【完結】飽きたからと捨てられていたはずの姉の元恋人を押し付けられたら、なぜか溺愛されています!

Rohdea

文字の大きさ
11 / 28

第十話

しおりを挟む

  えぇと?  待って??
  ジークフリート様が今、とんでもない事を言った気がするわ。
 

「……は、はぁ?  ジーク様!  ちょ、ちょっと待ってよ。どういう事よ!!」 

  お姉様も動揺したのかジークフリート様に詰め寄る。
  もはやなりふり構っていられないのか、さっきまでの色じかけをするかの様な態度は綺麗さっぱり消え失せていた。

「どうもこうも今、言った通りだけど?」

  ジークフリート様はお姉様に対して冷たい声のまま悪びれる様子も無く答える。

「だ、だから!  そうではなくて……な、何でそんな事をしたのかって聞いてるのよ!」
「それも言っただろう?  

   ジークフリート様がもう一度そう答えた。

  …………ジークフリート様はお姉様の改心を願っていた?
  それは、毒薔薇という名が広がってしまったお姉様をどうにかしたかった……そういう事なのかしら? 

  (あ、嫌だ……また、胸がモヤモヤする……)

  これではまるで私がお姉様に嫉妬しているみたいだわ。そんな事を思った。




「だから改心って何よ?  何を改心しろと言うのよ!!  意味が分からないわ!」

  お姉様のその言葉を聞いたジークフリート様の目がスっと細められた。
  そしてお姉様には聞こえないくらいの小さな声で呟いた。

「……甘かったか。どうも根本から駄目そうだ……ここまで酷いとは」

  その顔はとても残念そうに見えたので、そうまでしてお姉様に改心して欲しかったのね……
  そう思ったら、ますます胸が痛くなった。



 
「ジーク様、どういう事よ!?  どうしてそんな事をしたのよ!?」

  一方のお姉様は未だに叫んでいた。
  ジークフリート様はまたしてもため息と共に言った。

「……お茶会でもマディーナ嬢にも散々言われただろうに……それを理解しようとしない君とはこれ以上話す気は無いよ」
「え?  は?  ちょっと?  ジーク様!?」

  ジークフリート様はお姉様を冷たく突き放そうとする。

「え、待って!  そもそも私はあなたに話があってここに来たのよ!」
「僕に話は無い。だからもう、すみやかにお引き取り願おうか?  はい、出口はあちらだよ」
「なっ!!  ちょっ……」

  お姉様は今にも部屋から追い出されそうになっている。
  何だか初めてジークフリート様と会った時の事を思い出した。

  (そう言えば、あの時も突然、お姉様を追い出しにかかっていたのよね)

  あの時も驚いたけれど、今もちょっと驚くわ。
  どうして、ジークフリート様はお姉様に対してこんなに冷たいのかしら。

  (よっぽど、嫌な捨てられ方でもした……とか?)

 
「え?  え、ちょっと待ちなさいよーー!!」

  そんな事を考えているうちに、ジークフリート様は本当にお姉様を部屋から追い出していた。

「私が何をしたって言うのよーー!!」

  扉の外からはお姉様の虚しく叫ぶ声だけが聞こえて来た。

 





「……」
「……」


  そうして、部屋にはまた私とジークフリート様の2人だけになった。
  

  …………うん。やっぱり聞かずにはいられないわ。
  だって、モヤモヤが消えてくれないんだもの。


「…………あの、ジークフリート様」
「うん?」
「お姉様のお茶会って、あの……私達が……えっと、デ、デートをした日に開催されていたお茶会……ですよね?」
「そうだよ」

  ジークフリート様が笑顔で肯定した。

「お茶会の日にすれば絶対にレラニアの邪魔は入らないと思ったんだ。大事なデート絶対に邪魔されたく無かったから」
「だっ!?  ……そう、でしたか」

  大事なデート?
  ジークフリート様がそんな気持ちでいてくれた事に嬉しくて何だかムズムズしてしまう。
  私って単純ね。モヤモヤしてたはずなのに、嬉しい気持ちの方が溢れてくるんだもの。


  さっきの話、聞いてもいいかしら?
  いいわよね??

  そう思って尋ねる。


「では、ど、どうして、お姉様を改心させようなどとそんな計画をしたのですか……?」
  
  わざわざ各方面に働きかけてまでお姉様を助けようとしたのは何故なの──?
  まだどこかでお姉様への未練があるの──?

  私の質問にジークフリート様は少しだけ驚いた顔を見せたけど、すぐに微笑んで言った。


「もちろん、リラジエの為だよ」


  へ?
  と、思わず間抜けな声が出そうになってしまった。

「わ……私?  お姉様の為を思ったのではないのですか?」
「え?  まさか!  何でレラニアの為?  嫌だよ……全部君の為だよ。リラジエ」

  ジークフリート様は優しく私を見つめながらそう言った。

「……時間は足りなかったし、手遅れ感は否めないけど、どうしてもリラジエの社交界デビューまでに、姉である“毒薔薇”を少しだけでもいいからまともにしたかったんだ」
「私のデビューまでに、ですか?」

  今更、お姉様をまともにしてどうするの?  何が変わるのかしら?
  よく分からなくて首を傾げた。

「レラニアは有名すぎる。それも悪い意味でね。だから今度、社交界デビューするリラジエは間違いなく周囲に“毒薔薇の妹”そんな目で見られてしまう可能性が高いんだ」

  あの毒薔薇の妹──
  つまり私もお姉様みたいに派手に遊んでいる人間に見られてしまう?

「それに、レラニアのくだらない策略のせいでリラジエは過去の恋人達の紹介を受けて来た。それも、と偽られて」
「……あ」

  既に私の毒薔薇の妹としての要素は出来上がっているのかもしれない。
  “姉の物を何でも欲しがる妹”といった所かしら…… 
 

「リラジエがあんな女と同じに見られるなんて、僕には耐えられない」
「ジークフリート様……」

  そう言いながら、私を見つめる瞳は本当に私を心配していた。

「あの時、時間が無い……とかお姉様に身をもって知ってもらう……と口にされていたのは……」
「リラジエのデビューまでもうそんなに日は無いからね。妹を使ってマディーナ嬢に頼み込んでお茶会を開催してもらったんだ。最も影響力のあるマディーナ嬢からの話なら少しは聞くのではないかと思ったんだけどな……」

  ────まさか、ここまで根本的に駄目だとは思わなかったよ。温情なんてかけずに消しとくべきだったかなぁ。

  ジークフリート様は残念そうにそう言った。
  消す?  とは……


「ジークフリート様がお茶会での事に詳しかったのは……」
「妹から話を聞いていたからだよ。あのお茶会は妹の協力無しでは難しかったからね」


  ジークフリート様が私の為に……その事が嬉しくもあり、照れくさくもあり……何だか胸がポカポカしてくる。

  だけど、これも気になるの。

「ジークフリート様」
「うん、何かな?」

  ジークフリート様が首を傾げる。

「今回の事だけでなくずっと疑問だったのですが……」
「うん」
「…………どうして、ジークフリート様はお姉様より私を大切にしてくださるのですか?」
「え!?」

  もう、変にモヤモヤしたものを抱え続けるよりは聞いてしまった方が早いわ。
  だって、この間お姉様にも言ったように、これは私とジークフリート様の問題。


  いい加減、はっきりさせなくちゃ!


  そう思って口にしたのだけど。

「……あの?  ジークフリート、様?  大丈夫ですか?」
「…………」

  何故か、ジークフリート様が固まってしまったわ。
  どうして??

「…………いや、あー、ごめん、リラジエ。もう一度言ってもらえる?」

  ジークフリート様はとても困惑している様子。
  だって頭を抱えてしまったわ。
  何故かしら??  

「ですから、元恋人であるお姉様より、私を大事にしてくださる理由をー……」
「───違う!!」
「!?」


  すごい勢いで言葉を遮られてしまったわ。
  そして、あの女まさか……とブツブツ呟いている。


「リラジエ違う、それは違う……全然違う……」
「……?」

  困惑した様子で首を横に振るジークフリート様。その顔色はちょっと悪いし、なんなら声も震えている。
  違う……とは?



「──僕とレラニアが恋人だった事なんて1度も無い!!」


「え?」

  ジークフリート様の叫ぶような声に、今度は私が固まった。


しおりを挟む
感想 217

あなたにおすすめの小説

可愛い妹を母は溺愛して、私のことを嫌っていたはずなのに王太子と婚約が決まった途端、その溺愛が私に向くとは思いませんでした

珠宮さくら
恋愛
ステファニア・サンマルティーニは、伯爵家に生まれたが、実母が妹の方だけをひたすら可愛いと溺愛していた。 それが当たり前となった伯爵家で、ステファニアは必死になって妹と遊ぼうとしたが、母はそのたび、おかしなことを言うばかりだった。 そんなことがいつまで続くのかと思っていたのだが、王太子と婚約した途端、一変するとは思いもしなかった。

私から婚約者を奪うことに成功した姉が、婚約を解消されたと思っていたことに驚かされましたが、厄介なのは姉だけではなかったようです

珠宮さくら
恋愛
ジャクリーン・オールストンは、婚約していた子息がジャクリーンの姉に一目惚れしたからという理由で婚約を解消することになったのだが、そうなった原因の贈られて来たドレスを姉が欲しかったからだと思っていたが、勘違いと誤解とすれ違いがあったからのようです。 でも、それを全く認めない姉の口癖にもうんざりしていたが、それ以上にうんざりしている人がジャクリーンにはいた。

私を溺愛している婚約者を聖女(妹)が奪おうとしてくるのですが、何をしても無駄だと思います

***あかしえ
恋愛
薄幸の美少年エルウィンに一目惚れした強気な伯爵令嬢ルイーゼは、性悪な婚約者(仮)に秒で正義の鉄槌を振り下ろし、見事、彼の婚約者に収まった。 しかし彼には運命の恋人――『番い』が存在した。しかも一年前にできたルイーゼの美しい義理の妹。 彼女は家族を世界を味方に付けて、純粋な恋心を盾にルイーゼから婚約者を奪おうとする。 ※タイトル変更しました  小説家になろうでも掲載してます

姉と妹の常識のなさは父親譲りのようですが、似てない私は養子先で運命の人と再会できました

珠宮さくら
恋愛
スヴェーア国の子爵家の次女として生まれたシーラ・ヘイデンスタムは、母親の姉と同じ髪色をしていたことで、母親に何かと昔のことや隣国のことを話して聞かせてくれていた。 そんな最愛の母親の死後、シーラは父親に疎まれ、姉と妹から散々な目に合わされることになり、婚約者にすら誤解されて婚約を破棄することになって、居場所がなくなったシーラを助けてくれたのは、伯母のエルヴィーラだった。 同じ髪色をしている伯母夫妻の養子となってからのシーラは、姉と妹以上に実の父親がどんなに非常識だったかを知ることになるとは思いもしなかった。

姉に婚約破棄されるのは時間の問題のように言われ、私は大好きな婚約者と幼なじみの応援をしようとしたのですが、覚悟しきれませんでした

珠宮さくら
恋愛
リュシエンヌ・サヴィニーは、伯爵家に生まれ、幼い頃から愛らしい少女だった。男の子の初恋を軒並み奪うような罪作りな一面もあったが、本人にその自覚は全くなかった。 それを目撃してばかりいたのは、リュシエンヌの幼なじみだったが、彼女とは親友だとリュシエンヌは思っていた。 そんな彼女を疎ましく思って嫌っていたのが、リュシエンヌの姉だったが、妹は姉を嫌うことはなかったのだが……。

姉の歪んだ愛情に縛らていた妹は生傷絶えない日々を送っていましたが、それを断ち切ってくれる人に巡り会えて見える景色が様変わりしました

珠宮さくら
恋愛
シータ・ヴァルマは、ドジな令嬢として有名だった。そして、そんな妹を心配しているかのようにずっと傍らに寄り添う姉がいた。 でも、それが見た目通りではないことを知っているのといないとでは、見方がだいぶ変わってしまう光景だったことを知る者が、あまりにも少なかった。

旦那様が遊び呆けている間に、家を取り仕切っていた私が権力を握っているのは、当然のことではありませんか。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるフェレーナは、同じく伯爵家の令息であり幼馴染でもあるラヴァイルの元に嫁いだ。 しかし彼は、それからすぐに伯爵家の屋敷から姿を消した。ラヴァイルは、フェレーナに家のことを押し付けて逃げ出したのである。 それに彼女は当然腹を立てたが、その状況で自分までいなくなってしまえば、領地の民達が混乱し苦しむということに気付いた。 そこで彼女は嫁いだ伯爵家に残り、義理の父とともになんとか執務を行っていたのである。 それは、長年の苦労が祟った義理の父が亡くなった後も続いていた。 フェレーナは正当なる血統がいない状況でも、家を存続させていたのである。 そんな彼女の努力は周囲に認められていき、いつしか彼女は義理の父が築いた関係も含めて、安定した基盤を築けるようになっていた。 そんな折、ラヴァイルが伯爵家の屋敷に戻って来た。 彼は未だに自分に権力が残っていると勘違いしており、家を開けていたことも問題ではないと捉えていたのである。 しかし既に、彼に居場所などというものはなかった。既にラヴァイルの味方はおらず、むしろフェレーナに全てを押し付けて遊び呆けていた愚夫としてしか見られていなかったのである。

妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
恋愛
マリアはドレーク伯爵家の長女で、ドリアーク伯爵家のフリードと婚約していた。 だが、パーティ会場で一方的に婚約を解消させられる。 しかも新たな婚約者は妹のロゼ。 誰が見てもそれは陥れられた物である事は明らかだった。 だが、敢えて反論もせずにそのまま受け入れた。 それはマリアにとって実にどうでも良い事だったからだ。 主人公は何も「ざまぁ」はしません(正当性の主張はしますが)ですが...二人は。 婚約破棄をすれば、本来なら、こうなるのでは、そんな感じで書いてみました。 この作品は昔の方が良いという感想があったのでそのまま残し。 これに追加して書いていきます。 新しい作品では ①主人公の感情が薄い ②視点変更で読みずらい というご指摘がありましたので、以上2点の修正はこちらでしながら書いてみます。 見比べて見るのも面白いかも知れません。 ご迷惑をお掛けいたしました

処理中です...