【完結】やり直しの人生、今度は王子様の婚約者にはならない……はずでした

Rohdea

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28. 責められる人達

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《……》
《……王女さ…………レイリア王女殿下、大丈夫ですか?》

 青くなっているフリージアを無視して、腕の中の王女様に声をかける。
 すると、王女様はハッとした様子で顔を上げた。

《え!  おねえちゃん、わたしのなまえしってるの?》
《もちろんです》

(なんなら、この先のあなたの姿も知っているわよ?)

 今もとっても可愛いけれど、あなたはもっともっと可愛い王女様。
 ヴェールヌイ国王夫妻が溺愛している深窓の姫君として有名になるんだから!

《あ!  そういえば……おねえちゃん、わたしとはなせるの?》

 王女様は今、そのことに気付いたのかあれ?  という顔をした。

《ええ、少しだけですけどね》
《そっかぁ…………あ、おねえちゃんのなまえは?》
《私?  私はブリジットよ?》
《ブリジットおねえちゃん……》

 王女様が私の名前を呼びながら嬉しそうに微笑む。
 そんなレイリア王女様の可愛さに胸がキュンとした。

(な、なんて可愛いの、天使の微笑み!  未来で皆がメロメロになるはずだわ!)

 ……ではなくて! 
 落ち着いてくれたなら良かったわ……と、安堵したその時。
 陛下の謝罪の声が聞こえて来たので振り返った。

「本当に本当にこの度は愚息が大変申し訳ない事をした……ヴェールヌイ国王」

 その先に居たのは、王女様の両親であるヴェールヌイ王国の陛下と王妃様。

「なっ……こ、国王陛下がいた……だと?」
「うっそ……」

 ランドルフ殿下は彼らの登場に石のように固まった。
 フリージアも青白い顔をしたまま微動だにしない。

《…………此度のことは、目を離した我々にもフラフラしていた我が娘にも非があるとは言え……》
《ですが、さすがに娘に対するこの対応はどうかと思いますわ……》

 ヴェールヌイ王国の陛下と王妃様は困惑していた。
 主賓の王子が予定を把握していなかっただけでなく、他国の王族の顔も知らない、言葉も全く理解しないおバカだと宣言したようなものだもの。
  
(もし、私ならこんな国とは今後付き合いたくないわね……)

 陛下は深いため息を吐く。

《……ランドルフ殿下は、我が国にも大変優秀な人物だという話が聞こえていたので、会えるのが楽しみだったのだが……》
《これはどうも期待しすぎたようですわね、がっかりです》
「本当に本当に申し訳ない……ランドルフにもよく言って聞かせる……」

(あら?)

 ヴェールヌイ王国の国王夫妻は通訳を連れていて陛下とは通訳を介して会話をしている。
 しかし、言いにくいであろうことも完璧に通訳していて私は少し感動した。

(ここの国の言葉って耳で理解は出来ても発音が難しいのよね)

 たくさん練習した過去のあの日々を思い出す。
 拙いながらも今、こうして王女様と会話が出来ているようなので、あの日々も無駄ではなかったと思いたい。

「……わ、私は……悪くないぞ……」

 ランドルフ殿下は言葉を理解しなくても、何を言われているのかは何となく伝わったようで、大きく狼狽えていた。

《……たとえ、我が娘が王女でなかったとしても子供に対してのあの態度は人として許せませんわ……あぁ、それはそこの女性もですわね》
「……ひっ!?  な、何……なんで私を見ているの!?」

 王妃様に睨まれたフリージアも何かを悟ったのか小さな悲鳴をあげていた。



《ブリジットおねえちゃん、わたし、おとうさまとおかあさまにあやまらなくちゃ》
《え?》

 王女様が両親に謝りに行くと言うので、私はそのまま彼女を抱き抱えて国王夫妻の元に向かう。

《おとうさま、おかあさま……ごめんなさい……》
《レイリア!》

 王女様に気付いた王妃様がこちらに駆け寄ってくる。
   
《フラフラしちゃダメよ、とあれだけ言ったのに……》

 シュンッと落ち込む王女様。

《ごめんなさい……キラキラしたおひめさまをみつけたから》
《キラキラしたお姫様ね……どうやら見た目だけのとんでもない性格のお姫様だったみたいですけどね》

 王妃様がフリージアに冷たい眼差しを送りながら言う。
 フリージアはその視線を感じとってビクッと身体を震わせた。

《あ、あのね、おかあさま!  それで、こっちのおねえちゃんがたすけてくれたの!》
《こっちのおねえちゃん?》

 そこで、ようやく王妃様は王女様を抱っこしている私の存在に気付く。

《えっと?  あなたは?  あなたがレイリアを助けてくれたの?  って、聞いても分からないわよね。えっと、通訳は──》
《あ、大丈夫です……初めてお目にかかります。ブリジット・ラディオンと申します》

 私は名乗りながら頭を下げる。
 王女様を抱えたままなので、簡単にしか頭を下げられないのが申し訳ない。

《え?  あら珍しい……あなた、ヴェールヌイ語を喋れるの?》
《そうよ、おかあさま!  ブリジットおねえちゃんはわたしとたくさんおはなしできるのよ!》
  
 王女様が嬉しそうに王妃様にそう報告する。
 何だか楽しそう。
 この国に来てから話す相手が少なくて寂しかったのかもしれない。

《たくさんではなく、少しですが……》
《そんなことないわ!  それにやさしいのよ?  あのこわいひとたちからまもってくれたもの!》

 王女様は得意そうに王妃様に私のことを話してくれる。

《まあ!  それは、ありがとうございます》  
《あ、いえ……私は……》

 そんな会話をしながら抱っこしていた王女様を王妃様に渡す。
 ちょうどその横ではランドルフ殿下が陛下に怒られていた。

「……ランドルフ。この責任はどうとるつもりだ?」
「…………っ、責、任」
《ギュディオール国王……この国はどうなっているのだ?  世継ぎの王子がこれでは我が国としては今後の付き合いは考えねばならない》
「え、あ……いや、待ってくだされ、それは……」

 ランドルフ殿下を責めていた陛下もヴェールヌイ王国の国王に責められてしまい、とたんに焦りだす。

《そもそも、この国に来てそなたたちが最初に用意した通訳者もまともに我が国の言語を理解しているとは言い難かった》
「え?  そ、それは大変申し訳なく……」
《あの者がいなかったら、我々はとっくに腹を立てて帰国をしていたぞ!》
「あの者……?」

 陛下は誰のことだ?  と首を傾げる。
 どうやら通訳は一度変更になっているらしい。

《そなた達が寄越した世話係の一人だ。彼はまだ若いのに通訳も完璧でとても素晴らしい!》

 何だかとてもべた褒めしている。

《それに、ちゃんと我が国の事も勉強していてくれていたようで気持ちよく過ごせた。今もほら、彼は後ろに控えて通訳をしてくれているだろう?》
「通訳も兼ねられる若い世話係なんて手配していたか……?  誰のことだ?」

 陛下が小声で呟いた時、陛下たちの後ろに控えていた眼鏡の人物が動く。
 一瞬、私もそんなパーフェクトな人って今の王宮にいたかしら?  
 若い人はランドルフ殿下を筆頭にダメダメな側近たちの集まりだったような気が……
 そんな疑問を抱いたけれど、すぐにハッと気付いた。

(───いいえ、一人だけ知っているわ)

 私はクスッと笑う。
 もう!  私の知らない所でそんな風に暗躍していたのね?
 今日だってこの会場内の何処にいるのかと思っていたのに……

「───誰って、“私”のことですよ、陛下」

 そう言って動いた彼は眼鏡を外すと、被っていた黒髪のカツラを脱ぐ。
 そのカツラの下から現れたのは眩しいくらいに輝く金の髪。

 ───誰だ?
 ───この輝くような色の髪は……ランドルフ殿下と似ている?

 会場内が突然現れたランドルフ殿下とそっくりな彼を見てザワザワと騒ぎ始める。
 やっぱりこの姿は説得力があるわね、と私はウンウンと頷く。

「───陛下、ご無沙汰しております」
「……なっ!  なっ!?」
《ん?  どうしたのだ?》

 陛下が現れた人物を見てポカンとして声を失っている。
 ヴェールヌイ国王はいったい何故こんなに一気に会場か騒がしくなったのかが分からず不思議そうな顔をしていた。

「……へぇ、あなたはまるで幽霊でも見たかのような顔をするんですね?」
「お、お前は……」
「もしかして、私のことなどすっかり忘れていましたか?」
「う、あぅ……ラン……」

 青白い顔をした陛下が口を開きかけたその時、

「な、な、な、なんでお前がここにいるんだァァァーーーーランドールゥゥゥーーーー!!」

 真っ青な顔のランドルフ殿下が、ご丁寧に大声でランドール様の名前を皆に紹介してくれた。

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