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18. お楽しみはここから(リデル視点)
しおりを挟む───あー、疲れるわぁ。
嘘泣きってすっごく、疲れるのよねぇ……
私は今、“妹思いの優しい姉”を演じながら嘘の涙をたくさん流している。
なぜか、私に惚れていたはずのユリウス様が、ルチアなんかに絆されているみたいだから、いつもより多めに嘘泣きしておかないといけない。
それにしても……たま~にいるのよねぇ……ルチアなんかに絆されそうになる男。見る目がないと思うわ。
そういう人が相手の時は本当に大変なのよね。
いかにルチアがとんでもない悪女で、私が素晴らしい女性かをアピールしなくちゃいけなくなるんだもの。
すっごく疲れるわーー。
───そもそも、何でユリウス様は私の事を好きなはずなのにルチアなんかを受け入れちゃたわけ?
そのせいで 全然、私の望む展開にならないじゃない!
私は今までも何度か初対面の男に“ルチア”と名前を騙って来たけれど、ルチアに求婚して来たのはユリウス様が初めてだったわ。
「お前は誰だ! 望んだのはお前なんかじゃない! 出ていけ!」
ルチアがそう言って追い出されるのをとにかく見てみたくて始めた“ルチア”のフリだった。
ようやくその時が来た! と、喜んだのに何で?
惨めに結婚相手に捨てられる事でルチアの評判はますます下がり、逆に私が脚光を浴びるまたとない機会となるはずだったのに!
まさか、ユリウス様がそこまで生真面目な男だったなんて大誤算!
でも、まぁ……今日のこれでユリウス様もルチアが最低最悪な女だと分かっただろうし?
私もルチアの被害者アピールも出来たし?
なんなら、ユリウス様の口から王太子殿下に“妹思いの優しい姉”である私の話が伝わるかもしれない!
そう思うと便利で捨てがたいのよねぇ……ユリウス様って。
……だから、ルチア。
ユリウス様はそろそろ、私に返してね?
彼は私が王太子妃になる時まで必要な人なのよ。
今日できっと、二人は離縁する事になるでしょうしね!
でも、私は王太子妃になる身だから残念ながらユリウス様とは結婚してあげられない。
そこだけは申し訳ないわ。
ルチアの今後は……そうねぇ……
ただでさえ誰からも見向きもされないのに、離縁をした身だと、まともな縁談なんてますます有り得ないだろうし……
あ! お父様にお願いして金だけはあるけど、ちょ~っと変な性癖のありそうなうんと年上の男性に嫁がせれば良いのかも! 探せばいるわよね、きっと!
きっと、ルチアにはお似合いよ。
うん、これは帰ってお父様と相談ね!
────さぁて、そろそろ泣き真似は終わりにして顔をあげようかしら?
どうせ、ルチアの事だから、何も言えずに真っ青な顔して泣きそうになっているだけだろうしね~
今日はこの後ルチアがユリウス様に「最低な女」として捨てられる瞬間が見られるのでしょ? 最高よ……ふふ!
顔がニヤケてしまいそう!
そうそう! ユリウス様もルチアから解放されて目が覚めたら、きっと私の為にお金も融通してくれるはず……!
だって、彼は私に一目惚れしているのだからそれくらいしてくれるわよね?
お父様に無理やりお願いして私が訪問して正解ね。
そんな事を考えながら、私は嘘の涙を拭いつつ顔を上げた。
顔を上げるとユリウス様が私の事をじっと見ていた。
美しいからってそんなに見つめなくてもいいのに……照れちゃうわね。
「───そうか。君があの時、名前を“ルチア”と名乗ったのはうっかりでは無かったのか」
ユリウス様がそう呟く。
あら? どうやら私の話を信じてくれたみたいね! やったわ~、さすが私……!
私は内心笑いたいのを堪えて、涙を拭きながら答える。
「……申し訳ございません……まさかその後、ユリウス様に求婚されるなんて夢にも思っておりませんでしたから。……本当に光栄なお話でしたわ……」
「…………それが、聞けてよかったよ。どうして君が来なかったのかとても不思議だったんだ」
ユリウス様がにっこりと微笑んだ。
この微笑み……やっぱりユリウス様はルチアではなく私の事を好きなのね……ふふ。
それなら、後は私の魅力で押せば大丈夫そうね。
「あの……ユリウス様、私……」
「だが……とりあえず、今日はもう帰ってくれないか?」
「え?」
これからが本番! という時なのに、なぜかユリウス様が帰れなんて言い出した。
ええっ!? 何でよ!
私の目の前でルチアをとことん責めて欲しいのに! 私はそれが見たいのよ!
チッ……こうなったら……!
私は目を潤ませ頬を赤く染めて伏せ目がちの表情を作りながら言う。
「い、いいえ! 真実が明らかになった今……ルチアをこのまま一人でこの場に残すわけにはいきませんわ」
ユリウス様は私に惚れているのだから、この美しい顔の可愛い仕草で心は揺らぐはず!
見たところルチアは下を向いたまま。
青くなって泣いている顔を想像したけれど、耳がほんのり赤くなっている。これは悔しさから来ているのかしら?
ふふ、残念ね。もう遅いわ!
「…………スティスラド伯爵令嬢」
「はい!」
来たわーーーー!
「これは、俺たち夫婦の問題だ。君には一切関係ない」
「……は、い?」
はぁ? ちょっと、ちょっと、ちょっと!?
だから、ここからがいい所なのよ!?
最終的にルチアが泣いて帰って来るのは決まっていても、私はそれ、その泣かされる瞬間が見たいのよーー!
「ユリウス様…………怒りでルチアに酷いこと……しませんか?」
(訳:もちろん、怒ってるからするわよね? してくれるわよね?)
「しない」
───即答!? なんでよ!
もっと躊躇いなさいよ!
あなたは、好きだった私が嫁いで来ると信じていたのに、代わりにルチアみたいな女がやって来て娶るはめになったのよ!?
腹立つでしょーー!?
「…………っ」
そもそも、ユリウス様は何でこの美しい私と目が合ったのに頬を赤く染めないの?
私の事が好きなはずなのにおかしくない?
「で、ですが……!」
「いいから。今日は帰ってくれ」
「……ユリウス様」
どうしてこんなに冷たい声なの?
照れ隠しにしてはちょっと冷たすぎると思うわ。
私はもう少し食い下がろうとしたけれど、ユリウス様は頑固だった。
結局、私はそのまま追い出されるようにして公爵家を後にした。
馬車に乗り込んだ所でハッと気付く。
「お金の話……してないわ……! でも……まぁ、ルチアが戻って来てからでいいかしらね。ユリウス様も私に貢げるのは本望でしょうし!」
浮かれていたこの時の私はまだ知らない。
この先の私に何が待っているのか────……
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