あぁ、本当にどいつもこいつも使えないわね……! って、あら?」
そんな偉そうにふんぞり返るナターシャの傍らでは、王族一行とは無関係の人達が行き来している姿が見える。
その光景を見たナターシャはますます自分が置かれているこの状況に腹が立って来た。
「……っ!」
(あの愚鈍そうな平民共は何食わぬ顔で行き来出来てると言うのに!)
なんでわたくしはダメなの?
プライドの高いナターシャにはそれがとても許せない。
「ふざけないでよ、わたくしを誰だと思ってるのよ! わたくしはアピリンツの王女よ王女! この大陸内でも誰よりも美しいと言われる王女なのよ! せっかくファーレンハイトの王妃になるべくやって来たというのにこの仕打ち……!」
(わたくしが王妃になったらこの国……どうしてやろうかしら?)
そう憤りながら、再びファーレンハイトの地へと足を踏み入れようとするも……
バシンッ!
やはり弾かれる。
「~~~っっ!! 今に見てなさい! お兄様がここに来たらこんなわけのわからないもの、木っ端微塵にしてやるんだから!!」
ナターシャは文句だけは一人前だった。
「ちょっとあなた達! 何を黙って見ているのよ! さっさとわたくしの為に動きなさい!」
イライラのピークを迎えたナターシャは自分の近くにいた者たちを睨みつけて叱責する。
「……い、いえ、我々はまた弾かれてしまうナターシャ様を怪我のないようにお助けしようと……」
「はぁ? わたくしが、ファーレンハイト国に弾かれる前提で話すんじゃないわよ! あぁ、本当にどいつもこいつも使えない! 無能!」
「も……申し訳ございません……」
「謝罪はいいから早くなんとかしなさい!!」
「……は、い。申し訳……ございません」
元々、ナターシャ王女は少し我儘が強い部分はあった。
けれど、こんな苛烈な性格の姫だったのか……と、どんどん醜い部分が顕になっていくナターシャ王女をお付きの者たちは、とても冷ややかな気持ちで見ていた。
─────
「……恐ろしいくらい静かです」
「クローディア? どうかした?」
お姉様からの手紙を受け取って数日。
何故か未だにお姉様がやって来ることはなく、何とも平和な日々が続いていた。
私は今、執務の休憩時間をベルナルド様と過ごす為に彼の元を訪れて一緒にお茶をしている。
休憩中に私の顔を見るとその後の働き具合が違うんだ! すごい捗る!
なんて嬉しそうに言われてしまったら、訪ねないわけにはいかない。
(ベルナルド様が喜んでくれる事なら何でもしたい!)
そんな気持ちは日に日に強くなっていく。
「お姉様のことです。私、こんな呑気にお茶を飲んでいてもいいのでしょうか?」
「え? 全然構わないと思うけど?」
ベルナルド様はなんて事のない顔でそう言った。
「向こうが何を言って来ようとも、俺はナターシャ王女を花嫁にする気はないからさっさと帰ってもらうだけだしね」
「それはそうですけども……数日経っても静かなので、とにかく不気味だな、と思います」
とっくに国境を超えて、そろそろ王宮に辿り着いてもおかしくないくらいの日にちは既に経っていた。
それなのに静かなのは何故なのか。
「クローディア」
「ベルナルド様?」
ベルナルド様の手がそっと伸ばされて、私の頬を優しく撫でる。
「今はせっかく俺と二人きりなんだから、俺の事だけを見ていて欲しいな」
「!」
胸がドキッとした。
まだ、明るい時間だと言うのに、ベルナルド様がとても熱っぽい目で私を見てくる。
たまらず手に持っていたカップのお茶を一気にゴクリと飲み干す。
(あ、甘い!?)
お砂糖を入れなかったはずの紅茶が何故かすごく甘く感じる。
「ハハハ、クローディア。顔が真っ赤だよ?」
「べ、ベルナルド様のせいです、よ!」
それは違いない、とベルナルド様は笑う。
そして、そのまま席を立つと私の隣に腰を下ろす。
「……ッ!?」
一気に私達の距離が縮まってしまい胸のドキドキが止まらない。
ベルナルド様はじっと私を見た。
「クローディアは面白いよね」
「面、白いですか?」
「うん。夜はあんなに大胆なのに、今はこんなに可愛い顔をして恥ずかしそうにして照れている」
「だいっ!?」
(大胆ですって!?)
ベルナルド様がとんでもない事を言い出した!
「大胆だよ。だって毎晩、毎晩あれだけ俺を誘惑していて今更、何を言っているんだ?」
「!」
「悩殺作戦? は大成功だよ、クローディア」
「ベル……」
ベルナルド様は色っぽく微笑むと私の腰に手を回して抱き寄せた。
そのままチュッチュッと口付けを開始する。
おかげで部屋の中はあっという間に甘い空気でいっぱいになった。
「俺はもうクローディアにメロメロだ。毎日新しい発見をしては君をどんどん好きになる」
「……!」
「大好きだ、クローディア」
「わ、私もです」
(私もベルナルド様が好き───)
不思議ね?
あなたのくれる“愛”がとても心地よくて、何だか自分が無敵になったような気持ちなるの。
そんな事を思いながら、ベルナルド様からの熱を受けいれ続けた。
そして、その日の夜。
ベルナルド様がもたらしたその情報に私は驚く。
「お姉様が国境付近までは来ていた?」
「そうなんだ。だけど、何故かそこから先には来なかったらしい」
「え?」
(どういうこと?)
私は首を捻る。
だって意味が分からない。
「目撃した者によると、何故かそこから先は立ち入らずに一行は険悪な雰囲気でなにやら揉めていたとか……」
(揉めていた??)
「別の人の話だと、入りたくても入れない、そんな様子に見えたとか……何やら間抜けな動きをしていたとか……」
「間抜けって、何だか散々な言われようですね?」
だけど、入りたくても入れなかった……とはどういう事かしら?
「ベルナルド様はお姉様の足止めをするようにと命令を出していたのですか?」
「いいや。どうせ放っておいても王宮にまで乗り込んで来るだろうから、不法侵入か何かの罪で捕まえようかと思っていた」
ベルナルド様は肩を竦めてあっさりとそう答えた。
「なら何故……? それに、入りたくても入れない?」
「よく分からない。それと“お兄様の力じゃないんだから!”と叫んでいたなんて話もあるよ。ぎゃぁぎゃぁ騒いでいたから目撃した者が多かったみたいだ」
自分の思い通りにいかなかった時のお姉様は、騒がしくなる傾向があるものね……と納得する。
だけど、それよりも気になるのは。
「お兄様の力?」
何故、ここで“守護”の力の話になるの───?
「それで、どうやら今は近くの町に一旦引き上げたらしい。そこで誰かを待っているようだ」
「お姉様は何を考えているのかしら? それに待つって誰を……」
(守護───まさか、お兄様を?)
ハッとした私は顔を上げる。
「ベルナルド様! お姉様はお兄様を待っているのかもしれません」
「ブルーム王子を?」
「もしかして、ですが」
考え込む私をベルナルド様が優しく抱きしめる。
そして力強い声で言う。
「クローディア、大丈夫だ。彼らが何を企んでいても、人が増えても思う通りにはさせないさ」
「はい……」
私も頷く。
そして思う。
───私は、大切な人……ベルナルド様が治めるこの国を彼と一緒に守りたい。
(……私にもお兄様みたいに国を護るための力が欲しかったわ)
そうしたら、この国に害意をもたらそうなどと企む不届き者は、誰であっても立ち入らせないのに────……
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