【完結】飽きたからと捨てられていたはずの姉の元恋人を押し付けられたら、なぜか溺愛されています!

Rohdea

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第十九話

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  お姉様とグレイルの発言に、会場内は騒然となった。

「……どういう事だ?  アボット伯爵家の次女はジークフリート殿の相手では無いのか?」
「エスコートはジークフリート殿がしてるんだろう?」
「さっき、デレデレに惚気けてたぞ?」
「だよな、あれはすごい惚気けだった……」


  あちらこちらから困惑の様子が伝わって来る。


「お姉様っ!  私は何も聞いていません!  勝手な事を言わないで下さい!!」

  私は思わずそう叫んでいた。
  淑女らしくなんて言っていられない!
  だって、こんなの、こんなの絶対におかしいもの!!
  
「あなたが話を聞いていなくても、そういう事になっているのよ。さぁ、我儘を言っていないで相手を交代しましょう?  ジーク様の隣を私に譲りなさいな」

  お姉様が毒薔薇の微笑みを浮かべながら促してくる。

「そうだぞリラジエ。変な奴だなぁ。何を今更、恥ずかしがっているんだ?  もしかして照れているのか?  んだろう?  だから俺はこうして帰って来てやったんだぞ?」
「!?」

  どういう事?  グレイルは、何を言っているの!?
  私がグレイルでなきゃ駄目だと言ったって何?
  どうしたらそんな勘違いが出来るの!?

  私の頭は完全に混乱した。

「……そういう事か…………勝手な事を」
「ジ、ジークフリート様?」

  私の腰を抱いたまま支えてくれているジークフリート様が苦々しい顔をしながら言った。

「レラニアは、嘘をついてグレイルを呼び出したんじゃないか?」
「え?  嘘を?」
「リラジエが今でもグレイルを好きだとか言ったに違いない。おそらく奴の勘違い発言はそこから来ている」
「そんな!」

  私は改めてグレイルを見る。
  グレイルは、にやにやと笑っていた。

「レラニアから、手紙を貰った時はリラジエかぁ~とも思ったけど、どうやら伯爵家の後継ぎの座も手に入るみたいだし、久しぶりにリラジエに会ってみれば、思ってたより良い女になってるからな、俺が結婚してやるよ」
「……!!」
「それに俺の為に頑張って綺麗になろうとしてくれたんだろ?  いじらしいよな。そう言うのは嫌いじゃない」

  そう言ってグレイルが私の手を取ろうとする。

  背筋がゾッとした。
  気持ち悪い!
  それに、ジークフリート様が私を見初めてくれた“いじらしい”という大切な言葉をグレイルからなんて聞きたくない!!

「嫌!  触らないで!!」

  私はそう叫んでグレイルの手を思いっ切り振り払う。
  だけど、振り払われた事に驚いたのか、グレイルが怒りの目を私に向けた。

「……なっ!  ふざけんなよ?  その態度何なんだよ!!  俺は結婚してやるって言ってやってんのに!」
「そんな事は頼んでない!  私が結婚したいのはグレイルじゃないもの!!」
「はぁ?  お前みたいなやつ、レラニアならともかく誰が他に貰ってくれるって言うんだよ!?  そんな奴いるわけー……」
「グレイル・オッフェン。お前の目は節穴か?  ここにいる」

  グレイルが私を小馬鹿にしたように笑ったのをジークフリート様が遮った。

「……は?」
「リラジエと結婚するのはお前じゃない。僕だ!」

  ジークフリート様の発言に再び会場内が騒然となる。
  女性達からのきゃーという黄色い悲鳴も混ざってかなりの混乱ぶりとなっていた。


「はぁ?  何でだよ。ジークフリート様はアレだろ?  レラニアと結婚すんだろ?」

  グレイルが途端に慌て出す。
  ……お姉様はそこもグレイルに嘘をついていたみたいだ。

「そんな事は天地がひっくり返っても有り得ない。そもそも僕はリラジエに求婚しているし、リラジエからも承諾の返事を貰っている」
「ますます意味が分かんねぇよ!  リラジエの承諾って何だよ!?  婚約を結んだのは俺だろ!?  どういう事だよ!」

  そう叫ぶグレイルからもかなり混乱しているのが伝わって来た。

「本当に分からないのか?  どういう事も何も僕とリラジエは恋人同士だ」
「はぁ?  嘘つくなよ!  そんな事あるわけないだろう?」
「嘘じゃない」

  そう言って、ジークフリート様が私の顎に手をかけて顔を上に向かせた後、そっと私の唇に口付けた。

  (ふぇ!?)

  きゃーーと再び会場には黄色い悲鳴があがる。

「……!?」
「皆の前でごめん。お叱りは後で受けるよ……でも、これくらいしないとリラジエが僕のリラジエだって事が奴には伝わらない」

  チュッというリップ音と共に唇を離したジークフリート様が耳元で私にだけ聞こえるくらいの小さな声でそう謝って来た。

  み、皆の前で……!
  なのに、ず、ずるいわ!  これでは、怒れない……!
  私はあまりの恥ずかしさにジークフリート様の胸に顔を埋める。
 
「はぁぁ!?  本当なのかよ。そんな事は聞いてねぇよ!!  しかも何してんだよ!」
「愛しい恋人に口付けただけだが?  ……聞いてなくても、僕とリラジエのこの様子を見ればいい加減、どんなに馬鹿でも分かるだろう?」
「……ぐっ!  待てよ?  リラジエのそのネックレスとイヤリングも……ジークフリート様の色……か?」
「そうだ。僕が贈ったものだ」

  グレイルの瞳の色は黒。ジークフリート様の空色の瞳とはかけ離れている。
  その言葉を受けて始めてグレイルはようやく理解したのか表情が変わった。

「おい!  レラニア!!  どういう事だ!  説明しろよ。話が違うぞ!!」

  そうして、グレイルの怒りの矛先はお姉様に変わった。
  ようやく、自分がお姉様に騙されていたのだと気付いたようだった。

「もう、耳元で騒がないでちょうだいな」

  一方のお姉様はグレイルに怒りをぶつけられても涼しい顔をしていた。
  だけど、一方で私の事を睨むのは忘れていない。

「これが騒がずにいられるか!  嘘をつきやがって。これじゃ、俺はただの勘違い野郎の笑い者じゃないかっ!!」
「んもぅ!  勘違い野郎でも笑い者でも何でも、リラジエがジーク様と……キスをするような関係でも、リラジエの婚約者があなたなのは変わらないのよ?  グレイル」

  ……何かしら?
  私とジーク様が、キ、キスをするような関係という部分に妙に力が込められていたような……?

、何を言ってももう遅いわよ」

  ねぇ? と、お姉様がニッコリ私に向かって微笑む。

「だからね?  どんなにリラジエがジーク様を想っても無駄なのよ。別にいいじゃないグレイルだって。昔から地味で平凡でつまらない男だけどアンタにはピッタリでちょうどいいと思うわよ?」
「レラニア……お前」

  お姉様のその言葉にグレイルは明らかにショックを受けていた。

「お前だって昔、俺の事を……それにさっきだって……」
「えぇ?  あぁ、もしかしてあの時の告白の事を言っているのかしら?  うふふ、やだわ。まだ、本気にしていたのね?  あの過去の告白も、さっきのだって全部遊びよ、遊び!」

  お姉様がグレイルを小馬鹿にした目でクスクス笑う。

「全部、嘘に決まってるでしょう?  私はリラジエの絶望した顔が見たかっただけよ」
「全部……嘘……」

  その言葉にグレイルが膝から崩れ落ちた。
  それはどこからどう見ても、毒薔薇のお姉様に弄ばれて捨てられた哀れな男の姿そのもので。
  さすがに、グレイルのその様子には胸が痛んだ。

  (自業自得……な面はあるけれど、結局グレイルもお姉様の被害者なんだわ……)

  そして、その原因は私……
  かつての 私が彼に恋心を抱いたから……


  だけど、そんなグレイルの様子を気にする事も無く、お姉様は私に振り返る。

「さぁ、リラジエ。諦めなさいな。あなたはグレイルと婚約するからジーク様とは結ばれないのよ。でも、代わりに私がジーク様の婚約者になってあげるから安心してね?」

  あぁ、お姉様はどこまで身勝手なんだろう。
  どうしてこんな事をするの?

「……勝手な事を言うなよ、毒薔薇」

  その時、ジークフリート様が地を這うほどの低い声を出した。
  その声色からも言葉からもかなり怒っているのが分かる。

「あらあら、まぁ!  ふふ。ジーク様に毒薔薇なんて、呼ばれるの初めてだわ」
「いい加減、名前で呼ぶ事も止めてもらおうか。虫唾が走る」
「えぇ、どうして?  私達婚約するんだから構わないでしょう?」
「さっきも言った。それは有り得ない!」

  ジークフリート様の言葉にもお姉様は、「酷いわぁ」とおどけるばかりで全然堪えていない。

「もう!  言ったでしょう?  でもね、例え私とジーク様が婚約してもしなくても、あなたがリラジエと婚約するのは無理ー……」
「無理じゃない」

  (──え?)

  何故か、ジークフリート様がきっぱりと言い切った。

「は?  何でよ?  ジーク様ったら血迷ったの?」
「血迷ってない!  いいから名前で呼ぶなと言ったはずだ!」
「……っ!」

  ジークフリート様の本気の怒りにお姉様が一瞬だけ怯む。

「簡単な話だよ。リラジエとそこのグレイルとの婚約話は成立していないからだ」
「え?」
「は?」
「!?」

  グレイル、お姉様、私の順番で驚きの声があがる。

  どういう事なの?
  私はジークフリート様を見上げる。
  私と目が合ったジークフリート様は優しく微笑み、混乱する私の頭を優しく撫でる。

  そして、この騒ぎの間中も実は、ずっと近ず離れずの距離にいながら沈黙を保っていた私のお父様の方に顔を向けて言った。


「───そうだろう?  アボット伯爵」


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