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6. それぞれの思惑
しおりを挟む今度はもう、夢は見なかった。
だけど温かい“何か”を感じて目を覚ますと……
「あ、起きた?」
「っ!」
またしてもユリウス様の美しい顔のドアップ。
その顔面の美しさの破壊力に言葉を失っていると、ユリウス様が安心したように微笑んだ。
おかげで破壊力が更にアップした。
「っっ!」
「……良かった」
「……よ、良かった? えっと? 何が……でしょうか?」
その質問をしたと同時に気付いた。
私の手にある温もりに……
「…………っ!?」
こここここれは、手、手、手が繋がっている!?
どどどどどういう事ーー!?
そう聞きたいのに混乱のせいで上手く口が開けなかった。
そしてユリウス様はそんな私の混乱っぷりに全く気付かすに話を続ける。
もちろん、手はしっかり繋いだまま……
「……実はさっき、倒れた時のルチア嬢、ずっと酷く魘されていたんだよ」
「え? 魘さ……れ?」
「そう。でも、今は突然眠ってしまったけど穏やかな表情だったから安心した。疲れていたのかな?」
「……!」
ギュッ……
繋いでいる手に力が込められた。
とても温かい……目が覚める直前に感じた“温かい”はこれだったのかと気付いた。
「あ、あの……ずっと手を握ってくれていた……のですか?」
「え? あ、ああ……そう、だ、」
ユリウス様が何だか照れくさそうにしているように見える。
「……はっ! まさか、ルチア嬢、君は手を繋ぐのも初めて……か?」
「え……! さ、さすがにそれはありません!」
「そ、そうか……さすがにそれは……無かったか、うん、だよな」
ユリウス様が苦笑いをする。
照れくさそうにしたり、苦笑いをしたり……随分と表情が豊かな人なのだなと思った。
「……ん」
そんな事を考えていたら、ユリウス様のもう片方の手が私の頭に伸びてそっと撫でられる。
それはとても優しい手付きだった。
「な、何で……!」
「…………もう一度撫でたくなった……から?」
「どうして、疑問形なのですか!」
「分からない……どうしてかな?」
「わ、私に聞かないでくださいっ!」
照れくさくなってしまった私は、プイッと顔を背ける。
すると、ユリウス様は楽しそうに笑った。
「はは、それもそうだね」
「……っ」
「ルチア嬢、今日はこのまま休むといい…………この続きの話は明日にしよう」
「…………はい」
───明日。
明日、話が終わったら私はきっとここから追い返される。
騙された! ふざけるな!
と、激怒して今すぐ追い出してもおかしくないのに時間をくれるのね。
でも、それも明日まで。
ニヤニヤと笑って待っているはずのお姉様の元へ……思惑通り、帰る事に……なる。
お姉様の顔を思い出したら気持ちが一気に沈んでしまう。
「ルチア嬢?」
「いえ、何でもありません。おやすみなさいませ」
「あ、あぁ、おやすみ」
ユリウス様はそう言って、繋いでいた手を離すと名残惜しそうに部屋から出て行った。
私はさっきまでユリウス様と繋いでいた手を目の前に翳す。
「変なの……」
どうしてかは分からないけれど、離れてしまった手の温もりがとても寂しいと感じる。
「……ユリウス様が嫌な人だったら良かったのに……」
私は無意識にそう口にしていた。
❋❋❋
「……若君、どうかされましたか?」
「トーマス」
皆が寝静まった深夜。俺はトーマスを呼び出した。
「ルチア様は? “花嫁”をお一人にしてよろしいのですか? あとあと文句がー……」
「トーマス! お前には“彼女”がそんな文句を言うような人に見えたのか?」
俺はトーマスの言葉を静止して冷たく睨むと、トーマスが困り果てた顔をした。
何を言いたいのかは分かっている。
「……若君、話が全然違いますぞ!」
「ああ」
「ルチア様がまさかあんなにも……あれは、まるで……」
「ああ」
「あの容姿だけではありませぬ! 性格も違うではありませんか! 何もかもが聞いていた話と違い過ぎて使用人一同、大混乱が起きていますぞ!」
「俺もだ」
「……は?」
「俺も正直、混乱している」
俺は頭を抱えた。
まさか、堂々と嘘をつかれていたとは。
「……嫁いで来た彼女……ルチアは妹だそうだ。“ルチア”は最初から妹の名だった」
「い、妹君だった!? な、何故、妹君の名を……!?」
「……なぜ、あの時、ルチアと名乗ったのかは分からない。ただ、驚くくらい似ていない姉妹なのは確かだ」
本物の“ルチア”を一目見て本当に驚いた。
だからトーマスの驚いている気持ちもよく分かる。使用人達も同じ気持ちだろう。
「……トーマス。お前はスティスラド伯爵家を徹底的に詳しく調べてくれ。気になる事がある」
俺のその命令にトーマスは何故? という顔をした。
「ですが、今ならまだ話をつければ、ルチア様を伯爵家にお返しして……」
「駄目だ! ……こちらの間違いで巻き込んでしまって本当に申し訳ないが、ルチアは伯爵家には返さない」
「何故ですか?」
「……」
────誰かに頭を撫でられたの……初めてです。こんなに温かいだなんて……知らなかった、で……す
「あの発言とあんな笑顔を見ておいて、伯爵家に返すとか……出来るか!」
「若君? 何か?」
「……何でもない。とにかく報告をしないと……と言っただけだ」
「……」
トーマスはそう答えた俺を無言で見ていた。
❋❋❋
「───え? すみません、もう一度……」
「うん。だからさ、ルチア嬢……君の部屋をもっと日当たりのいい部屋に変更しようかと思ったんだけど、どう思う?」
「ど……?」
いえいえいえ!
どう思う?
じゃないわ!
私の部屋? 日当たり? 何の話なの?
だって私は今日、追い返され───……
「若君、この屋敷で一番日当たりのいい部屋は、とても日差しが気持ち好くて快適に過ごせますが、少々手狭かと……」
「うーん、日当たり取るか広さを取るか……か。俺としては日当たりがオススメなんだが」
ユリウス様とトーマスさんの会話についていけない!
翌朝、朝食まで頂いてしまった私は、ユリウス様から話があると呼ばれ、いよいよ……と部屋を訪ねたら、そこにはトーマスさんもいて……
二人が神妙な顔をして今後の話が、と言うから覚悟して聞こうと臨んだのに!
「若君は何故、日の光に拘るのです?」
「だって、また倒れたら大変じゃないか。少しでも日に当たっていた方が健康的だし、何より快適に過ごせる部屋の方が居心地もよくて気分もよくなるだろう? きっと夜もぐっすり眠れる」
「ふむ。だ、そうですが? どうします? ……ルチア様」
「……え、いや、あの、どうします? ではなくて……!」
私は大きく息を吸い込み……
こんな大声を出すのは初めてかもしれないってくらいの声で叫んだ。
「────私は追い返されるのではないんですかーー!?」
✣✣その頃のリデル✣✣
「ふふ~、まだかしら?」
私の予想なら、そろそろルチアが帰ってくる頃なのだけど。
「リデル? どうかしたのか? 随分とご機嫌だが」
鼻歌を歌っていたらお父様が声をかけて来た。
せっかくの気分が台無し!
「あら、お父様。いえ、ルチアは嫁ぎ先で幸せになれたかしら? と思ったらついつい笑……笑顔が」
「そうか、ルチアの……リデルは優しい子だな。まぁ、ルチアはどうしようも無い“お荷物”だが、相手からあんなに望まれていたのだ。大丈夫だろう」
「ふふ、そうねぇ……」
───本当に望まれているなら、だけどね!
馬鹿なお父様。
ちょ~~っと、考えれば分かるでしょ?
トゥマサール公爵家のユリウス様が望んだのは、残念だけどルチアではなくてこの私!
あの人、ルチアの顔なんて絶対知らないわよーー?
だから、ユリウス様は驚いたでしょうね~
だけど、まさか“私”が求婚されるとは思わなかったわ~
ほらだって、あの人……あの時、この誰よりも美しい私に向かって……
「チッ……まぁ、きっとあれは照れ隠しで、あの時、この私に一目惚れしていたという事よね! さぁて、ルチアはどんな暴言を吐かれたのかしらね~お土産話が楽しみだわ~」
ルチアは……絶対にメソメソと泣いて帰って来る。
あぁ、早くその顔が見たいわ~~ふふ。
私は、まだかしらまだかしら、と公爵家の馬車がやって来るのを待っていた。
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