21 / 35
第21話 偶然でないのなら
しおりを挟む「クローディア、今日はもう寝ようか。ベッドに移動しよう!」
「え?」
ベルナルド様が何故か満面の笑みで私をベッドへと誘導する。
「ナターシャ王女の動向には監視をつけているし、あの様子なら今は何かする事もないだろう?」
「そう、ですが……」
「それなら今、俺はクローディアともっとこうしていたい」
───チュッ
ベルナルド様の唇がそっと私の唇に触れる。
「さて。今夜はどんな格好で俺を誘惑してくれるのかな? 可愛い奥さん」
「!」
ベルナルド様は私を軽く抱き上げてベッドまで運び、座らせるとそのままガウンに手をかけながら、うっとりした顔でとんでもない事を言った。
「こうして毎晩脱がすのも楽しみではあるけれど、いつか……そうだな、結婚したらガウン無しで出迎えてくれたら幸せだなぁ……」
「……っ!?」
(な、何ですって!?)
私はその言葉に軽くショックを受ける。
ショックを受けた理由は、そんなはしたない行動をするなんて出来ません!
……ではなく。
やっぱり、いつもと同じ事ばかりでは飽きられてしまうのかも! だった。
「……」
(侍女が言っていたもの。こうして、夜着に豊富な種類があるのは恋人や夫を飽きさせない為なのだと! さすが考えられているわよね)
いつもいつもベルナルド様にベッドに運ばれてガウンを脱がされて、押し倒されているだけではダメなんだわ。
彼に飽きられないようにしなくては───
(もう、夜着だけで悩殺する作戦は古いのかもしれない。こうなったら……!)
「ベルナルド様……」
「うん? どうした? 可愛いクロー……」
「私、あなたが大好きです」
「へ?」
私は勇気を振り絞ってそう口にすると、ベルナルド様の首に腕を回して自分から彼に近付き……
───チュッ
と、自分からベルナルド様の唇に自分の唇を重ねた。
「クロー……」
「あなたを愛しています、ベルナルド様」
チュッ
そう言って私はもう一度自分からベルナルド様へと口付けた。
しかし、その際に勢い余ってしまい、なんとそのまま私が彼を押し倒してしまう。
(あ……!?)
ボスンッと音を立ててベッドに倒れ込む私達。
(…………あ、あら?)
さすがに、これは自分でも想定しておらず戸惑う。
だけど、この状況をベルナルド様に説明しないわけにはいかない。
「べ、ベルナルド様! えっと、こ、これはですね……」
「……」
「ちょっと、あ、飽きられないように私からも! って思いまして」
ベルナルド様の眉がピクリと反応する。
「……飽きる? 俺が? クローディアを?」
「は、はい……だって、大好きな人には、ずっと自分を好きでいて欲しいじゃないですか。だから、私からも頑張ろうって……」
「……」
「え…………えぇっ!? ベルナルド様ーー!?」
どうにかしどろもどろ説明を始めたら、何故か目の前でベルナルド様が鼻から血を流し始めた。
「は、鼻血だわ……大丈夫ですか!?」
「うっ、無理……こんな可愛いのどうすればいい? え、もう我慢しなくてもいいかなぁ? いいよね?」
「えっと?」
鼻血の心配をしているのに、会話が噛み合わない。
何がいいよね、なの?
「ベルナルド様? 頓珍漢な事を言っていないでですね、その鼻血を止め──」
「うん、分かっている。でも、クローディアが可愛すぎてこの興奮が止まる気がしないんだ」
「え?」
私が聞き返すと、ベルナルド様は鼻血を流しながらもキリッとした表情で言った。
鼻血のせいで全然決まらない。
「だって、最愛の女性にそんな刺激的な格好と体勢で迫られたうえ、めちゃくちゃ可愛いことまで言われて興奮しない男がいたらそれは男じゃない!」
「は、い!?」
ベルナルド様の謎の力説に私の思考はしばらく停止した。
ちなみに、この後、無事に鼻血が止まったベルナルド様に今度は私がベッドに押し倒された。
そのまま“ちょっとお仕置”と言われてたくさん愛でられる事になった。
◇◇◇◇
「クローディア。また、不思議な話があるんだけど」
その日、執務中であるはずのベルナルド様が私を訪ねて来て、またまたどこかで聞いたような言葉を口にした。
「また不思議な話、ですか?」
お姉様が謎の動きをしているという話を聞いてから数日。
未だにファーレンハイト国にお姉様が現れる様子はなく、滞在しているアピリンツの国境付近の町から動いていないと言う。
(やっぱり、お兄様の到着を待っているのかしら?)
ベルナルド様が言うには、アピリンツ国の天候は今も荒れに荒れているから、お兄様が国境付近に移動する事も困難で時間がかかっているのでは? と言っていた。
また、お姉様の滞在している町も天候も含め、色々と穏やかではないらしいので、あのお姉様が何時まで大人しく待っていられるかは分からないわね、と私は思っていた。
(いっそのこと、このまま大人しく諦めてくれたらいいのに……)
そこまで考えて、まだベルナルド様の話の途中だった事を思い出し、その不思議な話とやらに耳を傾ける。
「それで? 何があったのですか?」
「うーん、上手く言えないんだけど……」
ベルナルド様自身も何が何だかといった様子で語り出した。
「───入国出来ない人が増えている?」
「そうなんだ。入国の手続きも済んで、いざ国に入ろうとすると“入れない”という事があちらこちらで起きているみたいなんだ」
「……?」
私は首を傾げる。
(国に入れない? どういうこと? まるでお姉様に起きたみたいな話……)
「それで、詳しく調べてみたら我が国に入国出来ない人には皆、ある共通点があったんだ」
「共通点、ですか」
ベルナルド様が深く頷く。
「皆、それぞれ悪意があったんだよ」
「あ、悪意ですか?」
どういう意味かしらと不思議な顔をすると、ベルナルド様が更に詳しく説明してくれる。
「実は、こっそり我が国で詐欺を働こうと思ってやって来た商人だったりとか、アピリンツで罪を働いていて逃げようとして来た者だったりとか、夫からの暴力に耐えられず逃げ出した妻子を追いかけて来た暴力夫だったりとか……」
「……!」
「なんというか、我が国に立ち入らせたくないような人間ばかりが弾かれている」
「……!!」
そこまで聞いて私は、ようやくあれ? と思った。
(待って? この間の私って頭の中で何を願った?)
まず、そもそもとしてお姉様にはこの国に立ち入らないで欲しい、そう願った。
この間は、ファーレンハイトに害意をもたらそうとする者も立ち入らないで、と願った。
どちらも、私が願ったことに間違いない。
───そこで、ハッと思い出す。
荒れた田畑、実り豊かな土地……人々を脅かす魔獣の存在。
(私はこれらを見た時も何かを願わなかったっけ?)
「……」
まさか……これは、まさか……
そこまで考えた私の身体がブルっと震える。
────私の願ったことが形になっている??
「クローディア? どうした?」
「ベル、ベルナルド様、どうしましょう……」
私はベルナルド様に思わずしがみつく。
だって、こんなのちょっと偶然にしてはあまりにも出来すぎている。
「クローディア?」
「わ、私、私の“お願い”が叶ってばかりなのです」
「クローディアのお願い?」
ベルナルド様が不思議そうな顔をしながらも優しく抱きしめてくれる。
ポンポンと背中を叩いて落ち着けと言ってくれている。
「あれもこれも全部、願いました、私。私が……」
「クローディアが願った?」
「ファーレンハイト国の田畑についてや魔獣のこと、お姉様の、悪意を持った人達のこと……全部、全部願ったことが当てはまってしまっています!」
「え?」
「ベルナルド様、どうしましょう……」
動揺した私はそう言ってベルナルド様に抱きついた。
────ちょうど、その頃……
「お兄様、遅くってよ?」
「ナターシャ……突然、呼び出しておいてその言い方はないだろう?」
アピリンツとファーレンハイトの国境付近の町に、ようやくブルームが到着していた。
ブルームは悪天候の中、助けて! どうしてもお兄様に確かめて欲しい事があるの! と、ナターシャに泣きつかれたので慌てて駆けつけた所だった。
「悪天候は続くし、魔獣被害も日に日に増えている。私は忙しいんだぞ?」
「……」
「 だいたい何でお前はまだこんな所にいるんだ? とっくにファーレンハイトに入国して今頃、国王に色仕掛けしてよろしくやっているとばかり思っていたのに」
この所、ブルームは結界を張り直すも、再び魔獣に破られるという悪循環を繰り返して疲弊していた。
そこに妹からの呼び出し……と来たら多少苛立ちもする。
「言われなくても、もちろん、わたくしもその予定でいましたわよ! 今頃はわたくしのこの美貌で国王陛下を骨抜きにしているはずでしたわ!」
ナターシャの言葉にブルームは深いため息を吐く。
「なら何故、こんな所でもたもたしていて私を呼んだんだ?」
「ファーレンハイト国に何をしても入れないんですのよ! 結界かもしれないからお兄様を呼びましたの!」
「……何だと?」
ブルームの目の色が変わった。
299
あなたにおすすめの小説
美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ
さら
恋愛
会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。
ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。
けれど、測定された“能力値”は最低。
「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。
そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。
優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。
彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。
人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。
やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。
不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。
見るに堪えない顔の存在しない王女として、家族に疎まれ続けていたのに私の幸せを願ってくれる人のおかげで、私は安心して笑顔になれます
珠宮さくら
恋愛
ローザンネ国の島国で生まれたアンネリース・ランメルス。彼女には、双子の片割れがいた。何もかも与えてもらえている片割れと何も与えられることのないアンネリース。
そんなアンネリースを育ててくれた乳母とその娘のおかげでローザンネ国で生きることができた。そうでなければ、彼女はとっくに死んでいた。
そんな時に別の国の王太子の婚約者として留学することになったのだが、その条件は仮面を付けた者だった。
ローザンネ国で仮面を付けた者は、見るに堪えない顔をしている証だが、他所の国では真逆に捉えられていた。
目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。
【完】瓶底メガネの聖女様
らんか
恋愛
伯爵家の娘なのに、実母亡き後、後妻とその娘がやってきてから虐げられて育ったオリビア。
傷つけられ、生死の淵に立ったその時に、前世の記憶が蘇り、それと同時に魔力が発現した。
実家から事実上追い出された形で、家を出たオリビアは、偶然出会った人達の助けを借りて、今まで奪われ続けた、自分の大切なもの取り戻そうと奮闘する。
そんな自分にいつも寄り添ってくれるのは……。
美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ
さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。
絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。
荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。
優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。
華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。
夫が愛人を離れに囲っているようなので、私も念願の猫様をお迎えいたします
葉柚
恋愛
ユフィリア・マーマレード伯爵令嬢は、婚約者であるルードヴィッヒ・コンフィチュール辺境伯と無事に結婚式を挙げ、コンフィチュール伯爵夫人となったはずであった。
しかし、ユフィリアの夫となったルードヴィッヒはユフィリアと結婚する前から離れの屋敷に愛人を住まわせていたことが使用人たちの口から知らされた。
ルードヴィッヒはユフィリアには目もくれず、離れの屋敷で毎日過ごすばかり。結婚したというのにユフィリアはルードヴィッヒと簡単な挨拶は交わしてもちゃんとした言葉を交わすことはなかった。
ユフィリアは決意するのであった。
ルードヴィッヒが愛人を離れに囲うなら、自分は前々からお迎えしたかった猫様を自室に迎えて愛でると。
だが、ユフィリアの決意をルードヴィッヒに伝えると思いもよらぬ事態に……。
病めるときも健やかなるときも、お前だけは絶対許さないからなマジで
あだち
恋愛
ペルラ伯爵家の跡取り娘・フェリータの婚約者が、王女様に横取りされた。どうやら、伯爵家の天敵たるカヴァリエリ家の当主にして王女の側近・ロレンツィオが、裏で糸を引いたという。
怒り狂うフェリータは、大事な婚約者を取り返したい一心で、祝祭の日に捨て身の行動に出た。
……それが結果的に、にっくきロレンツィオ本人と結婚することに結びつくとも知らず。
***
『……いやホントに許せん。今更言えるか、実は前から好きだったなんて』
裁判を無効にせよ! 被告は平民ではなく公爵令嬢である!
サイコちゃん
恋愛
十二歳の少女が男を殴って犯した……その裁判が、平民用の裁判所で始まった。被告はハリオット伯爵家の女中クララ。幼い彼女は、自分がハリオット伯爵に陥れられたことを知らない。裁判は被告に証言が許されないまま進み、クララは絞首刑を言い渡される。彼女が恐怖のあまり泣き出したその時、裁判所に美しき紳士と美少年が飛び込んできた。
「裁判を無効にせよ! 被告クララは八年前に失踪した私の娘だ! 真の名前はクラリッサ・エーメナー・ユクル! クラリッサは紛れもないユクル公爵家の嫡女であり、王家の血を引く者である! 被告は平民ではなく公爵令嬢である!」
飛び込んできたのは、クラリッサの父であるユクル公爵と婚約者である第二王子サイラスであった。王家と公爵家を敵に回したハリオット伯爵家は、やがて破滅へ向かう――
※作中の裁判・法律・刑罰などは、歴史を参考にした架空のもの及び完全に架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる