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24. 告白
しおりを挟む振り返るとお姉様は笑っていた。
同時にまた、あの嫌な目だわ、とも思った。
でも、私の目には睨んでいるように見えるお姉様の姿も周りには違って見えているのだから不思議。
「ルチア、下がって」
「旦那様?」
旦那様がさり気なく私を後ろに誘導し庇おうとする。
お姉様もその事に気付いたのか、眉がピクリと反応したのが分かった。
「どうしたの? ルチアったら……なんでそんなにつれないの……」
(訳:ルチアなんかのくせに、庇われてるんじゃないわよ!)
「……スティスラド伯爵令嬢」
旦那様がにっこり笑顔でお姉様に訊ねる。
声をかけられたお姉様は満更でもない笑顔で微笑み返した。
「な、何かしら?」
「殿下への挨拶はお済みですか?」
「…………っ!」
旦那様のその問いかけにお姉様が一瞬たじろいだ。
お姉様のこの反応はどういう事かしらと思って、陛下や殿下の方を見ると挨拶の列は子爵家や男爵家の面々に移っていた。
……つまり、お姉様がここにいるという事は……スティスラド伯爵家の挨拶は終わっている。
なので、お姉様は念願の対面を果たした…………はずだった。
「そ、それが何かしら?」
「いえ…………ただ、随分と挨拶が早く終わったのだなと思っただけですよ」
「なっ……」
旦那様は笑顔を崩さずにそう言った。
一方のお姉様は少し様子が変。
「殿下は気さくな方なので、どうでもいい人以外には、長々と話をしてしまう癖がありましてね、中々、挨拶が進まないという難点があって…………ほら、あのように」
「……え?」
そう言った旦那様が殿下の方に向けて指を指す。
釣られて視線を向けると、殿下はちょうど今、挨拶をしている最中の令嬢と楽しそうに談笑している所だった。
もしかして、旦那様はわざとお姉様を煽った?
挨拶が早く終わった……つまり。
“どうやら、あなたは殿下とは談笑するほどの会話も無かったようですね”
───と。
…………バキッ
旦那様の発言に内心でヒヤヒヤしていたら、お姉様の方からとんでもない音が聞こえて来たので、慌てて視線を戻すとお姉様が手にしていた扇が折れていた。
「……ふざっ……! あ、あら? 嫌ですわ? どうしてこんな……ふ、不良品だったのかしらね、ふふ……」
お姉様は一生懸命取り繕って誤魔化そうとしているけれど、動揺しているのは明らかだった。
……今、“ふざけるな”って言いかけていた気がするわ。
だけど、これでお姉様が絡んで来た意味が分かった。
挨拶で全く殿下に相手にされなかったからその鬱憤を晴らしに来た──もしくは、殿下と談笑した(と思われる)私に嫌味を言いに来た───……
「……」
伯爵家にいた頃は、お姉様の発言も行動も何もかもが怖いと思っていたのに。
だけど、こうして一歩引いて冷静になって見る事が出来るようになったなら、ただの滑稽な人なのだと分かる。
私、これまで何に脅えていたのかしら……?
「ああ、次の令嬢とも楽しそうに話しているな」
「…………っっ!!」
旦那様はどんどんお姉様を煽っていく。
お姉様のプライドは今、ズタズタにされている。
特に今、殿下と挨拶をしているのは、自分よりも身分の低い令嬢ばかり。
怒りださないように頑張って耐えているように見えるけれど、心の中ではこう思っているに違いない。
───どうして、ルチアなんかと! どうして私より美しくも何ともない身分の低い令嬢なんかと楽しそうに話をしているの! だ。
「……ふふ、嫌ですわ。殿下はきっとこの私の美しさに驚き照れてしまって……」
「殿下は、今日のパーティーでは、照れている場合ではないので気になった令嬢とはどんどん話をすると言っていたが?」
「……~~っっ!」
旦那様はどんどんお姉様の言葉を潰していく。
その度にお姉様の顔からは余裕が消えていき、代わりにどんどん怖い顔になっていく。
これまでお姉様に夢と幻想を抱いていた男性達にもぜひ、この顔を見せてあげたいわ。
……それにしても、旦那様はいいの?
かつて求婚までしようとしたお姉様をこんな風に追い詰める事は苦痛では無いのかしら?
私は旦那様の気持ちだけが心配だった。
「……ルチア」
「え? 旦那様……?」
旦那様が優しく私の名前を呼んだと思ったら、そっと腰に腕を回して抱き寄せる。
密着度が増したので、私は嬉しくてドキドキしてしまう。
そんな私達の様子を見たお姉様が、ギリッと唇を噛むと若干引き攣った笑顔で言った。
「……ず、随分と仲睦まじいのですわね? こ、この間の話は、お忘れですの?」
「この間の話……?」
「は、話したではありませんか! 可愛い妹の本性を! なのに離縁もせずに今もまだ……! ……私はせっかくルチアの為に新しい相手だってお父様にお願いを───」
───離縁? 新しい相手をお父様にお願い?
「お姉様! 何を勝手な事を!」
「どういうつもりだ!?」
私と旦那様が怒鳴るのは同時だった。
新しい相手……ですって?
「な、何でそんなに怒るのです? ルチアなんて……間違ってやって来たからいやいや娶るはめになっただけの妻でしょう!?」
「……お姉様っ!」
「ふふ、ルチアだって分かってるくせに……ユリウス様が本当は誰を好きで求婚したのか」
「……それ、は……」
私が顔色を変えたのがお姉様にはとても嬉しかったらしく、とっても歪んだ笑みを浮かべた。
「いいこと? ルチア。彼が好きなのは……」
「───ルチアだ!」
「そうよ! ルチアではなくこのわ・た…………ん?」
お姉様があれ? という顔をして首を傾げた。
そして、旦那様と私の方を見る。
旦那様は腰に回した手に再度力を込めて会場中に響き渡るほどの大声で叫んだ。
「俺が好きなのは、心から愛してるのは今、この腕の中にいる“ルチア”だ! そしてスティスラド伯爵家令嬢リデル…………俺はこれまで一度だってお前の事を好きだった事も愛した事も無い!」
───と。
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