【完結】今更、好きだと言われても困ります……不仲な幼馴染が夫になりまして!

Rohdea

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2. 嘘みたいな縁談

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「お父様ったら何を仰っているの?」

  自分でも思っていた以上の冷たい声が出た。
  だけど、仕方が無いと思うの。だって、朝からそんな冗談は気分が悪いもの。それともこれはお父様流の新しい嫌味なのかしら?

  (ヨーゼフ様から婚約破棄された時、散々、私を責めた事は忘れていないんだから!)

「オリヴィア、そんな目で見るな!  そして、これは冗談でも嘘でも嫌味でも無い!  本当にオリヴィア宛に来た婚約の申し込みなんだ」
「……ならば、それを申し出た方は私をからかっているのでしょうね」
「そんな冷めきった事を言わないでくれ……」
「……」

  何を言っても冷たい反応しか返さない私にお父様は、はぁ、とため息を吐く。

「いいか?  そんな事は有り得ない。なぜなら相手はオリヴィアもよく知っている人だからだ」
「え?」
「そして、すまないがもう二度こんな話は来ないのではと思い、承諾の返事を先程送った所だ」
「何ですって?  お父様!?  なんて勝手な事をしているの!」

  私は反論するけれどお父様はいっさい聞く耳を持たない。

「勝手だろうと何だろうと、すっかり諦めていたお前への縁談話だ。しかも相手は我が家にとって悪くない相手。乗らない訳にはいかない」
「酷いです!!」

  よく知っている人だろうとそうでなかろうと、勝手に先に返事をするなんて酷い!
  思い返してみれば、ヨーゼフ殿下との婚約もこんな始まりだった……

  (自由恋愛での結婚よりも政略結婚の多い世の中なのだから、一家の当主としては間違っていない行動だと頭では理解していても、父親としては酷すぎるわ!)

「先方の希望でな。婚約期間は短く済ませて、すぐに結婚となるそうだ」
「嘘……でしょう?」

  お父様のその言葉に私は目の前が真っ暗になった気がした。


───

  相手の情報はここに置いて置く。
  お父様は手紙とおそらく相手の釣書のような物を置いて部屋を出て行った。

「いいか?  先方に失礼に当たるからな!  顔合わせまでには確認しておけ!」
  とだけ言い残して。

  (絶対に見るものですか!)

  私はそう決めた。
  いっそ、それで顔合わせの日に何も知らないまま相手と顔を合わせて“なんて非常識な女性なんだ”そう思ってもらってこの話は無かった事にしてもらうのもいいかもしれない。

  だから、相手の事なんて知らないままでいい……

  そう思った私は頑なに縁談の申し込みをして来たという人の事の一切を知ろうとはしなかった。

  ……その事を後悔するとも知らずに───……




◇◇◇◇◇



  (う、嘘でしょう!?)

  その日、私は驚きと共にブルブル震えていた。
  
  ──今日、先方との顔合わせだ!
  朝食後にお父様からそう言われて“とうとう来たのね!”と、破談にする気満々で挑んだ顔合わせで私はとんでもない衝撃を受けた。
  それはヨーゼフ殿下に婚約破棄された事なんて、ちっぽけで可愛く思えてしまうくらいの衝撃だった。

  (なぜ、ヒューズが目の前にいるの!?)

  5年経っていても分かる。
  少年だった彼は明らかに青年へと成長を遂げていたけれど、面影も残っているし基本は変わっていない。
  私が好きだった頃のま──

  (って、違う!  私はこんな人の事は嫌いになったのよ)

  必死にそう自分の心に言い聞かせる。

「そういう訳で、今更紹介も何も無いだろうが、カルランブル侯爵家のヒューズ殿だ。何年ぶりだろうか?」
「……5年に、なりますね」

  ヒューズが澱みなくそう答える。
  声も少し低くなった……かもしれない。
  そんな事より私の頭の中は、どうして私に縁談を申し込んで来たという相手がヒューズなのか。そればかりだった。

  (私の事を大嫌いだと言ったくせに!)

  何故、そんな嫌いな女に縁談を申し込んだの?
  それにこの5年間、彼は何処に行っていたの?
  分からない事だらけで頭がおかしくなりそうだった。

「……オリヴィア……コホンッ、オリヴィア嬢も久しぶり、だな」
「え、えぇ、あなた、もね」

  (白々しい顔をして何を言うの!  この、無神経男!)

  私は内心では毒づきながらも、社交界で培ったスマイルを駆使して、何とか作り笑顔を彼に向けながら対応する。

「5年……か。お互いに変わったな」
「そ、そうですわ、ね」
「……」
「!」

  ヒューズはじっと私を見つめる。
  見つめられてドキドキするのは気の所為!  気の所為でないと困る。

  (でも、これで分かったわ。何故、お父様が婚約の申し込みに即決で返事をしたのか。その理由が……)

  相手がヒューズだったからなのね。
  昔からよく知っている相手だもの……

  (こんな事なら先に手紙と釣書を見ておけば良かった……)

  そうすればこの顔合わせだって、何かしらの理由を付けて拒否し続けて破談を狙う方向も考える事が出来たのに。
  “あなたの事をよく存じ上げませんので、お断りします”が使えないなんて思わなかった。

  (どうして今なの?  好きだった頃には叶わなかったのに、嫌いだと突然言われて初恋が砕け散ってからその人が結婚相手として現れるなんて……あまりにも酷すぎる)

  こんなの上手くいく気がしないわ。
  どうにかして断るべき! ……
  そうよ!  お父様は私とヒューズの間にあった事を知らないから、説明すればもしかしたら分かってくれるかもしれない──
  そう思って私は口を開く。

「お父様……あの、実は昔、私とヒ」
「侯爵殿、俺……コホッ、私としては早くオリヴィア嬢を我が家に迎え入れたいと思っているのだが……」
「おぉ、そうか!  もちろん構わない」

  なんて事なの。遮られてしまったわ……
  さらに言うならば、話が……話が進んでしまっている!
  これ、まさかとは思うけれど、結婚前に同居する話になっているのでは?

「ヒューズ!  あの、ちょっと待って?  わ、私は……」
「?」
「……っ!」

  ヒューズが昔と変わらない仕草と多くの面影を残した表情で私を見る。
  そのせいで私はまっすぐヒューズの顔が見られなくなった。
 
   (そんな目で見ないで……)

「どうしたんだ、オリヴィア?  どうにも挙動不審だな。まぁ、いくら幼馴染相手とはいえ結婚相手として再会したのだから落ち着かなくもなるか、ははは」

  お父様は勝手にウンウンと一人で解釈してしまっていた。

  

  その後、ヒューズが帰った後にようやく「ヒューズは私の事を嫌いなの。だからこれは何かの間違いなのよ!」と、お父様に過去の出来事を話して訴えたけれど、「そんなに照れなくても」と全然違う解釈をされてしまい、ヒューズとの縁談の話はトントン拍子で進んでいく事になってしまった。




  そんな私は、ヒューズが帰り際に「……今度こそ」と、かなり思い詰めた表情で何かの決意を語っていた事を知らない──……

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