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8. 王宮へ
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「ふふ、お姉様、私、殿下にお会いするの初めてよ! 楽しみだわ~」
「そう……それは良かった……わね」
「あら? その反応。もしかしてお姉様は違うの? 殿下にお会いした事があるの?」
「……」
何て答えたものかと私は迷う。
そのせいで何も言えなくなった。
「……? 変なお姉様ね~……あ、綺麗な景色!」
フリージアはそれだけ口にして、今度は窓の外から見える景色に対して、キャッキャとはしゃぎ始めた。
(つ、疲れるわ……)
殿下から婚約打診の手紙を貰ってから一週間後。
今、私はフリージアと馬車に乗って王宮に向かっている。
目的はもちろん、私がランドルフ殿下とお会いするため。それなのに、何故フリージアが共にいるのかと言うと……
────ねぇ、お姉様! お姉様が王宮に行く日は、私も一緒に王宮に連れて行って? 私も殿下にお会いしたいの!
あの時、フリージアがそうお願いしてきたからだった。
「何をバカな事を言っているの? あなたは呼ばれてないでしょう?」
そう返した私にフリージアはにっこり笑顔で言った。
「だって、お姉様一人じゃなきゃ駄目……だなんてどこにも書かれていないじゃない?」
──と。
おかげでフリージアの言い分に頭を抱える事になった私はお父様に相談したところ、「殿下に確認してみる」と言ってくれたのでお願いした。
すると返事が三日後に来たのだけど、
“構わない”“妹君もあの場には居たと聞いているし、妹君にもお礼を言いたい”
と、まさかのフリージアが来てもいいという好意的な内容での返信が来た。
なので、私は今日フリージアと共に王宮に向かっている。
────
(──懐かしい)
王宮に到着し、馬車から降りて王宮内に足を踏み入れた途端、自然とそんな思いがじわじわと胸に込み上げてきた。
王妃教育の為にせっせと通い続けていたあの日々が懐かしくも遠く感じる。
……実際、遠くになってしまったわけだけど。
「お姉様、王宮って広いのね~」
王宮に初めて来たフリージアはキョロキョロしながら落ち着きがなく、とにかくはしゃいでいた。
そんなフリージアの姿を見て、私も初めて王宮に来た時は、こんなだったわと懐かしく思う。
『お父様ーー! すごーい! お城ってとっても広いわ!』
『こら、ブリジット! フラフラするんじゃない! 迷子になるぞ!』
『はーい』
そんな風にお父様に怒られたんだっけ。
それで本当にフラフラしすぎて迷子になってしまったわけだけど。
(───あぁ、でも、そこで……)
「───ラディオン侯爵家のブリジット様とフリージア様ですか?」
「っ!」
懐かしい思い出に浸ろうとした所で、突然後ろから声をかけられたのでビクッと私の肩が大きく跳ねた。
(び、びっくりしたぁ……)
しかも、そのかけられた声が一瞬、殿下の声に聞こえてしまったせいで余計に焦ってしまった。
おかげで今は心臓が飛び出しそうなくらいバクバク鳴っている。
「は、はい、そうです」
「お待ちしておりました。中へどうぞ、ご案内致します」
迎えに来た男性は淡々とした口調で私達を出迎えようとする。
私は振り返ってその男性の姿を見た。
(あら? 初めて見る人ね……)
歳は私とそう変わらないように見えるので、どこかの貴族の令息?
案内役をしているのだから殿下の側近候補といった所かしら?
だけど……
(顔がよく分からない)
前髪がかなり長くて目元が片方しか見えないせいか、表情が全く読めない。
(視界悪そう……)
過去に見たことが無い人なのが少しだけ気にはなったけど、きっと私がこの人のことを知らなかっただけだと思った。
「はい、よろしくお願いします」
私がお辞儀をしながらそう口にすると、目の前の案内役の彼は驚いたのか目を大きく見開いた。
そして、そのまま私の顔をじっと見てくる。
「……?」
……私の顔に何かついているのかしら?
「……えっと、私に何か?」
「あ、いえ…………し、失礼しました。め、面会の部屋にご案内致します」
「は、はい」
いったい何に驚かれたのかよく分からないままだった。
けれど、とりあえず大人しく彼の後ろについて行く。
──あ、そう言えば、フリージアがさっきから静かだわ?
そう思ってフリージアに視線を向ける。
「フリージア、妙に静かだけどどうかしたの?」
「…………お、お姉様。あの人、誰?」
何故か、フリージアが案内役のあの彼の背中を穴があきそうなくらい、じっと凝視していた。
「誰って、殿下の元に案内してくれる方でしょう?」
「そうじゃないわ! どこの誰なのか知っているの? と聞いているの! 名前とか家名とかよ!」
「え?」
フリージアが何故そんなことを気にするのかさっぱり分からない。
もしかして、案内役の彼が好みだった?
確かに見えている顔半分だけでも美形そうな人だとは思ったけれど……
ただ、知らないものは知らない。
「知らないわ。顔もよく分からないし」
「……えー……」
私の答えにフリージアはかなり不満そうだったけど、そんな顔をされても困る。
「いいから行くわよ」
「はーい……」
雑談はそこまでにして殿下との面会に向かった。
「───こちらの部屋でお待ちください。殿下を呼んで参ります」
そう言われて部屋に通され、案内役の彼は出て行った。
部屋には私とフリージアだけが残される。
(いよいよ……対面の時)
私にとっては“再会”と言うべき殿下との対面。
心臓が飛び出しそうな程、緊張していた。
そして、ここまで来ても私が思う事は一つだった。
────やっぱり無理。今すぐ逃げてしまいたい!
「ふふ、お姉様、殿下早く来ないかしら~」
「……」
緊張している様子が全く見受けられないフリージアをの姿を見ながら思う。
こんな風に無邪気でいられたらすごく幸せなのに。
そんな事を考えていたちょうどその時、部屋の扉のガチャっという音と共に人が入って来た。
───来たわ!
私とフリージアが頭を下げて殿下を出迎える。
「ラディオン侯爵家のブリジット嬢、そしてフリージア嬢。今日はわざわざありがとう。楽にして構わない。顔を上げてくれ」
(どうせなら、ずっと下を向いたままでいたかったわ)
そんな事を思いながらそっと顔を上げる。
「……っ」
目の前にはあの日よりも少し若く……かつて、私と婚約した頃と変わらない様子のランドルフ様の姿。
「……っ!」
(……あ、ダメ……無理)
殿下を一目見るなり、猛烈な気持ち悪さが込み上げてきてしまい、顔を上げていられなくなってしまい私は下を向く。
「お姉様?」
「……ブリジット嬢?」
「……っ」
(嫌! その声で……私の名前……を呼ばれたくない……呼ばないで!)
そう思ったのを最後に私の意識はプツリと途絶えた。
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