【完結】美人な姉と間違って求婚されまして ~望まれない花嫁が愛されて幸せになるまで~

Rohdea

文字の大きさ
4 / 36

4. 望まれない花嫁

しおりを挟む


  私の嫁入りは、とてもバタバタだった。
  トゥマサール公爵家は準備が出来次第、なるべく早めに来て欲しい……と要望を出していたし、お父様としても向こうの気が変わらない内に早く私を押し付けてしまいたかったから。

「ル~チア」
「……っ!」

  荷物の最終確認をしていたら、後ろからお姉様に声をかけられる。
  不気味なほどご機嫌な声だった。

「とうとう行ってしまうのねぇ、ルチア……寂しくなるわ……」
「お、お姉様……」
「ふふふ、でも、ねぇ、ルチア」
「え?  た、楽しみ……」

  何故かは分からないけれど、この時、背筋がゾクッとした。
 
「大丈夫よ、ルチア!  未来の公爵夫人だなんて、私と違ってルチアなんかには当然荷が重いとは思うけど、ユリウス様の愛さえあればきっと乗り越えられるわよ」
「あ、愛……」
「そうよ、愛。あら?  なんて変な顔をしているの?  だってルチアは、あのユリウス様に見初められたんでしょう?  当然、愛があるはずよね?」
「……」

  まさか、全く心当たりがない……なんて言いたくない。
  なので、私は曖昧な笑顔を浮かべて誤魔化した。

  一方でお父様とお母様は「これでお荷物娘が~」と嬉しそうに話している。
  そこには、私がいなくなる事に寂しいなんて感情は一切見受けられない。あるのは「ようやく片付いた」そんな気持ちだけ。

「───ルチア様、お迎えの馬車が到着されました」

  日程の連絡はしてあった為、迎えは公爵家が馬車を出してくれるという待遇っぷり。
  私の為に馬車を出すのを渋っていたお父様は「さすが、トゥマサール公爵家だな!」と喜んでいた。

  こうして期待と不安を抱えて私は、トゥマサール公爵家へと向かった。


❋❋❋


「お待ちしておりました」
「……ルチア・スティスラドです、本日からよろしくお願いします」

  馬車が公爵家の屋敷に到着し、外に出ると私はまずその屋敷の大きさに圧倒された。
  分かってはいたけれど、スティスラド伯爵家とは雲泥の差だった。
  本当に私がここで生活していくの?
  そんな不安が頭をよぎった時、玄関が開いて出迎えられた。

「ルチア様、ようこそ。私はこの屋敷の執事のトーマスで……」
「……あの?」

  私を出迎えてくれた執事のトーマスと名乗った男性が、下げていた頭を上げて私の顔を見た時、言葉を詰まらせると一瞬驚いた顔を見せた。

「……ハッ!  も、申し訳ございません!  は、話に聞いていた方より、た、大変可愛らしい方だった為……あ、いえ、可愛らしいは失礼でしたか……ルチア様は大変、お綺麗な方ですとも!」
「……?」

  何故か急に慌て出して可愛らしいを綺麗と言い直すトーマスさん。
  何だかわざとらしくも聞こえる……

「コホッ……た、大変、失礼しました。それでは部屋にご案内させていただきます。まずはお疲れでしょうから身体を休めて頂いてからーー……」

  いったい何に驚かれたのか分からず困惑したけれど、とりあえずは無事に出迎えられた……のだと思う事にした。

「こちらが、正式な婚姻を結ぶまでの間のルチア様のお部屋です。あぁ、もしも狭いと言う事であれば、他の部屋を用意する事も可能ですので何かご希望があればどうぞ遠慮なく仰って下さい」
「あ、ありがとうございます」

  そして、私からすれば頭がクラクラするほどの広さの部屋に案内された。
  狭い?  この部屋が狭い?  嘘でしょう?  世界が違い過ぎるわ!
  改めて自分はなんて所にやって来てしまったのだろう……そんな気持ちにさせられた。

「…………」

  フラフラした足取りでソファに向かい、私は腰を下ろした。

「……でも、静かに出迎えられて、こうして一人にしてもらえる時間があって良かったかも……」

  使用人一同ズラリと並んで仰々しく出迎えられたり、到着早々、あれやこれや言われていたりしたら目を回していたかもしれない。

「えっと、当主のトゥマサール公爵家夫妻は、今は領地にいてほぼ引退状態?  で、私の夫となるユリウス様……は今、仕事で王城にいるから、夜まで帰って来ない……本当にお忙しい方なのね……」

  トーマスさんは大変申し訳なさそうにそう説明してくれた。
  
「何度も何度もすみません、すみません……と謝られてしまったわ……」

  新妻を出迎える日のだというのに仕事だなんて!  と言うつもりは無いのに。
  だけど、旦那様となるユリウス様には早く会いたいようなそうでないような、複雑な気持ちだった。




  ───何かがおかしい。

  その後、私付きの世話係のメイドが部屋にやって来て挨拶を受けた。
  それから、屋敷の案内を受けながら、その他の使用人とも顔を合わせたのだけど。

  この違和感は何かしら?
  スティスラド伯爵家にいた使用人達のような冷たさは無い。
  むしろ皆、お待ちしておりました、と優しく出迎えてくれた。
  だけど、彼らは私を見ると執事のトーマスさんもそうだったように、一瞬だけ驚いた顔をする。
  ほんの一瞬なので、気が付かなければそれまでだけど。

「ルチア様?  どうかされまさしたか?  あ、もしかしてお疲れですか!?  そんな事にも気付けず、も、申し訳ございません!!」
「いえ、大丈夫……大丈夫だから……」

  どうしてそんなに脅えるの?

  それに……
  全体的に皆が私を見て困惑しているように感じるのは気のせい?
  そんな違和感の正体が分からず、私の方もだんだんと落ち着かなくなって来た。

  そうして夜。
  (正式な届けはこれからだけど)とうとう旦那様となったユリウス様との対面の時────

「ルチア様、若君……ユリウス様が仕事から戻られました」
「……今、行きます」

  私はずっと緊張のせいで落ち着かず、先程からお茶ばかり何杯も飲んでいた。
  メイド達がおかわりする度にギョッとしていたから相当だったと思う。
  ……飲みすぎてお腹がタプタプだわ……

  そんなお腹を抱えながら私は、ユリウス様を出迎えた。
  そして───

「……君は誰だ?」

  という言葉を聞くことになった。


❋❋❋


「……」
「……」

  今、私はユリウス様と向かいあっている。
  極度の緊張で今すぐ倒れそう……いえ、倒れてしまいたい気分だった。
  目の前にはお茶も用意されているけど、これ以上はもう勘弁よ!
  おかげで場を繋ぐ事すらも出来ず、変な空気だけが部屋の中に流れていた。


「……すまない。もう一度だけ確認させてくれ。君は……君の名は」
「スティスラド伯爵家の娘、ルチア・スティスラドです」

  私が目を見てはっきり答えると、ユリウス様も「……そうか」と頷いた。
  頷いてはくれたけど、その顔はまだ困惑している様子だった。

  ───どうして?
  この様子から、ユリウス様が望んでいたのがお姉様だったという事は容易に想像がつく。
  二人はどこかで、顔を合わせていた……そういう事。
  そこまではいい。
  それなら何故、彼は“ルチア”に求婚の手紙を出したの?

「……スティスラド伯爵家には娘が二人います」
「……あ、ああ。それは……」

  それはさすがに知っていたのね?

「私は妹のルチアで姉はリデル……」
「リデル……つまり俺が会った“あの日の彼女”は……」
「お姉様……姉のリデルだったかと思います」
「……っ!」

  私がそう口にするとユリウス様は、がっくりと項垂れた。  
  自分の犯した大きな過ちに気付いて大きなショックを受けている。
  そんな様子だった。

「つまり……俺は間違って“君”に……求婚をしてしまった……のか」

  呆然とした様子でそう呟いたユリウス様の声はどこか震えていた。

しおりを挟む
感想 313

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!

ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。 相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。 結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。 現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう… その時に前世の記憶を取り戻すのだった… 「悪役令嬢の兄の婚約者って…」 なんとも微妙なポジション。 しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。

完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!

仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。 ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。 理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。 ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。 マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。 自室にて、過去の母の言葉を思い出す。 マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を… しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。 そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。 ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。 マリアは父親に願い出る。 家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが……… この話はフィクションです。 名前等は実際のものとなんら関係はありません。

(完結)妹の婚約者である醜草騎士を押し付けられました。

ちゃむふー
恋愛
この国の全ての女性を虜にする程の美貌を備えた『華の騎士』との愛称を持つ、 アイロワニー伯爵令息のラウル様に一目惚れした私の妹ジュリーは両親に頼み込み、ラウル様の婚約者となった。 しかしその後程なくして、何者かに狙われた皇子を護り、ラウル様が大怪我をおってしまった。 一命は取り留めたものの顔に傷を受けてしまい、その上武器に毒を塗っていたのか、顔の半分が変色してしまい、大きな傷跡が残ってしまった。 今まで華の騎士とラウル様を讃えていた女性達も掌を返したようにラウル様を悪く言った。 "醜草の騎士"と…。 その女性の中には、婚約者であるはずの妹も含まれていた…。 そして妹は言うのだった。 「やっぱりあんな醜い恐ろしい奴の元へ嫁ぐのは嫌よ!代わりにお姉様が嫁げば良いわ!!」 ※醜草とは、華との対照に使った言葉であり深い意味はありません。 ※ご都合主義、あるかもしれません。 ※ゆるふわ設定、お許しください。

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

姉と妹の常識のなさは父親譲りのようですが、似てない私は養子先で運命の人と再会できました

珠宮さくら
恋愛
スヴェーア国の子爵家の次女として生まれたシーラ・ヘイデンスタムは、母親の姉と同じ髪色をしていたことで、母親に何かと昔のことや隣国のことを話して聞かせてくれていた。 そんな最愛の母親の死後、シーラは父親に疎まれ、姉と妹から散々な目に合わされることになり、婚約者にすら誤解されて婚約を破棄することになって、居場所がなくなったシーラを助けてくれたのは、伯母のエルヴィーラだった。 同じ髪色をしている伯母夫妻の養子となってからのシーラは、姉と妹以上に実の父親がどんなに非常識だったかを知ることになるとは思いもしなかった。

厄介払いされてしまいました

たくわん
恋愛
侯爵家の次女エリアーナは、美人の姉ロザリンドと比べられ続け、十八年間冷遇されてきた。 十八歳の誕生日、父から告げられたのは「辺境の老伯爵に嫁げ」という厄介払いの命令。 しかし、絶望しながらも辺境へ向かったエリアーナを待っていたのは――。

【完結】アッシュフォード男爵夫人-愛されなかった令嬢は妹の代わりに辺境へ嫁ぐ-

七瀬菜々
恋愛
 ブランチェット伯爵家はずっと昔から、体の弱い末の娘ベアトリーチェを中心に回っている。   両親も使用人も、ベアトリーチェを何よりも優先する。そしてその次は跡取りの兄。中間子のアイシャは両親に気遣われることなく生きてきた。  もちろん、冷遇されていたわけではない。衣食住に困ることはなかったし、必要な教育も受けさせてもらえた。  ただずっと、両親の1番にはなれなかったというだけ。  ---愛されていないわけじゃない。  アイシャはずっと、自分にそう言い聞かせながら真面目に生きてきた。  しかし、その願いが届くことはなかった。  アイシャはある日突然、病弱なベアトリーチェの代わりに、『戦場の悪魔』の異名を持つ男爵の元へ嫁ぐことを命じられたのだ。  かの男は血も涙もない冷酷な男と噂の人物。  アイシャだってそんな男の元に嫁ぎたくないのに、両親は『ベアトリーチェがかわいそうだから』という理由だけでこの縁談をアイシャに押し付けてきた。 ーーーああ。やはり私は一番にはなれないのね。  アイシャはとうとう絶望した。どれだけ願っても、両親の一番は手に入ることなどないのだと、思い知ったから。  結局、アイシャは傷心のまま辺境へと向かった。  望まれないし、望まない結婚。アイシャはこのまま、誰かの一番になることもなく一生を終えるのだと思っていたのだが………? ※全部で3部です。話の進みはゆっくりとしていますが、最後までお付き合いくださると嬉しいです。    ※色々と、設定はふわっとしてますのでお気をつけください。 ※作者はザマァを描くのが苦手なので、ザマァ要素は薄いです。  

ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。

光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。 昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。 逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。 でも、私は不幸じゃなかった。 私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。 彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。 私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー 例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。 「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」 「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」 夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。 カインも結局、私を裏切るのね。 エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。 それなら、もういいわ。全部、要らない。 絶対に許さないわ。 私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー! 覚悟していてね? 私は、絶対に貴方達を許さないから。 「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。 私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。 ざまぁみろ」 不定期更新。 この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

処理中です...