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27. やらかした二人
(ああぁぁ……)
私は内心で嘆いていた。
よりにもよってここで、登場するのが何でランドルフ殿下なの。
もっと来るべき人がいるでしょう……
《お……おねえちゃん……こ、こわいひときた》
《っ! だ、大丈夫よ、驚かせてしまってごめんなさい》
怒鳴りながら乗り込んできたランドルフ殿下に脅え始めた彼女を抱きしめながら何とか必死に宥める。
《おかお……こわい》
《大丈夫だから!》
「……ったく、声を荒らげてどうしたんだ? フリージア……嬢?」
「ランドルフさ…………コホッ、殿下ぁ~聞いてくださいーー、突然そこの子供が私のドレスに汚い手で触ろうとしてぇ……」
フリージアが甘ったるい声で、えーんとランドルフ殿下に泣きつく。
違うと言ったのに!
まだ、そんなことを言っているのかと私は反論した。
「フリージア! そうじゃないと言っているでしょう!?」
「えー? でも、お姉様。そんなことを言われても、私にはその子が何を言ってるのかさっぱり分からないんだもの」
フリージアが全く聞く耳を持とうとしない。
確かにフリージアにはヴェールヌイ王国の言葉は分からないから仕方がないのかもしれない。
けれど……
殿下なら!
一応、これでも王子だもの……来賓の顔くらい覚えているはず!
(言葉までは理解しなくても、さすがにこの子がヴェールヌイ王国の王族だということくらいなら分かるわよね!?)
そんな一縷の望みをかけてランドルフ殿下の顔を私は見た。
しかし……
「は? どこの子供が紛れ込んだんだ! 子供なんて招待していないぞ。私のパーティーでこんな騒ぎを起こしやがって!」
《……っっ!》
「……!」
まさかの発言。
(わ、分かってないーー!?)
おそらくだけど、国王夫妻はこの子はまだ子供だし、ランドルフ殿下に簡単に挨拶だけさせて直ぐに下がらせるつもりだったのだと思う。
ただ、きっと彼らが目を離した隙にキラキラしたフリージアに惹かれて引き寄せられてしまった。
それくらい、フリージアの今日のドレスは気合いが入っていてキラキラと輝いていた。
「───子供なんて私は呼んでない! つまみ出せ!」
その言葉に私は息を呑む。
(な、なんてことを言うの!)
「ランドルフ殿下、お待ちください、この方は……!」
とにかく落ち着いてもらわないと後々大きな問題になる……
もう遅いかもしれないけれど、これ以上事を大きくしたくない!
そう思って私はランドルフ殿下を止めようとした。
「うるさい! フリージアのそのドレスは私が贈ったものなんだぞ!? それを汚い手で触ろうとする者が現れたとなれば子供であろうと黙ってなどいられるか!」
(───ん?)
何だか今、聞き捨てならない言葉が聞こえた。
殿下が贈った……?
「本当よ! せっかくランドルフ様がお姉様には内緒で私の為に手配してくれた最高級のドレスなのに!」
(…………は?)
私に内緒で手配した……?
興奮している二人は、自分たちの発言に全く気付いていない。
だけど、この発言をばっちり耳にしたの周囲の人達も唖然としている。
───おい! 聞いたか? 今、ドレスを贈ったと聞こえたぞ!
───待て待て……婚約者は姉の方だろう?
───どういうことだ?
一気に騒がしくなる。
(そうよね……今の発言を聞いたら誰だってそう思うわよね……)
ランドルフ殿下とフリージアのことだから、後々、私にこの話を暴露してショックでも与えるつもりだったのかもしれない。
だけど……
(今は別の意味でショックを受けているわ……)
何だかもう、ため息しか出なかった。
《おねえちゃん……まきこんで、ごめんなさい》
「え?」
私の腕の中で彼女───ヴェールヌイ王国の王女様が震えていた。
これは、ランドルフ殿下の剣幕にかなり脅えてしまっている。
そもそもとして王女の目を離したヴェールヌイ王国の人にも文句を言いたい気持ちはある。
けれど、それはまた別問題。
今はこの子を落ち着かせなくては。
私は王女様に向かって柔らかく笑う。
《ううん。私こそ、この国の人たちが怖い思いさせてごめんなさい》
《……ううん、だいじょうぶ……》
《でも、痛かったでしょう?》
だって尻もちついて転んでいたもの。
見た感じでは怪我は無さそうだけれど。
《びっくりしただけ……あっちのおねえちゃんにもあやまらなくちゃ…………でも》
王女様の顔が二人には怖くて近付きたくないと言っていた。
私はそっと王女様を抱きしめる。
《怖がらせてごめんね》
《おねえちゃん……》
その時だった。
「おい! ブリジット嬢、いつまで、そんな子供に構っているんだ? そんな子供はさっさと親に引き渡せばいいだろう!」
「……殿下」
ランドルフ殿下がチッと小さく舌打ちをする。
「全く、どこの子供なんだ……後で親共々キツく叱っておかねばならないな……」
「ええ! 本当に。私もそう思いますわ!」
はぁ、とランドルフ殿下が大きな溜息をつき、フリージアが大きく同調した。
その時───
「はて? 誰が誰をキツく叱るのだ?」
「──もちろん、その子供の両親に決まっている!」
「ほう? お前が……叱れるのか?」
「当たり前だ、私はこの国の唯一の王子───って、ち、父上!?」
国王陛下の登場にさすがのランドルフ殿下も驚いたのか声が裏返った。
「何やら騒がしいと思って来てみれば……ランドルフ。これはどういうことだ?」
陛下が額に手を当てて息を吐きながらランドルフ殿下に事の次第を訊ねる。
「い、いえ、父上。実はそこのブリジット嬢が抱いている子供がですね……」
ランドルフ殿下が騒ぎとなった理由の説明を始める。
その説明を聞いた陛下の顔はどんどん怒りの顔に変わっていった。
しかし、殿下はそのことにも全く気付かずに自らどんどん墓穴を掘っていく。
「フリージア嬢の美しさに惹かれたその子供は、悪さを企んだのです……なんと愚かなのか!」
ランドルフ殿下が得意満面の笑みを浮かべてそう口にした時、とうとう陛下の堪忍袋の緒が切れた。
「阿呆! ───愚か者はお前だ! ランドルフ!」
「……は? え? 父上?」
「お前は……お前と言うやつはなんということを!」
「え? ち、父上? いったいどうしたというのですか?」
ランドルフ殿下は事態をまだ飲み込めておらず、首を傾げている。
また、それはフリージアも同じだった。
大きな目をめいっぱい見開いてキョロキョロしている。
「お前は……お前はこの国の王子だというのに他国の王族の顔も知らんのかーー!?」
「は、い? 他国の王族の顔ですか?」
ランドルフ殿下は果て? という表情になる。
ここまで来ても本気で分かっていないことに私は心から呆れた。
「そもそも、本日のパーティーにも来賓で呼んでいることはちゃんとお前に話したはずだ!」
「え? た、他国の王族を……ですか? そ、そうでしたか? ちょっと他のことに気を取られていまして話はあまり聞いていなかったような……」
ははは、とランドルフ殿下は笑って誤魔化そうとする。
「なっっ! つまりお前は話を聞いていなかった、と言うのか!?」
陛下のその言葉に会場内はしんっと静まり返る。
多くの軽蔑の眼差しがランドルフ殿下に注がれると、さすがにこれらの視線には焦ったのか、ランドルフ殿下がようやく陛下におそるおそる訊ねる。
「で、では、父上……ま、まさかあの子供は……」
「まだ、分からぬのか! 顔が分からずとも言葉を聞けば直ぐに分かっただろう!?」
「こ、言葉……」
ランドルフ殿下が戸惑いの表情を見せる。
「彼女は来賓、ヴェールヌイ王国の王女殿下だ!」
「なっ! ヴェールヌイ王国の……!?」
「ええ!?」
ランドルフ殿下は頭を抱え、フリージアも驚きの悲鳴をあげた。
「そん……なっ!!」
「嘘ッ……その子が、お、王女……さま、ですって!?」
フリージアは私と私の腕の中にいる王女様に視線を向けると、一気に顔が青ざめた。
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