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25. パーティーへ
しおりを挟むそうして迎えたパーティー当日。
「……まさか、殿下がエスコートしてくださるとは夢にも思いませんでしたわ」
私のエスコートをする為にやって来たランドルフ殿下をたっぷりの嫌味を乗せて出迎えてみた。
「ははは! 今日はようやく君を婚約者として世間に公表出来る素晴らしい日なんだ。エスコートをしない方がおかしいだろう?」
「……まあ、そうでしたか」
全く心に思っていなさそうな言葉を口にするランドルフ殿下。
ふふふ、と私も笑い返す。
「うふふ、お姉様ったら、殿下にとーっても愛されていて羨ましいわ~! ね? お父様、お母様!」
「フリージア……」
「おめでとう、お姉様!」
フリージアが無邪気を装って私の方へと近付いてくる。
そして、私の目の前でランドルフ殿下と、とても分かりやすい目配せをしたと思ったら……
「ははは、君も可愛らしくて綺麗だよ、フリージア嬢」
ランドルフ殿下がフリージアに笑いかける。
「まあ! 殿下ったら、お上手ですわ、うふふ」
「いやいや、今日は会場中の男性がきっと皆、君の虜になるだろうね」
「ありがとうございます! でも、そういう言葉はぜひ、お姉様に言ってあげてくださいね?」
「ははは、それもそうだな。すまない、ブリジット嬢」
とても仲睦まじい会話を堂々と展開していた。
(何と言うか……この二人……やっぱりバカなのかしら?)
私は呆れ返っていた。
そして改めて思う。
ランドール様とランドルフ殿下。
こんなにも二人の見た目はそっくりなのに、やっぱり中身は全然違うわ、と。
私は昨日のことを思い出す。
────……
「……? ランドール様、何をしていらっしやるのです──って! えっ!?」
「ん? あぁ、ブリジット。来ていたんだね、出迎えられなくてごめん」
いつものようにランドール様の元を訪ねたら、出迎えがなかった。
なので不思議に思いそっと部屋の中に入ると、お風呂場の方から音がしたのでこっそり覗きに行った。
すると、そこにはランドール様がいらっしゃったのだけど……
「……! ラ、ランディ様がいる……!」
「あはは! そこで“ランドルフ”と言わない君が好きだよ、ブリジット」
ランドール様はずっと伸ばして来たであろう前髪。
そして、陛下の命令で黒くしていた髪色を元の色に戻していた。
なので、そこにいたのは紛れもなくかつての私が恋をした“ランディ様”だった。
「そんなの当然です! ……だって、私がずっと好きだったのは“あなた”ですから」
「うん……」
ランドール様が嬉しそうに微笑んでくれたので、胸がキュンとした。
「……えっと、髪型も髪の色も元に戻すことにしたのですね。パーティーのためですか?」
「うん、やっぱりこの姿の方が皆の前に出た時に説得力あるかなと思ってね」
確かに口で余計な説明はしなくても、この姿で登場すれば嫌でも王族の血縁……いえ、ランドルフ殿下の兄弟だと誰もが一目で分かる。
(それよりも、 久しぶりにランドール様の素顔を見たわ)
「……やっぱり綺麗な瞳ですね」
「!」
私がうっとりした表情で呟くと、ランドール様がボンッと顔を赤くして照れた。
そして嬉しそうに笑う。
「この目を“初めて”そんな風に言ってくれたのもブリジットだったんだ」
「……え?」
ランドール様の手がそっと私の頬に触れる。
そのまま軽くチュッと私にキスをすると、昔を懐かしむような表情をする。
でも、それはどこか悲しそうだった。
「“ランディ”として初めてこの姿で人前に出た時に……言われたんだ」
「なんて?」
ランドール様が目を伏せる。
「……気持ち悪い目だ、と」
「え!」
それは初めて聞く話だった。
「この瞳───片方は間違いなく王家の色だけど、こっちは違うだろう? 左右で違う色というのが、なかなか最初は受け入れて貰えなかったんだ」
「そんな! こんなに綺麗なのに?」
私が彼の目を見つめてそう言うと、ランドール様が苦笑する。
「ブリジット……」
愛しそうに名前を呼ばれてそっと抱きしめられた。
「幼少期の“ランディ”が散々、誹謗中傷を浴びたからね、時が経つにつれて皆も見慣れたのか、ランドルフが表に出た時はもうこの目で陰口を叩く者はいなくなっていたんだ」
「それって……」
ランドール様だけが陰口を叩かれて酷い目にあったということじゃないの?
「だからさ、何か言われる度、いつもブリジットから貰った言葉を思い出していたよ」
「私の言葉……?」
そうだわ。思い出した!
彼と出会って話をしていた時に、私は深く考えずに口にした言葉がある。
『ランディ様の瞳ってすごくキレイ! 左右違う色なんて初めて見たけど私はどっちの色も好き!』
本当に素直にそう思って口から出た言葉だった。
(あの時、ランディ様がすごく驚いた後に泣きそうな表情に変わったのはそういうことだったのね……?)
まさか私のそんな何気ない言葉を心の支えにしてくれていたなんて……!
私は微笑む。
「とってもとっても綺麗です。そして今も変わらず好きですよ、ランドール様」
「ブリジット……ありがとう」
ランドール様の私を抱きしめる腕の力が強まった。
────……
(ランドール様が元に戻ったから余計に見た目だけは似すぎて腹が立ってくるわ……!)
仲睦まじい二人を見つめながらそんなことを思う。
「あ、お姉様……ごめんなさーい! 殿下と婚約するのはお姉様なのに、そっちのけで殿下と話が弾んでしまったわぁ~」
「……」
私の視線に気付いたフリージアが全く悪びれる様子もないまま、えへへと笑って謝ってくる。
本当にいい性格しているわ。
(きっと、巻き戻らなければ気付かなかった)
フリージアのここまでのあざとい性格も、ランドルフ殿下の本性も。
そして、隠されていたランドール様の存在も。
(巻き戻った理由こそ不明だけど、こうなったことには心から感謝しているわ)
────
「……ニコリともしないのだな」
「あら、そうでしょうか?」
王宮に向かう馬車の中でランドルフ殿下が、どこか不満そうに私に話しかけて来た。
「ああ、迎えに行ってからニコリとも笑わない。一体何が不満なんだ?」
「不満……」
「私の婚約者となれるのだぞ? とても幸せなことだろう? 喜ばしいだろう?」
「幸せ……?」
私は首を傾げる。
(私の気持ちを無視して事を進めておいてよく言うわ)
全部が不満ですと口にしたら、この人はどんな顔をするのかしら?
それに私の幸せはあなたといることではない。
(そう言ってやりたいけど今じゃないのよね……)
私は曖昧に微笑み返す。
そんな私の顔を見てランドルフ殿下は深いため息を吐いた。
「妹のフリージア嬢を見習ったらどうなんだ? 彼女はいつだってあんなにも可愛らしく柔らかく笑っているだろう?」
「……」
あまりにもカチンと来て腹が立ったので少しだけ言い返してみることにした。
「あら。ふふ、殿下は随分と、私の妹が可愛いようですわね」
「……むっ? いや、そ、それはだな! わ、私にはきょうだいがいないからな……!」
殿下は堂々と嘘をついてきた。
「だ、だから! し、下にいたらこういう感じなのかと思ってだな! 別に深い意味は───」
慌てて弁解しようとするランドルフ殿下。
そんなに動揺しては明らかに疚しいことがあります、と言っているようなものなのにね。
(あなたの護衛も変な目でこっちを見ているじゃないの……)
同じ馬車に乗り込んでるランドルフ殿下の護衛が横で何とも言えない顔をしていた。
ランドルフ殿下って取り繕うことも下手なのね……
改めてランドール様との器の違いを感じてしまう。
(まぁ、もうどうでもいいわ)
フリージアのことも別にどうでもいい。
だけど、ランドール様という弟の存在を無かったことにしようとするこの人のことが、私はやっぱり嫌いだ。
目の前に座るランドルフ殿下の顔を見ながら改めてそう思った。
────
(すごく見られている……)
会場入りを果たした私に向けられる視線の数々は凄かった。
興味、好奇心、嫉妬、値踏み……かつての私もたくさん向けられた視線。
けれど、ちょっと違う視線が混ざっているのは……どうやら殿下への軽蔑の眼差し……
これこそ、ランドルフ殿下が“無能”だと皆に知れ渡っている証拠だった。
(……懐かしいわ)
巻き戻り前、初めてランドルフ殿下の婚約者として人前に出た時は、罪悪感と高揚が入り交じって頭の中がよく分からないことになっていた。
けれど、今回は全然違う気持ちを抱えている。
───さぁ、ランドルフ殿下。
あなたがその座に偉そうにふんぞり返っていられるのもここまでよ?
私がそう意気込んだ所で、パーティー開始の合図となる音がした。
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