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第九話
しおりを挟む「……」
「……」
私とジークフリート様はお互いしばらく無言で見つめ合う。
そして、その沈黙を破ったのはジークフリート様の方だった。
ジークフリート様は優しく私の頬を撫でながら言った。
「……ずっと不思議に思っていた事があるんだけど」
「?」
ジークフリート様が何やら、そう切り出す。
不思議?
「リラジエが、ほんのたまに申し訳なさそうな顔で僕の事を見る時があるのは何でだろう?」
「え?」
その言葉に胸がドキリとした。
それは、忘れがちではあるもののたまにふと思い出す、“ジークフリート様はお姉様の元恋人” “私はお姉様では無い” そんな想いがどこか私の胸の中にあってモヤモヤする時があるから……
私は目を伏せながら答える。
「……ジークフリート様と一緒にいるのが……お姉様ではなく私、だからです。その事に申し訳なくなる時があるのです」
「? どういう意味?」
ジークフリート様は本当に意味が分かっていなさそうで、
「私ではお姉様の代わりにはなれませんから……」
「……え?」
私のこの言葉にジークフリート様が驚きの表情を見せた。
「レラニアの代わり? 何を言っているんだ? リラジエはリラジエだろう?」
「……ですが! 私はお姉様みたいに美人でも社交的でもありません! だから男の人は皆、お姉様を選び求めます!」
──今まで出会った人は皆そうだった! 初恋のグレイルだって、これまでのお姉様の元恋人達だって!
「男の人は皆、お姉様みたいな華やかな人が好きなのでしょう?」
だからいつも皆、私を見てガッカリした……
ジークフリート様だけは違ってあなたはガッカリした顔なんて見せず、優しかったけれど。それでも……
「リラジエ、それは違うよ」
ジークフリート様が首を横に振りながら言った。
「な、慰めはいらないです……」
「慰めなんかじゃない! なら、君を……リラジエを選ぶのが僕だけじゃダメかな?」
「…………? ジ、ジークフリート様が……?」
よく意味が分からなくてポカンとしてしまった。
「そう! さっきも言ったよ。僕には君が……リラジエが1番だって」
「あ……」
「他の男共がなんて言おうと僕はリラジエを選ぶよ。…………それとも僕だけじゃ不満? 足りないかな?」
私はフルフルと首を横に振る。
不満? まさか! そんな事は無い。そんな事は無いけれど……
どうして?
「……ですが、どうしてジークフリート様が……そんな事を言ってくださるのかが分かりません……」
あなただって、お姉様の元恋人なのに。
ジークフリート様だって、今までの人達と同じでお姉様に捨てられて、いつものように私を押し付けるかのように紹介されて……
でも、あなたは優しいからこうして私に付き合ってくれている……
それとも、そこには違う感情もあるのだと……その言葉を信じて期待してしまってもいいの?
“可愛い” “大切” ジークフリート様から貰った言葉が私の頭の中を駆け巡る。
「リラジエ……」
そんな事を思っていたら、私の頬から手を離したジークフリート様が私の両肩に手を置いて、真っ直ぐ私を見つめたままさっきよりも真剣な顔をして口を開いた。
「リラジエ、聞いて欲しい! 僕はずっと……」
───その時だった。
バーンと突然、ノックも無く私の部屋の扉が開いた。
「「!?」」
何事かと思って慌てて振り返ると……
「あら~? ジーク様、来てたのねぇ? ふふ、お邪魔だったかしら?」
開いた扉の向こうにいたのはお姉様。
「……」
「……」
さすがのジークフリート様もお姉様のこの行動には頭を抱えたくなったらしい。
ジークフリート様の、はぁ……という深いため息が聞こえた。
「レラニア嬢……君は妹の部屋にノックもせずに入るのが礼儀なのか?」
ちょっと怒りを孕んだ声でジークフリート様がお姉様を睨みながら問いかける。
「え? 何を今更。そんなの当たり前でしょう。だってリラジエなんだから別に構わないわよね?」
お姉様はどこに問題があるの?
そんなケロッとした顔で答える。
「は? 君は何をふざけた事を言っているんだ!?」
ジークフリート様が怒鳴った。
なのに肝心のお姉様はどこ吹く風。
「ふざけてなどいないわよ? 嫌だわ、ジーク様、どうして怒っているの?」
「人としての最低限のマナーすら守れない君に怒りすら通り越して呆れてるんだ!」
「まぁ、酷いわ!」
その言葉にお姉様は大袈裟に驚いてみせる。
その様子から言って自分は微塵も悪くないと思っているのが伝わって来た。
「ねぇ、ジーク様。そんな事よりもね、お話したい事があるのよ」
ジークフリート様は明らかにお姉様に対して怒っているのに、お姉様は全く気にする様子も悪びれる様子も無く、さらには擦り寄るような声を出しジークフリート様に近付いていく。
「……離してくれ。君と話す事なんて僕には無い。それといい加減にしてくれないか?」
「あら、嫌だ。冷たいわね? ふふ、私達の仲じゃないの」
お姉様が一瞬チラリとこっちを見て、私に見せつけるかのようにジークフリート様に微笑んだ。
妖艶な微笑みを浮かべるお姉様のその微笑みはまさに、社交界の毒薔薇。
数々の男性達を落とした言われる時の微笑み。
そんな本気の微笑みをジークフリート様に向けていた。
「…………どの口が言っているんだ、レラニア嬢。僕はあの時、ハッキリと言ったはずだが忘れたのか?」
「あら? なんの事かしら~? 私、最近忘れっぽくてねぇ。困っちゃうわね!」
「…………本当に人の話を聞かないんだな。そうやって君はこの間のお茶会でも聞く耳を持たなかったそうだな?」
ジークフリート様が再びお姉様を睨みながら、ため息を吐きながら言った。
この間のお茶会?
それって、私とジークフリート様がデ、デートをした……あの日のお茶会の事、よね?
「……っ! な、なんの事かしら~?」
「マディーナ嬢に諭されただろう? これからはよく考えて発言、行動した方がいい、と。そうでないと……」
「い、嫌だわ、ジーク様! あなたが何を言っているのか私には分からないわ!!」
お姉様がジークフリート様の言葉を遮るように叫んだ。
少し動揺しているようにも見える。
そんなお姉様を冷たい目で見るジークフリート様は、また、ため息と共に言った。
「お茶会の時もそのような事を言って、全く聞く耳を持たず、あろう事か憤慨したとか」
憤慨?
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ジークフリート様はニッコリ微笑んでそう言った。
「え!」
「はぁ!?」
私とお姉様の驚きの声が重なった。
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