22 / 35
第22話 間抜けな兄妹と隠されていた力
しおりを挟むブルームとナターシャは、揃ってファーレンハイトとの国境に向かった。
「“守護”の使い手の私が何もしていないのにそんな事があるわけないだろう?」
「ですから、お兄様。ご自分の目で確かめて下さいな」
「……」
ブルームはチラリと横目でナターシャを見る。
(少し、やつれたか?)
国一番……いや、この大陸一の美貌を誇るナターシャの姿はここ数日でボロボロになっていた。
国中が大変な事になっている中、この町に王女一行を満足させられるだけの用意があるはずがない。
(この様子ではファーレンハイトに入国出来ても、国王への色仕掛けは失敗するのでは?)
ブルームは前に見かけた、ファーレンハイトの新国王ベルナルドの王太子だった頃の姿を思い出す。
(見目麗しい男だったな。女性に囲まれても顔色一つ変えていなかったが)
だが、女性に興味がなくともナターシャが本気で迫れば堕ちない男はいないだろう。
ナターシャは入国してから綺麗に着飾ってやればいい。
それよりも今、気にすべきはナターシャが入れないという謎の結界についてだ。
(どういう事だ……?)
悶々とそんな事を考えているうちに、目的の場所へと辿り着いた。
ブルームはキョロキョロと辺りを見回す。
「特に何か変な力があるようには感じないが?」
「……」
本当に結界があるのか?
やはり、ナターシャの勘違い──そう思って足を進めた。
バシッ
「──っ!?」
しかし、ブルームは見えない何かに弾き返されてしまう。
「なっ!?」
「ほら、お兄様も入れないではありませんか!」
「っっ!」
ブルームはそんなはずはない……私に限ってそれはない。
これは何かの間違いだ。
そう思って何度も足を進めようとするも……
バシッ
「……くっ!」
何度やっても弾かれてしまう。
ブルームはその場に膝をついて叫んだ。
「何故だ! 私は“守護”の使い手だぞ? この私より強い守護の力を使える人間なんていないはずだ!! こんなのは、まやかしだぁぁ!」
「お、お兄様? ───きゃあぁあっ!?」
冷静さを失い、ヤケになったブルームは力任せでどうにかしようとでも思ったのか、勢いよく突進し見事に弾き返されて吹き飛ばされる。
また、その吹き飛んだ先で、これまた見事にナターシャを巻き込み、二人揃ってその場に倒れ込んだ。
「ぐっ……お、お兄様……わたくしを巻き込まないでくださいませ……!」
「うるさい! そんな所に突っ立っていたお前が悪い!」
「まぁ……!」
謎の力に盛大に弾かれたくせに、偉そうに喚き散らすブルームや巻き込まれて更にボロボロになったナターシャ。
更に二人は、他の人の目があるというのに見苦しい罵り合いまで始める始末。
そんな憐れで滑稽な自国の王子と王女の姿を見たお付きの者達は皆、こう思ったと言う。
───あぁ、アピリンツ国に未来は無い、と。
─────
国境付近で、まさか兄と姉が仲良く騒いでいるなんて思いもしなかった私は、ベルナルド様に今、自分が思った事をどうにか説明していく。
動揺して上手く説明出来ていないはずなのに、ベルナルド様はゆっくり優しく、そしてしっかり話を聞いてくれた。
「───つまり、クローディアの願った事が叶って現実に起きている? それは偶然ではないという事?」
「……はい、偶然ではないと思います」
これが一つ二つなら気にならなかったかもしれない。
でも、さすがにこれは……
(自分で自分の事が分からなくて怖い)
そう感じて身体を震わせる私の頭をベルナルド様が優しく撫でてくれた。
「落ち着いて? ……もしかしてこれは、クローディアの“隠されていた力”なのかな?」
「え!?」
「どうして? と思う気持ちは分かるけど、そう考える事が自然じゃないかな?」
「私の……力?」
私はおそるおそる何も出ない自分の両手の掌を見つめる。
この願ったことが叶って現実に起きてしまう現象が……私の力?
「いつから……?」
今までだって、何かを願うことはあった。
それこそ、お母様の最期は必死に逝かないでと願ったのに。
いつだって私が願う事は叶わない事ばかりで、こんな事は起きなかった。
「うーん、何かきっかけがあったのかな。クローディアは心当たりがないの?」
「……分かりません」
「なら、最近大きく変わった事は?」
「大きく……? それは、もちろん」
私は口ごもる。
ベルナルド様と出会ったこと────
そう思った時、胸が大きく疼いた。
「もちろん?」
「べ、ベルナルド様と出会って……は、初めての、こ、恋をしました!!」
言葉にするのは照れくさかったけれど、これは大事な事だ。
私が真っ赤な顔でそう叫ぶと、ベルナルド様が目を大きく見開いたまま固まる。
「ベルナルド様と出会って、あ、愛する事、と……愛される事を知りました!!」
「ク、クローディア……」
ベルナルド様がくれる愛はお母様の家族愛とは違う愛。
私に力があっても無くても関係ない。私自身を望み、大切に想ってくれている。
そんな惜しみない愛をベルナルド様と会ってから知った。
「クローディア」
「……」
再び名前を呼ばれたので私はそっと顔を上げる。
ベルナルド様は優しく微笑んでくれていた。
「なら、俺のクローディアへの愛が力を目覚めさせたのかな?」
「わ、分かりません」
恥ずかしくて口ではそう答えたけれど、何となくそうだと分かる。
だって、お母様は言っていた。
自分の代わりに私の事を愛してくれる人がいたら、と。
(きっとこれだ──)
私の中に確信が生まれる。
「そう? でも俺はそうだったら嬉しいな」
ベルナルド様はそう言ってくれた。
でも、わたしはその言葉を素直に受け取れなかった。
「力が発現したからですか? それとも、便利な力だか……」
「クローディア!」
ちょっと怒鳴り気味のベルナルド様にやや強引に唇を塞がれる。
そして、唇を離すとベルナルド様は言った。
「違うよ、そういう事じゃない。力の内容なんて関係ない」
「関係ない……?」
ベルナルド様は大きく頷いた。
「もし、俺の愛がクローディアの力の目覚めのきっかけなら、他の誰でもない“俺”がクローディアの特別だって事だろう? こんな嬉しい事はないよ」
「──ベルナルド様……」
「クローディアの特別になれた事が俺は嬉しいんだ」
(特別……)
ベルナルド様はそう言ってギュッと私を抱きしめる。
(もう、既にあなたは誰よりも特別な人なのに)
ベルナルド様はそうやって喜んでくれるんだと思ったら胸がとてもポカポカと温かくなった。
「それに、クローディアの願い事を聞いたら……この国を……ファーレンハイトを思ってくれているんだと分かってそれも嬉しいんだ」
(……あ)
「……だって、大好きな人の……ベルナルド様の大事な国を私も守りたかったんです」
「クローディア……!」
破顔したベルナルド様の顔が近づいて来たので私はそっと目を瞑る。
程なくして暖かくして柔らかいものが私の唇にそっと触れた。
しばらく互いの熱を堪能した後、ベルナルド様がポツリと言う。
「……それにしても、とんでもない型破りな力だ」
ベルナルド様の言いたい事はよく分かる。
おそらく、何らかの制約はあると思う。
けれど、何かを願ったら叶う……なんて力は悪用しようと思ったらし放題。
それこそ世界を……
と、それ以上を考えるのは止めた。
(……今は何が引き金か分からないわ)
「でも、ベルナルド様。私にだって……黒い気持ちはありますよ?」
ファーレンハイトが幸せで豊かな国でになりますように……と願った反面、祖国のことはどうしたって前向きな気持ちにはなれない。
でも。
「もしかして、天変地異も私が引き起こしたのでしょうか?」
お姉様やこの国への害を成す悪人の入国は確かに拒んだ。
けれど、私は祖国が荒れる事まで望んだつもりはなかった。
「……それに関してはちょっと違う気がするんだよね」
「え?」
ベルナルド様のその言葉に私は驚いて顔を上げる。
「そもそも、俺はクローディアに何か隠されている力があるのなら、もっと別の事だと思っていたんだ」
「別の力……ですか?」
「そう。でも、俺の勘違いだったのかな? あ、それとも……」
「それとも?」
聞き直した私にベルナルド様は不思議そうに訊ねる。
「俺は、あまりアピリンツ国の特殊能力に関して詳しくないから、あまり偉そうな事は言えないのだけど」
「いえ……」
「クローディア。俺の中には二つ疑問があるんだ」
そう言ってベルナルド様が二本の指を私の前に立てて見せる。
「二つの疑問?」
「クローディアの母君の能力は何? それと……特殊能力って絶対に一つだけ?」
「え?」
「俺がすごく気になっている疑問…………クローディアの力って、本当に一つだけなのかな?」
その二つ目の疑問に驚いた私は、しばらくそのまま固まった。
344
あなたにおすすめの小説
聖女の座を追われた私は田舎で畑を耕すつもりが、辺境伯様に「君は畑担当ね」と強引に任命されました
さら
恋愛
王都で“聖女”として人々を癒やし続けてきたリーネ。だが「加護が弱まった」と政争の口実にされ、無慈悲に追放されてしまう。行き場を失った彼女が選んだのは、幼い頃からの夢――のんびり畑を耕す暮らしだった。
ところが辺境の村にたどり着いた途端、無骨で豪胆な領主・辺境伯に「君は畑担当だ」と強引に任命されてしまう。荒れ果てた土地、困窮する領民たち、そして王都から伸びる陰謀の影。追放されたはずの聖女は、鍬を握り、祈りを土に注ぐことで再び人々に希望を芽吹かせていく。
「畑担当の聖女さま」と呼ばれながら笑顔を取り戻していくリーネ。そして彼女を真っ直ぐに支える辺境伯との距離も、少しずつ近づいて……?
畑から始まるスローライフと、不器用な辺境伯との恋。追放された聖女が見つけた本当の居場所は、王都の玉座ではなく、土と緑と温かな人々に囲まれた辺境の畑だった――。
お姉様。ずっと隠していたことをお伝えしますね ~私は不幸ではなく幸せですよ~
柚木ゆず
恋愛
今日は私が、ラファオール伯爵家に嫁ぐ日。ついにハーオット子爵邸を出られる時が訪れましたので、これまで隠していたことをお伝えします。
お姉様たちは私を苦しめるために、私が苦手にしていたクロード様と政略結婚をさせましたよね?
ですがそれは大きな間違いで、私はずっとクロード様のことが――
愛されヒロインの姉と、眼中外の妹のわたし
香月文香
恋愛
わが国の騎士団の精鋭二人が、治癒士の少女マリアンテを中心とする三角関係を作っているというのは、王宮では当然の常識だった。
治癒士、マリアンテ・リリベルは十八歳。容貌可憐な心優しい少女で、いつもにこやかな笑顔で周囲を癒す人気者。
そんな彼女を巡る男はヨシュア・カレンデュラとハル・シオニア。
二人とも騎士団の「双璧」と呼ばれる優秀な騎士で、ヨシュアは堅物、ハルは軽薄と気質は真逆だったが、女の好みは同じだった。
これは見目麗しい男女の三角関係の物語――ではなく。
そのかたわらで、誰の眼中にも入らない妹のわたしの物語だ。
※他サイトにも投稿しています
完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!
仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。
ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。
理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。
ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。
マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。
自室にて、過去の母の言葉を思い出す。
マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を…
しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。
そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。
ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。
マリアは父親に願い出る。
家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが………
この話はフィクションです。
名前等は実際のものとなんら関係はありません。
厄介払いされてしまいました
たくわん
恋愛
侯爵家の次女エリアーナは、美人の姉ロザリンドと比べられ続け、十八年間冷遇されてきた。
十八歳の誕生日、父から告げられたのは「辺境の老伯爵に嫁げ」という厄介払いの命令。
しかし、絶望しながらも辺境へ向かったエリアーナを待っていたのは――。
(完結)妹の婚約者である醜草騎士を押し付けられました。
ちゃむふー
恋愛
この国の全ての女性を虜にする程の美貌を備えた『華の騎士』との愛称を持つ、
アイロワニー伯爵令息のラウル様に一目惚れした私の妹ジュリーは両親に頼み込み、ラウル様の婚約者となった。
しかしその後程なくして、何者かに狙われた皇子を護り、ラウル様が大怪我をおってしまった。
一命は取り留めたものの顔に傷を受けてしまい、その上武器に毒を塗っていたのか、顔の半分が変色してしまい、大きな傷跡が残ってしまった。
今まで華の騎士とラウル様を讃えていた女性達も掌を返したようにラウル様を悪く言った。
"醜草の騎士"と…。
その女性の中には、婚約者であるはずの妹も含まれていた…。
そして妹は言うのだった。
「やっぱりあんな醜い恐ろしい奴の元へ嫁ぐのは嫌よ!代わりにお姉様が嫁げば良いわ!!」
※醜草とは、華との対照に使った言葉であり深い意味はありません。
※ご都合主義、あるかもしれません。
※ゆるふわ設定、お許しください。
婚約者と家族に裏切られたので小さな反撃をしたら、大変なことになったみたいです
柚木ゆず
恋愛
コストール子爵令嬢マドゥレーヌ。彼女はある日、実父、継母、腹違いの妹、そして婚約者に裏切られ、コストール家を追放されることとなってしまいました。
ですがその際にマドゥレーヌが咄嗟に口にした『ある言葉』によって、マドゥレーヌが去ったあとのコストール家では大変なことが起きるのでした――。
美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ
さら
恋愛
会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。
ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。
けれど、測定された“能力値”は最低。
「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。
そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。
優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。
彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。
人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。
やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。
不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる