【完結】今更、好きだと言われても困ります……不仲な幼馴染が夫になりまして!

Rohdea

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3. 新たな生活



「今日からお世話になります」
「……」

  トントン拍子で話が進んでしまったせいで、結局私は正式な婚姻を結ぶ前から、カルランブル侯爵家で生活する事になってしまった。
  
  (気が重い……)

  元婚約者のヨーゼフ殿下と愛の無い(しかも他の女付きの)結婚、私の事を嫌いだと思っているヒューズとのこれまた愛の無い結婚……どちらに転んでも私は幸せになれそうにない。

  (きっと、私は根本的に男性運が無いのよ)

  それにしても……

「……」
「……」

  出迎えてくれたのはいいけれど、何故、ヒューズは黙っているのかしら?
  何だか顔も強ばっている気がするし、何なら顔も赤い。

  (もしかして、具合でも悪いのかしら?)

「ねぇ、ヒューズ」
「な、何だ!?」
「……あなた、具合が」
「別にどこも悪くない!」

  そうは言うけれど、ヒューズの声はどこか上擦っていてやっぱり様子がおかしい。
  つまり、これは何らかの不満を現しているに違いないと私は思った。

「それならいいのだけど……でも、あなた、そんなに不満そうなのにどうして私に婚約を申し込んだの?」
「……は?」

  ヒューズの目がこれ以上は無い!  というくらいに大きく見開かれる。
  その驚きは何?

「お前……手紙……」
「手紙?」

  私は首を傾げる。

「まさか、手紙を……読んでいないのか?」
「え?」

  ヒューズの声はますます震えている。あと、赤かった顔が今度は青くなった気がするので、さすがに本当に大丈夫なのかしらと心配になった。

「えっと、手紙とは……?」
「決まってる!  婚約の申し込みの手紙だ」
「!!」

  (しまった!  すっかり忘れていたわ……!)

  お父様が手紙と釣書を持って来た時からずっと放置していて、縁談相手がヒューズだと分かった後もその事の衝撃が強すぎてやっぱりずっと放置したまま…………あれ?

「……読んでないし、どこに行った……のかしら?」
「!?  お、お、お前……!  お前って奴は……!」

  ヒューズが赤くなったり青くなったりしながらプルプル震えている。
  さすがにこれは私が悪い。

「ご、ごめんなさい。バタバタしていて、その、すっかり……えっと、手紙を読めば理由は分かった……という事なのかしら?  それなら何と書いてあったのか簡単に今……」
「こ、こんな所で言えるかーー!!」
「えっ……」
「も、もういい!  部屋に案内するからさっさと着いて来い!」
「は、はい……」

  ヒューズはそのままプイッと顔を背けたまま、歩き出してしまった。

  (……あの手紙、何が書いてあったのかしら)

「……」

  でも、どこにいってしまったのか今となっては正直よく分からない。
  なんて事をしてしまったのかとさすがに落ち込んだ。




「……ここがオリヴィア嬢の生活する部屋だ。それとあの扉が夫婦の寝室と繋がっている」
「ふっ……!」

  部屋に着いた。
  ヒューズは部屋の中の扉を指しながらそう説明する。

  (夫婦!)

  その言葉に私の顔が真っ赤になる。

「ま、ま、まだ、夫婦じゃない……わ」
「…………すぐに夫婦になる予定だがな」
「っ!」

  (そんなの無理!  だって、こ、心の準備が……)

「ね、ねぇ、ヒューズ……」
「…………何だ」

  これで案内は終わったとばかりにさっさと私を置いて歩き出してしまいそうな様子のヒューズの服の裾を掴んで引き止める。

「どうして、そんなに早く結婚を急ごうとするの?  もっと時間を置いてからでは駄目だったの?」

  (せめて、婚約期間を長くしてダラダラと引き伸ばす事が出来れば、結婚の回避が出来るかも……なんて)
 
  そう思って訊ねてみたのだけど、ヒューズの反応は思わしくない。
  ヒューズは首を横に振りながら言った。

「駄目だ」
「駄目?  どうして?」
「それは……早くしないと………………が」
「え?  今なんて?  ヒューズ」

  声が小さくて何と言ったのか分からなかった。

「何でもない!  とにかく駄目なものは駄目だ。だから俺達の婚姻は予定通り進める」
「そ、そう……」

  (やっぱり駄目……か)

  こうと決めた時に譲らない強情な所は昔と変わっていないのかもしれない。

  (そういう所が好きだったけれど……今は苦しい……)

  私は掴んでいた服の裾を離す。

「……案内ありがとう。荷物も。でも、着替えるから出て行ってくれると嬉しいわ」
「……」

  私のその言葉にヒューズは、何も言わずに部屋から出て行った。


  パタンッと音を立てて閉まる扉。
  そんなヒューズの出て行った扉をぼんやり見つめながら私は思う。

  (やっぱり上手くやれる気がしないのだけど)

  別にあの日のように「嫌いだ!」と暴言を吐かれている訳でもない。
  それでもモヤモヤが消えないのは、あの日の事が私の心に影を落としているから……

  (優しかった頃の彼を知っている分、今の態度が寂しくもある……)

「手紙……読んでおけばよかった」

  そうしたら、このモヤモヤも少しは気が晴れたかもしれなかったのに。
  読まなかったのは私なのにそんな事を思ってしまった。



◇◇◇◇◇



「今日、俺達の婚姻誓約書が受理された」
「!」

  私がカルランブル侯爵家で生活をするようになってから、約半月が経ったその日、ヒューズは淡々とした表情で私にそう告げた。

  (とうとうこの日が!)

「そういうわけで今日から俺達は夫婦になった」
「……夫婦」

  聞き慣れない響き。  
  そう言われてもあまり実感が湧かない。
  やっぱり余りにも話が急で早く進み過ぎたから──

  (あっ!)

「ね、ねぇ、ヒューズ。私、カルランブル侯爵様と侯爵夫人にご挨拶していないわ!  お二人は何処にいらっしゃるの?」

  半月もの間、のうのうと屋敷で過ごしておいて何を今更……と言われそうだけれど、義両親に挨拶もしていなかった事に今更ながら気が付いた。
  ヒューズの私を見る目にも今更だな、と言われているような気持ちになる。

「ごめんなさい……私、すっかり抜けていて」
「……二人は領地にいる」
「そ、そうだったの……ね」
「…………結婚の事ももちろん知っている。が、暫くは領地から戻らない」
「え?」

  ヒューズのその言葉に驚いて顔を上げる。

「それって、あの、つまりかなり今更だけど……」
「この屋敷で生活するのは俺達夫婦と使用人だけって事だ」
「……」

  ヒューズはふぅ、と軽くため息を吐いて続ける。

「お前も色々思う事はあるだろうが、もう俺達は正式に“夫婦”になったんだ───オリヴィア」
「!」

  (再会してからはオリヴィア嬢とずっと呼んでいたのに!)

  ドキドキ……

  5年振りに名前を呼び捨てにされて、胸がドキッとしたのは絶対に気の所為だと思う事にした。

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