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26. 波乱のパーティー
パーティー開始の合図を聞きながら、ふと思った。
(殿下の挨拶が終わったら私達のファーストダンスで幕開け……とか言わないわよね?)
そんなの───心の底から遠慮したいわ。
皮肉なものよね……巻き戻り前のパーティーではランドルフ殿下に“嘘吐きな貴様とは踊れん”とか言われてショックを受けているうちに断罪開始となったんだもの。
それが、今となっては踊りたくない……と思うだなんて。
(やっぱり皆の前で踊るなら、ランドール様と踊りたいわ……)
今日のランドール様が具体的にどうやって皆の前に現れるつもりなのかは聞いていない。
───これは仕込みだ!
なんて疑われるのは嫌だからね。
登場する時にはブリジットも一緒に驚いていた方がいいだろう?
ランドール様はちょっと、黒い笑顔でそう言っていた。
(……本当にどうする気なのかしら……?)
元の姿に戻ったランドール様はどこからどう見ても目立つし……
そう思ったので、さり気なく会場内を見回してみても、それらしき人物はいなかった。
「───今日のパーティーは皆への日頃の感謝の思いを込めて開催することにしたものだが……」
そんな考えごとをしていると、全く聞いていなかった……いえ、全然耳に入って来なかったランドルフ殿下の挨拶はどんどん進んでいた。
日頃の感謝ねぇ……
どの口がそんなことを言うのかしら……と思っていたら。
───聞きました? 日頃の感謝ですって
───最近はまともに仕事していないくせに
(殿下に対して、辛辣な言葉があちこちから聞こえるわ)
───よほど、優秀な側近がいてその人のおかげで何とかなってると聞いた
───でも、それ不思議な話なんですわよ。わたくしはその側近達が暇そうにしている姿を見ましたわ……
───ずっと“優秀な王子”だと思っていたのになぁ
やっぱり、ここ最近のランドルフ殿下の様子に周囲は混乱している様子が窺えた。
「────また、すでに話を聞いている者も多いとは思うが、今日のパーティーの最後には私が遂に見つけた“最愛の人”を正式に皆の前で紹介しようと思う」
その言葉に会場内は大きくざわめいた。
(……最後?)
とりあえず、今ではないらしい。
そのことに少しだけ安堵したけれど、その相手が誰なのかは会場入りした時点でもう私だと知れ渡っているのに、今更焦らす理由は何かしら?
逆に不審に感じる。
「彼女は私を助けてくれた恩人でもあり───」
その後も殿下は私を褒め称えるような無駄に長い話をくどくどした後に挨拶を終えた。
殿下が無駄に私のことを褒め称えている間の皆からの視線がとても痛かった。
───聞きました? 殿下って騙されているのではないかしら?
───ラディオン侯爵家の長女と言えばねぇ……傲慢で我儘らしいのでしょう?
───妹を虐めてるなんて噂もある
(傲慢で我儘……)
巻き戻った時に、そのことは大いに反省して悔い改めたつもりだけど、やはり噂は根強く残ってしまうものなのね、と思わされた。
(でも、それは仕方がない)
そんな過去も引っ括めて今の“私”がいるから。
ランドール様はそんな私のこともちゃんと知っていて選んでくれた。
だからこそ、その分皆には“これから”の私を見てもらうのよ!
私はそう決意した。
その時だった、
「お・ね・え・さ・ま!」
「……」
そんなこれからの未来に向けて気合を入れていたら、後ろから嫌な声が聞こえた。
私はそろっと振り返る。
「お姉様、ランドルフ殿下ってやっぱり素敵よね。選ばれたお姉様がとーーっても羨ましいわ、ふふふ」
「……フリージア」
フリージアが何かを含んだニヤニヤした笑顔で近づいて来る。
「ここに来る前も聞いたでしょう? 殿下ったら、すでに私のことまで義妹だと思ってくれて優しくしてくれているの」
「……そのようね」
私が相槌を打つとフリージアはますます嬉しそうに笑った。
「とっても可愛いっていつも口にしてくださるのよ! 私もお兄様が欲しかったからたくさん甘えてしまったわ、ごめんなさいね? ふふふ」
「……そう」
フリージアは何しに来たのかしら?
ランドルフ殿下との仲良し自慢?
「……あ、でもお姉様。これは知ってるかしら~? ランドルフ殿下ってね、少しエッチなのよ」
(はい?)
フリージアが声のトーンを落として怪しく微笑むと私の耳元で囁くように言った。
「いっつも、こっそり私の胸をチラチラ見てくるのよ? ふふ、王子様といっても一人の男性よねぇ」
そう言ってフリージアは豊満な胸を私に見せつけて来る。
「だからこそ思うんだけど~、殿下は私と違ってそんな貧相な身体のお姉様で満足出来るのかしら……お姉様、大変そう……でも頑張ってね?」
うふふ、と嬉しそうに笑うフリージア。
私はここでようやくフリージアの意図を理解する。
(つまり、フリージアは私を怒らせようと煽っているのね?)
昔は確かにフリージアと比べて落ち込んでいたこともあった。
巻き戻り前の時なんて、殿下が冷たくなり始めた頃……つまり、ランドール様からランドルフ殿下に完全に入れ替わった後から、露骨にガッカリされているのが伝わって来てかなり落ち込んだ。
(記憶のあるフリージアは私のコンプレックスを刺激しているのでしょうけど──残念ね)
ランドール様の好みなら気になるけれど、ランドルフ殿下の好みなんて今はどうでもいいもの。
私はにっこり微笑む。
「……そうね、ありがとう」
「っっ! もう! お姉様何なの? さっきからその反応! もっと何かあるでしょう!」
私が全然堪える様子を見せないからか、フリージアが明らかに苛立ち始めたその時だった。
《おねえちゃん、キラキラおようふく、キレイ》
うしろから聞こえてきたその言葉に振り向く。
すると、小さな子供が、ヨチヨチと一人でこっちに向かって歩いて来た。
「……は? どこの子供よ? 今、なんて言ったのよ……?」
フリージアも振り向くと、その子供を見て怪訝そうな顔付きでそう口にした。
《おひめさま、みたい》
突然現れたその子はフリージアを見ながらうっとりした顔でそう口にした。
一方でフリージアは焦っていた。
「は? なんて言っているの? ちょっとこの子! どこの子供よ? 親はどうしたのよ!」
(───これって他国……ヴェールヌイ王国の言葉じゃ……?)
そう思った時、ハッと気付く。
ちょうど今、数日前からヴェールヌイ王国の王族が来賓としてこの国に招かれていたはずだ。
(つまり、この小さな子供は───)
「きゃーー! 何するのよ! 汚い手で私のドレスに触ろうとしたわね? やめて頂戴!」
《……っ! ご、ごめ……なさ……》
ちょうどその時、フリージアが近付いて来たその子を手で払い除けた。
その拍子にその子が床に尻もちをついて転んでしまう。
(───いけない!)
私は慌ててその子に駆け寄って助け起こす。
そして、怪我がないかを確かめる。
(転ばせたことがすでに危険なのに……これで、怪我でもしていたら……)
大変だ。
国際問題に発展しかねない。
《───大丈夫!?》
《さわる……ちがう、キラキラちかくで……みたかった、だけ……》
怪我は無さそうだった。
けれど、目に涙をためながらその子は震えていた。
私はそっと抱きしめながら彼女を宥める。
《そうよね、分かっているわ。あのお姉さんはちょっとビックリしちゃったみたいなの》
《びっくり……》
その子が顔を上げる。
《あれだけ、キラキラしていたら気になってしまうわよね》
《うん……おひめさまかとおもったの》
《そうなのね……》
(少し落ち着いたかしら……?)
必死に宥めながら、とにかく穏便にその場を収めようとしていた時だった。
「ちょっとお姉様? 一体何を話しているのよ! いったいその子はどこの子供なのよ!」
フリージアが私たちに向かって叫ぶ。
今は大人しくしていて欲しいのに!
「───フリージア! 黙って!」
私に命令されたのが気に入らなかったのか、フリージアの顔が明らかにムッとする。
「は? なんで? 黙ってなんかいられないわ! だってその子、私のドレスを汚い手で──」
「違うわ! 触ろうとしたのではないのよ! 近くで見たかっただけだそうよ」
「は? いつ、その子がそんなことを言ったの?」
怪訝そうなフリージア。
このままでは、少し落ち着いたこの子がまた怯えてしまう。
今はとにかくフリージアを鎮めないと……そう思ったのに。
「───おい! これは何の騒ぎだ!」
(~~ああ! もう!)
絶対にこの場をややこしくするとしか思えないランドルフ殿下までもが現れてしまった。
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