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12. 決意
しおりを挟む「もう、帰ってしまうなんて残念だわ」
「……頼みたかった用は終わったから」
ヒューズはお義父様が持っているある物を分けてもらいたかったらしいけれど、どうやらそれは取り寄せになるらしい。
なので、ここへの用事はこれで済んでしまった。
「今度はゆっくりしていってね。オリヴィアちゃんも」
「は、はい……!」
「私、可愛い娘がずっと欲しかったのよ。だから、嬉しくて」
ふふっとお義母様は笑う。
──娘……!
(そうよ! 私はヒューズの妻……なんだもの)
「……」
何を今更……と言われそうだけれど、“妻”という響きにドキドキする。
再びの恋心を自覚するというのは何とも恐ろしい!
「オリヴィア? 様子が変だぞ? 顔も赤い」
「んえ!? そ、そん、な事は無いわよ?」
「……」
完全に声が裏返った。これでは何かあると言ってるも同じ……
(私のポンコツーー!!)
「まさか、熱でもあるのか?」
「!!」
ヒューズの手がそっと私の額に触れた。
ボボンッ! と私の顔が更に真っ赤になり、恥ずかしくて涙目になり身体もプルプル震えてしまう。
「え!? オリヴィア!? 大丈夫か? うぅ、めちゃくちゃか、か、か、か……」
今度はヒューズがおかしくなった。
ついでにヒューズの顔もどんどん真っ赤になっていく。
───これから帰宅しようと言うのに、何故か玄関先で顔を真っ赤にしながら見つめ合う新婚夫婦。
そんな私達を見ていた侯爵夫妻は……
「……何だあれは。お互い顔を真っ赤にして震えてるぞ? 二人は夫婦……だよな?」
と、お義父様。
「初々しいわね。お付き合い始める前のカップルみたいね」
と、お義母様。
「……何だか昔に戻ったみたいだな」
「そうね。また、二人が並んでいる所を見られて嬉しいわ」
「お前はずっとオリヴィア嬢を嫁に欲しがっていたからな」
「だって、可愛いんですもの! 何より……」
「何より?」
変な所で言葉を切ってしまった夫人に向かって侯爵は首を傾げる。
「昔から二人共お互いの事が大好きだなんだもの」
「なるほどな」
侯爵は頷く。
「だからこそ、ヒューズが辺境に行ってしまってオリヴィアちゃんが殿下と婚約した時は悲しかったわ」
「だが、こうしてヒューズの妻になってくれた」
「えぇ、ヒューズのあんな笑顔久しぶり……」
顔を真っ赤にしながら互いを気遣う息子夫婦を夫妻は温かく見守る事にした。
────
「それで、どうしてこんな体勢になるの……?」
「オリヴィアの様子がおかしかったから」
ヒューズは真面目くさった顔でそんな事を言う。
帰りの馬車の中──
今までは当たり前のように私の隣に座っては密着していたヒューズは、更に大胆になっていた。
「……っ! だからって膝の上に乗せなくてもいいじゃない!」
「オリヴィアは大丈夫だと言うけれど、そうは思えない。完全に様子がおかしい」
「そ、それは……!」
(こ、恋心というものが……!)
「ほら、しっかり首に手を回せ。危ないぞ?」
「うぅ……!」
(近いーー! カッコイイーー!)
ヒューズは顔を真っ赤にして身体もプルプル震えていて様子のおかしい私を、突然抱き抱えたと思ったらそのまま馬車へと乗り込んだ。
そして、そのまま離してくれない。
こんなのますます顔が真っ赤になって熱を持ってしまうのに。
(だって、だって、だって!)
ヒューズのこれまでの事が、全て裏返しだったと言うのなら……
(ヒューズも私を……)
───オリヴィアちゃんの話を聞かない日は無かったわ。
お義母様の言葉が頭の中に甦る。
毎日、毎日話題に出すくらい私の事を──?
「ヒューズ……」
「オリヴィア?」
「……」
「えっ! オリヴィア……!?」
私は、ただでさえ密着している身体を更に近付けてギュッとヒューズに抱き着いた。
◇◇◇◇◇
(やっぱり手紙を探そう!)
屋敷に戻った私はそう決心する。
絶対に何かあったに違いないヒューズが、きっと必死に考えてようやく見つけた状況を伝える手段だったと思われる私への手紙。
わざわざ領地に行ったのはきっとその代わりとなる物を手に入れたかったんだと思う。
(でも、それもダメだった。それなら──)
手紙を探すしかない!
「え? 実家に行く?」
翌朝、早速、私は手紙を探すために実家に行く事をヒューズに伝える。
「そうなの。今更なんだけど忘れ物があったみたいで」
「……でも、わざわざ戻らなくても必要な物ならこっちで買えば……」
「ダ、ダメなの!! 買って手に入る物では無いの!」
「!?」
私の剣幕にヒューズも驚いている。
慌てて私の頭を撫でながら言った。
「ご、ごめん。そんな大事な物だと思わなくて。簡単に買えばいいですむ事ではないよな。ごめん……」
「ヒューズ……」
優しく頭を撫でてくれるヒューズの手に、ドキドキと嬉しさとホッコリした温かさを感じながら私は再度決意する。
(絶対に手紙を見つけて、ヒューズの伝えたかった事を知らなくちゃ!!)
「夕方までには帰るわ」
「泊まらないの?」
(お父様の顔を見たらイライラして、殴ってしまいそうだから泊まるつもりなんて無いわ)
「えぇ、だって私の家は……ここだもの!」
「!」
ヒューズの瞳が大きく見開かれる。
私の発言に驚いたみたいだった。でもすぐにヒューズは微笑みながら言った。
「分かった。迎えの馬車を夕方には向かわせるよ」
「えぇ、お願い」
「気をつけて」
───チュッ
「!? な、な、な、何をするの!?」
突然、ヒューズが私の額に口付けを落とした。
動揺した私は顔が赤くなり声が上擦る。
「いや、夫婦らしく朝の挨拶を……と思って」
「夫婦らしく……」
そう言われると本当に私達はあんまり夫婦らしくない。
(好き嫌い……の件は置いておいても幼馴染という期間が長すぎたせいかも)
これからもヒューズと一緒にいる為にも、手紙を探し出して見つけるだけではなくて、妻としてヒューズを繋ぎ止めておかなくてはいけないんだわ!
「ヒューズ……えっと、わ、私はあなたの“妻”として、こ、こ、こんな時は何を返せばいいのかしら?」
「え!?」
私は真っ赤な顔で若干涙目になりながら、上目遣いで訊ねる。
すると、ヒューズも真っ赤な顔になり叫んだ。
「……っっ! くわっ……!!」
「くわ?」
聞き慣れない単語が飛び出したので首を傾げる。
「くわ……かっ……かー……あぁぁぁ!!」
「ヒューズ!?」
慌ててヒューズに近付くと、そのままギュッと抱きしめられた。
「ちょっ! ……ね、だ、大丈夫なの?」
「大丈夫……あまりにもか…………で、この世の物とは思えなくて、自分が違う世界に旅立ったような気がしただけ」
「……? 何を言っているの?」
言葉に詰まったのは一箇所なのにそれ以外も意味が分からなかった。
「……」
ヒューズは無言になるとそのまま、また私を抱きしめた。
少しして身体を離すと照れ臭そうに言った。
「……口付けを」
「えっ!?」
「“妻”としてのお返しは……口付けをくれたら……嬉しい」
「く、口付……け?」
私から口付けですって!? 妻は夫にそんな大胆な事をして返すものなの!?
「ほ、頬で構わない…………から」
「~~~!」
頬を赤く染めて恥じらってるヒューズが、可愛く見えてキュンとした。
恋心というものはやっぱり恐ろしい。
「で、では……」
「!」
私はそっと背伸びをしてヒューズの頬にそっと口付けをした。
(あぁ、何だか幸せ……)
でも、この幸せは仮初の幸せ。
本当にヒューズと二人で本当に幸せになる為に。これからもこうして過ごす為に……
(絶対に手紙を見つけるんだ!)
私は改めてそう決意した。
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