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第31話 今更、後悔しても
しおりを挟む「クローディア……これも、お前の力……なのか?」
「!」
お父様の震えながら発せられたその声で私はハッと我に返る。
「───あなたはここまで来て、まだ、クローディアの力を疑うのですか? アピリンツ国王」
ベルナルド様が私を庇うようにして前に出てくれてお父様と対峙した。
「私がどうやっても適わなかったことをあっさりとクローディアが……いや、違う……」
「……」
「むしろこの場合は我が国はクローディアに、守られていた……のか」
お父様は目線を落とし小さな声でポソポソと呟く。
「今更、惜しんだって遅いんですよ? クローディアは私の妃ですから」
「……!」
お父様がベルナルド様の言葉に項垂れた。
すると、その後ろからお姉様が金切り声で叫んだ。
「クローディアなんかに守られていたですって!? お父様、本気でそんなことを言っていますの? こんなのは偶然に決まっ……」
「ナターシャ! お前にはこれが偶然に思えるのか!」
顔を上げたお父様がお姉様に強く言い返す。
「クローディアの気持ち一つでこんなにもまるっと状況が変わったんだぞ! それにこの奇跡のような力が何と呼ばれているのかは、ナターシャ! お前だって聞いたことがあるだろう!?」
「は? 奇跡……え? ……だって、そんな……まさか」
目を大きく見開いたお姉様の身体が震え出した。
嘘でしょう? そんなことあるわけない、という顔をして私の方を見る。
「ち、父上? まさかクローディアに、あの初代の王と同じ力がある……と言うの……ですか? これが? この力が?」
お姉様の言えなかった言葉の続きはお兄様が引き継いだ。
お父様はお兄様に向かって小さく頷く。
そして私に視線を向ける。
(──!)
その表情で何を言いたいのか分かった。
「ああ、クローディア! これまでのことはいくらでも謝る! 謝るからどうか我が国を……アピリンツ国のことを見捨てな……」
思った通りの言葉をお父様は口にする。
本当に本当にこの人は。
「───あなたたちは本当に愚かだな!」
ベルナルド様がお父様に対して冷たく吐き捨てる。
「クローディアに本当に許しを乞いたいのなら、まず、先にすべきことがあるのでは?」
「……え」
お父様は不思議そうな顔でベルナルド様の顔を見る。
そんなお父様の様子にベルナルド様はますます冷たい視線を向けた。
「いつまで私の大事な妃の母君を死に追いやったと暴露したあの者を放置しているのかと聞いている。まさか、このまま有耶無耶にしようとでも?」
「ハッ……マデリン!」
その言葉を受けてハッとしたお父様が王妃の名を叫び詰め寄っていく。
「ロディナを暗殺……だと? お前は……なんてことをしたんだ!」
「まあ! 嫌ですわ、陛下。あなただってあの女が邪魔だと常々仰っていたではありませんか! 私のせいにするの?」
「なっ……!」
詰め寄っているのに言い返されて言葉を詰まらせるお父様。
「いなくなってくれたら清々するのになぁ、という言葉。何度も聞きましたわ」
「お前……!」
二人の見苦しい言い争いが始まった。
「邪魔だと言ったのは……! そ、それは、周りに私より優れているといつも言われていたロディナのことが憎くて……くっ!」
(憎い……ね)
お父様は私の冷たい視線に気付いたのか慌てて訂正する。
「ち、違うんだ、クローディア! これはマデリンのでっち上げた話で……わ、私はロディナのことはちゃんと……」
「ほう? 陛下。あなたは本当に昔から変わらんのですな。自分勝手にロディナに婚約破棄を告げたバカ王子だった頃から何も変わっておらん様子」
「な、何だと!?」
ここまで、それまで黙っていたお祖父様が口を開く。
“バカ王子”と呼ばれたお父様は憤慨した。
けれど、私には本当にその通りとしか思えなかった。
間違いなく当時、そんな王子だったのだろうなと心から思う。
(全部聞こえているのに……)
お祖父様がため息を吐く。
「陛下。それから王妃殿下。あなた方のせいで婚約破棄されたロディナが何故、あんな屈辱を味わったにも関わらず側妃という立場に甘んじてでもあなたの元に嫁いだと思っておる?」
「え?」
「は?」
お祖父様の言葉に二人が首を傾げる。
少しの沈黙の後、お父様が答えた。
「それは、公爵や周囲の者たちが強く推し……」
「儂は側妃だなんてふざけるな! とロディナに言った。だが、ロディナは儂に向かってこう言った」
───王子のことは確かに愛してなんかいないけど、自分にはこの国の人たちを幸せにする使命があるの
お祖父様が声を荒らげる。
「───お前たちには、ロディナのこの言葉の意味が分かるか!?」
お祖父様のその言葉に、二人が真っ青になってブルブル震え出した。
「ま、まさかロディナが……クローディアの前の?」
「嘘っ! そ、それじゃ、私は……私が手に掛けたのはこの国の……守護……」
(───つまり……)
そういうことだったのね?
お母様……
「…………ベルナルド様」
私はベルナルド様に声をかけ、彼を見つめる。
ベルナルド様は静かに微笑み返してくれた。
「どうした?」
「今の話って、お母様が……」
「うん───そういうことみたいだ。クローディアの母君は話を聞く度に凄い人って印象なんだけど、いったい何者なんだろうね?」
「……同感です」
私は顔を上げて空を見上げる。
私は思う。
お母様こそ、この国……アピリンツ国で最強だったのではないかしら、と。
「───アピリンツ国王」
「そんな……ロディナ……クローディア……まさかそんなことが……あぁあ……」
頭を抱えて嘆いているお父様に向かってベルナルド様が声をかける。
「クローディアはこの国の滅亡や崩壊を望む事はしない───が、無条件でこの国を守ってくれる者をあなたたちは二代続けて自らの手で失うことになったようですね?」
「……!」
ぐっ……とお父様が声を詰まらせる。
「───今更、後悔しても遅い!」
ベルナルド様が大きな声で怒鳴った。
「私はファーレンハイトの国王として、そしてクローディアの夫として、あなた方……この国に厳正な処分を求めることにする!」
「なっ…………!」
「あぁ、それから必ず国民の前で今回の件を説明する場を設けるように」
「こ、国民の前……で?」
「そうだ。説明責任を果たせ。それから───……」
お父様に向かって一つ一つ要求をしていくベルナルド様を見て私は思った。
───ベルナルド様は完全に叩き潰す気満々ね、と。
(この人たちはもう終わりね……)
既に今日までの間にアピリンツ国の王家は国民の心からだいぶ離れていってしまっているはず。それはあの人たちのお付きの者達の顔を見れば分かる。
そこに、あの王妃の罪までもが明らかになったらこの人たちは本当に終わりだわ。
(お母様の人気は今だって高いもの……)
王妃の犯した罪を国民が許すはずがない。
そう思ってチラリと王妃を見ると、顔を真っ青にして情けないくらいに震えていた。
(今更、そんな顔をしてもお母様は戻らない!)
さすがに王妃にとってもお母様が初代の王の力を宿していたことは、かなりショックだった様子。
まさに今、ベルナルド様もお父様に対してこの人の罪に関しての要求をしている。
国を守護する者に手を掛けたことは反逆罪だって適用される。
かなり罪は重くなるのは間違いない。
(……あ)
と、ここまで考えた時、国民……という所で気になった。
「あの! ベルナルド様……」
「ん? ああ、国民のことが心配? 大丈夫だ。アピリンツ国の民を受け入れる準備も開始しているから安心してくれ」
ベルナルド様のその言葉に私は驚いた。
「い、いつの間に……」
ベルナルド様は静かに微笑みながら、私の頭に手を置くとそっと撫でる。
「決着をつけるとなると、こうなるんじゃないかと思っていたからね」
「……」
「それから、調べさせていた所によると今回の件、思っていたよりは、国民への被害は広まっていないみたいだ。そこは、クローディアの“願い”のおかげだろうね」
「……!」
私は息を呑む。
(良かった……!)
お母様と違って国を出ていく私には、ここから国民の幸せを願うことくらいしか出来ない。
(どうか、アピリンツの国民は……国民だけは……)
私は両手を組んで胸の前で握りしめる。
この先、アピリンツ国がどうなるかは今後の話し合い次第。
だけど、どうか罪の無い人たちまでもが苦しむようなことにならないようにと強く願った。
「───すまない、クローディア。少し話がしたいのだが……」
「え?」
これで、色々な決着がついたのかなと思ったその時。
神妙な顔をしたお祖父様が私に声を掛けてきた。
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