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4. 望まれない花嫁
しおりを挟む私の嫁入りは、とてもバタバタだった。
トゥマサール公爵家は準備が出来次第、なるべく早めに来て欲しい……と要望を出していたし、お父様としても向こうの気が変わらない内に早く私を押し付けてしまいたかったから。
「ル~チア」
「……っ!」
荷物の最終確認をしていたら、後ろからお姉様に声をかけられる。
不気味なほどご機嫌な声だった。
「とうとう行ってしまうのねぇ、ルチア……寂しくなるわ……」
「お、お姉様……」
「ふふふ、でも、これからが楽しみねぇ、ルチア」
「え? た、楽しみ……」
何故かは分からないけれど、この時、背筋がゾクッとした。
「大丈夫よ、ルチア! 未来の公爵夫人だなんて、私と違ってルチアなんかには当然荷が重いとは思うけど、ユリウス様の愛さえあればきっと乗り越えられるわよ」
「あ、愛……」
「そうよ、愛。あら? なんて変な顔をしているの? だってルチアは、あのユリウス様に見初められたんでしょう? 当然、愛があるはずよね?」
「……」
まさか、全く心当たりがない……なんて言いたくない。
なので、私は曖昧な笑顔を浮かべて誤魔化した。
一方でお父様とお母様は「これでお荷物娘が~」と嬉しそうに話している。
そこには、私がいなくなる事に寂しいなんて感情は一切見受けられない。あるのは「ようやく片付いた」そんな気持ちだけ。
「───ルチア様、お迎えの馬車が到着されました」
日程の連絡はしてあった為、迎えは公爵家が馬車を出してくれるという待遇っぷり。
私の為に馬車を出すのを渋っていたお父様は「さすが、トゥマサール公爵家だな!」と喜んでいた。
こうして期待と不安を抱えて私は、トゥマサール公爵家へと向かった。
❋❋❋
「お待ちしておりました」
「……ルチア・スティスラドです、本日からよろしくお願いします」
馬車が公爵家の屋敷に到着し、外に出ると私はまずその屋敷の大きさに圧倒された。
分かってはいたけれど、スティスラド伯爵家とは雲泥の差だった。
本当に私がここで生活していくの?
そんな不安が頭をよぎった時、玄関が開いて出迎えられた。
「ルチア様、ようこそ。私はこの屋敷の執事のトーマスで……」
「……あの?」
私を出迎えてくれた執事のトーマスと名乗った男性が、下げていた頭を上げて私の顔を見た時、言葉を詰まらせると一瞬驚いた顔を見せた。
「……ハッ! も、申し訳ございません! は、話に聞いていた方より、た、大変可愛らしい方だった為……あ、いえ、可愛らしいは失礼でしたか……ルチア様は大変、お綺麗な方ですとも!」
「……?」
何故か急に慌て出して可愛らしいを綺麗と言い直すトーマスさん。
何だかわざとらしくも聞こえる……
「コホッ……た、大変、失礼しました。それでは部屋にご案内させていただきます。まずはお疲れでしょうから身体を休めて頂いてからーー……」
いったい何に驚かれたのか分からず困惑したけれど、とりあえずは無事に出迎えられた……のだと思う事にした。
「こちらが、正式な婚姻を結ぶまでの間のルチア様のお部屋です。あぁ、もしも狭いと言う事であれば、他の部屋を用意する事も可能ですので何かご希望があればどうぞ遠慮なく仰って下さい」
「あ、ありがとうございます」
そして、私からすれば頭がクラクラするほどの広さの部屋に案内された。
狭い? この部屋が狭い? 嘘でしょう? 世界が違い過ぎるわ!
改めて自分はなんて所にやって来てしまったのだろう……そんな気持ちにさせられた。
「…………」
フラフラした足取りでソファに向かい、私は腰を下ろした。
「……でも、静かに出迎えられて、こうして一人にしてもらえる時間があって良かったかも……」
使用人一同ズラリと並んで仰々しく出迎えられたり、到着早々、あれやこれや言われていたりしたら目を回していたかもしれない。
「えっと、当主のトゥマサール公爵家夫妻は、今は領地にいてほぼ引退状態? で、私の夫となるユリウス様……は今、仕事で王城にいるから、夜まで帰って来ない……本当にお忙しい方なのね……」
トーマスさんは大変申し訳なさそうにそう説明してくれた。
「何度も何度もすみません、すみません……と謝られてしまったわ……」
新妻を出迎える日のだというのに仕事だなんて! と言うつもりは無いのに。
だけど、旦那様となるユリウス様には早く会いたいようなそうでないような、複雑な気持ちだった。
───何かがおかしい。
その後、私付きの世話係のメイドが部屋にやって来て挨拶を受けた。
それから、屋敷の案内を受けながら、その他の使用人とも顔を合わせたのだけど。
この違和感は何かしら?
スティスラド伯爵家にいた使用人達のような冷たさは無い。
むしろ皆、お待ちしておりました、と優しく出迎えてくれた。
だけど、彼らは私を見ると執事のトーマスさんもそうだったように、一瞬だけ驚いた顔をする。
ほんの一瞬なので、気が付かなければそれまでだけど。
「ルチア様? どうかされまさしたか? あ、もしかしてお疲れですか!? そんな事にも気付けず、も、申し訳ございません!!」
「いえ、大丈夫……大丈夫だから……」
どうしてそんなに脅えるの?
それに……
全体的に皆が私を見て困惑しているように感じるのは気のせい?
そんな違和感の正体が分からず、私の方もだんだんと落ち着かなくなって来た。
そうして夜。
(正式な届けはこれからだけど)とうとう旦那様となったユリウス様との対面の時────
「ルチア様、若君……ユリウス様が仕事から戻られました」
「……今、行きます」
私はずっと緊張のせいで落ち着かず、先程からお茶ばかり何杯も飲んでいた。
メイド達がおかわりする度にギョッとしていたから相当だったと思う。
……飲みすぎてお腹がタプタプだわ……
そんなお腹を抱えながら私は、ユリウス様を出迎えた。
そして───
「……君は誰だ?」
という言葉を聞くことになった。
❋❋❋
「……」
「……」
今、私はユリウス様と向かいあっている。
極度の緊張で今すぐ倒れそう……いえ、倒れてしまいたい気分だった。
目の前にはお茶も用意されているけど、これ以上はもう勘弁よ!
おかげで場を繋ぐ事すらも出来ず、変な空気だけが部屋の中に流れていた。
「……すまない。もう一度だけ確認させてくれ。君は……君の名は」
「スティスラド伯爵家の娘、ルチア・スティスラドです」
私が目を見てはっきり答えると、ユリウス様も「……そうか」と頷いた。
頷いてはくれたけど、その顔はまだ困惑している様子だった。
───どうして?
この様子から、ユリウス様が望んでいたのがお姉様だったという事は容易に想像がつく。
二人はどこかで、顔を合わせていた……そういう事。
そこまではいい。
それなら何故、彼は“ルチア”に求婚の手紙を出したの?
「……スティスラド伯爵家には娘が二人います」
「……あ、ああ。それは……」
それはさすがに知っていたのね?
「私は妹のルチアで姉はリデル……」
「リデル……つまり俺が会った“あの日の彼女”は……」
「お姉様……姉のリデルだったかと思います」
「……っ!」
私がそう口にするとユリウス様は、がっくりと項垂れた。
自分の犯した大きな過ちに気付いて大きなショックを受けている。
そんな様子だった。
「つまり……俺は間違って“君”に……求婚をしてしまった……のか」
呆然とした様子でそう呟いたユリウス様の声はどこか震えていた。
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