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23. パーティー開始
しおりを挟む会場に到着すると、旦那様……ユリウス様のエスコートを受けている私は一斉に注目を集めた。
その視線に思わず怯みそうになる。
「……っ」
「ルチア……大丈夫?」
いけない!
まだ、何もしていないのに、旦那様に情けない顔を見せて心配させてしまうなんて……
しっかりしなくちゃ! と、私は自分に喝を入れる。
「大丈夫です!」
「ルチア……」
私がキッパリと答えると、旦那様は一瞬目を瞬かせたけどすぐに「そうか」と、微笑んでくれた。
その信頼が今はとても嬉しく、そして心強い。
もう、今の私はお姉様の好き勝手な行動に振り回されて伯爵家で下ばかり向いていた私じゃないから。
だから、顔を上げて前を向いて私は歩き出した。
───
パーティー会場では旦那様について回って、多くの人に挨拶をした。
これまでの人生でこんなにも人と接したのは初めてかもしれない。
私に向けられる視線もすごい。
好奇、値踏み、嫉妬、羨望、興味……
どれも昔受けたのとは違う種類の視線ばかり。
昔はただお姉様と比べられていた。でも、今は違う。
ユリウス様の妻として、未来の公爵夫人として見られている。
目敏い人は、私の指輪にもすぐ気付いて声をかけて来た。その度に私は笑顔で堂々と応えた。
一方の旦那様と来たらそんな視線にはすっかり慣れているのか、飄々としている。
何なら「新婚の妻ですが可愛いでしょう?」と惚気けてばかりいたので少し恥ずかしかったわ。
「……私、もっと冷たい視線を向けられると思っていました」
「何で?」
私がポツリとそう零すと、旦那様が不思議そうに首を傾げた。
まだこの国の王太子殿下が未婚で婚約者もいないからと言っても、旦那様はその次に令嬢達から妻の座を狙われていた男性だったはず。
私との結婚の話や噂はすでに流れていても、あわよくば……なんて思う人がいてもおかしくないのに。
「…………それは、皆、ルチアには敵わないと分かっているからだよ」
「敵わない、ですか?」
「そう。だから、ルチアに突っかかってこようとする人は、ただの身の程しら──……」
旦那様がそう言いかけた時、入口付近がザワっとした。
そちらに視線を向けと私は「あ……」と小さく声を上げる。
「…………お姉様……それに、お兄様?」
お姉様がお兄様のエスコートを受けて会場に入って来たところだった。
「お兄様って……」
「……ずっと領地にいたのですが、こっちに来ていたみたいですね」
今回、わざわざ王都に来たのはお姉様が王太子殿下に見初められる(と信じている)瞬間を見るため?
そうでしょうね……お兄様はお姉様の事は可愛い妹だと思っているもの。
「……」
そんなお兄様はお姉様とは違って基本的に私には“無関心”
両親と同じような顔をしていつも私の事を蔑むような目で見ていた。
いつだったかしら?
お前なんていてもいなくてもどうでもいい存在。
そう言われた事もあったわね……
そんな二人がこちらに気付き、お姉様が猫被りの笑顔を浮かべながら駆け寄って来た。
「ああ、ルチア! ここにいたのね! 会いたかったわ~!」
(訳:どこにいるのかと思ったわよ! 私に探させるとかどういうつもり!?)
「……お、ねえさま……」
「ふふふ」
私の知っている限り、ここまで豪勢な格好をしたお姉様は見た事がない。
ドレスも多分特注。
首元にキラキラと輝く宝石は、王太子殿下の瞳の色を彷彿とさせた。
これも今まで見た事がないから今回買い揃えたのかもしれない。
……旦那様はお金を貸さなかったのに。
昔からお姉様が散財するから我が家はいつだってギリギリで生きて来た。
それをこんなに……どこからお金を捻出したのかと色んな意味で気になってしまう。
「すっかり見違えちゃったわ! ルチアじゃないみたーい、ね! お兄様」
(訳:ルチアのくせに……なぁに、その格好。ふざけてるの? 生意気だわ。ね! お兄様)
「……」
お姉様は相変わらず。そして、お兄様は無言で私を見つめるだけ。
「色々、心配したけれど……上手くやってるのねぇ……」
(訳:何で帰って来ないのよ! どういう事?)
「……お姉様に心配していただくような事は何一つありませんので」
「は?」
珍しく私が口答えをしたせいか、お姉様の動きが一瞬、停止する。
多分、今のは素で驚いていた。
「も、もう! ルチアったら何でそんな事を言うの? 酷いわ~」
(訳:生意気言ってるんじゃないわよ! ルチアのくせに!)
「……本当の事を言っただけです」
「まあ! ルチアったら……! ああ、でも、そう……そうなのね……」
(訳:やっぱり卑怯な手を使ってユリウス様を引き止めているに違いないわ)
「ねぇ、ルチア……」
お姉様がおそらく渾身の演技で、また、私を陥れようと口を開きかけた時、音楽が流れてくる。
王族の入場の合図だった。
「あ……! 殿下の入場だわ!」
その音楽を聞いたお姉様は、私の事になど構ってなどいられないとばかりに私から離れて入口に注意を向ける。
内心、助かった……とホッとした。
いくら気にしないと決めていても、お姉様の話を聞くことは苦痛しかない。
「ルチア、大丈夫?」
「大丈夫です」
心配そうな旦那様に安心して欲しくて微笑んだ。
王族の入場が終わると本格的にパーティーは開始となる。
「ルチア、殿下に挨拶の時間だ」
「はい」
爵位の高い家から順番の挨拶となるのでトゥマサール公爵家は最初。
その際、チラッとお姉様の様子を見ると、周囲にはバレないように私を睨んでいた。
扇で口元は隠しているけれど私には分かる。
あれは“お前なんかが私より先に挨拶するなんて”と言っている目。
そんな目で睨まれても、伯爵令嬢のお姉様が挨拶する順番はまだまだ後なのはどうしようもない事。
もう、何をしても私はお姉様には睨まれるのだと思った。
────
「初めてお目にかかります。トゥマサール公爵家のユリウス様の元に嫁いで参りました、スティスラド伯爵家のルチアと申します」
両陛下、そして王太子殿下へと順番に挨拶をしていく。
陛下も「そなたが……ユリウスが選んだ……」などと口にしていたけれど、物珍しそうな視線を向けるだけでそれ以上何か言われる事は無かったのでホッとした。
だけど、どうしても気になるのは───
「……殿下、なぜ、固まっているのですか?」
「…………はっ!」
ユリウス様のちょっと冷たくて不機嫌な声で王太子殿下がハッとした。
何故か王太子殿下は私を一目見るなり固まっていた。
「ユリウス……す、すまない。想像以上だった」
「だから、ずっと言っていたでしょう?」
「ああ。だが……そ、それは、てっきりユリウスの欲目だとばかり……」
「殿下!」
「すまない……」
二人はやはり仲が良くて、とても気安そうに会話をしている。
従兄弟でもあり、側近でもあり……
そんな二人が微笑ましく思えて、私も思わず微笑みを浮かべた。
すると、殿下がまた固まった。
「…………ユリウス」
「何でしょうか?」
「天使が微笑んだ」
「……だから、ずっと言っていたでしょう! ルチアは天使だと!」
「……そ、そうだったな」
天使……?
いったい二人は何の会話をしているの?
旦那様にどういう事かと目で訴えたら、「俺のルチアが可愛いっていう話だよ」なんて口にしながら優しく微笑んだので私の方が照れてしまう。
「……くっ! 目の前でイチャイチャしやがって!」
殿下のそんな恨み言(?)を聞きながら無事に挨拶が終わりホッと安堵する。
そして、再び旦那様と会場内を歩いていたら──
「さっきから、なんだか、と~っても楽しそうねぇ、ルチア」
「……!!」
そんなお姉様のねっとりした声が後ろから聞こえてきた。
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