8 / 28
第七話
しおりを挟む……計画?
今、お姉様は“計画”と言ったわ。
お姉様は何を考えているのかしら……?
何だか目の前のお姉様が不気味で仕方ない。
私を睨んだ後のお姉様は、今度は何やら呟き始めた。
「……で、ジーク様は…………なはず…………だったのに……」
お姉様の呟く声は小さすぎてうまく聞き取れなかった。
ジークフリート様に関係のある事を呟いているのが分かったから、どうしても気になってしまう。
そんなお姉様を黙って見ていたら、ようやく顔を上げたお姉様と再び目が合った。
「ねぇ、リラジエ? どうしてお役目を果たしてくれないの?」
「お役……目?」
突然投げ掛けられたお役目という言葉。意味が分からなくて私は戸惑う。
何の話なの?
理解出来ていない私に腹が立ったのかお姉様は怒鳴った。
「だから!! アンタは私の引き立て役なんだから、その役目を果たしなさいって言ってるの!! なんで分からないのよ」
(お姉様は何を言って……?)
「私ね? いつだったかしら? アンタを見ていて思ったのよ。私は一人でも充分過ぎるくらい美しいけど、そこに引き立て役がいたらもっともっと美しく見えるのではないかしらって」
お姉様はニッコリと毒薔薇の微笑み全開でそんな事を言った。
「だから、リラジエには私の引き立て役として、そのお役目を果たして貰わないと困るのよ。分かるでしょ?」
「…………」
余りの傍若無人な発言に私は言葉を失っていた。
──てっきり、私に元恋人を紹介してくるのは、お姉様が捨てた男の人達に笑われバカにされて相手にもされない私を見て楽しんでいるだけだと思っていた。
でも、それだけじゃなかったんだ……!
「他の男達には、うまくいったのよ」
「……」
「みーんな、アンタを紹介した後は、やっぱり私が良いって言ってくれたの……でも……」
もちろん、寄りなんて戻さないけどね! とお姉様は笑いながら言った。
お姉様はどこまで人の気持ちを弄んでいるの……?
何だか悲しくなった。
「だからね? リラジエ。今からでも遅くないと思うのよ。アンタからも言ってちょうだいな? ジーク様に私と……」
「嫌! 絶対に嫌!!」
私はお姉様の言葉を遮るかのように叫んだ。
お姉様が何を言いたいのかはよく分かったわ。
だけど、そんなの絶対に嫌!!
「私はお姉様の引き立て役なんかじゃないもの!!」
以前の私ならきっとこんな反論しなかった。
だけど、黙っていられない。
だって、ジークフリート様は、こんな私を可愛いと言ってくれた!!
たくさんお世辞……は入っているかもしれないけれど、それでも!
初めてあんなに私の事を“可愛い”と言ってくれた人の言葉を信じたい!
「………………はぁ? アンタ、何を言ってるの?」
お姉様が怪訝そうな顔を私に向ける。
「何を言われても……嫌なものは嫌!」
「だから! 口答えするんじゃないわよ! 言ったでしょ? アンタなんかに彼は無理だって!」
「……!」
「もちろん、私が言いたいのはリラジエとジーク様じゃ全然釣り合ってないって事も含めて言っているのよ? 釣り合わないのに一緒にいるのって大変だもの。だから私は心配して言ってあげてるのに。なんで分からないのかしら」
「っ!」
そんな事は言われなくても私が1番分かっているわ。
……それでも、私は……!
「ジーク様と並んでも見劣りしない女性なんて私くらいでしょ? だからアンタには無理なの。だからさっさと……」
お姉様は身勝手過ぎるわ!! そう思った。
そもそも、ジークフリート様に飽きたからと。
いらないからと言って私に押し付けようとしたのはお姉さまの方だ!
それを何を今更……!
「無理かどうかを決めるのはお姉様では無いわ!」
正直に言っても、今の私とジークフリート様の関係が何? と問われてもきっと上手く答えられない。
ただの知り合い? 友人? ……恋人候補?
分からないけど。
でも、無理だとか釣り合わないとか、そんな事はお姉様が決める事ではないもの。
私とジークフリート様の問題なのよ。
たとえ、お姉様が彼の“元恋人”という肩書きがあっても、それはもう終わった事なのだから、邪魔なんてされたくない!
「な! 生意気言うんじゃないわよっ!!」
「生意気ではありません! 本当の事を言っただけです!」
「はぁ!? ……な、な、なんなのよ! …………調子に乗って! リラジエのくせにっ!」
いつも、しぶしぶ従うか黙っているだけだった私の初めての反論に、お姉様は少し戸惑っているように見えた。
最近……いや、ジークフリート様のおかげで知ったけれど、お姉様は予想と違う事をされると、すぐうろたえる所がある気がする。今もまさにそうだった。
「…………後悔させてあげるわ」
しばらく喚いた後、お姉様が震える声で私を睨みながらそう言った。
「え?」
「え? じゃないわよ! 私に逆らった事。後悔させてあげるわって言ってるのよ!」
──覚悟しなさい!
お姉様はそう言って私をひと睨みした後、部屋に戻って行った。
(後悔させてやる? いったいどうやって?)
でも、あのお姉様の事だもの……
何を言い出し、しでかすかは分からない。
だから今までは何を言われても逆らわずに過ごして来たのに。
でも、今回の話だけは聞けなかった。
「……だって、嫌だったんだもの」
◇◇◇
「え? 私の社交界デビューのエスコート?」
お姉様の物騒な予告から、はや数日。
これと言った事も何も起きないまま、とりあえず日々だけが過ぎて行った。
そしてその日、お父様は私に言った。
「そうだ。何故か分からんが……フェルスター侯爵家のジークフリート殿がお前のエスコートをしたいと申し出ているんだ。お前、ジークフリート殿と知り合いだったのか?」
「そうですか。エスコート………………えぇ!?」
ジークフリート様!? あなたは今度は何を言い出したの……!
…………本当にジークフリート様は私の心臓を止める気なのかもしれない。
心の底からそう思った。
136
あなたにおすすめの小説
可愛い妹を母は溺愛して、私のことを嫌っていたはずなのに王太子と婚約が決まった途端、その溺愛が私に向くとは思いませんでした
珠宮さくら
恋愛
ステファニア・サンマルティーニは、伯爵家に生まれたが、実母が妹の方だけをひたすら可愛いと溺愛していた。
それが当たり前となった伯爵家で、ステファニアは必死になって妹と遊ぼうとしたが、母はそのたび、おかしなことを言うばかりだった。
そんなことがいつまで続くのかと思っていたのだが、王太子と婚約した途端、一変するとは思いもしなかった。
私から婚約者を奪うことに成功した姉が、婚約を解消されたと思っていたことに驚かされましたが、厄介なのは姉だけではなかったようです
珠宮さくら
恋愛
ジャクリーン・オールストンは、婚約していた子息がジャクリーンの姉に一目惚れしたからという理由で婚約を解消することになったのだが、そうなった原因の贈られて来たドレスを姉が欲しかったからだと思っていたが、勘違いと誤解とすれ違いがあったからのようです。
でも、それを全く認めない姉の口癖にもうんざりしていたが、それ以上にうんざりしている人がジャクリーンにはいた。
私を溺愛している婚約者を聖女(妹)が奪おうとしてくるのですが、何をしても無駄だと思います
***あかしえ
恋愛
薄幸の美少年エルウィンに一目惚れした強気な伯爵令嬢ルイーゼは、性悪な婚約者(仮)に秒で正義の鉄槌を振り下ろし、見事、彼の婚約者に収まった。
しかし彼には運命の恋人――『番い』が存在した。しかも一年前にできたルイーゼの美しい義理の妹。
彼女は家族を世界を味方に付けて、純粋な恋心を盾にルイーゼから婚約者を奪おうとする。
※タイトル変更しました
小説家になろうでも掲載してます
姉と妹の常識のなさは父親譲りのようですが、似てない私は養子先で運命の人と再会できました
珠宮さくら
恋愛
スヴェーア国の子爵家の次女として生まれたシーラ・ヘイデンスタムは、母親の姉と同じ髪色をしていたことで、母親に何かと昔のことや隣国のことを話して聞かせてくれていた。
そんな最愛の母親の死後、シーラは父親に疎まれ、姉と妹から散々な目に合わされることになり、婚約者にすら誤解されて婚約を破棄することになって、居場所がなくなったシーラを助けてくれたのは、伯母のエルヴィーラだった。
同じ髪色をしている伯母夫妻の養子となってからのシーラは、姉と妹以上に実の父親がどんなに非常識だったかを知ることになるとは思いもしなかった。
姉に婚約破棄されるのは時間の問題のように言われ、私は大好きな婚約者と幼なじみの応援をしようとしたのですが、覚悟しきれませんでした
珠宮さくら
恋愛
リュシエンヌ・サヴィニーは、伯爵家に生まれ、幼い頃から愛らしい少女だった。男の子の初恋を軒並み奪うような罪作りな一面もあったが、本人にその自覚は全くなかった。
それを目撃してばかりいたのは、リュシエンヌの幼なじみだったが、彼女とは親友だとリュシエンヌは思っていた。
そんな彼女を疎ましく思って嫌っていたのが、リュシエンヌの姉だったが、妹は姉を嫌うことはなかったのだが……。
姉の歪んだ愛情に縛らていた妹は生傷絶えない日々を送っていましたが、それを断ち切ってくれる人に巡り会えて見える景色が様変わりしました
珠宮さくら
恋愛
シータ・ヴァルマは、ドジな令嬢として有名だった。そして、そんな妹を心配しているかのようにずっと傍らに寄り添う姉がいた。
でも、それが見た目通りではないことを知っているのといないとでは、見方がだいぶ変わってしまう光景だったことを知る者が、あまりにも少なかった。
旦那様が遊び呆けている間に、家を取り仕切っていた私が権力を握っているのは、当然のことではありませんか。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるフェレーナは、同じく伯爵家の令息であり幼馴染でもあるラヴァイルの元に嫁いだ。
しかし彼は、それからすぐに伯爵家の屋敷から姿を消した。ラヴァイルは、フェレーナに家のことを押し付けて逃げ出したのである。
それに彼女は当然腹を立てたが、その状況で自分までいなくなってしまえば、領地の民達が混乱し苦しむということに気付いた。
そこで彼女は嫁いだ伯爵家に残り、義理の父とともになんとか執務を行っていたのである。
それは、長年の苦労が祟った義理の父が亡くなった後も続いていた。
フェレーナは正当なる血統がいない状況でも、家を存続させていたのである。
そんな彼女の努力は周囲に認められていき、いつしか彼女は義理の父が築いた関係も含めて、安定した基盤を築けるようになっていた。
そんな折、ラヴァイルが伯爵家の屋敷に戻って来た。
彼は未だに自分に権力が残っていると勘違いしており、家を開けていたことも問題ではないと捉えていたのである。
しかし既に、彼に居場所などというものはなかった。既にラヴァイルの味方はおらず、むしろフェレーナに全てを押し付けて遊び呆けていた愚夫としてしか見られていなかったのである。
妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!
石のやっさん
恋愛
マリアはドレーク伯爵家の長女で、ドリアーク伯爵家のフリードと婚約していた。
だが、パーティ会場で一方的に婚約を解消させられる。
しかも新たな婚約者は妹のロゼ。
誰が見てもそれは陥れられた物である事は明らかだった。
だが、敢えて反論もせずにそのまま受け入れた。
それはマリアにとって実にどうでも良い事だったからだ。
主人公は何も「ざまぁ」はしません(正当性の主張はしますが)ですが...二人は。
婚約破棄をすれば、本来なら、こうなるのでは、そんな感じで書いてみました。
この作品は昔の方が良いという感想があったのでそのまま残し。
これに追加して書いていきます。
新しい作品では
①主人公の感情が薄い
②視点変更で読みずらい
というご指摘がありましたので、以上2点の修正はこちらでしながら書いてみます。
見比べて見るのも面白いかも知れません。
ご迷惑をお掛けいたしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる