【完結】没落寸前の貧乏令嬢、お飾りの妻が欲しかったらしい旦那様と白い結婚をしましたら

Rohdea

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第16話

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「久しぶりねぇ、ギルバート」
「……王女殿下もお変わりなくお過ごしのようで何よりです」

  ランドゥルフ伯爵家にとうとう王女様がやって来た!
  私は旦那様(仮)の後ろで静かに控えながら、内心は初めて姿を見た王女様に大興奮していた。

  (本物!  本物よ!!  噂に違わずなんて美しいのかしら!!)

「変わりないですって?  まさか、あなたにはわたくしがそう見えて?」
「……はい」
「ふ、ふふ、そうですの……」

  ───ピシッ

(……んん?  何か空気にヒビが入った気が……)

  さすがに再会するなり、いきなり目の前で、
「王女殿下!」「ギルバート!」なんて互いを熱く求め合うラブシーンが勃発するなんて思ってはいなかったけれど、想像ともちょっと違う二人の空気感に戸惑いを覚えてしまった。

  (旦那様(仮)の声がどことなく冷たい気も……)

「……ねぇ、ギルバート?  何でもあなた、わたくしの騎士を辞めた後に結婚したと聞いたわ」
「はい。そうですね。ですから、今は新婚なので、妻とゆっくり過ごしたかったのですが?」
「…………王都にいる間は常にわたくしの事を考え、常にわたくしの為にだけ生きて来たギルバートですもの。まさか領地に帰ってこんな直ぐに結婚するようなお相手がいたなんて知らなかったわ!  それも、男爵家の令嬢とか……」

  (…………んん?  気の所為かしら?  言葉の節々に棘を感じるような……)

「……殿下。妻を馬鹿にするのはやめてもらえますか?  領地に戻ってからの出会いではありますが、私は運命の出会いだったと思っております」
「は?」
「妻は、私には勿体ないくらいの素晴らしい女性ですので」
「!」

  ───ピシッ

  (……ええ!?  また!?)

  またしても、空気が凍る。
  それと、旦那様(仮)が何故か私をべた褒めしていて困るわ……どうして……

「へ、へぇ……なら、あなたのような堅物男がそこまで言う、運命とやらの芋……奥様を、是非、わたくしに紹介してもらえるかしら?」
「…………アリス」

  (来たわ!)

  旦那様(仮)に促されて私はそっと前に進み出て挨拶をする。

「殿下、こちらが私の妻のアリスです」
「初めてお目にかかります、ユーリカ王女殿下。ランドゥルフ伯爵の妻、アリスと申します」
「……芋」

  (……いも?)

「い……ランドゥルフ伯爵夫人。確か、ご結婚前もわたくしとお会いしたことは一度もありませんわよね?」
「はい。本日が初めてです。お目にかかれて光栄です」
「ふーん……」

  王女様は上から下までじっと私の事を見ている。
  そんな王女様の私へと向ける視線は、やっぱりとても鋭い気がする。
  顔も微笑んではいるように見えるけれど、広げた扇の向こうの口元は笑っていないと思われた。

  (だって当たり前。私は王女様の想い人の“妻”ですもの)

  王女様の婚約者である王子様がこの場にいなければ、私はあなたの為のお飾りの妻なんです!  と説明出来るのに。

  (そう言えば、婚約者の隣国の王子様はどんな方なのかしら?)

  そう思って私はそろっとまだ一度も言葉を発していない王子様の方視線を向ける。

  (……!  なんて端正な顔立ち、女性にモテそうな甘いマスク………………ん?)

   この方、どこかで見覚えが…………ある?
  もう一度よく見ようと思って視線を向けるけれど、うまく見えない。

  (あぁ、もう!  俯かれていて表情がよく見えないわ……そこ!  そこよ、そう。顔を上げて!  そっと角度をもう少し上げて……)

  と、私は念力の様なものを王子様に送る。
  すると、私が王子様に念力を送っているのがバレてしまったのか王女様がこちらに視線を向け微笑んだ。

「あら?  奥様はわたくしの婚約者の殿下の事が気になっているご様子ですのね?」
「え……」

  気の所為かしら?
  王女様の目付きが“これだから、男好きな女は”と言っているような……
  いえ!  こんなに美しい我が国の王女様ですもの。そんな事は決して言わないわ! 
  私の考えすぎよと、自分に言い聞かせる。

「ふふ、それならば、紹介して差し上げましょう。ギルバートも初めて会うのかしら?  わたくしの婚約者のサティアン殿下ですわ」
「───っ!!」
   
  王女殿下の声を受けて顔を上げた隣国の王子様の顔を見た瞬間、私は大きな悲鳴を上げそうになってしまった。

  (────サティさん!?  サティさんよね?  あ、れ?  でも、髪の色が違う??)

  まさかのそっくりさん!?  
  どういう事!?  
  私はサティアン殿下から目が離せなくなってしまった。

  そんな私の様子を見ていた王女様が、ふふっと笑みを浮かべながら言った。
  そして、やはり飛び出す言葉にはどこか棘があるような気がする。

「ふふふ、ギルバート。あなたの奥方はわたくしの婚約者へとーーっても熱い視線を送っていますわよ?  男性を見たら色目を使うような方なのかも。それとも、もしかして彼に、一目惚……」
「……アリスが熱い視線を?」

  旦那様(仮)が驚いたように振り向いて私の顔を見る。
  その目は、怖いくらい真剣だった。
  勘違いされては困るので私はじっと旦那様(仮)の目を見つめて「違うわ」と返す。

  (旦那様(仮)になら言葉にしなくても伝わると思うの!)

「……(アリス……まさか、本当に……?)」
「……(違いますわよ!  旦那様(仮)!)」

  無言の会話が開始した。

「……(理由は不明ですが、何故か殿下がサティさんなのです!)」
「……(いや、アリスの事だ。絶対にぽやんと違う事を考えている!)」
「……(でも、髪色が違うんですの。どうしてかしら?)」
「……(絶対に色恋の目線ではない!  他の何かだ!!)」

  私達の見つめ合ったままの無言の会話は続く。

「……(旦那様(仮))」
「……(アリス……)」

  そうして旦那様(仮)は私との無言の会話を終えると軽く頷き、王女様の方に視線を戻しながらはっきりと言った。

「いえ、王女殿下。我が妻は、そのような疚しい気持ちを決して抱いてはいないようです。ですので、ご安心下さい」
「は?  な、何で分かるんですの!?  あなた達、今、一言も会話をしていなくってよ!?」

  その質問に旦那様(仮)は少しだけ微笑む。

「妻の考えている事ですから……分かりますよ(だってアリスはいつだって斜め上思考なんだ)」
「ギルバート……あなた今、笑っ!?」

  旦那様(仮)の笑った顔を見た王女様の美しい顔が歪んだ。

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