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13. 帰省は波乱の幕開け
しおりを挟む「久しぶりだわ……」
婚姻前からカルランブル侯爵家に移り住んでしまったから、実家に足を踏み入れるのは久しぶり。
(本当はお父様の顔はあまり見たくないのだけど)
かつての殿下との強引な婚約や、今回のヒューズとの結婚の話の強引さを思い出すとどうしてもムカムカしてくる。
結婚の話だって、もしもヒューズ以外の男性が先に話を持って来ていたら……そう思うだけでゾッとする。
(相手が悪くない条件だったなら、きっと、二つ返事で答えていたに違いない)
「お嬢様、お帰りなさいませ」
「久しぶりね。今日は捜し物があって帰ってきたの」
「捜し物……ですか?」
私を出迎えたメイドは不思議そうな顔をしている。
「えぇ、嫁ぐ前に大事な忘れ物をしてしまったみたいなのよ」
「そうだったんですか! 気付かなくて申し訳ございません」
「いいのよ……私の部屋はそのままかしら?」
「はい」
ありがとう……とだけ言って私はかつての自分の部屋へと向かう。
しかし、その途中で声をかけられた。
「オリヴィア! 急に戻って来る連絡を寄越してどうしたんだ!?」
「お父様……」
「まさか、お前とんでもない粗相をして捨てられた……のではないだろうな? やめてくれ! もう、後が無いと言うのに!」
「……」
お父様は、
殿下にも捨てられたんだ……何かあってもおかしくない……
などと大変失礼な事を呟いている。
(こうなるから、会いたくなかったのに!)
「お父様、そうではありません。探し物があって取りに来ただけですので、どうぞ私の事はお気になさらず」
「そ、そうか……だが……」
お父様は納得したようなしていないようなそんな顔をしていた。
◇◇◇
かつての自分の部屋に入った私は、まずは手紙の類を仕舞っていた引き出しを開けてみる。
未開封とはいえ、手紙は手紙。この中に押し込んだ可能性もある。
むしろ、ここにあって欲しい……そんな願いを込めて確認していく。
「うーん、やっぱり見当たらない。一番可能性があったのはここだったのに」
こうなると本当に望みは薄い。
「……昔のヒューズからの手紙はこんなにたくさんあるのに。楽しかったなぁ……って、思い出に浸ってる場合では無いわ」
私は更に気合を入れた。
「お嬢様、少しは休憩を……って、何ですかこの手紙の山は!」
「あ……」
様子を見に来たメイドのマリリンが驚きの悲鳴をあげる。
「ちょっと……」
「ちょっとでこんなになりますか!」
「うぅ……」
マリリンが私が拡げすぎた手紙を集めてくれる。
「あら? 全部、ヒューズ様からの……」
「……」
「あらあら。まぁまぁ、ふふふ、お嬢様ったら……」
お願いだからその意味深な笑いはやめて欲しい!
「ヒューズ様と言えば……まさかお嬢様の結婚相手がヒューズ様だったなんて驚きましたよ」
「そうね……」
「お嬢様ったら釣書もお手紙も読まずに顔合わせに行かれて……きっとヒューズ様でなかったら激怒されてましたよ?」
「そうね……」
(だって、激怒されての破談を狙ったんだもの……)
「お嬢様が向こうで幸せに過ごせているなら良かったです」
「……」
「何かあった時の為に一応こっそり取っておきましたけど、いらない心配だったみたいですね」
(……ん?)
「何の話?」
「え? いえ、お嬢様があの時見たくもないから捨てて頂戴、と言っていた釣書とお手紙。後で何かあったら困るかなと思ってこっそり保管を……」
「!?!?」
驚きで私の声も身体も震える。
「あ、あるの!? ヒューズからの釣書と……手紙!! す、捨てずに、ここここに!?」
「お嬢様……? は、はい。す、すみません、私、勝手な事を……しました」
私の声と迫力が余程怖かったのかマリリンは全力で怯えている。
怖がらせたかったわけではないのに!
「違うの! 怒っているわけでは無いのよ! お願い! 今すぐその手紙をここに持って来て?」
「え? は、はい?」
「私はその手紙を探しに来たのよ!」
「え! わ、分かりましたーー」
マリリンは慌てて保管しているという手紙と釣書を取りに行ってくれた。
その後ろ姿を見送った私はヘナヘナとその場に座り込む。
(あった……捨てられてなかった……良かった……!)
やさぐれていたとはいえ、あの時、捨てろと命令した自分の事は反省しないといけない。
(でも、こうして残ってた……これで……)
「ヒューズ……」
5年前のあなたの言動、その後のあなた……そして、今の……
ヒューズが何を抱えて苦しんでいるのかが分かるかもしれない。
全ての事が書かれていなくても、それでも……!
「…………? マリリン遅くない?」
手紙と釣書を取りに行ってからもう数分は経っている。
そんなに時間がかかるものかしら?
それに階下が騒がしい?
と、不思議に思っていたその時、別のメイドが部屋に飛び込んで来る。
「お嬢様! 大変です。何故かヨーゼフ殿下が我が家にいらっしゃいました!!」
「───は?」
自分でもびっくりするくらい低い声が出た。
(なぜ、このタイミングで殿下がここに?)
「何の用事で?」
「わ、分かりません。先触れもなく突然で……どうしてでしょう?」
そんなの私の方が聞きたいわよ!
お父様に用事? え、絶対に違うわ。
(……まさか、私が実家に戻って来た事を知った……?)
王家の力を使えば私の行動なんてあっさり筒抜けなのかもしれない。
「何を考えてるのよ……」
もう婚約者でも何でもない私に執着する殿下の事がひたすら気持ち悪いと思った。
────
「あぁ、オリヴィア。待ちくたびれたよ」
私が階下に降りるとそこには確かにヨーゼフ殿下その人が立っていた。
「……殿下、ここにはいったい何のご用事で? お父様なら──」
「卿に用事があったわけではない。もちろん、オリヴィアお前に会う為だ!」
「……」
やっぱりかと思う。
(本当に気持ち悪い。絶対、監視させていたんだわ……いえ、もしくはこの家に密告者がいる可能性も)
どちらにせよヨーゼフ殿下は私に用事があった、そういう事だ。
「オリヴィアに接触しようにも、あの忌まわしいヒューズが尽く邪魔して来ていてな」
(……え?)
「本当に昔から目障りなヤツだ」
「……」
(もしかしてヒューズ……私を守ってた……?)
そんなヒューズを思って顔を綻ばせかけたけれど、殿下が手に持っていたある物を見て私は血の気が引く。
「ヨーゼフ殿下……それ、は」
「ん? あぁ、これか? これはちょうど、私がこの家に訪ねて来た時にそこのメイドがこれを持って目の前を歩いていてな。ちょっと貸してもらって見せて貰っている所だ」
「!!」
殿下の横でマリリンが蹲って私の名前を呼びながらごめんなさい……と泣いていた。
その様子に怒りが込み上げてくる。
(これが、ちょっと貸してもらった? 無理やり奪ったの間違いでしょう!?)
殿下が手に持っていたのは、マリリンが保管してくれていたというヒューズからの手紙だった。
「カルランブル侯爵家の印籠が見えたのでな。これはヒューズからの手紙だと思い中身を読ませてもらったのだが……」
「っ! 中を! あなたは勝手に中を開けたのですか!? しかも読んだ!? いくら殿下でもこれは横暴です!!」
「黙れ! 煩い! 私に逆らうのか!?」
「っ!」
(何で……何でこんな奴が王子なの……)
そんな思いしか生まれない。
「しかし、ふはは! やっぱりオリヴィアは愛されていないのだな?」
「……?」
何がおかしいのか殿下は愉快そうに笑う。
「日付を見るにこれは私と婚約破棄した後にヒューズが慌ててオリヴィアに送った求婚の手紙だろう?」
「それが何だと?」
「ははは! 見てみろ、オリヴィア! この手紙には求婚どころか愛の言葉一つ書かれていないでは無いか! これがお前がヒューズに愛されていない証拠だ!!」
そう言って殿下は手紙を私に向けて投げ捨てて来た。
私は慌ててその手紙を拾い、中身を確認する。
「!」
その手紙は、“オリヴィアへ”と宛名は書かれているものの、肝心の内容は真っ白……
確かにそこには何も書かれてはいなかった。
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