【完結】記念日当日、婚約者に可愛くて病弱な義妹の方が大切だと告げられましたので

Rohdea

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18. ダブルデート(ベビー付き)~近付く?距離~

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 二人の姿が見えなくなったのとほぼ同時に私は茂みから飛び出した。

「───ジョシュアくん!」
「あうあ!」
  
 ニパッ!
 振り返ったジョシュアくんは満面の笑み。

「あうあ!  あうあ!」
「───お姉さん、やったです!  じゃないわよぉ……」

 ジョシュアくんの元にヨロヨロと近付いた私は、ギュッと抱きしめる。
 楽しそうにキャッキャと笑うジョシュアくん。

「もう!  いくら自分が可愛いと分かっているからって、なんて無茶なことを……!」
「あうあ!」
「──僕の可愛さには皆メロメロでイチコロです?  確かにそうだったけど!!」

 最初から可愛いを連呼していたステイシーはともかく、怒ってたジェローム様が文句の一つも言えなくなるくらい今回ジョシュアくんの圧勝だった。

(しかも、満面の笑みでカス男って……)

 暴言吐かれているのに可愛いとか言っているジェローム様の間抜けさよ……

「あうあ!  あうあ!」
「え?  お祖母様がいつも言うです?  それって、ガーネット様よね?」
「あうあ!!」

 ニパッ!  と笑ったジョシュアくんは、エッヘンと胸を張った。

 ────使えるものはなんでも使え、ですっ!

「あーー…………そ、それで、あなたの最大の武器───可愛いを使ったの?」
「あうあ!」

 ニパッ!

(な、なんて恐ろしいベビーなの……)

 自分のことが話題に出ていたのを利用して、無邪気なベビーのフリをし笑顔で土を投げつける……
 きっと“それ”を選択したのも、その前に服が汚れちゃう……と二人が話していたから。
 そして、ジェローム様が激怒することも計算して、笑顔の可愛さで押し切る……

(ベビーのすることじゃない……!)

 これがギルモア家の……
 いいえ、ガーネット様の教え!
 私の頭の中にガーネット様の美しいオーホッホッホ!  と高笑いが響く。

「あうあ!」
「……もう!  でも、あなたは最っっ高に小さな騎士ナイトだわ?  ……ありがとう」
「あうあ~!」

 もう一度、ギュッと抱きしめるとジョシュアくんはニパッと笑って手足をパタパタさせる。

(この子、将来どんな子に育つのかしら───……)

 ニパッ、ニパッ!  と人懐っこい笑顔と愛想を振りまいては、老若男女問わず周りをどんどん魅了するとんでもない子になりそう……

「あうあ!」
「え?  わたくしに何かあったら愉快なお兄さんが悲しむです?  だから代わりに守りました?  僕はお兄さんが大好きですから───愉快なお兄さん……?」
「あうあ!」
「えっと、ジョシュアくん。それって誰のこ……」

 聞き返そうとしたその時、背後からバタバタと足音が近づいて来る。

「いたわ!  ────ジョシュア!  レティーシャさん!」
「あうあーー!」

 ジョシュアくんの嬉しそうな“あうあ”の声と共にセアラ夫人の声だと分かり私も振り返る。
 ジョエル様とエドゥアルト様も一緒だ。

「もう!  ジョシュア!  どうして勝手にジョエル様の腕から飛び出したの!」
「あうあ!」

 セアラ夫人はジョシュアくんを抱き上げてお説教を開始する。

「……血が騒いだです、と言っている」
「血が?」

 ジョエル様の解説にセアラ夫人が首を傾げる。

「あうあ!」
「…………まあ、俺もここを…………父上に、追いかけられて……走った、な」

 ジョエル様がとても懐かしそうにキョロキョロしながら目を細める。

「あうあ!」
「ジョシュア……」

 ですです!
 ニパッ!  と笑いかけるジョシュアくんに両親二人も強く叱れないでいる。

「はっはっは!  さすがジョシュア!  ────それで、具体的に何があったんだ?」

 横から入ってきたエドゥアルト様の陽気な笑いと質問にハッとする。

「え?」
「何か騒がしかったように感じたぞ?  それに───」

 エドゥアルト様がチラッとジョシュアくんを見る。

「ジョシュアの手……他の場所に比べて妙に汚れていないか?」
「あうあ!」

 ニパッ!  と笑ったジョシュアくんが両手を見せる。

(す、鋭いーーーー!)

「あら?  確かに……そうね?」

 セアラ夫人もジョシュアくんの手をまじまじと見つめる。

「土?  ジョシュア?  何があった?」
「あうあーー!」

 ジョエル様に声をかけられたジョシュアくんが手をパタパタさせながら説明する。

「むっ?  カス男と女狐にバイバイしてもらいました!  と楽しそうに言ってるが、レティーシャ嬢、どういうことなんだ?」

 エドゥアルト様が不思議そうに首を傾げる。

「ホホホ、そのままの意味ですね」

 私が苦笑するとエドゥアルト様がハッとした。

「カス……カス?  まさか!  君のカス男がこの場にいたのか!」
「わたくしのカス男……」
「コホンッ、はっはっは、失礼!  君の一応婚約者……のカス男だな」

 エドゥアルト様が咳払いして誤魔化す。

「義妹と二人でここでデートしていたようなのです。それでわたくしと遭遇しそうになった所をジョシュアくんが……」
「───そうか。あのジョシュアの可愛さで撃退したのか」

 ウンウンと頷くエドゥアルト様。
 最後まで言っていないのに察しがよすぎる。

「さすがガーネット様の血を引く孫だ。勇敢で血の気が多い」
「ふふ」 

 私がクスッと笑うとエドゥアルト様がポンッと優しく私の頭に手を置いた。

「勇敢といえば───君もだな。レティーシャ嬢」
「……え?」

 エドゥアルト様はフッと笑うと、いきなりかがんで私を横抱きにする。

(え、え、ええええ!?)

 突然の抱っこに目を丸くするとエドゥアルト様は、はっはっは!  と笑った。

(男性にこんなことされるの……は、初めて!!)

 ドッドッドッ……
 胸のドキドキが止まらなくなる。

「君は自分の服が汚れるのも厭わずに一目散にジョシュアを追いかけていった。靴もそこに投げ出してあるな」
「……あっ!」

 そうだった……
 自分の足元を確認すると靴は脱いだまま。

(もしかして、だから抱き上げた……?)

「ぐんぐん加速して走って行く君の後ろ姿は───とても綺麗で見惚れてしまった」
「エ、エドゥアルト様……」

 カーッと自分の顔が熱を持つ。
 抱えられているこの体勢も言われている言葉も恥ずかしい。

「エドゥアルト様も……」
「ん?」
「このようにわたくしを抱えると───汚れてしまいます、よ?」

 エドゥアルト様が目をパチパチさせた後、じっと私を見る。
 そして再び、はっはっはと笑った。

「大丈夫だ!」
「え、ですが……」
「────僕の家は金持ちだからな!」
「!」

 得意そうに胸を張るエドゥアルト様のその言葉に私は吹き出す。

「ふっ……ふふ、ふふふ」

(やだ、私と同じことを言っているわ────)

「なんだ?  何がおかしかった?  本当のことだそ!」
「ふ、ふふ、そう、ですね────」
「……むっ、待てよ?  まさかこういう発言はあれか?  昔の生意気な頃の僕と変わらない───……?」

 私を抱えながら首を傾げるエドゥアルト様の姿は何だかとても可愛かった。

「あうあ~!」
「わっ、ジョシュア!?」
「ジョシュアくん!?」

(いつの間に側に来ていたの!?)

 エドゥアルト様に見とれてクスクス笑っていたら、ジョエル様に抱えられたジョシュアくんが、わぁ!  と顔を出して声をかけてきた。

「…………もう帰るか?  とジョシュアに聞いたらこの先の薔薇を見るです、と言っている」
「あうあ!」

 ニパッ!

「ジョシュアくんは薔薇がお好きなのですか?」
「……」

 私がジョエル様に訊ねると、そのまま眉間に皺を寄せて黙り込んでしまった。
 セアラ夫人が横からせっせとその皺を伸ばそうとしている。

「…………父上、が」
「あうあ!」

 ボソッと語り始めるジョエル様。

(父上……つまり、侯爵様のことよね?)

「母上、に薔薇の花束でプロポーズ……した」
「あうあ!」

(なるほど!  プロポーズに使われたお花が薔薇なのね?)

 薔薇の花束には本数で色々の意味がある。
 侯爵様はそうやってガーネット様に想いを伝えたのね?
 やっぱり素敵な夫婦!

「107本……」
「あうあ!」

(…………ん?)

 あれ?  と首を傾げた。
 107本……?  だったかしら?

「本数、間違える……ポンコツ」
「あうあ!」

 ジョシュアくんが満面の笑みで、ポンコツー!  と叫んでいる。
 そしてやっぱり侯爵様は間違えていた……!

「はっはっは!  あの方は抜けているからな!  さすがジョエルの父親だ」
「エドゥアルト様!」

 言い方!  と咎めるけどエドゥアルト様は笑うのをやめない。

「ジョシュアもその話を聞いたのだろう。それで薔薇が見たいと言ってるのかもしれない」
「え?」
「おそらく、ギルモア家ではそういう話が日常的に交わされているのだろう」
「あ……」

 なるほど、と思う。
 何だか……

(それって、とてもいい家ぞ……)

「───それって、とてもいい家族だな!」
「!!」

 エドゥアルト様は陽気な声ではっはっは!  と笑いながらそう言った。
 私も私で全く同じ感想を抱いたので何だか凄く凄く胸の奥がくすぐったかった。


 こうして、
 ハラハラのダブルデート(ベビー付き)は終えることになった。
 ちなみに、ガーネット様に仲は深まったのかと聞かれて、お姫様抱っこの話をしたら───

『ホーホッホッホッ!  エドゥアルトのことだから手を繋ぐ程度が精一杯と思ったけど、抱っこ!  やるじゃないの!』

 と、それはそれはとても愉快そうに高笑いをしてくれた。



─────



「あ、そうよ!」

 そして、ダブルデート翌日。
 部屋で婚約破棄までのプランを再度練っていた私はハッと気付く。

「……公園デートをしていたくらいなのだから、案外、あの二人って普段から外でイチャイチャしているのかも!」

 目撃情報は案外その辺にゴロゴロ転がっているかもしれない。
 そこから二人の義兄妹を超えた親密さが証明出来れば婚約破棄は有利に……

 コンコン

「ん?」

 そこまで考えた時、部屋の扉がノックされた。
 扉を開けるとその向こうにいたのは我が家の使用人。

「どうかしたの?」
「お嬢様……その、ジェローム様がお見えです」
「え?」

 訪問連絡は受けていない。
 私は眉をひそめる。
 また、ステイシーと一緒に嫌味でも言いに来たのかしら?

「へぇ、今日も可愛い義妹つきかしら?」
「あ、いいえ、今日はお一人でいらっしゃいます」

 使用人はそう言って首を振って否定する。

「一人……?」

(昨日のことでもバレた?)

 いや、私の姿は見られていないはず。
 それなら別の話だろう。
 昨日、色々あって服が汚れたから金貸してくれ……とかいう話だったら殴ってもいいかしらね?
 私はギュッと拳を握る。

(どちらにしても面倒しかないわ────)

 やれやれと肩を竦めながら仕方なく応接室に向かった。
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