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22. 優しい人達
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「パーティーはもうすぐ……かぁ」
今日の昼間にパーティー用のドレスが届いた。
今回は時間がなかったので既製品のドレスを手直ししたものだけど、さすが公爵家。伯爵家で着ていたドレスとの着心地が全然違う。
「……私の為だけに作られたドレスではないけど、それでも嬉しいわ」
旦那様はフルオーダーで用意出来なかった事をずっと悔やんでいたけれど、お姉様のお下がりだけで過ごしていた頃を思えば幸せ。私にとっては充分すぎるくらい。
「この幸せがずっと続きますように……」
久しぶりの社交界は緊張と怖さもあるけれど旦那様がいてくれれば大丈夫!
心からそう思えた。
───
私が、今夜から夜は同じ部屋で……とお願いしたので、今日から私の寝室は移動になった。
新しい部屋はちょっとドキドキする。
そして、寝支度を終えて部屋に現れた旦那様は、隣に腰を下ろすと私の顔を見て言った。
「ルチア、ドレスが届いたと聞いたよ」
「はい! とても素敵でした。ありがとうございます」
私が微笑んで答えると旦那様も嬉しそうに笑ってくれた。
「可愛いルチア? いや、この場合は綺麗なルチア? が見られると思うと楽しみだ」
「!」
そう言って旦那様が私を抱き寄せる。
「装飾品も出来上がったと連絡を受けたから、取りに行って来るよ」
「そうなんですね! 楽しみです!」
「きっと似合うと思う」
旦那様の瞳の色を身につけられると思うと嬉しくて自然と顔が綻んだ。
「うん、後は───……か。ちゃんと……かな……」
「旦那様?」
「いや、こっちの話」
旦那様が優しく微笑む。
私はそんな旦那様の微笑みを見ているだけで幸せで胸がキュンとする。
「……」
「……」
しばらく私達は無言で見つめ合った。
すると、旦那様が急に照れくさそうにしながら口を開く。
「ト、トコロデ、オヒメサマ!」
「?」
「コ、コンヤハ……」
またお姫様?
それに、旦那様の喋り方が急にぎこちなくなったような……?
「テ……テヲツナイデ……ネマスカ? ソレトモ……」
「手! 今日も繋いで寝てくれるのですか? 嬉しい! 旦那様、ありがとうございます!」
まさか、今夜も手を繋いで寝てくれるなんて!
旦那様ったらなんて優しいの!
私は喜んだ。
「あ、でも、もし旦那様が寝にくかったら……」
「イヤ、ダイジョウブ………………デスヨネ」
その日、私は嬉しさと幸せのホクホクした気持ちで眠りについた。
それから旦那様は、本当に毎晩優しく手を握ってくれるようにり……一つ気付いた。
旦那様とこうして眠ると、伯爵家で過ごして来た頃の……誰にも顧みられなかった頃の自分の夢を見る事が無いという事に。
❋❋❋❋
そして、いよいよパーティーの日。
「若奥様、お綺麗です……!」
「素敵です」
「あ、ありがとう」
鏡に映った自分の姿を見て本当に驚いた。
ドレスのデザインは派手なわけではなく、どちらかと言うとシンプルなデザイン。
なのに不思議と華やかな印象を与える。
こんなのまるで、自分じゃないみたい!
……それから、ユリウス様の瞳の色のネックレスとイヤリング……
ちゃんと似合っている……と思う。
それだけで嬉しいという気持ちが溢れて来た。
「ルチア、支度は出来た?」
「旦那様……? はい、先程終わりまし……」
部屋を訪ねて来た旦那様に向かって振り返って微笑んだら、その後ろに人がいる事に気付いた。
誰なのかは一目で分かった。
私は慌てて頭を下げて挨拶をする。
「ご挨拶が遅くなってしまい、申し訳ございません。初めてお目にかかります。スティスラド伯爵家から参りましたルチアと申します」
「ああ、ユリウスから話は聞いている」
「初めまして。ルチアさん」
部屋に入って来た旦那様の後ろにいたのは、
────トゥマサール公爵家の当主夫妻。
つまり、この度、私のお義父様とお義母様はなられた方達だった。
私がこの家に嫁いで来た時には領地にいたお二人だけど、今回はパーティーの為に王都に戻ってきたという。
正式な婚姻の届けの書類のサインをした時、旦那様に公爵様達にご挨拶しなくて良いのですか? と聞いたら「大丈夫。そのうち向こうからやって来るよ」と言われていて正式な挨拶は出来ていないままだった。
私は頭を下げながら、ふと思う。
───そういえば、当主夫妻は私が旦那様が本来望んだ“ルチア・スティスラド”では無い事を知っているのかしら?
伯爵令嬢なんて! と求婚に反対されて、それを跳ね除けての私……いえ、お姉様への求婚話だと思っていたけれど、それも旦那様に聞いたところ「そんなことは無いよ。婚姻に関しては一任されているから」と言われてはいたけれど……やっぱり気になる。
「トーマスからも連絡は受けている」
「ユリウスがメロメロだって聞いたけど……」
……メロメロ?
二人の視線が私に向けられる。
私は次に何を言われるのかとドキドキしながら次の言葉を待った。
実は少し怖い。
だって、どうしても“父親”と“母親”という存在を思うとあの人達の顔が浮かんでしまうから───……
「ルチア」
「?」
私の隣に立った旦那様が、優しく声をかけてくれて微笑む。
そして、そっと私の手を握ってくれた。
「大丈夫だよ」
「……旦那様?」
旦那様のその言葉を受けて、真っ直ぐ公爵夫妻の事を見る。
彼らは私に向けて微笑んだ。
「頼りない息子だが呆れずに寄り添ってやってくれ」
「ユリウスから聞いていたよりも可愛らしい子だわ!」
「……!」
その言葉に驚いた私は、涙が溢れそうになる。
でも今は泣いたらダメだと必死に耐えた。
───旦那様……いえ、ユリウス様の周りはこんなにも優しい。
「ユリウス」
「はい」
公爵夫人……お義母様に呼ばれたユリウス様が何かを渡される。それは小さな箱。
何かしら? と思っていると、ユリウス様がその箱を開けて見せてくれる。
「ルチア。これは我が家に伝わる代々公爵夫人が持つ指輪の一つなんだけど」
「え?」
「今日はこの指輪も指にはめて欲しいんだ」
「……!」
旦那様はおそらく今日の私が、嫌でも皆から注目を集めてしまう事を分かっている。
だから、敢えてこれを用意してくれた。
私がユリウス様の妻であるという証を……
「……ありがとうございます、ユリウス様」
「うん」
私が手を差し出すと、旦那様は嬉しそうに指輪をはめてくれた。
あぁ、大丈夫! 何も怖くなんてない! 不思議とそう思えた。
「ルチア、行こうか?」
「────はい!」
────こうして、私達は手を取りパーティーへと向かった。
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