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10. ピンク色の彼女の突撃
しおりを挟むルシアンからの忠告を受けたその日。
女子寮に帰宅し、部屋に戻ろうとしていた私の前に彼女……エリィ様は現れた。
「こんにちは。こうしてちゃんと話すのは初めてかしら? フィーリー・アドシークさん」
「え、えぇ……そうですね。エリィ・マドリガル様」
私の目の前に現れた彼女は微笑んでいる。だけど、その目の奥は全く笑っていない。
(ルシアン……あなたが側にいる事が出来ない女子寮で捕まってしまったわ……)
「フィーリーさん。私ね、あなたとはずっとお話してみたいと思っていたの」
「そ、うですか」
「あなたは魔力量の多い平民で属性が不明だと聞いたわ。さぞ、大変な思いをされているのでしょう? 私も平民だったから分かるのよ」
そう言って私に向かって悲し気に微笑むエイシャさんは、何も知らなければ優しさと慈悲を兼ね備えた素敵な女性に見え……
(無理! 全然、見えない! むしろ怖い!)
「いえ、そこまで言われる程ではありませんから。ですのでお構いなく……」
「そんな悲しい事を言わないで? 私、あなたの力になりたいの! 私なら平民という特殊な立場のあなたの気持ちも分かるもの」
そう言ってエリィ様は私の両手をそっと握り、さらに甘く微笑む。
その瞬間、何かがバチッと弾かれた気配がした。
(!? 今のって……)
「……本当に大丈夫ですから」
「!?」
私が再び断ると、エリィ様は驚き悲しそうな表情をする。その表情を見ていると申し訳ない……そんな気持ちにさせられた。
(……こうして多くの人を誑し込んでいったのかしら?)
「そう……残念だわ。何か力になれる事があればと思ったのに」
「本当に困っている事はありませんので、気持ちだけ貰っておきます。ありがとうございます」
私がそれだけ言って離れようとすると「待って?」と呼び止められた。
「1つ聞きたいの。フィーリーさんは、ルシアン様とはどういう関係なの?」
「ルシアンとの関係?」
「そうよ、よく一緒に居るでしょう? 恋人なのかしら?」
「恋人? ただの腐れ縁ですけど……?」
ルシアンの事をなんと表現したらよいのかは正直、よく分からない。
(“友人”と呼んでもいいのかしら?)
友達がいない私にはよく分からない……
それに、なんだか友人と言うのがしっくりこないのも事実。そうして導き出された関係が“腐れ縁”だった。
「腐れ縁……?」
「魔術学院に入学した時からの付き合いなので」
私がそう答えるとエイシャさんは、嬉しそうに笑った。
「あぁ、ふふふ、あはは! そうなのね? なら、私が彼を貰っても問題ないという事よね?」
「貰う?」
「そうよ! だって、ルシアン様は将来は大魔術師様となる方ですもの」
それが何だと言うの? 何故、そこで貰うだのという話になるのか全く分からない。
私が首を傾げていると、エリィ様はコロコロと笑いながら更に続けた。
「希少な光属性の私と彼は結ばれるべきだと思うの」
「そうですかね?」
私が怪訝そうにそう返すと、エリィ様は少しムッとしたのか声を荒らげた。
「当たり前でしょう!? なのであなたみたいな人が彼の周りをチョロチョロするのは迷惑なのよ」
「……」
言外に落ちこぼれは近付くなと言われた気がする。
どちらかと言うとチョロチョロしてるのはルシアンの方だと思うけど。
「だから……ね? いずれ彼は私のモノになるの。邪魔はしないでくださいね?」
「……」
エリィ様はそう言ってまた甘く甘く微笑んだ。
*****
「捕まっただと!?」
「えぇ、ルシアンの入る事の出来ない女子寮でね」
「女子寮……!」
ルシアンがショックを受けたような表情になった。
(私もエリィ様も寮生だという事がすっかり抜けていたんだろうなぁ……って、私もだけど!)
翌日、女子寮の中でエリィ様に捕まった話をルシアンにした。あれだけ心配してくれていたのだから黙っておく方が申し訳ない。
「……くっ! 何か変な事はされなかったか? 身体に異変は?」
「特に無いわね。攻撃されたわけでも無いし。話をした……されただけ」
そうか、とホッとするルシアンの顔を見ていると、彼が本気で心配してくれていたのだなと感じられて……何だか少しむず痒い。
「……何を言われたんだ?」
「うん。それなんだけど、私に邪魔をするなって」
「邪魔?」
「エリィ様は、ルシアン……あなたを狙っているみたいだったわ」
「!」
(……この言葉を口にするのに気が重いのは何故かしら)
私のその言葉に、ルシアンは少し驚いた表情を見せたもののすぐにいつもの顔に戻った。
「……やっぱり、アレは誘惑だったのか」
と、小さく呟いた。
「ルシアン、誘惑されていたの?」
確かにいずれルシアンは自分のモノになるって自信満々に言っていたけれど……
「多分、誘惑だったんだと思う」
「多分って……」
そう言ってルシアンは、エリィ様に呼び止められて話をした日の事を話してくれた。
状況からいって私が盗み聞きした時の事だと思われた。
「誘惑……にのらなかったの?」
「誰がのるか! そんなつもりも全く無いからな!? あー……だけど、よく分からないが、一瞬だけ意識が持っていかれそうになった時があった気がする。すぐ気付いたけど。あれは嫌な感じだったな」
「…………」
もしかして、その時エリィ様は何か力を使った?
だけど、上手くいかなかった……?
「何を考えてるんだろうな、あの女」
アレンディス殿下を始めとして、その他の男女問わずを誑し、果ては大魔術師になるからって理由だけでルシアンをも誑し込もうとした目的は何なんだろう。
そして、人の気持ちを何だと思ってるのだろう。
(……人の気持ち? 人の気持ちを操る……?)
そんな力として思いつくのはやっぱり一つだけ。
「ねぇ、ルシアン? もしかして、彼女のスキルって“魅了”かしら?」
「え?」
「それなら、皆の突然の態度や気持ちの変化の理由が分かるというか」
「……だが、魅了の使い手はここ数年生まれてないと聞いていたが?」
魅了の特殊能力持ちは危険なので監視対象のはずだ。
子供の時の魔力測定や属性判定時にまだ力が発現していなかったとすれば、平民出身の彼女はその後も鑑定される機会が無く逃れたのかも。
だけど、1つ気になる。
彼女のスキルが魅了だと仮定した場合、なぜルシアンは魅了されていないのか、だ。
彼女のあの口振りやルシアンの話の様子から言って力を発動させていたと思う。
だけど、ルシアンは変わっていない。
「ルシアンは魅了魔法に耐性でもあるの?」
「は?」
「彼女のあの様子。おそらくルシアンにも力を使ったはずよ? なのに、あなたは無事だわ」
「……いくら何でも俺にそこまでの力なんて無いぞ?」
「そうなの? それなら何で無事なの」
私とルシアンはそのまま考え込む。
「……それを言うならフィーリーこそ無事じゃないか」
「え?」
「あの女は、男女問わず周りの人間を自分の取り巻きにしてる。なら、昨日お前にも、その力を使ったんじゃないのか? その方がお前を操りやすくなるだろ?」
「……!」
昨日のあの会話中に感じた違和感。やっぱりあれは……
もしそうなら、その力が私に効かなかった理由は無効化の力が働いたから?
と、そこまで考えてやはり疑問に思う。
だから何故ルシアンには効いていないの?
(耐性は無いと言っていたし……おかしくない?)
ルシアンからもっと話を聞きたかったけれど、自分のこの力の説明をするのも厄介なのでこれ以上はと断念する。
こうして2人で色々頭を悩ませたけれど、結局答えは出なかった。
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