【完結】やり直しの人生、今度は王子様の婚約者にはならない……はずでした

Rohdea

文字の大きさ
7 / 38

7. 巻戻る前と違いすぎる

しおりを挟む


(どうして?  どうしてこんな事になったの?)

「おい、ブリジット。どうした?」

 硬直した私を心配したお父様が、私の両肩を掴んでガクガクと前後に揺さぶる。
 どんなに揺さぶられても、私の身体の震えも動揺は収まりそうにない。
   
「……ど、し……て」
「ブリジット?」
「何で……わたし?」

 私の口から出てくる言葉も、たどたどしいものになってしまう。

「ブリジット、突然の話で動揺してしまうのは分かる。だが、手紙にも書いてある通り、殿下はお前を妃に望んでいるようなのだ」
「…………」

(───違うわ!  そんなの有り得ない!)

 そう口にしたいのに、声が出てくれない。
 だって、巻戻り前の殿下は私と婚約している間、うっとりと頬を染めてずっと“私”に向かって言っていたのよ?

『……何度も意識を失いそうになったあの時、必至に励ましてくれようとする“君の声”に助けられていたんだ、本当にありがとう』

 ──と。
 今回も傍で殿下を励まし続けたのは私ではなくてフリージア!
 それなら、フリージアを望むはずでしょう?

「ははは!  まさか、ブリジットが見初められるとは……夢みたいな事もあるのだな」
「……」
「殿下はなかなか婚約者を決めようとしないから、周りも心配していたが……」

 どうせなら、夢であって欲しかったわよ。お父様!
 私は頭を抱えながら、絶対にこれは何かの間違いよ。
 ───と、思った時だった。

「え……どういう……こと?」
「なっ!!」

 突然聞こえてきたその声に驚いて振り返ると、何故かフリージアが私の部屋の扉の前に立っている。
 そして、青白い顔で身体を震わせていた。

(なんでフリージアが私の部屋ここに来たの!?)

 どうしてこのタイミングなの?
 もう意味が分からない!

「……お父様がなかなか私の部屋に来ないのでと思って探しに来たの。そうしたら何故かお姉様の部屋から声がして……」
「え?」

 お父様はフリージアの部屋を訪ねる約束でもしていたの?
 おかしくない?  
 さっきそんな事は言っていなかった気がするのだけど?

「それで、そっと耳をすましてみたら……今の話、どういうこと……?」
  
 フリージアの目が私を強く非難している。
 そんな目で見られても、どうしてこうなったのか聞きたいのは私の方なので困る。

「ははは、喜べ、フリージア。なんとブリジットがランドルフ殿下に見初められた!」
「お姉様……が?」
「そうだ!  喜ばしい事だろう?」
「……私ではなく…………お姉様?」

(フリージア?)

 フリージアの様子がどこかおかしいのにお父様は浮かれていて完全に気が付いていない。

「そうだ!  この手紙が殿下から届いたのだ!」
「……手紙」 
「ほら、これだ」  
「あ、お父様……!」
  
 お父様はそう言って私が止めるより前にフリージアに、殿下から私宛に届いた手紙を読んでみろと渡してしまう。
 受け取ったフリージアは私宛の手紙なのに躊躇することなく封を開け目を通す。
    
「…………助けてくれたお姉様……に感謝している?  それで、婚約……」

 手紙に目を通しながらフリージアがボソボソと書いてある内容を読み上げる。
 そして、読み終えてお父様に手紙を返すなり……
  
「…………そう、ふふ、そうなるの…………へぇ」
「……?」

 と、謎の笑みを浮かべて笑いだした。
 その様子にゾクッと私の身体も震える。

(何なのよ、これ……)

 興奮して周りが見えていないお父様。
 やっぱり、どこか様子のおかしいフリージア。

 ───そして、ランドルフ殿下。

 一番おかしいのは殿下よ。
 “声をかけて励まし続けて助けてくれた人”を好きになったはずなのに。

 ───医者の元に早く運ばせようと奔走してくれていた、と聞いた。
 ───あんなすぐに治療を受けることが出来たのは君のおかげだろう。

 “王子様からの手紙”の中身は、宛名が私宛となっていたせいで、前の手紙とはまるで違っていてそんなことが書かれていた。
 前の手紙の中に散々書いてあった“励ましの声”に関する感謝はどこにも書かれていなかった。
 なのに、最後に“婚約して欲しい”……と書かれている部分だけは同じだなんて!
 変化があるなら全部変えてよ!

「……」

 私はぎゅっと拳を作って強く握る。

 ───何故、手紙の内容がこんなに違ってしまったの?
 私が記憶を持っていて、過去の行いを反省して違う行動を取ってしまったから?

(このままでは、また殿下の婚約者となってしまう!)

 前と違って、声をかけて励まし続けたフリージアではなく、本当に“私”を望んでいるなら、前のようなことにはならないのかもしれない。
 だけど……

   (無理よ……)

 どうしてもあの日の冷たい殿下の姿が私の頭の中から消えてくれない。
 憎まれるのは当然だと思えても、あんなに口汚く私を罵ったあの姿。
 あれが、ランドルフ殿下の本性だと言うのなら……

「ブリジット、殿下からの手紙では、一度王宮に来て話がしたいと書かれているが、粗相のないようにするんだぞ」
「……」
「まぁ、最近の大人しくなった様子のお前ならそんなに心配することも無いか?  ははは!  しっかり準備をしてがっちり殿下の心を掴んでこい!」 
「あ、おと……」

 お父様はそれだけ言って笑いながら部屋から出て行ってしまう。
 そのせいで、部屋には私とフリージアだけが残された。
 何だか様子のおかしいフリージアと二人っきりにはしないで欲しかったのに。

「……ねぇ、お姉様」

 どうせならフリージアにも静かに出ていって欲しかったのに、その気はないらしい。
 フリージアは出て行くどころか私に声をかけてくる。
   
「何かしら?」
「お姉様、まさかとは思うけれど殿下からの“その話”……お受けになるつもりなの?」
「……」
お断りするのよね?」
「……!」

 フリージアが鬼気迫るような表情でガシッと私の腕を掴んでくる。
 力がかなり入っているせいかちょっと痛い。

「……っ、フリージア、痛……」
「ねぇ、お姉様?  殿下は間違えてしまったのではないかしら?」
「え?」

 間違い?  
 どういうこと?
  
「お姉様は確かに人を呼びには行ってくれたけど、殿下の傍についてお支えしていたのは、この私よ?」
「……」
「なぜかお姉様が、とーーっても早く戻って来てしまったせいで、確かにあまり時間はなかったけれど、本来、感謝されるのは私ではなくて?」
「……」

 私は頷くことが出来なかった。
 少なくとも過去の殿下はそうだったわ。
 だけど、残念ながら殿下の心に何があったのか、今回の手紙は明らかに違うことを言っている……

「だから、ね?  お姉様。お願いがあるの」
「……お願い?」
「ええ、お願い、よ」

 なにかしら?
 いつもの見慣れたフリージアの笑顔のはずなのに……
 まるで、あの最後の別れの時の……やはり様子のおかしかったフリージアを思い出してしまう笑顔にゾクッとした。
 そのせいで私は思わず自分の手で身体を強く抱きしめる。

「……いったい何を私にお願いしたいの?」
「ふふ、それはね!」 
「!」

 フリージアはまたしても私がゾクッとするような笑顔を浮かべた。

しおりを挟む
感想 243

あなたにおすすめの小説

【完結】死に戻り8度目の伯爵令嬢は今度こそ破談を成功させたい!

雲井咲穂(くもいさほ)
恋愛
アンテリーゼ・フォン・マトヴァイユ伯爵令嬢は婚約式当日、婚約者の逢引を目撃し、動揺して婚約式の会場である螺旋階段から足を滑らせて後頭部を強打し不慮の死を遂げてしまう。 しかし、目が覚めると確かに死んだはずなのに婚約式の一週間前に時間が戻っている。混乱する中必死で記憶を蘇らせると、自分がこれまでに前回分含めて合計7回も婚約者と不貞相手が原因で死んでは生き返りを繰り返している事実を思い出す。 婚約者との結婚が「死」に直結することを知ったアンテリーゼは、今度は自分から婚約を破棄し自分を裏切った婚約者に社会的制裁を喰らわせ、婚約式というタイムリミットが迫る中、「死」を回避するために奔走する。 ーーーーーーーーー 2024/01/13 ランキング→恋愛95位 ありがとうございました! なろうでも掲載20万PVありがとうございましたっ!

【完結】優雅に踊ってくださいまし

きつね
恋愛
とある国のとある夜会で起きた事件。 この国の王子ジルベルトは、大切な夜会で長年の婚約者クリスティーナに婚約の破棄を叫んだ。傍らに愛らしい少女シエナを置いて…。 完璧令嬢として多くの子息と令嬢に慕われてきたクリスティーナ。周囲はクリスティーナが泣き崩れるのでは無いかと心配した。 が、そんな心配はどこ吹く風。クリスティーナは淑女の仮面を脱ぎ捨て、全力の反撃をする事にした。 -ーさぁ、わたくしを楽しませて下さいな。 #よくある婚約破棄のよくある話。ただし御令嬢はめっちゃ喋ります。言いたい放題です。1話目はほぼ説明回。 #鬱展開が無いため、過激さはありません。 #ひたすら主人公(と周囲)が楽しみながら仕返しするお話です。きっつーいのをお求めの方には合わないかも知れません。

婚約者を奪われるのは運命ですか?

ぽんぽこ狸
恋愛
 転生者であるエリアナは、婚約者のカイルと聖女ベルティーナが仲睦まじげに横並びで座っている様子に表情を硬くしていた。  そしてカイルは、エリアナが今までカイルに指一本触れさせなかったことを引き合いに婚約破棄を申し出てきた。  終始イチャイチャしている彼らを腹立たしく思いながらも、了承できないと伝えると「ヤれない女には意味がない」ときっぱり言われ、エリアナは産まれて十五年寄り添ってきた婚約者を失うことになった。  自身の屋敷に帰ると、転生者であるエリアナをよく思っていない兄に絡まれ、感情のままに荷物を纏めて従者たちと屋敷を出た。  頭の中には「こうなる運命だったのよ」というベルティーナの言葉が反芻される。  そう言われてしまうと、エリアナには”やはり”そうなのかと思ってしまう理由があったのだった。  こちらの作品は第18回恋愛小説大賞にエントリーさせていただいております。よろしければ投票ボタンをぽちっと押していただけますと、大変うれしいです。

お前との婚約は、ここで破棄する!

ねむたん
恋愛
「公爵令嬢レティシア・フォン・エーデルシュタイン! お前との婚約は、ここで破棄する!」  華やかな舞踏会の中心で、第三王子アレクシス・ローゼンベルクがそう高らかに宣言した。  一瞬の静寂の後、会場がどよめく。  私は心の中でため息をついた。

復縁は絶対に受け入れません ~婚約破棄された有能令嬢は、幸せな日々を満喫しています~

水空 葵
恋愛
伯爵令嬢のクラリスは、婚約者のネイサンを支えるため、幼い頃から血の滲むような努力を重ねてきた。社交はもちろん、本来ならしなくても良い執務の補佐まで。 ネイサンは跡継ぎとして期待されているが、そこには必ずと言っていいほどクラリスの尽力があった。 しかし、クラリスはネイサンから婚約破棄を告げられてしまう。 彼の隣には妹エリノアが寄り添っていて、潔く離縁した方が良いと思える状況だった。 「俺は真実の愛を見つけた。だから邪魔しないで欲しい」 「分かりました。二度と貴方には関わりません」 何もかもを諦めて自由になったクラリスは、その時間を満喫することにする。 そんな中、彼女を見つめる者が居て―― ◇5/2 HOTランキング1位になりました。お読みいただきありがとうございます。 ※他サイトでも連載しています

婚約者の命令により魔法で醜くなっていた私は、婚約破棄を言い渡されたので魔法を解きました

天宮有
恋愛
「貴様のような醜い者とは婚約を破棄する!」  婚約者バハムスにそんなことを言われて、侯爵令嬢の私ルーミエは唖然としていた。  婚約が決まった際に、バハムスは「お前の見た目は弱々しい。なんとかしろ」と私に言っていた。  私は独自に作成した魔法により太ることで解決したのに、その後バハムスは婚約破棄を言い渡してくる。  もう太る魔法を使い続ける必要はないと考えた私は――魔法を解くことにしていた。

悪役令嬢が行方不明!?

mimiaizu
恋愛
乙女ゲームの設定では悪役令嬢だった公爵令嬢サエナリア・ヴァン・ソノーザ。そんな彼女が行方不明になるというゲームになかった事件(イベント)が起こる。彼女を見つけ出そうと捜索が始まる。そして、次々と明かされることになる真実に、妹が両親が、婚約者の王太子が、ヒロインの男爵令嬢が、皆が驚愕することになる。全てのカギを握るのは、一体誰なのだろう。 ※初めての悪役令嬢物です。

悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。

三谷朱花
恋愛
私、クリスティアーヌは、ゼビア王国の皇太子の婚約者だ。だけど、学院の卒業を祝うべきパーティーで、婚約者であるファビアンに悪事を突き付けられることになった。その横にはおびえた様子でファビアンに縋り付き私を見る男爵令嬢ノエリアがいる。うつむきわなわな震える私は、顔を二人に向けた。悪役令嬢になるために。

処理中です...