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35. 望まれなかったはずの花嫁の幸せ
その日は、とてもいい天気だった。
「──ルチア、綺麗だ! さすが俺の天使……」
「旦那様?」
支度を終えた私の元に、旦那様がやって来る。
笑顔で出迎えたら、旦那様も嬉しそうに笑う。
「俺の可愛いルチア…………俺の花嫁」
そして、すかさずチュッと軽く唇を奪われた。
「……だ、旦那様!!」
「ははは、一瞬で赤くなったな」
「だ、誰のせいだと思っているのですか!」
私がプンプン怒ってるのに旦那様は笑って軽く受け流してしまう。
「でも、ルチア。この後、人前でもこうしてキスをするんだよ? 大丈夫なの?」
「……うっ!」
「誓いのキスは絶対だからね?」
「わ、分かっています……!」
私は赤くなった頬を押えながらそう答える。
もちろん、分かっているわ!
────今日は私と旦那様……ユリウス様の結婚式。
諸々の騒動を終えて、私がずっと欲しかったドレスを旦那様が贈ってくれると知ったあの日、デザイナーさんに一緒に渡された物は“ウェディングドレスの依頼書”だった。
『こちらも、奥様の好みをふんだんに使用するように、と言いつけられているんですよ』
デザイナーさんは笑顔でそう教えてくれた。
ウェディングドレス……普通のドレスだって夢みたいな事なのに……まさか……
そんな夢のような話を受けて、その日の私は帰宅した旦那様に飛びついた。
旦那様は飛びついて来た私を当然のように受け止めてギュッと抱きしめながら言った。
『もう結婚の届けもとっくに出してるし、世間的には夫婦なんだけど……やっぱり“結婚式”をしたいと思ったんだ』
旦那様は甘く優しく微笑みながらそう言った。
『贈ろうとしているドレスも、ウェディングドレスも全部、全部“ルチア”の為だけのドレスだよ? 受け取ってくれる?』
『……!』
───私の為だけ。
私は上手く声が出せず、とにかく無言でコクコクと頷く事しか出来なかった。
過去の私が家族にされて来た事の話は沢山した。
その中の一つにあった“ドレスが欲しい”とねだったあの話をきっと旦那様は胸に留めてくれていた。だから……
『ルチア、愛してるよ。だから、皆の前でも君への愛をちゃんと誓いたい』
『ユリウス……様』
優しいキスと共に旦那様はそう言ってくれた。
今でもすでにあちらこちらで私達の事は噂になっているらしいのに……
そう思ったけど嬉しかったので黙っておく事にした。
───そうして、無事にドレスは完成し、今日という日を迎えた。
「本当に可愛くて綺麗で……俺の花嫁さんすごい……」
「旦那様は大袈裟だと思います」
「そんな事は無い!」
私達は二人で手を繋いで式場へと向かう。
本来なら式の前に新郎新婦は会わない。
新婦が家族(主に父親)の付き添いで式場に入場してから初めて対面を果たす。
だけど、私には参列する家族は誰もいない。
お父様もお母様もお兄様も…………そして、お姉様も皆、それぞれ処分を受けた。
結局、伯爵家はお取り潰し。
あの人達は貴族からただの平民となった。
そして、平民となった上で両親二人は私への育児放棄とも取れる姿勢が問題視されてそれぞれ刑務所へ。
貴族用の刑務所ではなく平民向け。
この二つには大きな差があると聞いた。
お兄様は刑務所にこそ入らなかったものの貴族籍は取り上げられ一平民として生きる事になった。
貴族の嫡男としてぬくぬく育ってきたお兄様にとっては、自分の力で住むところを探すのも、仕事を探すのもかなり大変だと聞いた。
今、どうしているかは知らない。
そして、お姉様──……
お姉様は、パーティーでの王太子殿下への暴言……と、殿下の婚約者候補の令嬢達を辞退させまくっていたという事実が大きく問題視された。
加えて人々を惑わしての私への加虐。
罪という罪が多すぎたので、当然野放しには出来ない。
結果として、一生外に出ることが叶わない最果ての地への牢獄送りとなっていた。
話によると死んだ方がマシと言いたくなるくらいの極悪環境なのだという……
処分が発表された時、お姉様は悲鳴をあげて卒倒したと聞いた。
そんなこんなで、家族が誰も居なくなってしまった私の為に、旦那様が式場に掛け合ってくれて、例外として新郎新婦並んで入場という形にしてくれた。
『……何故か王太子殿下が、俺が天使の父親役をやる! とか言い出し始めたので止めるのが大変だった……』
なんて旦那様は疲れた様子で言っていたけれど……王太子殿下はおちゃめな人だわ、と思った。
そんな殿下にも早く素敵な人が見つかる事を願っているのだけど……
コーヒーばかり飲んでいて話を聞いてくれない……と旦那様は言う。
「旦那様、私はあなたと入場出来て幸せです」
「ルチア……」
「……実家の没落で私には何の後ろ盾がありません。まぁ、もともとあって無かったようなものですけど……それでも……」
旦那様が優しく私を抱きしめる。
「俺はルチアがルチアらしく俺の隣にいてくれればそれでいい」
「……旦那様」
「君の笑顔が好きだ、あんな環境でも真っ直ぐ生きてきたその強さが好きだ、ちょっと小悪魔な所も、全部全部大好きだ」
「私も……大好きです!」
私が笑顔でそう答えたら、旦那様が抱きしめていた腕を解いて私を横抱きにした。
「……えっ!?」
「この方がルチアとの距離が近い。このまま入場しよう?」
「だ、旦那様……」
落ちないようにと、私が旦那様の首に腕を回すと嬉しそうに微笑んでくれた。
こうして、前代未聞の型破りな式場への入場を果たした私達の結婚式は、後に“天使がお姫様抱っこで運ばれて来た”と言って大きな話題になったという。
❋❋❋❋
「ルルルルルチアさん!」
「は、はい!」
そして、式の夜。
私と旦那様はベッドの上で何故か正座をして膝を突き合わせていた。
「君に質問です」
「はい!」
「こ、今夜の君のそのガウンの下は、フリフリですか? それともスケスケですか?」
「え! えっと……」
なんでそんな質問? と思ったけれど旦那様の顔は大真面目。
これはかなり大事な問題なのだと思われた。
「えっと……」
「……」
「りょ、両方です! フリフリしていてスケスケもしています!」
「りょっ……!?」
旦那様が両手で自分の顔を覆いながらベッドに倒れ込む。
「……まさか、今夜はそんな合わせ技だったなんて……危なかった、聞いていてよかった……」
「だ、旦那様……? 大丈夫ですか?」
「……ルチア……」
「きゃっ!?」
急に倒れ込んだので心配になり顔を覗き込もうとしたら、そのまま腕を取られて引っ張られ、私もベッドに倒れ込む。
「……」
「……」
そのまま旦那様の顔が近づいて来て、チュッと唇を重ねる。
「ルチア……今夜は、今夜こそは俺と……」
「……は、はい……」
旦那様の手がそっと私のガウンの紐を緩めた。
────……
これまで、ずっとずっと家族からいない者として扱われていた私。
美しいお姉様の陰に隠れて目立たなかった私。
ある日、そんな美しいお姉様と間違って求婚されて何も知らずに嫁いでみたら……
思いがけない旦那様からの愛情と幸せたっぷりな生活が私を待っていました───!
~完~
✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼
ありがとうございました!
これで、完結です。
ここまでお読みくださりありがとうございました!
しかし、また短編詐欺みたいになりました。すみません……
こんなに多くの人にお気に入り登録までして読んで貰えたのは、“無能な姫”以来ですかね?
ありがとうございます。
普段、どのランキングも見ていないのでコメントで教えて貰って知りましたが、どうやらHOTの1位になった時もあったそうで……!
とっても嬉しいです。
個人的にはお気に入り登録の『7777』が見たくて、あと一つってなった時は張り付いて画面を見ていました。昼間は仕事で見れないので、夜のタイミングで良かったです!
最後までルチアとユリウスを応援してくれてありがとうございました。
初夜が無事に出来たかは、皆様のご想像にお任せします!
鼻血アゲインでも悲願達成でもお好きなように……
王太子殿下の妃の事とか、幼馴染……大丈夫?
とか広げようと思えばもう少し話は広げられたかもしれませんが、元々短編のつもりで始めた話であり、既に長くなってしまっていますし、何より私は飽きっぽいのでダラダラ続けるのは性にあいません。
ルチアも幸せになってくれましたので、この辺りで。
それから、返信途絶えてしまったのに多くの感想コメントもありがとうございました!
全て楽しく読ませて頂いております。私の毎日の励みでした。
至らない面も多い私ですが、この話を最後まで楽しんで貰えていたなら嬉しいです。
また、最後までお読みくださった方に心より感謝を申し上げます!
最後に……新作も開始しています。
ご興味があれば、またお付き合い頂けたら嬉しいです。
『やり直しの人生、今度は王子様の婚約者にはならない……はずでした』
ありがとうございました~!
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