【完結】初恋の彼が忘れられないまま王太子妃の最有力候補になっていた私は、今日もその彼に憎まれ嫌われています

Rohdea

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第16話 奇跡を起こせるのなら

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   ───エリーシャ!! 


   ─────エリーシャ!!  頼む!  目を覚ましてくれ!!



  …………遠くでフィリオの必死な声が聞こえる。
  ううん、必死……と言うよりも泣いている声、な気がする。

  (どうしてそんな悲しい声を出してるの?  あなたに何があったの??)

  薄ら目を開けると、涙で顔をグチャグチャにしたフィリオの顔が見えた。
  そして、何故かフィリオは頭から血を流しているようだった。


  (……あぁ、やっぱりあなたは泣いていたのね?  それに怪我をしてる……?)


   ────エリーシャ、エリーシャ!!


  それでも、フィリオが私の名前を呼ぶ声は止まらない。

  流れる涙も頭から流れている血にも構わず、ただひたすらずっとフィリオは私の名前を呼び続けていた。

  おかしな夢だわ。フィリオが泣いてる所なんて初めて見たもの。
  たとえ夢でも好きな人に泣かれてしまうのは嫌なものね。
  それにその怪我……心配だわ。

  だから、私はそっと手を伸ばしてフィリオの目から流れる涙を拭ってみた。

  夢なのに何故かリアルな感触がして不思議だった。

  夢の中だけででも構わないから伝えてもいいかしら?
  現実の私はもうあなたに伝えられそうにないもの。


「フィ……リオ……好きよ……私、今でも、ずっとあなたが……」

  ──エリーシャ!?

「あなた、の事だけが……好きだったの……」

  ──おい、エリーシャ!


  そう告げるだけ告げて私の意識は、またそこで途絶えた。











  ────!!

  私はハッと目を開けた。
  見覚えのある天井。ここは……

「私……の部屋?」

  そう私が呟くと、「エリーシャさん! 気が付かれたのですか!!」と言った声が耳元で聞こえた。
  
「気が……?」

  一体何の事を言われてるのか分からない。

「あぁ、記憶が混乱してますね……無理もないです……頭は打っていなくてもショックは大きいはずですもの。待っててください!  今、先生を呼んできますから!」

  ……ローラン公爵子息……フィリオ?

  何の話──……

  と、そこまで考えてハッと思い出した。

  私はカレンに階段から突き飛ばされた……はず。
  完全に油断していた私は受け身も取れずに投げ出された……はずだったのに。

  なぜか自分の部屋で寝かされている。

  ───どういう事?

  身体……どこも痛くない。頭も。

  ドクンッ

  心臓が嫌な音を立てた。

  どうして?  

  まさか、まさかという思いが私の頭の中を駆け巡る。
  あのリアルな夢……泣きながらフィリオは血を流してた……

「……夢、じゃなかった……?」

  まさか、あれは……!

  そこまで考えた時、ノックと共に医師らしき方がさっき傍らにいた女性と一緒に部屋に入って来た。

「良かった、目を覚まされたのですね」
「!」
「エリーシャさん、覚えてますか?  あなたは、階段から落下しました」
「……」

  私は無言で頷く。正確には突き落とされただけど、落下は落下。

「ですが、あなたは無傷です。ショックで意識を失っていたようですが」
「……どうして、私は無傷なんですか?」

  聞かなくても答えは分かる気がしたけれど、聞かずにはいられなかった。

  先生は悲しそうに微笑んだ。

「薄らでも覚えていませんか?  あなたを庇い助けた人がいたからですよ」

  (あぁ、やっぱり……)

  フィリオだ。どうしてあの場に来れたのかは分からないけど、フィリオが私を助けたんだ。

「……助けてくれた彼、ローラン公爵子息……フィリオ様は今、どこに……?」
「…………」

  何故か先生が黙る。
  それだけで嫌な予感がした。

「彼はあなたを庇った後──……」

  そうして告げられた言葉に私は目眩を起こしそのまま倒れそうになった。



















  に私が訪ねる事が出来たのは事故から1週間が経ってからだった。

  目覚めた後、聞かされた話にショックを受け再び倒れそうになった私は絶対安静を言い渡され部屋から出る事が出来なかったから。
  そして今、ようやく出歩く事を許された。


  コンコン
  私は扉をノックすると、中から「どうぞ」という声が聞こえた。

「失礼します」

  部屋の中にはあの日から目を覚まさず眠ったままのフィリオと、アラン殿下がいた。

「エリーシャ嬢、もう大丈夫なのか?」
「おかげさまで、部屋から出る許可を頂きましたので……やっと会いに来れました」
「そうか……私も君の見舞いに行けず申し訳ない。許可が降りなくてな」
「構いませんよ。私は無傷だったんですから」

  今もそこで眠るフィリオのおかげで。

「フィリオは……」
「まだ、目を覚まさない」
「そう、ですか」
「階段から投げ出された人間を庇って助けようとしたんだ。無傷でいられるはずが無い」
「……」
「それでもフィリオは君を助けたかった」
「……」
「あの日、マリアンナの毒殺未遂の犯人がエリーシャ嬢にされているとフィリオに告げた時、アイツは顔を真っ青にして“エリーシャが危ない”そう言って部屋から駆け出した」

  あの時、どうしてあの場に辿り着けたのかは分からないけど、カレンに突き飛ばされて階段から投げ出された私をフィリオは助けようとして私の下敷きになったらしい。

  私はフィリオのおかげで無傷だったけど彼は違う。
  その際の衝撃で頭を打っていた。
  だけど、フィリオは自分の方こそ怪我をしてるのに意識のない私を必死に呼び続け、一瞬だけ意識を取り戻した私を見て安堵した後、自身もそのまま意識を失って倒れたらしい。

  …………そしてフィリオはそれから目を覚ましていない。
  今後、彼がどうなるかは……分からないと医師は言っている。

「君を突き飛ばしたあの女が全てを吐いたよ」
「え?」
「あの日の毒物混入も彼女の仕業で、全てクレア侯爵令嬢の命令だったと」
「!」
「フィリオが駆けつけたおかげで彼女達の計画は狂ったみたいだ」

  アラン殿下が静かにそう語り出した。
  部屋から出られなかった私はその後の詳細を聞いていなかったので、それはずっと気になっていた事だった。

「クレア侯爵令嬢の元に徹底的な調査が入ったよ」
「それでは……」
「あぁ、今まで証拠が無かったから監視するしか出来なかったがようやく屋敷に踏み込めた。クレア侯爵令嬢だけじゃない。カーライル侯爵家、全体で罪を働いていた」

  殿下のその言葉に驚いた。でも、納得した部分もある。

「カーライル侯爵家は何がなんでもクレア嬢を王太子妃にしたかったらしい。その為に最有力候補と言われていて邪魔だったエリーシャ嬢、君を陥れる計画を彼らは時間をかけて念入りに立てていた」
「マリアンナ様が標的になったのは?」
「クレア嬢自身は、王太子妃の座どうこう以前から個人的にマリアンナに恨みを抱いていたそうだ」
「……」

  だから、私を陥れるのにマリアンナ様が利用されたのか。
 
  (ならばきっと、ようやく思い出した犯人もクレア様だったんだわ……マリアンナ様は多分、長い間、嫌がらせを受けていた……)

「関係者は全員捕まえて今は尋問中だ。もちろん然るべき処罰を与える。エリーシャ嬢、君も被害者の一人だ。望みがあれば言ってくれ」
「……」

  私は首を横に振った。
  正直、今は何も考えられない。
  だけどフィリオがこのまま目覚めなければ、私は極刑を望むだろう。

「そうか。何かあればいつでも言ってくれ」
「分かりました」

  私がそう答えるとアラン殿下は悲しそうな顔をして私にある物を差し出した。

「?」
「……フィリオが意識を失う直前まで握りしめていたそうだ……とても大事そうに」
「これ!」
「エリーシャ嬢、これは君のだな?」

  それは、あの事故の日、私が部屋に戻って来て話をすると言ったフィリオに見せたくて髪に差していたあの髪飾り。
  目覚めた後、見当たらなかったからてっきり壊れて捨てられたものだとばかり……

「……フィリオから、貰った……ものです」

  涙で声が震えた。
  
「だろうな。にも覚えがある。エリーシャにプレゼントして告白するんだってフィリオに見せられたからな」
「……」
「懐かしいな。あの頃のフィリオは本当に本当にエリーシャの事が大好きで……ってそれは俺が言わなくても知ってるか……」
「……知ってます」

  私が頷くと殿下は静かに笑った。
  アラン殿下が、自分を俺と言い、私の事をエリーシャと呼び捨てにするのを聞いたのは何年ぶりだろう?
  殿下とフィリオと私の3人で遊んでた頃以来かもしれない。

「さて。フィリオも俺の看病よりエリーシャに看病される方が嬉しかろうよ」
「え?」
「俺は、奴らを裁く準備をしないといけないからな」

  そう言ってアラン殿下は「フィリオを頼む」とだけ言ってそのまま部屋を出て行った。







「……」

  部屋の中では眠ったままのフィリオと私だけ。

「フィリオ……」

  そう呼ぶも反応は……無い。
  あなたはあの時、この髪飾りに気付いてくれたのね?
  大事そうに握りしめていたなんて……

「あなたは大馬鹿者よ……」

  私を助けて自分の方が重症を負って……

「ねぇ、フィリオ。あなたが話したかった事って何だったの?」

  そう問いかけても彼は答えない。

「あなたは……私を憎んでた?  嫌ってた?  それとも……」

  ──私と同じ気持ちだった?

「答えてよ、フィリオ!!  目を覚まして話を聞かせてよっ!」

   気付くと私は、フィリオの眠るベッドの傍らで泣き叫んでいた。

「……あなたの3年間を教えてよ!!」

  ──どんな話でも受け止めるから……だから……目を覚ましてよ!





────────


───……



「エリーシャはまた、その本を読んでるのか?」
「フィリオ!」

  私が本を読んでいるとフィリオがちょっと呆れた顔で声をかけて来た。

「そうよ。だってこの話、大好きなんだもの!」
「……何だっけ?  眠り続けるお姫様に王子がキスをして起こすんだったか?  そんな夢物語あるわけないだろ?」
「いいのよ!  そこがいいの!  愛が奇跡を起こすのよ!!」

  私がキラキラした顔でそう力説すると、フィリオは「エリーシャのそんな所も可愛いけどさぁ」とぶつくさ言いながらも笑ってくれた。

「だからね、フィリオ。もし私が眠り続けてしまうような事になったらキスをして起こしてくれる?」
「えー?  そもそもどんな事態だよ、それ」
「むー。分からないけど!  でも、何でそんな顔をするのよ。王子様の役はフィリオしかいないのよー?」
「それはそうだけどさぁ……」

  フィリオはどこか不満そうだった。

「……眠ってないとキスしちゃダメなのか?」
「え?」
「眠ってなくてもエリーシャにキスしたい」
「!?」

  そう言ってフィリオは私の顎に手をかけて──……




───


───────……




「…………夢?」

  どうやら私は泣きすぎてそのままベッドの傍らで突っ伏したまま眠っていたらしい。

  懐かしい夢を見た。
  ふふ、確か、あの後あれよあれよとフィリオに迫られたんだったわね。
  幸せだったな……


  (懐かしくも戻らない日々……ってそれよりも!)


  慌ててフィリオの様子を見るけれど、変わった様子は見られない。

「ねぇ、フィリオ。愛が奇跡を起こすんですって……」

  ──あなたは呆れていたけれど。
  あの話は王子様からお姫様へのキスだったから、ちょっと違うけれど。
  それでも──……


「フィリオ……好きよ。あなたが好き。だからお願い……」


  目を覚まして───


  そんな願いを込めながら、私はそっとフィリオに顔を近付けて自分の唇を重ねた。

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