【完結】婚約発表前日、貧乏国王女の私はお飾りの妃を求められていたと知りまして

Rohdea

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48. 息子の結婚

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 そんなこんながあり、エドゥアルトが無事に結婚式を挙げた夜。
 私とエリオットは部屋で祝杯をあげた。

「ほっほっほ!  エドゥアルトにお嫁さんよ~~、めでたいわ~~」
「ウェンディ、飲みすぎだぞ」
「いいのよ~~~~、今日はめでたい日だもの」

 お酒を手にしながらニヘッと笑う私にエリオットがやれやれと肩を竦める。

「三十五回もお見合い失敗した時は永遠に独身かもと覚悟したけど……」

 結婚式でエドゥアルトの幸せそうな顔を見ていたら私の方が泣きそうになった。

「それにしても、エドゥアルトがあんなにガッチガチに緊張するなんて驚いたわ」
「ああ、そうだな」
「あの子もちゃんと人間だったのね」

 エリオットが苦笑しながらも頷く。

「────なかなかの引きずり具合だったな」
「ええ、夫の引きずり方を伝授した甲斐があったわ」

 変わった性癖も嫌悪することなく受け入れてくれて、素直にアドバイスにも従う。
 そして何よりあの強さ。
 レティーシャさんは理想のお嫁さん。

「彼女ならエドゥアルトと切磋琢磨して、きっとコックス公爵家を更に盛り上げていってくれるわ!」
「ウェンディ……」
「ギルモア家と結託して王家より強くなってもいいかもしれないわね!」

 私がほっほっほっ!  と笑うとエリオットもククッと笑った。

「陛下が泣くぞ?」
「大丈夫よ。カスなお兄様の失脚後、誰があの子を鍛えたと思ってるの?」
「まあ、陛下のことを“あの子”と呼べるウェンディ、君だけだろう」
「ふふふ、カスにはならなかった可愛い弟ですもの────」

 ふふっと笑いながらグラスの中のお酒をグイッと飲み干す。
 まだ、小さかった弟には色々おしつける結果にはなってしまったけれど、カスとは似ても似つかない王様になってくれたことは嬉しい。

(こうして……子ども世代、孫世代へとどんどん時は流れていくのねぇ)

 孫……と考えた所で、あのギルモア家の小さなベビーを思い出した。
 今日のエドゥアルトの結婚式。
 あの子は“お兄さんに何かあったらボクがお兄さんの身代わりするです”と言わんばかりの格好で現れた。

「そういえば、あのベビー───……ジョシュア・ギルモアが服に付けてた大きなリボンはなんだったのかしら?」
「ん?  ああ、あの存在主張の激しかったリボンか」
「パーティーでも付けてたかしら」

 まるでミニ花婿のようなキッチリした格好の中であのリボンは一際目立っていた。
 なんなら皆、あのベビーのリボンを見て少しザワザワもしていたくらい。

「でも、あのリボン……あの子のニパッとした可愛い笑顔と妙に合うのよね」
「自分の可愛さを計算した上でのあの大きさだったらすごいな…………まあ、まさかそんなことは……」
「無い!  と思いたいけど、あの子はジョシュア・ギルモアなのよ」
「……」
「その辺の赤ん坊と一緒にはくくれないわよ」
「……」

 私が鼻でフッと笑うとエリオットが押し黙る。

「この先、もしエドゥアルトに子どもが出来たら同世代になるのよね?」
「あの子にはちゃめちゃに振り回されるんだろうか……」

 エリオットの呟きが冗談には聞こえない。

「こうなったら────負けないくらい強い子に育てましょう」
「え?」
「まだ、気は早いけど孫は男でも女でも───“ジョシュア・ギルモア”に負けないくらい強い子に私たちの手で育て上げるのよ!」
「ウェンディ……」

 まだ、誕生の兆しすらない孫を思ってグラスの中のお酒を飲み干した。




 そして翌朝。

「……頭が痛いわ」

 私がガンガンする頭を押さえて食事部屋のテーブルに突っ伏していたら、上からエリオットの呆れた声が聞こえた。
  
「だから、飲みすぎるなと言っただろう」
「うぅ……」
「君は昔からお酒には強くないんだ」
「…………エリオット」

 相変わらず私のことを何でも分かってくれている夫の言葉に、こんな状態だけど嬉しくなってしまう。

「なんで笑うんだ?」
「ほっほっほっ……そうね。あなたの下僕体質が嬉しくて幸せだから……かしら?」
「なっ……」

 すると、そんなやり取りをしていた私たちの所にナンシーが駆け込んできた。

「旦那様、奥様!  エドゥアルト坊っちゃまと若奥様がこちらに向かってきています!」
「───!」

 その声にハッとして私は起き上がる。
 エドゥアルトの母として、そして公爵夫人としてこんなグダグダした姿を二人に見せるわけにはいかない。

(何より……)

 昨夜は夫婦の新婚初夜!
 きっと幸せいっぱいの二人に二日酔いの顔を見せて心配させるわけにはいかないわ!
 そう決めてシャンッと背筋を伸ばした。




「おはよう、エドゥアルト。そしてレティーシャさん」
「お、おはようございます!」

 余裕のある微笑みを浮かべながら二人を出迎えた。
 しかし、気のせい?  エドゥアルトが少しぼんやりしているように見える。

(まさか、初夜でなにか……?)

 そう考えるもレティーシャさんの明るい様子を見る限りは、を過ごしたように思える……

(なら、私の気にしすぎかしら?)

 そう思うことにした私はレティーシャさんに声をかけた。

「改めて、我が家にようこそ」
「お、お義母……さま!」
「!」

(キ、キタキタキタキタキターーーー!)

 レティーシャさんに“お義母さま”と呼ばれた!
 ようやく……ようやくこの日が……!!
 私は内心で踊り狂いたいほど感激した。
 しかし、公爵夫人としていきなりここで踊り狂うわけにはいかないので我慢する。

(落ち着くのよ私……ところでエドゥアルトは───)

 私はエドゥアルトに視線を向けた。
 いつもなら、

『やあやあやあ、父上、母上、おはよう!』
『今日も爽やかな一日の始まりだ!』

 とかなんとか言ってくるのに今日は何故か大人しい。
 これは───……

(昨晩の幸せな気分に思いを馳せているのかも!)

「ふふふ、朝からエドゥアルトがこんなに静かだなんて…………ねえ、あなた」
「ああ。いつもなら朝から、どこにそんな元気があるんだと言わんばかりにペラペラ喋るのに」

 エリオットに同意を求める。
 どうやら同じことを思っていたようで深く頷いてくれた。

「本当にレティーシャさんと出会ってからのエドゥアルトは面白いわね」
「ギルモア家の嫡男に出会った時を思い出す」
「ええ。あれも面白かったわね────“ともだちとはふむものだった!”とか言い出して」

(懐かしいわ……)

「ボクはおもいっきりふまれた!  これはもうしんゆーだ!  とか言い出していたな」

 エリオットが思い出し笑いをする。これは珍しい。
 でも、気持ちは分かる。
 だって本当に可愛かったから。
 そんなエドゥアルトが大きくなってついにお嫁さんを迎えて……

 なんて幸せな気分に浸っていると、レティーシャさんの身体がプルプル震えていた。
 ハッとそれに気付いたエドゥアルト。
 ようやく口を開いた。

「……レティーシャ。念の為に聞く。それはなんの震えだ?」
「もちろん!  エドゥアルト様の可愛さに、ですわっっ!」

 レティーシャさんは悶えながらも満面の笑みで答えていた。

(いい感じ!  これなら孫の顔が見られる日も近いかも───…………)


 ……そう思ったのに。


「……」
「ウェンディ。その、大丈夫……か」

 エリオットがそっと優しく私の肩を揺する。

「……」

 エドゥアルトたちは、これからギルモア家に行くという。
 朝食を終えて部屋を出ていった二人を見送った後、私は再びテーブルの上に突っ伏した。

「…………ほっほっほ…………笑劇が強すぎて酔いが一気に冷めたわぁ」
「そう……か」

 私を立ち直らせようとしているエリオットの声だって震えている。

「ボケ倒すエドゥアルトの突っ込み役だとばかり思っていたレティーシャさんが……」
「ああ、俺も驚いた」
「…………まさか、初夜の作法を……うぅぅ……」

 ────大丈夫です!  お母様からしっかり聞いています!

(そう言っていたのに……)

 ────その……少し、恥ずかしいですわね

(なんて、照れながらはにかんでもいたのに……)

「まさか、曖昧な知識しか持っていなかったなんてぇぇぇーーーー」
「ウェンディ……!」


 息子夫婦のドキドキ新婚初夜は、想像と違った夜を過ごしていた。
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