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34. 私が欲しかったもの
しおりを挟むそして、翌日。
何故、旦那様が昨夜、私が本日出かける予定が無いのかを確認していた理由がようやく分かった。
午前中に来客があり、しかも、私に用事だと言う。
なぜ、私に?
そう思いながら訪問者を出迎えた。
「……噂の通り、本当に綺麗な奥様ですね」
「そうだろう、そうだろう! 俺のルチアは誰よりも可愛らしくて綺麗なんだ」
「はい、これは……てっきり、トゥマサール公爵令息殿の欲目と思っていましたが……うん」
「今のままでも美しいが、どうせなら誰もが見惚れるくらいで頼みたい!」
「承知しました!」
来客者と旦那様のこの恥ずかしい会話は何!?
と、思っていたら、私はそのまま別室に連れられて……
「……本当に奥様はキラキラしていて眩しいですね」
「え? あの?」
そう言って私の服を脱がし、身体のサイズを測っていく来客の女性。
「トゥマサール家のユリウス様が、最近、花嫁を迎えてその奥様にメロメロだという噂は私共の耳にも届いておりましたが……」
「え! う、噂?」
メロメロですって!?
「想像以上の嫁大好き夫が誕生していましたねぇ」
「よ、嫁大好き夫……」
「下手なものを用意してしまったら、私の首が飛びそうです」
その女性は困るわ……と笑う。
それよりも、あなたは誰? 私は戸惑いの表情を浮かべた。
「あら? ……奥様、もしかして私が何者かご存知ない?」
「は、はい……なぜ、私は身体のサイズを測られているのでしょう?」
部屋の隅に控えているメイド達が誰も止めないので、これは問題のない行為なのは分かるけれど!
私がおそるおそる聞き返すと、その女性はにっこり笑って言った。
「私はデザイナーですよ。トゥマサール公爵家のユリウス様より奥様のドレスの依頼がありまして。本日は奥様の採寸をしにやって来ました」
「デ、デザイナー? ド、ドレス!?」
「あれ? 聞いていない?」
「は、はい……今日は来客がある、とだけ……」
私がそう答えると、デザイナーさんはフッと笑った。
「可愛い奥様を驚かせたかったのかもしれないですね」
「……!」
「お金は気にしなくていいから、奥様の好みを出来るだけ取り入れ、かつ、必ず誰もが振り返るほど素晴らしく、そして奥様に最も似合うデザインを……と熱い要望を伺っております」
「え!」
まだ、あまり物事をよく知らない私でも何となく分かるわ。
かなりの無茶を言っている!
「そういうわけで、今日は奥様のお好みのデザインもお聞きしたいのですが」
「私の好み……」
私の好み? 私の為のドレス?
本当に好きな事を言っていいの?
『あ……のね、私も、お姉様みたいなドレス……欲しい』
あの日、“我儘”だと一蹴されてしまった幼い私が勇気を振り絞って口にしたお願い。
たった一着。自分の為だけに選んでもらったドレスが欲しかった。
私には手に入らないものだと諦めていたのに────
「奥様は何でも似合いそうですけどね、何かコレ! と言うのはありますか?」
「……あ」
「何でもいいですよ、まずは好きに仰ってください」
「…………フ、フリフリ」
口にしてしまってから大丈夫だったかしら、と思う。
似合わないから無理、とか子供っぽいとか言われてしまう?
私はドキドキしながらデザイナーさんの返答を待った。
「まあ! 奥様は可愛らしいのがお好みなのですね!」
「え……は、はい!」
「なるほど、なるほど……それでは甘め路線で、かつ、清楚に……うん、腕がなりますね!」
デザイナーさんは私の事をバカにする事も無く、頷きながらシャッシャッと手元の紙に何かを描いていく。
「……」
───好きなものを好き、と口にしてもバカになんてされない。
優しいのは旦那様や公爵家の人達だけじゃない。
私が知らなかっただけで優しい人はこの世界にいっぱいいるのだと実感し胸が温かくなった。
「……あ、それから奥様、こちらの依頼も承っておりますよ」
「はい?」
「愛されていますね」
笑顔のデザイナーさんにそう言われて渡された別の紙を見て私は「えっ!」と声を上げた。
❋❋❋❋
「……天使がめちゃくちゃ可愛いのに小悪魔みたいな誘惑をしてくるんです」
「天使は悪魔でもあったのか……」
「でも、可愛いんです」
「…………」
殿下に諸々の報告をするついでに、超絶可愛い愛しの妻ルチアの話をしてみたところ、殿下はまたしても苦そうなコーヒーを飲み干していた。
最近の殿下はすっかり、コーヒー推しになったようだ。
「そんなに浮かれているとどうなっても知らないぞ?」
「何がですかね? リデルへの求婚についてはルチアにちゃんと説明させて頂きましたよ!」
「おい! まだ良いとは……」
「……ルチアは、パーティーの時の告白で俺が“リデルの事を好きだった事は無い”という事は理解してくれていましたが、やはりいい気分では無かったでしょうから。俺はルチアに憂い顔をさせたくないんです!」
「……ぐっ……」
求婚の裏にあった事情を伝えた時、ルチアは驚きと共に納得してくれた。
『……お姉様を……あぁ、そういう……』
『ごめん、ルチア』
『……』
ルチアが黙りこんでしまったので、やはり許せないか……と思い、(リデルを愛した事は一度も無いが)これからもルチアだけを愛してると沢山伝えていこうと決意した時、ルチアが顔を上げて言った。
『……お姉様が万が一、旦那様からの求婚を受けていたら……そのまま、お姉様と結婚するつもりでしたか?』
『ルチア?』
責められているのに、ルチアの目の奥から嫉妬を感じてしまって嬉しくなってしまった。
『まさか! 呼び出すのにすぐ婚姻を……と書いただけで、実際は適当な理由で引き伸ばす事になっていたよ』
『そ、そうなんですね…………良かった』
安心したように柔らかく微笑んだルチアは超絶可愛いかった。
だけど、すぐに「ん?」と不思議そうな顔をした。
『……あれ? でもなぜ、それなら私との婚姻誓約書は本当に届けを出したのですか?』
『……っ!』
『既に私がお姉様ではないと分かっていましたし……本来、本物のお姉様がやって来ても結婚する気は無かったのなら……本当は私とも結婚する必要が無かったのでは……? あれ?』
『…………っっ』
『旦那様?』
───天使が可愛い顔で迫ってくる!
『ル、ルチアが……』
…………この後、俺はルチアの事が好きになっていたから、強引に事を進めた……と告白する羽目になった。
俺の告白を聞いたルチアの真っ赤な顔はやっぱり可愛かった!
────
「と、いうわけで! 俺とルチアには何の問題もありません!」
「……お前がそう言うなら良いが………………ほんの少し何かが違っていれば、天使は未来の隣国の王妃だったかもしれないんだぞ……なぜ、気付かん」
「何か言いましたか? 殿下」
最近の殿下は独り言が多いな。
「いいや。最近、“隣国の王子”も結婚したと聞いたからな。私も早く相手を見つけなくては、と思っただけさ」
「あ、あぁ……そうですね」
何でここで隣国の王子の話が? と思ったけれど、殿下は単純に羨ましいのだろう。
スティスラド伯爵家の面々の処分が正式に決定したら、ようやく殿下にとっての邪魔者もいなくなる。
そうなればきっと殿下にも、ルチアのように可愛い花嫁が……いや、ルチア以上に可愛い花嫁は無理だろうが、そこそこの…………うん、頑張って貰おう!
「───それで、ユリウス。スティスラド伯爵家の者達の処分だが──」
「はい」
ついに決まったのか?
奴らにはきっちりルチアにした事の報いを受けてもらいたい。
そう思いながら殿下の言葉の続きを待った。
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