【完結】やり直しの人生、今度は王子様の婚約者にはならない……はずでした

Rohdea

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7. 巻戻る前と違いすぎる



(どうして?  どうしてこんな事になったの?)

「おい、ブリジット。どうした?」

 硬直した私を心配したお父様が、私の両肩を掴んでガクガクと前後に揺さぶる。
 どんなに揺さぶられても、私の身体の震えも動揺は収まりそうにない。
   
「……ど、し……て」
「ブリジット?」
「何で……わたし?」

 私の口から出てくる言葉も、たどたどしいものになってしまう。

「ブリジット、突然の話で動揺してしまうのは分かる。だが、手紙にも書いてある通り、殿下はお前を妃に望んでいるようなのだ」
「…………」

(───違うわ!  そんなの有り得ない!)

 そう口にしたいのに、声が出てくれない。
 だって、巻戻り前の殿下は私と婚約している間、うっとりと頬を染めてずっと“私”に向かって言っていたのよ?

『……何度も意識を失いそうになったあの時、必至に励ましてくれようとする“君の声”に助けられていたんだ、本当にありがとう』

 ──と。
 今回も傍で殿下を励まし続けたのは私ではなくてフリージア!
 それなら、フリージアを望むはずでしょう?

「ははは!  まさか、ブリジットが見初められるとは……夢みたいな事もあるのだな」
「……」
「殿下はなかなか婚約者を決めようとしないから、周りも心配していたが……」

 どうせなら、夢であって欲しかったわよ。お父様!
 私は頭を抱えながら、絶対にこれは何かの間違いよ。
 ───と、思った時だった。

「え……どういう……こと?」
「なっ!!」

 突然聞こえてきたその声に驚いて振り返ると、何故かフリージアが私の部屋の扉の前に立っている。
 そして、青白い顔で身体を震わせていた。

(なんでフリージアが私の部屋ここに来たの!?)

 どうしてこのタイミングなの?
 もう意味が分からない!

「……お父様がなかなか私の部屋に来ないのでと思って探しに来たの。そうしたら何故かお姉様の部屋から声がして……」
「え?」

 お父様はフリージアの部屋を訪ねる約束でもしていたの?
 おかしくない?  
 さっきそんな事は言っていなかった気がするのだけど?

「それで、そっと耳をすましてみたら……今の話、どういうこと……?」
  
 フリージアの目が私を強く非難している。
 そんな目で見られても、どうしてこうなったのか聞きたいのは私の方なので困る。

「ははは、喜べ、フリージア。なんとブリジットがランドルフ殿下に見初められた!」
「お姉様……が?」
「そうだ!  喜ばしい事だろう?」
「……私ではなく…………お姉様?」

(フリージア?)

 フリージアの様子がどこかおかしいのにお父様は浮かれていて完全に気が付いていない。

「そうだ!  この手紙が殿下から届いたのだ!」
「……手紙」 
「ほら、これだ」  
「あ、お父様……!」
  
 お父様はそう言って私が止めるより前にフリージアに、殿下から私宛に届いた手紙を読んでみろと渡してしまう。
 受け取ったフリージアは私宛の手紙なのに躊躇することなく封を開け目を通す。
    
「…………助けてくれたお姉様……に感謝している?  それで、婚約……」

 手紙に目を通しながらフリージアがボソボソと書いてある内容を読み上げる。
 そして、読み終えてお父様に手紙を返すなり……
  
「…………そう、ふふ、そうなるの…………へぇ」
「……?」

 と、謎の笑みを浮かべて笑いだした。
 その様子にゾクッと私の身体も震える。

(何なのよ、これ……)

 興奮して周りが見えていないお父様。
 やっぱり、どこか様子のおかしいフリージア。

 ───そして、ランドルフ殿下。

 一番おかしいのは殿下よ。
 “声をかけて励まし続けて助けてくれた人”を好きになったはずなのに。

 ───医者の元に早く運ばせようと奔走してくれていた、と聞いた。
 ───あんなすぐに治療を受けることが出来たのは君のおかげだろう。

 “王子様からの手紙”の中身は、宛名が私宛となっていたせいで、前の手紙とはまるで違っていてそんなことが書かれていた。
 前の手紙の中に散々書いてあった“励ましの声”に関する感謝はどこにも書かれていなかった。
 なのに、最後に“婚約して欲しい”……と書かれている部分だけは同じだなんて!
 変化があるなら全部変えてよ!

「……」

 私はぎゅっと拳を作って強く握る。

 ───何故、手紙の内容がこんなに違ってしまったの?
 私が記憶を持っていて、過去の行いを反省して違う行動を取ってしまったから?

(このままでは、また殿下の婚約者となってしまう!)

 前と違って、声をかけて励まし続けたフリージアではなく、本当に“私”を望んでいるなら、前のようなことにはならないのかもしれない。
 だけど……

   (無理よ……)

 どうしてもあの日の冷たい殿下の姿が私の頭の中から消えてくれない。
 憎まれるのは当然だと思えても、あんなに口汚く私を罵ったあの姿。
 あれが、ランドルフ殿下の本性だと言うのなら……

「ブリジット、殿下からの手紙では、一度王宮に来て話がしたいと書かれているが、粗相のないようにするんだぞ」
「……」
「まぁ、最近の大人しくなった様子のお前ならそんなに心配することも無いか?  ははは!  しっかり準備をしてがっちり殿下の心を掴んでこい!」 
「あ、おと……」

 お父様はそれだけ言って笑いながら部屋から出て行ってしまう。
 そのせいで、部屋には私とフリージアだけが残された。
 何だか様子のおかしいフリージアと二人っきりにはしないで欲しかったのに。

「……ねぇ、お姉様」

 どうせならフリージアにも静かに出ていって欲しかったのに、その気はないらしい。
 フリージアは出て行くどころか私に声をかけてくる。
   
「何かしら?」
「お姉様、まさかとは思うけれど殿下からの“その話”……お受けになるつもりなの?」
「……」
お断りするのよね?」
「……!」

 フリージアが鬼気迫るような表情でガシッと私の腕を掴んでくる。
 力がかなり入っているせいかちょっと痛い。

「……っ、フリージア、痛……」
「ねぇ、お姉様?  殿下は間違えてしまったのではないかしら?」
「え?」

 間違い?  
 どういうこと?
  
「お姉様は確かに人を呼びには行ってくれたけど、殿下の傍についてお支えしていたのは、この私よ?」
「……」
「なぜかお姉様が、とーーっても早く戻って来てしまったせいで、確かにあまり時間はなかったけれど、本来、感謝されるのは私ではなくて?」
「……」

 私は頷くことが出来なかった。
 少なくとも過去の殿下はそうだったわ。
 だけど、残念ながら殿下の心に何があったのか、今回の手紙は明らかに違うことを言っている……

「だから、ね?  お姉様。お願いがあるの」
「……お願い?」
「ええ、お願い、よ」

 なにかしら?
 いつもの見慣れたフリージアの笑顔のはずなのに……
 まるで、あの最後の別れの時の……やはり様子のおかしかったフリージアを思い出してしまう笑顔にゾクッとした。
 そのせいで私は思わず自分の手で身体を強く抱きしめる。

「……いったい何を私にお願いしたいの?」
「ふふ、それはね!」 
「!」

 フリージアはまたしても私がゾクッとするような笑顔を浮かべた。

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