【完結】美人な姉と間違って求婚されまして ~望まれない花嫁が愛されて幸せになるまで~

Rohdea

文字の大きさ
29 / 36

28. お姉様は認めない

しおりを挟む


「お、お父様、お母様、お兄様!  そ、そこにいるなら、ルチアなんかに構っていないで私を助けなさいよ!!」

  ちょうど向こうからお姉様のそんな声が聞こえて来た。
  こんな時でもお姉様は上から目線なのだな、と驚く。

「リ、リデル……」

  お父様が情けない声を出す。そしてやっぱり足は動かさない。
  ……その時思った。
  あぁ、この人の……いえ、スティスラド伯爵家の人間この人達の“愛情”ってこんなに薄っぺらいものだったのね、と。
  旦那様が私にくれる愛情を知った今では、そのペラッペラな薄さが余計に際立つ。
  そう思った私は旦那様に感謝を伝えたくなった。

「旦那様……私、旦那様と出会えて良かったです」
「ルチア……」

  私を抱きしめる旦那様の腕にグッと力が入った。

「初めは“間違い”だったのかもしれません。でも今は思います。間違えてくれてよかった、と。そういう意味ではお姉様に感謝しなくてはいけないかもしれませんね」

  私が笑顔でそう言ったら、旦那様は苦笑した。
  
「なら、俺はろくに調べる時間を与えてくれなかった殿下に感謝するべき……かな?」
「そうですね」

  もし、お姉様がユリウス様に私の名前を騙らなければ。
  もし、求婚前にユリウス様が“ルチア・スティスラド伯爵令嬢”の事をきちんと調べていたら。
  私達は出会っておらず、私はこんなにも優しい愛を知らずに今も孤独に……いいえ、ユリウス様では無い別の人の所に嫁がされていたかもしれない。

  (もう、あなた以外は絶対に嫌……)

「旦那様……」
「ルチア」

  旦那様の背中に腕を回してギュッとお互い強く抱きしめ合うけど、そんな時間は長くは続かない。お姉様の怒鳴り声が聞こえてきた。

「ルチア!  この私がこんなにも酷い辱めを受けているというのに、私の目の前で何してんのよ!  ふざけんじゃないわよ!」
「お姉様……」
「殿下もよ……!  この私が醜いだなんて!  どこに目をつけてるのよ!」

  遂にお姉様は殿下にまで暴言を吐き出す。
 
「そんなんで将来この国を……」
「や、やめろ!  リデル……!  それ以上は口にするな!」
「いいえ!  わたしを醜いなんて言う殿下の目はどう考えても節穴だもの!」
「……」

  焦ったお父様がお姉様の発言を止めようとするけれど、もう遅い。
  お姉様の吐いた暴言はしっかり殿下も耳にした。
  呆れてしまったのか、もう口を聞く価値も無いと思ったのか、特に言葉を発する様子は無いけれど、冷めた目でお姉様の事を見ていた。

「終わった……我が家は終わりだ……」
「どいつもこいつも……何なのよ……!」

  項垂れるお父様を無視して、完全に被っていた猫が逃げ出し、本性が顕になったお姉様が怒鳴り散らしている。
  殿下が口にされたように今のお姉様はとっても醜い。
  ううん、本当はずっと醜かったのだと思う。ただ、誰もが騙されていただけ。

「……お姉様はどうして今、自分がこんな状況になっているのか分かっていないのですか?」
「は?」
「何かある度に、私をこきおろしては蔑む……お姉様は何をしたかったのですか?」

  親の愛情を妹に取られるのが嫌……
  お姉様が私にしてきた事はもうその域をとっくに超えている。

  狭い世界にいた時は気付けなかった。これが当たり前だと思っていた。
  でも違う。
  公爵家で生活するようになって私は“愛”を知った。
  私のいた世界は当たり前なんかじゃなく異様な世界だった。

「何かあれば必ず私を盾にして悪者にしたてあげ、したくもない格好と化粧をさせられて……時にはお姉様の引き立て役として連れ歩く……どうしてこんな事ばかり!」
「……」

  お姉様は答えない。
  こういう所はお兄様とそっくり!

「……ルチアの美しさを妬んだのか?」
「……!」

  旦那様の質問にピクッと身体が反応するお姉様。

「さっきから聞いていれば、君の発言は“自分は美しい”そればかりだ。王太子妃にもその美貌だけでなれる、とも言っていたな」
「……私が美しいのは事実ですもの。実際、私の美貌に負けたと思って、お妃候補から身を引いた令嬢も多かったもの」
「見た目だけはな。だが、ルチアはお前とは違う。それを一番分かっているのは自分自身なのではないのか?」
「……ふっ!  冗談はやめてくださいな、ユリウス様」

  ふふ、とお姉様は笑いだした。
  
「ルチアが美しい?  どこがですの?  この子は昔から可愛さもなく……」
「そうやってお前は、何度も何度もねちっこくルチアに自己暗示をかけさせたのか」
「…………何ですって?」

  旦那様の言葉にまたしてもピクッと反応するお姉様。

「今のお前の姿がとても、醜いと感じるように、内面からの美しさというものはあるからな。お前は、それを感じ取り、わざとルチアからずっとそれを奪い続けて来たんだ。そのせいで自信を奪われたルチアが本来持つ美しさは、お前の影に隠れるようになった……そんな所だろう?」

  ──あぁ、そっか。
  私はいつもお姉様の言葉をそのまま受け止めて自分を否定して来た。
  “私は愛されない” “私は可愛くない”  
  そんな後ろ向きでいる私が誰かに美しいと思われるはずなんてなかった───

「ま、まあ!  ……ど、どうして私がそんな事を?  人聞きの悪い……ルチアは私にとっては可愛い妹よ?」

  ここまで言われても、お姉様は自分のした事を認めようとはしない。

「滑稽だな。今のルチアをよく見てみろ。公爵家我が家の指輪をはめて、俺の色の装飾品を纏って輝いているルチアを」
「……!」

  お姉様の顔が醜く歪んだ。

「お前のように、いかにも金をかけましたと言わんばかりのゴテゴテのドレスや装飾品が無くてもルチアはこんなにも綺麗だろう?  何故、それを認めようとしない?」
「……」
「リデル……お前がそこまでしてルチアを陥れる理由は……」

  旦那様がそこまで言いかけた時だった。
 
「…………リデルは確かに子供の頃から可愛くて綺麗で将来は国一番の美人になるとチヤホヤされてきた」

  この声は……!
  後ろから聞こえて来た声に私は慌てて振り返る。

「お兄様……?」

  まさか、ここでお兄様が喋るなんて……!
  けれど、俯いたままボソボソ喋るお兄様の表情はよく見えない。

「リデルは性格も甘え上手だったから、父上も母上も俺も……周囲の誰もがリデルをそう言って甘やかした。そして実際、リデルは美しく成長した」
「……」

  それを聞くと思う。お姉様は、本当に挫折する事が無かったんだわ。

「一方、ルチアは目立たず大人しかった。リデルのように笑って甘えてくる事も……ない。しかもリデルに迷惑ばかりかける厄介者……ルチアが美しいなんて考えた事も無かった」

  ……そうね。
  これがスティスラド伯爵家の人達の私への評価。

「ルチア……」

  旦那様が心配そうな目で私を見る。
  でも、私は大丈夫です、という意味を込めて微笑んだ。
  今更、家族だったこんな人達にどう思われようとも傷ついたりはしない。

「華のように明るく美しいリデルと、何を考えているのか分からない影に隠れた妹……」

  お兄様が一旦そこで言葉を切る。

「だが、一度だけそんなリデルにとって、許せない事が起きた……もしかしたらリデルのルチアへの当たりはそれから更にキツくなった……のかもしれない」
「……っっ!  お、お兄様!やめてよ!  よ、余計な事は言わないで!」

  ハッと顔色を変えたお姉様が慌ててお兄様の口を塞ごうとした。

しおりを挟む
感想 313

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!

ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。 相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。 結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。 現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう… その時に前世の記憶を取り戻すのだった… 「悪役令嬢の兄の婚約者って…」 なんとも微妙なポジション。 しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。

完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!

仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。 ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。 理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。 ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。 マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。 自室にて、過去の母の言葉を思い出す。 マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を… しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。 そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。 ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。 マリアは父親に願い出る。 家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが……… この話はフィクションです。 名前等は実際のものとなんら関係はありません。

(完結)妹の婚約者である醜草騎士を押し付けられました。

ちゃむふー
恋愛
この国の全ての女性を虜にする程の美貌を備えた『華の騎士』との愛称を持つ、 アイロワニー伯爵令息のラウル様に一目惚れした私の妹ジュリーは両親に頼み込み、ラウル様の婚約者となった。 しかしその後程なくして、何者かに狙われた皇子を護り、ラウル様が大怪我をおってしまった。 一命は取り留めたものの顔に傷を受けてしまい、その上武器に毒を塗っていたのか、顔の半分が変色してしまい、大きな傷跡が残ってしまった。 今まで華の騎士とラウル様を讃えていた女性達も掌を返したようにラウル様を悪く言った。 "醜草の騎士"と…。 その女性の中には、婚約者であるはずの妹も含まれていた…。 そして妹は言うのだった。 「やっぱりあんな醜い恐ろしい奴の元へ嫁ぐのは嫌よ!代わりにお姉様が嫁げば良いわ!!」 ※醜草とは、華との対照に使った言葉であり深い意味はありません。 ※ご都合主義、あるかもしれません。 ※ゆるふわ設定、お許しください。

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

姉と妹の常識のなさは父親譲りのようですが、似てない私は養子先で運命の人と再会できました

珠宮さくら
恋愛
スヴェーア国の子爵家の次女として生まれたシーラ・ヘイデンスタムは、母親の姉と同じ髪色をしていたことで、母親に何かと昔のことや隣国のことを話して聞かせてくれていた。 そんな最愛の母親の死後、シーラは父親に疎まれ、姉と妹から散々な目に合わされることになり、婚約者にすら誤解されて婚約を破棄することになって、居場所がなくなったシーラを助けてくれたのは、伯母のエルヴィーラだった。 同じ髪色をしている伯母夫妻の養子となってからのシーラは、姉と妹以上に実の父親がどんなに非常識だったかを知ることになるとは思いもしなかった。

厄介払いされてしまいました

たくわん
恋愛
侯爵家の次女エリアーナは、美人の姉ロザリンドと比べられ続け、十八年間冷遇されてきた。 十八歳の誕生日、父から告げられたのは「辺境の老伯爵に嫁げ」という厄介払いの命令。 しかし、絶望しながらも辺境へ向かったエリアーナを待っていたのは――。

【完結】アッシュフォード男爵夫人-愛されなかった令嬢は妹の代わりに辺境へ嫁ぐ-

七瀬菜々
恋愛
 ブランチェット伯爵家はずっと昔から、体の弱い末の娘ベアトリーチェを中心に回っている。   両親も使用人も、ベアトリーチェを何よりも優先する。そしてその次は跡取りの兄。中間子のアイシャは両親に気遣われることなく生きてきた。  もちろん、冷遇されていたわけではない。衣食住に困ることはなかったし、必要な教育も受けさせてもらえた。  ただずっと、両親の1番にはなれなかったというだけ。  ---愛されていないわけじゃない。  アイシャはずっと、自分にそう言い聞かせながら真面目に生きてきた。  しかし、その願いが届くことはなかった。  アイシャはある日突然、病弱なベアトリーチェの代わりに、『戦場の悪魔』の異名を持つ男爵の元へ嫁ぐことを命じられたのだ。  かの男は血も涙もない冷酷な男と噂の人物。  アイシャだってそんな男の元に嫁ぎたくないのに、両親は『ベアトリーチェがかわいそうだから』という理由だけでこの縁談をアイシャに押し付けてきた。 ーーーああ。やはり私は一番にはなれないのね。  アイシャはとうとう絶望した。どれだけ願っても、両親の一番は手に入ることなどないのだと、思い知ったから。  結局、アイシャは傷心のまま辺境へと向かった。  望まれないし、望まない結婚。アイシャはこのまま、誰かの一番になることもなく一生を終えるのだと思っていたのだが………? ※全部で3部です。話の進みはゆっくりとしていますが、最後までお付き合いくださると嬉しいです。    ※色々と、設定はふわっとしてますのでお気をつけください。 ※作者はザマァを描くのが苦手なので、ザマァ要素は薄いです。  

ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。

光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。 昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。 逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。 でも、私は不幸じゃなかった。 私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。 彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。 私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー 例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。 「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」 「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」 夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。 カインも結局、私を裏切るのね。 エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。 それなら、もういいわ。全部、要らない。 絶対に許さないわ。 私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー! 覚悟していてね? 私は、絶対に貴方達を許さないから。 「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。 私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。 ざまぁみろ」 不定期更新。 この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

処理中です...