【完結】美人な姉と間違って求婚されまして ~望まれない花嫁が愛されて幸せになるまで~

Rohdea

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29. お兄様の語る過去

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「お兄様……やめてよ!」

  お姉様はお兄様の元に駆け出してそれ以上語らせないようにと口を塞ごうとした。
  だけど……

「きゃっ……痛っ!」
「それは大変、興味深そうな話だな。是非とも聞かせてもらいたい」
「で、殿下!?  ……は、離して……離してください!」

  王太子殿下がお姉様の腕を掴んで止めてしまう。
  お兄様の口を塞げなかったお姉様が絶望の表情を浮かべた。

「……すまないが、この場にいる皆には、もう少しこのまま話を聞いていてもらおうか」

  パーティー参加者は明らかに困惑していたけれど、王太子殿下にそう言われて嫌ですとは誰も言えない。

「い、嫌!  は、離して……ください!」

  それでも唯一、お姉様だけは嫌です、と口にした。
  だけど、殿下はもちろん許さなかった。

「これまで、身勝手に天使を散々傷付けておいて、おいそれと許されると思うな!  スティスラド伯爵令嬢!」
「……え、て、ん?」

  ───ん?
  気のせいかしら?  今……?

「───コホッ……というわけで、いいから話を続けろ。スティスラド伯爵令息、カイリ!」
「……はい」

  殿下に促されたお兄様は顔を俯けたまま続きを語ろうとする。
  お姉様は、それでも必死にやめて、余計な事を言わないで!  と喚いている。

「……俺には歳も同じで領地も隣同士の仲の良い幼馴染の男がいました。家族ぐるみで仲が良く、彼はよく我が家にも遊びに来ていたのですが」
「……やっぱり……!  お兄様……やめてぇ……」

  淡々と続きを語り出すお兄様と、何を言われるのか確信したのか取り乱すお姉様。

「……ルチア、そうなの?」
「うーん……」

  旦那様に聞かれて、そんな人いたかしら?  と、考えて記憶の糸を辿るも、ぼんやりとしか思い出せない。
  確かに子供の頃によく遊びに来ていた人はいた気がする。でも、私には関係がなかった。
  だから、その人が何か?  そんな思いしかない。
  なので黙ってお兄様の話の続きを聞く事にした。

「…………よくある話です。リデルはそいつに恋心を抱いていました」
「~~お兄様!!」
「よく遊んでくれる年上の兄のような存在に憧れる事は何も別に珍しい話でもありません。リデルはとてもそいつに懐いていて、そいつもリデルの事を可愛がっていました……ただ……」
  
  そこでお兄様は一旦言葉を切る。
  そして、少し言いにくそうに続きを口にした。

「ある日、そいつは俺に言いました───」



─────……


『なぁ、カイリ。今日、久しぶりにルチアちゃんを見かけたぞ』
『ルチアを?』

  ルチアはあまり部屋から出て来ないのに珍しいな、と思った。
  そんな俺の気も知らずに彼はどことなく嬉しそうにペラペラと喋り続ける。

『俺、あの子は将来すっごい美人になると思うんだ』
『は?  ルチアがか?』
『そうだよ!  え……お前、いつも何を見てんの?』
『……何って』

  言葉に詰まってしまう。
  ルチアに対して興味が無い……とは言えない。
  だって俺にとってのルチアは本当に大人しくて、気付くとその辺にポツンといるな……くらいの存在でしかない。
  何かと『お兄様~!』と可愛く甘えてくるリデルとは大違いだ。

『美人になる……と言うなら、リデルの方だろ?』

  俺の言葉にそいつは、うーんと悩んだ顔をする。

『リデルちゃん?  あぁ……まあ、あの子もの美人にはなるとは思うけど、ルチアちゃんの方が絶対、美人で可愛くなると思う』
『……そうか?』

  正直、その言葉には半信半疑だった。

『そうだって!  何で分からないかなぁ。兄妹ってそんなものなのか?  ……そうそう!  だから俺、スティスラド伯爵家と縁組するなら相手はルチアちゃんがいいなと思ってる。父上に話してみようかなぁ』
『は?  本気か?』
『ああ!』

  リデルではなくルチアがいい?
  あんなに可愛く甘えてくるリデルより、ルチアがいいなんて。
  こいつの女性の趣味はよく分からないな……そう思った。
 

────……


「その時の俺は何も知りませんでした。この何気ない会話をリデルが立ち聞きしていた事も、リデルがそいつに恋心を抱いていた事も……」

  お兄様の語った話に驚いた。
  ───知らない。そんな話、私は一切知らない。
  要するに、お姉様が昔好きだった人が、私の方がいい。将来はお姉様より美人で可愛くなると口にした……
  そしてお姉様がそれを耳にしてしまって?

  (それがお姉様が私を執拗に追い詰める……理由?)

「…………俺のルチアに求婚……だと?」
「……だっ!?」

  ぐるぐる考えていたら、旦那様の低く呟いた声が聞こえて来てびっくりした。
  私は小声で旦那様を諌める。
 
「お、落ち着いてください。子供の頃の話ですよ?  ……そ、それに求婚された記憶はありませんので!」
「……そう、なのか?」
「はい。少なくとも私は何も聞いていません。それに私の中では名前も顔も誰?  といった感じでして……」

  その彼は結局、婚約を申し出なかったのか、それともお姉様が何かしたのか───……
  詳しくは分からないけれど、ただ、お兄様は過去形で話しているので、今はもう何らかの理由でその人との交流は無いのだと思う。

「……それなら、いいが………………面白くない」
「旦那様……?」

  これは、ヤキモチ?  もしかしてヤキモチなの?
  こんな時だというのにその事に嬉しくなってしまい、思わず頬が緩んだ。
  すると、旦那様がますます不貞腐れた顔をしながら、そっと私の頬に触れる。

「…………ルチア、なぜそんな可愛い顔で笑うんだ?  ま、まさか……その男の存在が嬉……」
「決まってますよ、旦那様が……ヤキモチを妬いてくれたからです!」
「!」

  私が満面の笑みで答えたら、旦那様がうっ……と恥ずかしそうに照れた。

「ヤキモチ……」
「あ、もしかして違いましたか?」

  私の早とちりだったのかしら?  とシュンっと落ち込むと旦那様が慌てて否定した。

「いや!  …………ヤキモチだ!」
「旦那様……」
「は、初めての感情に戸惑っただけだ!」
「……は、初めて?」
「あ、ああ。何だかどす黒い気持ちだ……」
「……」

  どうしよう!  やっぱり、とっても嬉しい。

「旦那様……嬉しいです」
「……ルチア」

  ふふふ、と、私達が見つめ合って笑っていたら、咳払いと共に王太子殿下の声が聞こえた。

「…………コホン、そこのイチャイチャ新婚夫婦。頼むから、それは家でやってくれ…………カイリに続きを語ってもらうのだが良いか?」
「「!」」

  その言葉に、すっかり二人の世界に入ろうとしていた私達はハッとする。
  王太子殿下はどこか呆れたような……いえ、どことなく羨ましげな目で私達を見ていて、そんな殿下に未だに腕を掴まれているお姉様は半泣きで私を睨んでいた。
  その口が「ルチアのくせに……」と動いていた。

 
  そして、気を取り直して、お兄様の話の続きを聞く。
  そんなお兄様、やっぱり表情は見えない。けれど、どこか顔色が悪いような気がする。
  気のせいかしら?  声もさっきより震えて──……まるで、この先は語りたくない……そんな様子にも思えた。

「……──そ、その日の夜、の事でした……」
「嫌っっ!  お兄様ーー!  もう、いいでしょう!?   これ以上は……」

  お姉様がさっきより顔を青くしてお兄様を必死に静止しようとする。
  それでもお兄様は口を開いた。それも、どことなく辛そうな声で。

「……ルチアが…………原因不明の腹痛で倒れたのは」

  しんっ……とした会場内にはお姉様の「やめてぇぇー」という声だけが響いていた。
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