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第六話
しおりを挟む「ま、満足って……!」
「うん。だって僕はリラジエのそんな顔が…………笑顔が見たかったんだ」
「!?」
「本当だよ」
そう言いながら、ジークフリート様の手が私の頬にそっと触れる。
「……ひゃ!?」
びっくりして思わず変な声が出てしまったわ。
ジークフリート様も私の声にちょっとびっくりした顔をしていた。
「ジ、ジークフリート……様? あ、あの、この手は……?」
何だかとっても……し、心臓に悪いのだけど……!
戸惑う私を見ながら、ジークフリート様はフッと微笑んだ。
「……リラジエはきっと知らない……いや、気付いていなかったと思うんだけど、僕は、前からリラジエの事を知っていたんだ」
「え?」
「言葉を交わしたのはこの間が初めてだよ? ただ、昔、僕が見た時の君は……悲しい顔をしていたから」
悲しい顔? 私が?
それはいつの話なの?
「だから、僕はずっとリラジエの笑顔が見たかったんだ。笑ったら絶対に可愛いだろうなって思ったから」
「!!」
何それ!!
頬に熱が集まって来たのが分かる。
おそらく今、私の顔は真っ赤っかだと思う。
「今日は泣いたり笑ったり……いろんな可愛いリラジエが見れて嬉しい、ありがとう!」
──チュッ
ジークフリート様はそう言いながら私の額に軽くキスを落とした。
「~~~~!?」
私は慌てて、たった今キスをされた額を両手で押さえながらジークフリート様から離れる。
「はは、ごめん、でも……うん。真っ赤な顔のリラジエも可愛いね」
「なっ……!」
(な、な、何て人なのー!! な、何するの!? そして手が早いわー!!)
と、混乱する私をジークフリート様は楽しそうに眺めていた(気がした)
◇◇◇
「はい、お水」
「……ありがとうございます」
ジークフリート様が差し出してくれたお水を飲む。
──さっきと逆だわ。
「はは、さっきと逆だね?」
「!!」
び、びっくりした! 私の心の声が飛び出したのかと思ったわ。
「どうかした?」
私の反応がおかしかったからか、ジークフリート様が不思議そうな顔で尋ねてくる。
「あ、いえ、私も同じ事を思ったので……」
「そうなの? 嬉しいな」
「嬉しい?」
どうして? と今度は私が尋ねると、ジークフリート様がまた、あのヘニョっとした顔で答えた。
「以心伝心───気持ちが繋がってるみたいだなぁって」
「!!」
「さぁ、落ち着いたかな? そしたらデートの続きだ、リラジエ」
「は、はい!」
そう言ってジークフリート様は私に手を差し出す。
私がそっとそこに自分の手を重ねるとそのまま手を取られて、手を繋ぐ形になった。
「ジ、ジークフリート様!!」
「ん?」
「手手手手手……!」
「ててててて?」
何故、そこできょとん……とした顔で聞き返すの!?
「あぁ! もしかしてこの手?」
「そ、そ、そ、そうですっ!」
「ほら、慣れない所ではぐれたりしたら大変でしょう?」
え? 今更??
こうして今度は、何故か手を繋ぎながら街を散策する事になったのだけれども、私はもう全く治まる気配の無い顔の火照りをどうにかするのに精一杯だった。
……これは、繋がれた手とジークフリート様がずっと私を優しい目で見て来たせいだと思っているわ。
「それじゃ、リラジエ。今日はありがとう」
「私の方こそ、ありがとうございます」
「……楽しんでもらえた?」
「はい!」
楽しかった…………でも、ドキドキしすぎて何度か心臓が止まりそうになったわ。
私が笑ってそう答えたら、ジークフリート様も嬉しそうに微笑んだ。
「また、誘ってもいいかな?」
「え?」
「リラジエが嫌でなければ、僕はまたリラジエと出かけたい」
ジークフリート様が真っ直ぐ私を見つめてそんな事を言う。
大変よ! また心臓がバクバク鳴り出した……!!
そろそろ破裂するかも!!
「わた……」
私もです! そう言いかけて、ふとお姉様の事を思い出した。
(待って? 今日はたまたまお姉様が居なかったから、こうして出かけられたけど今後もそうとは限らないわ……)
私がジークフリート様と出かけるなんて知ったら、きっとお姉様は怒るだろうし、邪魔をしてくる可能性も……
そう考えてしまい私は黙り込む。
「……レラニアが邪魔するかも? とか考えてる?」
「!」
ジークフリート様がまるで私の心を読んだかのように言った。
私は慌てて顔を上げる。
「んー本当に困った人だよなぁ……いい加減なんとかしないとな……時間が……」
何やらジークフリート様が意味深な事を呟く。
「時間? どういう意味でしょうか?」
私の質問にジークフリート様はちょっと意味ありげな表情を浮かべた。
ちょっと怒ってる?
「……そろそろ、レラニアは身をもって知ってもらわないと困るんだ」
「?」
「自分の行動や言動が周囲の……特に身近な人間に何をもたらすのか、を」
「ジークフリート様……?」
私が首を傾げていると、ジークフリート様はまたいつもの笑顔になって言った。
「レラニアには邪魔されないよう気をつける! だから、また僕とデートしてくれる? リラジエ?」
「なら…………また、美味しいケーキのあるお店……に連れて行ってくれますか?」
私はちょっと意地悪のつもりでそう口にしたのだけど、
「もちろん!」
「え」
ジークフリート様は笑顔で即答したので私は面食らってしまった。
「また、リラジエが好きそうなお店を妹に聞いて調べておくよ」
(────んん?)
「い、妹……さんです、か?」
「そうだよ。今日行ったあのお店は妹のおすすめのお店だよ。 デートなら絶対連れて行くべき! なんて力説するもんだからさ。調べてみたんだ」
「………………」
妹……妹さん。
ジークフリート様があのお店に詳しかったのは、妹さんから聞いて調べていたから?
つまり、
(…………お姉様と行ったわけじゃなかったんだ……!)
どこか、まだ胸の中に燻ってたモヤモヤが晴れていく。
そんな気がした。
なんて勘違いをしていたの、私!
そう思ったら一気に恥ずかしさが込み上げて来た。
「リラジエ!? どうかしたの? 何だかいきなり顔が赤くなったけど……」
「な、な、な、何でもありませんっっ! ジ、ジークフリート様のきき、気の所為ですっ!!」
「えー……? 全然、大丈夫じゃないよね??」
ジークフリート様は全然信じていない目を私に向けた。
…………ですよね。
「うーん……あ、もしかして疲れちゃった? 連れ回し過ぎちゃったかな? ごめん。なら、僕はこれで失礼するよ。リラジエもゆっくり休んで、ね?」
「は、は、はい……!」
ちょっと違うけど頷く。だって説明できないんだもの……
──また、連絡するから。
ジークフリート様はそう言って帰られた。
部屋に戻った私は、今日1日を振り返っていた。
ジークフリート様が妙な隠し事をするものだから、思いがけないハプニング? に見舞われてしまったけれど、ジークフリート様とのデ、デート! ……は楽しかった。
……えぇ、楽しかったわ。
お互いをよく知る為の時間──彼はそう言ったけれど、確かにその通り。
そんなに長い時間では無かったけれど、確かに彼の事を知る事が出来た。そう思う。
(まさかあんな提案しておいて甘い物が苦手だったなんて……!)
あんなにお店にもメニューにも詳しそうだったのに。
それだけ今日の為に……私の為に調べてくれていたんだ、そう思うと胸がキュンとした。
「あぁぁぁ、もう!」
それに、昔の私をどこかで見たような事を言っていたわ。
あれは結局、いつの話だったのかしら。
今度会った時に聞いたら教えてくれるかな?
──今度。
また、デート……
「…………」
ジークフリート様の事を考えたら、再び顔が火照ってしまったので私は少しでも頬の熱を冷まそうかと思って部屋を出た。
そこで、ちょうどお茶会から帰って来たと思われるお姉様と鉢合わせしてしまった。
「……ひっ!?」
すごく驚いた。
思わず小さな悲鳴が私の口から飛び出すほど、美しい顔をこれまた酷く歪めたお姉様が立っていた。
そして、怒ってる。いや、もう誰が見ても明らかに怒っている。
これは関わりたくない!
なのに! どうして私はこのタイミングで部屋を出てしまったの……! 自分の運の無さを恨んだ。
「…………邪魔よ!」
「は、はい……」
ジロリとひと睨みされた後、お姉様はまずそう口にした。
「目障りよ! 私の目の前に現れるんじゃないわよ!」
「……ご、ごめんなさい……」
同じ屋敷に住んでいる家族なのに、何て理不尽な事を……そう思わずにはいられない。
なのに睨まれると、私はもう条件反射のようにお姉様に謝ってしまう。
(だけど、この機嫌の悪さはいったい……?)
お茶会で何かあった?
そもそも、マディーナ様のお茶会。
朝は驚きだけでそのまま納得してしまったけれど、冷静に考えたらおかしい。
マディーナ様ともあろうお方が社交界の毒薔薇と呼ばれるお姉様をお茶会に呼ぶなんて……
お茶会が台無しにされるかもしれないのに。
もしかしてこのお茶会には何か意図があった……?
そして、そのせいでお姉様は機嫌が悪い……?
「何よ、何か言いたそうな目ね」
「そ、そんな事は……」
私は慌てて首を横に振るけれど、お姉様はもちろん納得しない。
「……おかしいわよ! 本当におかしいわ。どいつもこいつも……!」
やっぱりお茶会で何かあったのかも。
「ジーク様だってそうよ……!」
「!?」
急にジークフリート様の名前が出たのでドキッとする。
「私の計画はこんな筈じゃなかったのに!! 何でアンタ何かを彼は……!!」
お姉様はキッと私を睨みながら言った。
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