【完結】飽きたからと捨てられていたはずの姉の元恋人を押し付けられたら、なぜか溺愛されています!

Rohdea

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第二十話

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  (どういう事なの……?)

  何故、ジークフリート様はそう断言出来るの?
  お姉様はお父様が私とグレイルの婚約話を進めているとあれほど自信満々に言っていたのに。

  驚いた私はただただ、ジークフリート様とお父様を交互に見つめる事しか出来ない。
  それは、お姉様も同じで「は?  何言ってんの?」と呟いている。

  それは、この様子を見守る会場内の人達も同じで、あちらこちらから「どういう事だ?」という困惑の声も聞こえて来た。

  そんな中、突然ジークフリート様に声をかけられたお父様の顔は何故か真っ青だった。

「…………」
「違いますか?  伯爵」
「…………」

  お父様は俯いたまま答えない。
  そんなお父様を見ながらジークフリート様はため息を吐きながら言った。

「……先程、貴方はレラニアが“お父様にはグレイルが相手で婚約の手続きを進めてもらっている”と口にした時、大きな動揺を見せていた」
「え?」

  そうなの?
  私の驚いた声に、ジークフリート様が私を見つめて優しく笑う。
  まるで“大丈夫だから心配するな”という風に。

「貴方は僕の求婚に関しても返事を先延ばしにしていたが、グレイルとの話も先延ばしにしていた、違いますか?」

  ビクッ

  ジークフリート様のその指摘にお父様の肩が大きく跳ねる。
  その動揺が全てを物語っていた。
  まさか、お父様の事勿れ主義がこんな所でも発揮されていたなんて……正直、驚きが隠せない。

「え?  は?  本当に?  お父様……ちょっと待ってよ……?  どういう事……?」

  そんなお父様の様子を見たお姉様も動揺し始めた。
  ジークフリート様の指摘が嘘では無いとさすがに理解したみたいだ。
  
「う、嘘よね?  ちゃんと手続き進めてくれていたわよね??  そうでしょう?」
「……………………レラニア、すまない」
「なっ!!」

  お父様が項垂れたままとても小さな声でお姉様への謝罪の言葉を口にした。

「お父様!!  どうしてよ!  どうして話を進めなかったのよ!?  あんなに嬉しそうで乗り気だったじゃないの!!」

  お姉様が鬼気迫る表情でお父様に詰め寄る。
  その姿はもはや、毒があろうと無かろうと“薔薇”とは呼べないほど取り乱しっぷりだった。

  そんなお姉様を残念そうな顔で見ながらお父様は、プルプルと首を横に振りながら、ようやく口を開いた。

「すまないレラニア。……冷静に考えたら、ジークフリート殿の求婚の話……あれはやっぱり間違いなんかではなくてリラジエ宛ての話にしか思えなくなったんだよ」

  ……?  お父様は何を言っているの?  間違い?
  ジークフリート様は初めから私に求婚しているのに?

「……これは、あれか?  レラニアが、僕の求婚している相手はリラジエではなく私よ! とでも伯爵に言っていたのか……?  ……無茶を言うにも程があるだろ……」

  ジークフリート様が呆れた顔で呟く。
  なるほど。確かにお姉様なら本来なら誰も信じないようなこんな事を言い出しかねない。
  そして、お父様とお姉様の会話の様子から、驚く事にお父様は最初その話を信じたのかもしれない。
  だけど、さすがのお父様もどこかでおかしいと感じて踏みとどまっていた……って所かしら?




「どうしてよ?  何でそうなるのよ……?」

  お姉様が必死の形相でお父様に訴える。
  なおも、お父様は首を横に振りながら答えた。
 
「フェルスター侯爵の言っていた、ジークフリート殿の惚気話の中の“可愛い”が、どうしても引っかかってしょうがなかった。だから、ジークフリート殿やグレイル、そしてリラジエの今日のパーティーの様子を見てからにしようかと……」
「……!!」

  お姉様が驚愕の瞳でお父様を見る。
  その顔は“こんなはずでは無かったのに”と言っているようだった。

  ……フェルスター侯爵の話?
  しかも惚気話って。 
  ジークフリート様が家でも惚気けているのはミディア様からも聞いていたけれど……

  そう思ってジークフリート様の顔を見ると、バチッと目が合う。
  私と目の合ったジークフリート様は、ニッコリと微笑んだ。
 
  (こ、この方は本当に何してるの……!!)

  とっても恥ずかしくなってきた。



「すまないとは思ったが、やはり、あれがどう考えてもレラニアの事を言っているとは思えなかったんだ……それに、さっきからのジークフリート殿のリラジエに対する態度を見て間違ってなかったのだとようやく理解したよ」
「んなっ!!」
「私にとっては、レラニアは可愛い娘だが、年頃になってルミアそっくりになったお前を可愛いという声は聞かなくなった。皆、ルミアに似て綺麗な子だとは言っていたがね。むしろ、可愛いらしい子だと言われていたのは……」

  そこで言葉を切ったお父様が私の方を見る。

「……私?」

  まさかまさかという思いで唖然とする私にジークフリート様が言う。

「何でそんなに驚くの?  リラジエは、可愛いって何度も言ってるのに」
「……それは、その、ジークフリート様の……」
「あぁ、僕の欲目だと思った?」

  私は無言で頷く。

「リラジエ」
「?」

  ジークフリート様が私の両頬に手を添え、ぐいっと顔を上に向けさせる。

「リラジエは、おそらくずっとレラニアと比べられて来た事と、レラニアが君を陥れる発言をし続けて来たせいで、自分を可愛いくないって思い込んでいる。でも違うよ?」
「……違う?」
「君は可愛い。そしてそんなリラジエを“可愛い”と言っているのは僕だけではない事を君はもう知ってるはずだ」
「あ……」

  そう言われて私はキョロキョロと辺りを見回す。
  ミディア様を始め、私の事をと言ってはたくさん構い倒してくれた令嬢の皆様が微笑ましい顔で私を見ていた。

「まぁ、リラジエの可愛さは、もちろん容姿だけでは無いけどね」

  そう言ってジークフリート様が私の額にチュッと軽いキスを落とす。

「またっ、み、み……み!」
「耳?  耳にキスして欲しいの?  お望みなら……」
「違っ……み、皆が……見ていますっ!!」

  一度ならず二度までも!!
  私が真っ赤な顔で抗議するとジークフリート様が可笑しそうに笑う。

「そういう所だよ、リラジエ」
「うっ!?」
「可愛くて大好きだ」

  そう言ってジークフリート様は今度は唇へとキスをしようと顔を近付けてきたけれど、

「冗談言わないでよ!!  リラジエなんかのどこが可愛いのよ!!」

  というお姉様の叫び声に邪魔されてしまった。

  (……って!  私ったら皆の前で何をしようと!?)

  正気に戻った私が慌てて辺りを見回すと、皆、生あたたかい視線を送って来たので一気に恥ずかしくなる。
  何これ、恥ずかしい……!  
  あまりの恥ずかしさに、私は顔を真っ赤にしながらジークフリート様に抱き着きその胸の中に顔を埋めた。

「あぁ、可愛すぎる……」
 
   そんなジークフリート様の声が頭上から聞こえたけれど、そんな声すらもかき消す程のお姉様の喚き声が会場内に響いた。

「何でよ?  おかしいわよ!!  しかも、さっきからイチャイチャして……どういうつもりよ!!」
「レラニア、お願いだ。もうやめてくれ。周りを見て見なさい」

  お父様がお姉様を窘めようとしていた。
  さすがのお父様もお姉様が周りにどう見られているのか分かったみたい。

  今、会場中の人からお姉様に向けられている視線はとても冷ややかだ。
  だけど、お姉様はお父様の言葉にも聞く耳を持たなかった。

「どいつもこいつも……リラジエ、リラジエ!! どこに目を付けてるのよ!  1番は私なのよ!!  リラジエは所詮私の引き立て役に過ぎないの!」

  しーん……

  お姉様のその言葉に会場が静まる。
  そして、ヒソヒソ話と更なる非難の目がお姉様に向けられていく。

  だけど、興奮して周りが見えていないお姉様はそんな空気にさえ気付かない。

「いい加減にしなさい!!  1番だとか引き立て役とか何を言ってるんだ!!」

  その中でも父親としての責任があったのか、お父様だけがお姉様を止めようとする。
  だけど……

「うるさいわよ、お父様は黙ってて!!」
「何だと……はっ!  そうだ。お前こそ“毒薔薇”とは何だ!?  さっき、そう呼ばれていたな!?」
「は?  今それ聞くの?  どうでもいいでしょう!?  毒が付いても薔薇は薔薇なんだから!」
「いや、毒だぞ!?  これは明らかに……」

  お姉様の返しにお父様が本気で驚いている。
  気持ちは分かるわ。毒薔薇と呼ばれて平然としているお姉様の気持ち、私には多分、一生理解出来ない気がするもの。

「平凡伯爵に言われたくないわよ!」
「なっ!  平凡……」

  お父様が、ワナワナ震えている。
  平凡伯爵と他人に言われるのは平気でも娘に言われるのは堪えるらしい。

「見苦しい争いになって来たな……」
「ジークフリート様」

  ジークフリート様が私を抱き締めながら呆れた声を出す。

  膝から崩れ落ちたまま、微動だにしないグレイル。
  親子喧嘩を始めたお父様とお姉様。

  明らかにパーティー会場内は地獄絵図と化していた。

  ……そしてそんな状況でもお姉様からは諦める様子が見受けられず、それでもまだどうにか足掻こうとしているようだった。

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